九十四話 自分の色
金色になった翌日からはレベリングに勤しむ。
タゴサクは、スキルや魔法の大半が入れ替えになった。
鈍色の技は使えなくなり、金色の技はまだ覚えていない。必然的に、色に関係なく使える技でそろえることになる。
熟練度を上げるために【全力】や【バースト】は入れるとして、威力が高くて使いやすい【流星帝】や【ガーディアン】も採用する。
天使の秘宝である【光帝太輝】も使ってみたい。
モンスターPK対策に【瞬剣】、レベリングに使えそうなので【暗乱夢】。
奥義はもちろん【全テヲ滅スル光】だ。
ここら辺はすんなり決まったが、残りがなかなか決まらない。
序盤に店で購入したスキルや魔法は、熟練度が最大になっている。おまけに性能がピーキーで使いにくいのに、今さら使う気も起きない。
「スキルが五つ、魔法が二つ、奥義が一つか。残りの枠を何にするかだよな」
「鈍色のスキルや魔法は、本当に使えなくなったの? 実は使えるってことは?」
「間違いなく使えない。金色になって全部外れてたし、入れてみようとしてもダメだった。複数の色で使えるスキルもあるにはあるが、俺が覚えてるやつはダメみたいだ」
かつてレアステラで試合をしたリュウキオウというプレイヤーは、赤と青の奥義を使っていた。赤と青、両方で使える奥義だから可能だったのだ。
タゴサクが鈍色になって覚えたものは、金色では使えない。これは確実だ。
「じゃあ、適当に埋めちゃえば? 金色のスキルを覚えるまでのつなぎよ」
「もったいないんだよ。使い道もあんまりなくてピーキーで、熟練度だって上がらないんだぞ。【災厄ニ耐エ希望ヲ待テ】なら入れてもいいが」
「あのギャンブル奥義? 鈍色じゃないのに使えるの?」
「【脳髄祭】も【ワイルドカード】も店売りで、鈍色は関係ないから使えるぞ」
金色になっても使える奥義は二つだけだ。
ギャンブルにはあまり頼りたくないので、手札として計算できるのは【全テヲ滅スル光】だけになる。
一応入れておくが、【災厄ニ耐エ希望ヲ待テ】を使う機会は少ないだろう。
「残りの枠は、スキルが三つ、魔法が六つ。奥義はもうないしどうすっかな」
「サクさんは、【脳髄祭】に出番ができたって言ってませんでした?」
「【壁鈍曇】とセットで使うから出番があるんだ。【壁鈍曇】は鈍色のスキルだし使えないから、【脳髄祭】の出番は終わりだ。短い再登場だったな」
「連続突きのスキルは? 【流星衝】ってやつ」
「上位互換の【流星帝】があるからいらない」
「上位互換があって、下位互換はいらない……」
「ソーニャを悪く言ったんじゃないぞ。誤解するな」
上位互換の言葉に反応したソーニャに弁明しておき、スキル構成を考える。
現在覚えている中で、入れたいと思えるスキルも魔法もなかった。
となると、やることは一つだ。
「よし、買おう」
店で新しいスキルや魔法を購入する。
金色のスキルを覚るまでのつなぎになるだろうが、新しく使ってみるのは面白そうだ。うまく奥義になってくれればなおよしである。
「買うのはいいけど、どこで何を買うの?」
「これから町を回ってくる。悪いが、今日は単独行動させてくれ。コモンステラからコローレステラまで回って、いいスキルや魔法を探したい」
何を購入するかは決めていない。今からあちこちの町を回り、店を覗いて探すつもりだ。
町の数は多く、一日がかりの作業になる。
タゴサクの買い物に二人を付き合わせるのは申し訳ないし、単独行動だ。
「わたしは……」
「素直じゃないわね。お兄ちゃんと一緒に行きたいって言えばいいのに」
「べ、別に行きたくないもん!」
「ツンデレも大概にしとかないと。しょうがないわね。私も、店売りでいいのがあれば買いたいし、ついてっていい? せっかくだから、イアもスキルや魔法を探してみれば?」
「う、うん、行く」
素直になれないイアに、ソーニャが助け舟を出していた。いいコンビだ。
タゴサクとしても、孤独に町を回るよりは三人の方が楽しい。
付き合わせるのが申し訳なかったので単独行動を申し出たが、二人が同行したいと言っているなら断る理由はない。
レベリングの前に、三人でスキル探しといく。
下の星から回ってみるので、まずはコモンステラだ。久しぶりに【テイヘーンの町Ⅱ】や【底都テイヘーン】を訪れる。
最下級の星ではたいした物は売っていないが、一つ気になった魔法を購入した。
「それ、使えるの? ネタ魔法にしか思えないけど」
「知らん」
タゴサクが変な魔法を購入したせいでソーニャに突っ込まれたが、知らないとしか答えられない。
新しい魔法は【ドリール】だ。ドリルのような杭を打ち込む効果になる。【底都テイヘーン】の魔法なので、威力はお察しだ。
しかも、【底都テイヘーン】に売っているスキルや魔法にはデメリットがある。
当然【ドリール】にもデメリットがあり、魔法を命中させれば、使用者自身も敵もその場で回転する。さながらドリルのように。
ゲームなので目は回らないが、敵を見失う危険がある。
敵もこちらを見失うかもしれず、うまくいけばチャンスだ。
要するに、いつものギャンブルであると。
「多分だが、夢の意味のドリームとドリルをかけてるんじゃないかって思う」
「ダジャレね。お兄ちゃん、ダジャレが好きなの?」
「ダジャレは関係なくて、俺は【暗乱夢】を覚えてるだろ。どっちも夢なら、二つで奥義になるんじゃないかなって思った。【暗乱夢】もここで買ったしな」
「苦しい気がするけど」
「奥義にならないなら、それでもいいんだよ。ほんの遊び心だ。さ、次行くぞ」
コモンステラは終わり、レアステラに行く。
ここは【港町ゲン】と【港町カン】の二つだけなので、探すのは簡単だ。
かつては【港町ゲン】の代表者であり、【港町カン】には入れなかったが、今は両方に入れる。時間がたてば入れるようになるらしい。
二つの町の店に行くが、買いたい物はなかった。
代わりに、町に転移するアイテムを大量に買い込んでおく。これからジャパンステラ中を回るので必要になる。
「俺さ、まだ鈍色だった頃の意識が抜けないんだよな。鈍色専用の星に行って買えばいいじゃんとか考えた。この前行った時、欲しいのがあったんだよ」
「ドジねえ。って言いたいけど、ありそう。私がお兄ちゃんの立場でも考えそうだわ。橙色の癖がついちゃってるのよね」
「自分の色って根付いてますよね。わたしが黒色の星に行った時も、スキルや魔法が欲しくなりましたよ。他の町だとあんまり欲しいと思わないのに、黒専用だから欲しくなるんです」
「あるある。私も橙色のスキルや魔法が欲しい」
長くゲームを遊んでいれば、自分の色に愛着も湧く。
金色になった今でも鈍色の意識が抜けないし、戦闘でも鈍色のスキルを使ってしまいそうだ。慣れるには少々時間を要する。
鈍色の星で購入した鈍色専用の剣を装備しようとし、できないことに気付いたのは内緒だ。
三人でワイワイ雑談をしつつ町を回った結果、全ての枠を埋める数をそろえた。
使い物になるかどうかは未知数だし、奥義になるかも不明だ。
それでも、新しいスキルや魔法を覚えて使うのは楽しい。
この日は買い物だけで一日使い、ログアウトした。
翌日はコローレステラのダンジョンでレベリングだ。【試練十二階】はソロで攻略するので、別のダンジョンを選択した。
モンスターは強いが、【難星グンマー】に比べれば劣る。
上の星より難易度が高いのだから、【難星グンマー】の凄さがおのずと分かる。
時折、他のプレイヤーと戦闘になりつつも、レベリングをしたのだが。
「またソーニャに取られた……」
「恨みっこなしだからね。私は悪くないわよ」
「分かってるが、悔しいものは悔しいんだ」
モンスターの半分はソーニャがとどめを刺している。残りをタゴサクとイアで分け合っている形だ。
三人の中では、ソーニャのレベルが一番高い状態も変わっていない。
「ソーニャちゃんがとどめを刺すのはいいんですよ。わたしにはもっと大きな問題がありまして、禁断症状が出そうです。サクさんをもふもふしたいです」
「悪いが、奥義は使えないな」
「じゃあ、現実で猫のコスプレをしてください。もふもふさせてください」
「現実なら猫のタゴサクをもふってろよ」
「サクちゃんとサクさんは別腹なんですよ。別腹って表現は変ですね。別手? 別もふもふ? とにかく別なんです」
けったいな造語を口に出しつつ、イアはある行動に出る。
「おい、イア。なんで俺の尻を触る?」
「尻尾が恋しいです。ここにあったんですよね。妄想で補完してます。もふもふ、もふもふ」
「やめい!」
鎧の上からとはいえ、尻を撫で回されては困る。完全にセクハラだ。
タゴサクがソーニャやイアに同じ真似をすれば、冗談では済まない。アカウント削除レベルだ。
「サクさんは背が高いので、頭は撫でにくいんですよ。だからお尻です」
「セクハラだぞ!」
「くんかくんか」
「手の匂いを嗅ぐな!」
タゴサクの尻を撫で回した挙句、その手の匂いを嗅いでいた。
イアがどんどん変態になっていく。
「私さ、あのセリフ言ってもいい? いいわよね。私の目の前で乳繰り合ってるんだし、許されるわ。リア充爆発しろ!」
「ソーニャちゃんのお尻も撫でればいいの? ソーニャちゃんがサクさんのお尻を撫でる? わたしのお尻はあげないよ」
「どっちも嫌よ! イアのお尻にも興味ないし!」
「今度、一緒にお風呂入ろうよ。前のお泊り会は入れなかったもんね」
「私、イアとは絶対にお風呂に入らないって、たった今心に誓ったわ。ミディーリを生贄に捧げるから我慢して」
「ミドリちゃんのお尻、いいよね。胸は小さいけどお尻は綺麗な形してた。今度お風呂に入って……ううん、猫の尻尾を着けてもらって……」
ミディーリは今頃くしゃみでもしているかもしれない。
くしゃみどころか、悪寒を感じている可能性もある。
本人の与り知らぬ場所で生贄に捧げられているが、タゴサクは我が身が可愛いので伝えない。伝えればイアに恨まれそうだ。
イアの暴走は頭が痛い。耳年増になるだけではなく、変態になっている。
もっとも、タゴサクの頭が痛かろうと、好きな子が変態だと嘆こうと、傍から見れば美少女二人とイチャついているとしか見えない。
すなわち、他のプレイヤーは積極的にPKをしてくる。
「【暗乱夢】!」
スキルを使ったのは、以前に【試練十二階】でモンスターPKを仕掛けてきた男性プレイヤーだった。
二度も同じ手は食らわない。
「【瞬剣】!」
スキルを使って距離を縮めてから、別のスキルで足止めを狙う。
「【流星帝】!」
動きを封じる魔法である【シールドロック】は鈍色専用だ。金色になっている今は使えない。
奴隷にするスキルである【奴隷創造】も同様だ。
よって、攻撃を加えて逃がさないようにした。
「【白弧月】!」
相手は白のプレイヤーのようだ。ヴァイスも使っていたスキルで姿を消す。
姿を消せばモンスターにも発見されず、逃げ切れると考えたので、【暗乱夢】でのモンスターPKを仕掛けたのだろう。
だが、タゴサクたちはプレイヤーがいることを知っている。広範囲に攻撃すればいいだけだ。
タゴサクは一旦下がり、ソーニャとイアに任せる。
「【ジェノサイドトリガー】!」
「【ブラックメテオ】!」
ソーニャの魔法は銃弾の乱れ撃ちで、イアの魔法は黒い隕石を降らせる。どちらも強力な範囲攻撃だ。
何もない空間に当たっている様子を見れば、そこに相手がいると分かる。
「【軽々斬】!」
タゴサクも昨日購入した範囲攻撃用のスキルを放った。【断崖斬】の上位スキルである。
軽々と斬り裂く様子を「スススス」と擬音で表現したスキルだが、【断崖斬】と同様で発音しにくい。何度「ス」を発音したか分からなくなる。
うまく発動してくれたのでラッキーだ。
相手は逃げ切れずにダメージを食らい、姿を現す。顔は憤怒に染まっていた。
「コダる卑怯者のくせに! ハーレム野郎!」
「そうだよ! 今さらだな!」
卑怯者と言われるのは慣れているし受け入れている。
美少女二人とイチャイチャしていれば、不誠実なハーレム男にも見える。
コダる卑怯者、ハーレム野郎。ご指摘、至極ごもっとも。
悪いのはタゴサクたちで、それをPKするのは正しい行為だ。
コダるプレイヤーをPKしたいなら、いくらでもすればいい。
ただし、抵抗はさせてもらう。大人しく殺されてあげるほど物分かりがいい性格なら、コダるのをやめている。
ゴールデンウィークから続けてきた、タゴサクたちの遊び方だ。
逃げられないと悟った相手は、戦闘モードに切り替える。
大きく距離を取り、奥義を使用する。
「【怒涛ノ白ヨ迸レ】!」
白く輝く姿は光の戦士のようだ。コダる悪を滅するにふさわしい。
が、正義が勝ち悪が負けるとは限らないのが現実の理不尽さである。
「【星ヲ清メシ牡羊ノ王】!」
「【全テヲ滅スル光】!」
「【遠キ彼ノ地ヘ消エヨ】!」
「【無限ノ槍ヨ刺シ穿テ】!」
四者の奥義が炸裂する。
星宮ダンジョン【ゾディアック】でドロップした奥義でも、三人の奥義には勝てない。
軍配はタゴサクたちに上がった。
プレイヤーは倒したが、だからといって【暗乱夢】の効果は切れない。
モンスターが続々と集まっているし、そちらへの対処が必要だ。
「いつものやり方で行くわよ! 【吹キ飛ビ舞散レ】!」
「【ドリール】!」
「【八極連槍】!」
ソーニャがモンスターを打ち上げ、タゴサクとイアで落とすやり方だ。
タゴサクの攻撃が弱くなっているせいで、思ったほどの効果は上げられないが、数は減らせた。
集まったモンスターを三人で殲滅する。【試練十二階】とは違い、とんでもない強敵が出現しなかったのは幸いだ。
「【光帝太輝】!」
最後の一体をタゴサクのスキルで倒して、なんとか切り抜けた。
このスキルは、威力が高い上に、消費SPは少なくクールタイムは短い。使い勝手に優れた良スキルである。
ギャンブル多めのタゴサクには似つかわしくない。
ギャンブルの筆頭格である奥義【災厄ニ耐エ希望ヲ待テ】も出番なしだ。
「危なかったが勝てたな。【災厄ニ耐エ希望ヲ待テ】のギャンブルに頼らなくてもなんとかなるもんだ」
「あれって、わたしやソーニャちゃんも覚えられるんですよね。三人で覚えて【災厄ニ耐エ希望ヲ待テ】三連発とか面白そうです」
「私はやらないわよ。ギャンブルはお兄ちゃんだけで十分よ」
「面白そうなのに」
「面白そうなのは分かったから、一度ダンジョンを出よう。今の戦闘で回復アイテムをほとんど使い切った」
アイテムを補充してからレベリングの続きを行う。
ようやく金色のスキルも覚えた。八月末までにどこまで強くなれるかが勝負だ。




