九十三話 歳相応の魅力
無事と言えるか不明ながら、タゴサクは金色になった。
記念すべき金色の初ジョブは【不敗騎士】だ。
不敗の騎士とは格好いい。イアにも好評だ。
「格好いいのはジョブですよ。サクさんじゃありませんよ」
ツンデレなセリフを聞いてから、今後の方針を決める。
金色になるのは一番の目標であった。ソーニャとイアは金色にならず、タゴサクが金色になった時点で目標は達成された。
あとは八月末のPvPイベントを待てばいい。
とはいえ、やりたいことはまだまだ残っている。
PvPで勝つために強くなりたい。
レベリングを行い、スキルや魔法を覚え、レア装備を入手する。一つの奥義を極めるために、熟練度を上げるのも忘れてはいけない。
それらは明日以降にし、今日はログアウトする。
タゴサクだけは、深夜零時にログインしてトキヒメと会う。色々と話したいことができたからだ。
場所はこれまでと同じで和風の部屋だ。トキヒメと、彼女が許可した人だけが入れる特別な場所になる。
「おかえりなさい。ご飯にする? お風呂にする? それとも……妹おっぱい?」
「全然反省してないな。以後、気を付けるって言ってたくせに」
トキヒメは、今日もタゴサクをからかってきた。
色っぽい表情や声音と相まって、強烈な一撃になっている。
最後を少しひねってあるのは、よほどその部位に自信があるからか。
同年代の少女たちと比較すれば発育が豊かだ。十五歳とは思えない。
巨乳好きのタゴサクはもちろん、特に巨乳好きでなかったとしても視線が向いてしまうであろう、実に見事な膨らみだ。
エッセイもふっかふかで気持ちいいと言っていた。
興味がないと言えば嘘になる。興味はありまくるが、タゴサクは自重した。
「いきなりだが本題に入るぞ」
「兄さんが冷たいわ。私のおっぱい、嫌い? 兄さん好みの大きさじゃない?」
「痩せ我慢してるんだ。お願いだから察してくれ」
「痩せ我慢するなら触ればいいのに。兄さんはそういう性格でしょ。私が触らせてあげるって言えば、喜んで触るわよね。揉みしだくわよね。触っていいわよ。揉みしだいていいわよ。ソーニャたちには内緒にしておいてあげるから。私と兄さん、二人だけのヒミツ」
「魅力的な提案だが断る」
イアからオッケーの返事をもらえそうなのに、浮気はよくない。
内緒にすると言っている言葉を信じないわけではないが、秘密などいつどこで露呈するか分からない。バレたが最後、これまで築いてきたものが水泡に帰す。
バレなければいいという問題でもない。女性の胸は、性的ではなくロマンだと持論を展開しても無駄だ。
こうしてこっそりと会うのがギリギリ許される範囲と考える。
我慢できなくなり、ケダモノに変貌してしまう前に話を済ませよう。
「PvPだが、トキヒメさんはどれに参加するんだ? 金色の試合だけか?」
「美少女プレイヤーランキングの試合にも出るわよ。パーティー戦は出ないし、金色と美少女プレイヤーランキングの二つね」
「ならよかった。ソーニャが金色にならないって言ってるんだよ。トキヒメさんとは美少女プレイヤーランキングの試合で戦うつもりでいる。トキヒメさんが参加しないなら、二人が戦えないなって心配だったんだ」
状況によっては、トキヒメに美少女プレイヤーランキングの試合に参加して欲しいと頼むつもりだった。
ソーニャと姉妹喧嘩をしたがっているので、トキヒメにとっても悪い提案ではない。タゴサクが頼めば二つ返事で了承してくれると考えた。
「参加はするけど、対戦するとは限らないわよ。試合の組み合わせは、私は関与してないの。組み合わせをいじれば、ソーニャとも兄さんとも戦えるけど、一応公平にしようってことでね。全部プログラム任せで自動的に決まるわ」
「変に律儀だな。ソーニャと姉妹喧嘩をしたがってたし、都合のいい組み合わせにするのかと思ったが」
「直接対戦できれば嬉しい。対戦できなくても、同じイベントに参加して騒ぐだけでも楽しい。どっちもありね。なんなら場外戦をしてもいいわ」
「場外戦って物騒な」
「物騒じゃないわよ。試合に参加しないプレイヤーや、早々と敗退したプレイヤーが暇を持て余さないように、自由に対戦できる場所を用意するの。お互いの合意があれば好きなだけ戦えるわ。デスペナルティなしでね」
「それ、いいな。物騒って言って悪かった。でも、公表されてたっけか?」
場外戦があるという情報は、公式に告知されていなかったように記憶している。
タゴサクが見落としているだけかもしれない。
「まだね。近いうちに発表するわよ。試合以外でも、色んなイベントを用意してあるの。今回のPvP大会は、力の入れ方が違うわ。私ですら把握してないイベントまであるの。みんな酷いのよ。内緒だって言って教えてくれないの。変なドッキリでも仕掛ける気かしら」
「SOSが力を入れるって聞くと、不穏な気配しか感じないぞ」
「私が把握してる範囲ならまともよ。安心して。聞けば兄さんも喜ぶわよ。兄さんよりソーニャの方が喜ぶかな。女性の夢を叶えてあげるわ」
「イケメンをそろえて、逆ハーレムでも作るのか?」
「兄さんの発想が酷いわね。やらないわよ」
「そりゃ失敬」
トキヒメと話していると本筋からずれていく。
美少女プレイヤーランキングの試合に参加するとの答えをもらえたし、対戦できなくても場外戦で戦うチャンスがあると分かった。
タゴサクの心配事もなくなった。
「用件は終わり? おっぱい触る? ううん、言い方を変えましょうか。ねぇ、兄さん……触って?」
「触らん! 触ってたまるか!」
強い拒絶になったのは、触りたくないからではない。
必死で拒絶し、虚勢を張っておかないと、流されてしまいそうだからだ。
話を本筋に戻して誤魔化そうと考える。
「あとは報告があって、俺は金色になったぞって伝えたかったんだ」
「おめでとう、兄さん」
「ありがとう。んで、もう一つ。金色になる際に、エッセイに対応してもらったんだが……あのAIはどうなってんだ? AIにあるまじき発言をガンガンやらかしてたぞ」
「可愛いでしょ?」
「まわす発言が可愛いかよ。冗談でも言っちゃまずいだろ」
「回すのどこがまずいの?」
とぼけているのではなく、トキヒメは本気で理解できていないようだ。
タゴサクが教えるのは無理だし、自力でなんとかしてもらう。
「自分で調べてくれ。つうか、開発者の知識にない言葉をAIが話すのか?」
「学習プログラムを組んであるから、勝手に覚えるわよ。それに、ポンちゃんたちを作ったのは私でも、使ってるのは私だけじゃないしね。SOSの開発者全員で共有してるわ。兄さんが言葉を濁したところから察するに、エッチな意味だと思うけど、男性が面白がって教えたのかもね」
「誰だよ、その変態は。開発企業の社員か?」
SOSは、トキヒメが一人で開発したゲームではない。企業が関係していると聞いた。
社員の中には当然男性がいる。中にはタゴサクみたいな変態もいるだろう。
AIにスケベな言葉を覚えさせ、楽しんでいてもおかしくない。
「心当たりが多過ぎて絞り切れないわ。私は社員じゃなくて、あくまでも技術やアイディアを提供しているって立場なのね。だから、あまり職場には顔を出さないんだけど、たまに行くと多くの男性から『今日もおっぱい大きいね』って褒められるのよ」
「セクハラじゃねえか!」
「会社のアピールポイントは、『アットホームな職場です』よ」
「しかもブラック企業!」
「アットホームだから、私がセクハラされると女性社員が守ってくれるわ。女性社員が男性社員をどつき回して、男性社員が『ありがとうございます!』って答えるまでがお約束ね」
「ドMとドSしかいねえのかよ!」
「美少女の猫になってる兄さんが何を言ってるの。言える資格ある?」
「ありませんでした!」
兄妹漫才はここまでだ。トキヒメと漫才をしているとキリがない。
まあ、多少どころか多量の変態成分を含む会社なのは理解した。
会社の情報を聞きたいわけではないので、最後の質問だ。
「ウルフォドって男性プレイヤーを知ってるか? 元親衛隊の一人で、トキヒメさんにフラれたから復讐するって言ってるとさ」
「知ってるわよ。告白を断っちゃったのがまずかったわね」
「ゲームの中ならたいした行為はできないと思うが、注意してくれよ。トキヒメさんが傷つく姿は見たくない」
「心配してくれてありがとう。注意するわ」
「ついでに、あんまり男を弄ぶ真似はするなよ。女神のロールプレイをするのはいいが、貢がせるだけ貢がせて告白を断りゃ、恨まれるのも仕方ない」
ウルフォドの肩を持つ気はなく、どちらかといえばトキヒメの肩を持ちたい。
だが、客観的に見てトキヒメにも責任はある。
タゴサクも男だし、ウルフォドの気持ちは理解できてしまう。
好きな女性に振り向いてもらおうと貢ぎまくり、挙句にフラれたとすれば、憎しみも抱く。これまで貢いだ分を返せとも言いたくなるし、復讐を考える気持ちも分からなくはない。
「兄さんに誤解されるのは嫌だから言っておくと、貢がせてないわよ。他の男性プレイヤーもそうだけど、私にアイテムをくれようとする人は多いわ。でも、私は何も受け取ってないの。誰からもね」
「マジ? ウルフォドって奴は、貢いでたのにフラれたせいで、親衛隊を抜けたって聞いたぞ。正確には、ウルフォドに話を聞いた人からの又聞きだが」
「彼がどう主張してるのかは知らないけど、私は何も貢がせてないわよ。そもそも貢がせる必要がある? 私は開発者で、アイテムの入手方法は全部知ってるのよ。ちょっと時間はかかるけど自力で入手できるし、時間がないなら開発者権限でデータをいじればいいの。なんでも入手できるわ」
「言われてみれば」
トキヒメなら、本来は一つしか入手できない【天界】のアイテムですら、全て入手可能だ。他のプレイヤーに貢がせる必要はどこにもない。
データをいじるのは卑怯だしやらないとしても、貢がせるのも同様に卑怯だ。
他人の心証を悪くしたくないなら、データをいじる方がいい。黙っておけば誰も気付かず、卑怯やチートとの誹りも受けずに済む。
自力で入手したと言い張ることも可能だ。一つしか入手できないアイテムも、抜け道があって複数入手できるとでも嘘をつける。
SOSでは情報を秘匿する行為が常態化しているし、嘘をつき通せる。
「私は、誰からも何も受け取らない。そんな真似をしなくても私は一番だ。って、何度も何度も伝えてるんだけどね。なのに、レアアイテムなら受け取ると考える人が後を絶たないの。悩みの種なのよ」
「誤解してごめん。となると、ウルフォドが貢いだって言ってるのは嘘か」
貢いだのにフラれたとする方が、トキヒメを悪者にできる。ウルフォドは被害者でいられる。
想像でしかないが、こうやって考えた可能性はある。
「具体的に、彼がどんな発言をしたかによるわね。『貢いだ』なら嘘よ。『貢ごうとした』なら本当。厳しく言い聞かせて、貢ごうとする行為をやめさせない私も悪いわ。彼だけが悪いわけじゃない」
「ガキと親じゃないんだし、そこまで責任持てとは言えないな。ウルフォドの方が年上だろ? まあ、どっちでもいいや。トキヒメさんが貢がせてないのは分かったし」
「信じてもらえて嬉しいわ。兄さんに信じてもらえないのは、私も妹として悲しいから」
メッセージを送ってくる時も、こうして会話をしていても、「兄」と「妹」を強調する。
トキヒメのこだわりだ。
こだわりがあるから、このような発言もする。
「ところで、兄さん。いつまでトキヒメ『さん』なの? 私は妹なのよ。妹をさん付けする兄はおかしいでしょ。呼び捨てにして欲しいな」
「交換条件だ。俺を『兄さん』って呼ばないなら、俺も呼び捨てにする」
「トキヒメさんでいいわ」
食い気味に即答した。どうしても兄さんと呼びたいらしい。
タゴサクも、最初は違和感があったが、呼ばれているうちになんだかんだ慣れてきた。兄さんでもいいと思える。
むしろ、兄と妹なら、恋愛対象にならないので平和的だ。
恋愛対象ではないので密会も許してください、と心の中でイアに言い訳する。
必要な話は終わったし、お暇しよう。
夜も遅い。明日も朝からSOSで遊ぶので、ログアウトして寝る。
「じゃあな。おやすみ」
「おやすみ、兄さん。また遊びにきてね」
「用事があればな」
「用事がなくてもきてくれていいのよ。金色になったなら、【金色の星】を入手したでしょ。私が特別扱いしなくても、オーロステラに移動できるわよね。この部屋への入室権限はあげるから、いつでもどうぞ」
「入室権限があるだけで特別扱いだろうが」
「アイテムとかをあげるわけじゃないし、平気よ。さっき話した情報も、すぐに告知されるしね」
トキヒメと会い、タゴサクがゲーム上で得をすることはほぼない。
プレイヤーが知らない情報を先行して教えてもらったが、数日早いだけだ。
NPCを退去させるクエストでは、トキヒメのセリフが浮かんだので大成功させられたし、これは得になったか。
トキヒメが本気になれば、この程度では済まない。
ゲーム攻略が有利になる情報も、レアアイテムの情報も、トキヒメなら全て知っている。知っているが、タゴサクには教えない。
意地悪をしているのではなく、情報を独占したいのでもない。
むしろ逆だ。タゴサクを慮ってくれている。
トキヒメからあれこれ情報を聞き出して有利になると、後ろめたさを感じる。素直にゲームを楽しめない。
プレイヤー同士で情報交換をするならいいが、ゲームの全容を把握している開発者から教えてもらうのは違う。そこまでして強くなりたいとも思わない。
何も教えてくれないのは、ありがたい配慮だ。
トキヒメが気遣ってくれるなら、タゴサクもお返ししたい。
「ありがとう……また、遊びにくる。兄さんとして、妹に会いにな」
言い訳がましい言葉になったが、トキヒメは無邪気に喜ぶ。
「うん! 待ってる!」
朗らかな笑顔で元気よく返事をしてくれた。
こういう表情を見ると、なるほど十五歳だと思える。大人になり切れていない少女の、歳相応のあどけなさだ。
「そっちの方がいい。変に俺をからかって色っぽく振る舞うよりも、よっぽど歳相応で魅力的だ」
キザかと思ったが、本心を伝えたところで今度こそ帰る。
ログアウトして寝よう。
「兄さんの女たらし」
帰る直前に、トキヒメの小さな呟きが聞こえた。




