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たった一つの輝くもの  作者: ともむらゆう
第4章 オーロステラ
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九十三話 歳相応の魅力

 無事と言えるか不明ながら、タゴサクは金色になった。

 記念すべき金色の初ジョブは【不敗騎士(インビンシブルナイト)】だ。

 不敗の騎士とは格好いい。イアにも好評だ。


「格好いいのはジョブですよ。サクさんじゃありませんよ」


 ツンデレなセリフを聞いてから、今後の方針を決める。

 金色になるのは一番の目標であった。ソーニャとイアは金色にならず、タゴサクが金色になった時点で目標は達成された。

 あとは八月末のPvPイベントを待てばいい。


 とはいえ、やりたいことはまだまだ残っている。

 PvPで勝つために強くなりたい。

 レベリングを行い、スキルや魔法を覚え、レア装備を入手する。一つの奥義を極めるために、熟練度を上げるのも忘れてはいけない。


 それらは明日以降にし、今日はログアウトする。

 タゴサクだけは、深夜零時にログインしてトキヒメと会う。色々と話したいことができたからだ。

 場所はこれまでと同じで和風の部屋だ。トキヒメと、彼女が許可した人だけが入れる特別な場所になる。


「おかえりなさい。ご飯にする? お風呂にする? それとも……妹おっぱい?」

「全然反省してないな。以後、気を付けるって言ってたくせに」


 トキヒメは、今日もタゴサクをからかってきた。

 色っぽい表情や声音と相まって、強烈な一撃になっている。

 最後を少しひねってあるのは、よほどその部位に自信があるからか。


 同年代の少女たちと比較すれば発育が豊かだ。十五歳とは思えない。

 巨乳好きのタゴサクはもちろん、特に巨乳好きでなかったとしても視線が向いてしまうであろう、実に見事な膨らみだ。

 エッセイもふっかふかで気持ちいいと言っていた。

 興味がないと言えば嘘になる。興味はありまくるが、タゴサクは自重した。


「いきなりだが本題に入るぞ」

「兄さんが冷たいわ。私のおっぱい、嫌い? 兄さん好みの大きさじゃない?」

「痩せ我慢してるんだ。お願いだから察してくれ」

「痩せ我慢するなら触ればいいのに。兄さんはそういう性格でしょ。私が触らせてあげるって言えば、喜んで触るわよね。揉みしだくわよね。触っていいわよ。揉みしだいていいわよ。ソーニャたちには内緒にしておいてあげるから。私と兄さん、二人だけのヒミツ」

「魅力的な提案だが断る」


 イアからオッケーの返事をもらえそうなのに、浮気はよくない。

 内緒にすると言っている言葉を信じないわけではないが、秘密などいつどこで露呈するか分からない。バレたが最後、これまで築いてきたものが水泡に帰す。

 バレなければいいという問題でもない。女性の胸は、性的ではなくロマンだと持論を展開しても無駄だ。


 こうしてこっそりと会うのがギリギリ許される範囲と考える。

 我慢できなくなり、ケダモノに変貌してしまう前に話を済ませよう。


「PvPだが、トキヒメさんはどれに参加するんだ? 金色の試合だけか?」

「美少女プレイヤーランキングの試合にも出るわよ。パーティー戦は出ないし、金色と美少女プレイヤーランキングの二つね」

「ならよかった。ソーニャが金色にならないって言ってるんだよ。トキヒメさんとは美少女プレイヤーランキングの試合で戦うつもりでいる。トキヒメさんが参加しないなら、二人が戦えないなって心配だったんだ」


 状況によっては、トキヒメに美少女プレイヤーランキングの試合に参加して欲しいと頼むつもりだった。

 ソーニャと姉妹喧嘩をしたがっているので、トキヒメにとっても悪い提案ではない。タゴサクが頼めば二つ返事で了承してくれると考えた。


「参加はするけど、対戦するとは限らないわよ。試合の組み合わせは、私は関与してないの。組み合わせをいじれば、ソーニャとも兄さんとも戦えるけど、一応公平にしようってことでね。全部プログラム任せで自動的に決まるわ」

「変に律儀だな。ソーニャと姉妹喧嘩をしたがってたし、都合のいい組み合わせにするのかと思ったが」

「直接対戦できれば嬉しい。対戦できなくても、同じイベントに参加して騒ぐだけでも楽しい。どっちもありね。なんなら場外戦をしてもいいわ」

「場外戦って物騒な」

「物騒じゃないわよ。試合に参加しないプレイヤーや、早々と敗退したプレイヤーが暇を持て余さないように、自由に対戦できる場所を用意するの。お互いの合意があれば好きなだけ戦えるわ。デスペナルティなしでね」

「それ、いいな。物騒って言って悪かった。でも、公表されてたっけか?」


 場外戦があるという情報は、公式に告知されていなかったように記憶している。

 タゴサクが見落としているだけかもしれない。


「まだね。近いうちに発表するわよ。試合以外でも、色んなイベントを用意してあるの。今回のPvP大会は、力の入れ方が違うわ。私ですら把握してないイベントまであるの。みんな酷いのよ。内緒だって言って教えてくれないの。変なドッキリでも仕掛ける気かしら」

「SOSが力を入れるって聞くと、不穏な気配しか感じないぞ」

「私が把握してる範囲ならまともよ。安心して。聞けば兄さんも喜ぶわよ。兄さんよりソーニャの方が喜ぶかな。女性の夢を叶えてあげるわ」

「イケメンをそろえて、逆ハーレムでも作るのか?」

「兄さんの発想が酷いわね。やらないわよ」

「そりゃ失敬」


 トキヒメと話していると本筋からずれていく。

 美少女プレイヤーランキングの試合に参加するとの答えをもらえたし、対戦できなくても場外戦で戦うチャンスがあると分かった。

 タゴサクの心配事もなくなった。


「用件は終わり? おっぱい触る? ううん、言い方を変えましょうか。ねぇ、兄さん……触って?」

「触らん! 触ってたまるか!」


 強い拒絶になったのは、触りたくないからではない。

 必死で拒絶し、虚勢を張っておかないと、流されてしまいそうだからだ。

 話を本筋に戻して誤魔化そうと考える。


「あとは報告があって、俺は金色になったぞって伝えたかったんだ」

「おめでとう、兄さん」

「ありがとう。んで、もう一つ。金色になる際に、エッセイに対応してもらったんだが……あのAIはどうなってんだ? AIにあるまじき発言をガンガンやらかしてたぞ」

「可愛いでしょ?」

「まわす発言が可愛いかよ。冗談でも言っちゃまずいだろ」

「回すのどこがまずいの?」


 とぼけているのではなく、トキヒメは本気で理解できていないようだ。

 タゴサクが教えるのは無理だし、自力でなんとかしてもらう。


「自分で調べてくれ。つうか、開発者の知識にない言葉をAIが話すのか?」

「学習プログラムを組んであるから、勝手に覚えるわよ。それに、ポンちゃんたちを作ったのは私でも、使ってるのは私だけじゃないしね。SOSの開発者全員で共有してるわ。兄さんが言葉を濁したところから察するに、エッチな意味だと思うけど、男性が面白がって教えたのかもね」

「誰だよ、その変態は。開発企業の社員か?」


 SOSは、トキヒメが一人で開発したゲームではない。企業が関係していると聞いた。

 社員の中には当然男性がいる。中にはタゴサクみたいな変態もいるだろう。

 AIにスケベな言葉を覚えさせ、楽しんでいてもおかしくない。


「心当たりが多過ぎて絞り切れないわ。私は社員じゃなくて、あくまでも技術やアイディアを提供しているって立場なのね。だから、あまり職場には顔を出さないんだけど、たまに行くと多くの男性から『今日もおっぱい大きいね』って褒められるのよ」

「セクハラじゃねえか!」

「会社のアピールポイントは、『アットホームな職場です』よ」

「しかもブラック企業!」

「アットホームだから、私がセクハラされると女性社員が守ってくれるわ。女性社員が男性社員をどつき回して、男性社員が『ありがとうございます!』って答えるまでがお約束ね」

「ドMとドSしかいねえのかよ!」

「美少女の猫になってる兄さんが何を言ってるの。言える資格ある?」

「ありませんでした!」


 兄妹漫才はここまでだ。トキヒメと漫才をしているとキリがない。

 まあ、多少どころか多量の変態成分を含む会社なのは理解した。

 会社の情報を聞きたいわけではないので、最後の質問だ。


「ウルフォドって男性プレイヤーを知ってるか? 元親衛隊の一人で、トキヒメさんにフラれたから復讐するって言ってるとさ」

「知ってるわよ。告白を断っちゃったのがまずかったわね」

「ゲームの中ならたいした行為はできないと思うが、注意してくれよ。トキヒメさんが傷つく姿は見たくない」

「心配してくれてありがとう。注意するわ」

「ついでに、あんまり男を弄ぶ真似はするなよ。女神のロールプレイをするのはいいが、貢がせるだけ貢がせて告白を断りゃ、恨まれるのも仕方ない」


 ウルフォドの肩を持つ気はなく、どちらかといえばトキヒメの肩を持ちたい。

 だが、客観的に見てトキヒメにも責任はある。

 タゴサクも男だし、ウルフォドの気持ちは理解できてしまう。

 好きな女性に振り向いてもらおうと貢ぎまくり、挙句にフラれたとすれば、憎しみも抱く。これまで貢いだ分を返せとも言いたくなるし、復讐を考える気持ちも分からなくはない。


「兄さんに誤解されるのは嫌だから言っておくと、貢がせてないわよ。他の男性プレイヤーもそうだけど、私にアイテムをくれようとする人は多いわ。でも、私は何も受け取ってないの。誰からもね」

「マジ? ウルフォドって奴は、貢いでたのにフラれたせいで、親衛隊を抜けたって聞いたぞ。正確には、ウルフォドに話を聞いた人からの又聞きだが」

「彼がどう主張してるのかは知らないけど、私は何も貢がせてないわよ。そもそも貢がせる必要がある? 私は開発者で、アイテムの入手方法は全部知ってるのよ。ちょっと時間はかかるけど自力で入手できるし、時間がないなら開発者権限でデータをいじればいいの。なんでも入手できるわ」

「言われてみれば」


 トキヒメなら、本来は一つしか入手できない【天界】のアイテムですら、全て入手可能だ。他のプレイヤーに貢がせる必要はどこにもない。

 データをいじるのは卑怯だしやらないとしても、貢がせるのも同様に卑怯だ。


 他人の心証を悪くしたくないなら、データをいじる方がいい。黙っておけば誰も気付かず、卑怯やチートとの誹りも受けずに済む。

 自力で入手したと言い張ることも可能だ。一つしか入手できないアイテムも、抜け道があって複数入手できるとでも嘘をつける。

 SOSでは情報を秘匿する行為が常態化しているし、嘘をつき通せる。


「私は、誰からも何も受け取らない。そんな真似をしなくても私は一番だ。って、何度も何度も伝えてるんだけどね。なのに、レアアイテムなら受け取ると考える人が後を絶たないの。悩みの種なのよ」

「誤解してごめん。となると、ウルフォドが貢いだって言ってるのは嘘か」


 貢いだのにフラれたとする方が、トキヒメを悪者にできる。ウルフォドは被害者でいられる。

 想像でしかないが、こうやって考えた可能性はある。


「具体的に、彼がどんな発言をしたかによるわね。『貢いだ』なら嘘よ。『貢ごうとした』なら本当。厳しく言い聞かせて、貢ごうとする行為をやめさせない私も悪いわ。彼だけが悪いわけじゃない」

「ガキと親じゃないんだし、そこまで責任持てとは言えないな。ウルフォドの方が年上だろ? まあ、どっちでもいいや。トキヒメさんが貢がせてないのは分かったし」

「信じてもらえて嬉しいわ。兄さんに信じてもらえないのは、私も妹として悲しいから」


 メッセージを送ってくる時も、こうして会話をしていても、「兄」と「妹」を強調する。

 トキヒメのこだわりだ。

 こだわりがあるから、このような発言もする。


「ところで、兄さん。いつまでトキヒメ『さん』なの? 私は妹なのよ。妹をさん付けする兄はおかしいでしょ。呼び捨てにして欲しいな」

「交換条件だ。俺を『兄さん』って呼ばないなら、俺も呼び捨てにする」

「トキヒメさんでいいわ」


 食い気味に即答した。どうしても兄さんと呼びたいらしい。

 タゴサクも、最初は違和感があったが、呼ばれているうちになんだかんだ慣れてきた。兄さんでもいいと思える。

 むしろ、兄と妹なら、恋愛対象にならないので平和的だ。

 恋愛対象ではないので密会も許してください、と心の中でイアに言い訳する。


 必要な話は終わったし、お暇しよう。

 夜も遅い。明日も朝からSOSで遊ぶので、ログアウトして寝る。


「じゃあな。おやすみ」

「おやすみ、兄さん。また遊びにきてね」

「用事があればな」

「用事がなくてもきてくれていいのよ。金色になったなら、【金色の星】を入手したでしょ。私が特別扱いしなくても、オーロステラに移動できるわよね。この部屋への入室権限はあげるから、いつでもどうぞ」

「入室権限があるだけで特別扱いだろうが」

「アイテムとかをあげるわけじゃないし、平気よ。さっき話した情報も、すぐに告知されるしね」


 トキヒメと会い、タゴサクがゲーム上で得をすることはほぼない。

 プレイヤーが知らない情報を先行して教えてもらったが、数日早いだけだ。

 NPCを退去させるクエストでは、トキヒメのセリフが浮かんだので大成功させられたし、これは得になったか。


 トキヒメが本気になれば、この程度では済まない。

 ゲーム攻略が有利になる情報も、レアアイテムの情報も、トキヒメなら全て知っている。知っているが、タゴサクには教えない。

 意地悪をしているのではなく、情報を独占したいのでもない。

 むしろ逆だ。タゴサクを慮ってくれている。


 トキヒメからあれこれ情報を聞き出して有利になると、後ろめたさを感じる。素直にゲームを楽しめない。

 プレイヤー同士で情報交換をするならいいが、ゲームの全容を把握している開発者から教えてもらうのは違う。そこまでして強くなりたいとも思わない。


 何も教えてくれないのは、ありがたい配慮だ。

 トキヒメが気遣ってくれるなら、タゴサクもお返ししたい。


「ありがとう……また、遊びにくる。兄さんとして、妹に会いにな」


 言い訳がましい言葉になったが、トキヒメは無邪気に喜ぶ。


「うん! 待ってる!」


 朗らかな笑顔で元気よく返事をしてくれた。

 こういう表情を見ると、なるほど十五歳だと思える。大人になり切れていない少女の、歳相応のあどけなさだ。


「そっちの方がいい。変に俺をからかって色っぽく振る舞うよりも、よっぽど歳相応で魅力的だ」


 キザかと思ったが、本心を伝えたところで今度こそ帰る。

 ログアウトして寝よう。


「兄さんの女たらし」


 帰る直前に、トキヒメの小さな呟きが聞こえた。

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