九十二話 金色
タゴサクは【金色の星】というアイテムを使用して、オーロステラに転移する。
いよいよ金色になれるのだ。
転移した先は、かつて訪れた中世ヨーロッパ風の町だった。
NPCの姿は見えるものの、以前に聞いた話では役目がないと言っていた。殺風景では寂しいので作っただけだと。
役目があるのは、女神役を演じるAIたちだ。トキヒメが作った管理AIであるポンちゃんたちが、プレイヤーに力を与え、金色にしてくれる。
待っていれば迎えにきてくれるのだろうか。
自分から出向く必要があるかもしれない。
とりあえず、町を適当にぶらついてみる。何かあると思う。
オーロステラの町には店がない。装備やスキルを買えないし、クエストを受けられる民家もない。
どこに行けばいいのか分からないでいると、プレイヤーを見つけた。
男女の二人組だ。パーティーを組んでおり、同時に条件を満たしてオーロステラを訪れたといった感じか。
「すみません」
タゴサクが声をかければ、相手も反応してくれた。
「あなたも女神のイベントをクリアしたんですか? 私もですよ」
「俺も同じく」
ここで出会ったのも何かの縁だ。三人とも自己紹介をする。
男性プレイヤーはセイイチ、女性プレイヤーはカヴェンナだ。パーティーを組んでいるのではなく、オーロステラで偶然出会ったと言っている。
多くのプレイヤーが金色になろうとしているし、たまたまタイミングがかち合ってもおかしくない。
「ところで、カヴェンナさんって美少女プレイヤーランキングの?」
「一応、そうですね。ただ、あまりネタにしないでもらえると助かります。夫にも知られているのですが、いい顔をしないんですよ。浮気になりそうな場合はゲームをやめさせられてしまいます」
カヴェンナは、美少女プレイヤーランキング五位の女性だ。
アラサーの主婦のプレイヤーであり、大人の色香を放つ美人と言われていて人気だった。
実年齢よりも若く見える、母性や包容力にあふれているなどの評価だが、タゴサクが実際に会った感想も同じだ。既婚者でなければストライクゾーンに入る。
セイイチは、高校生くらいの地味な男子だ。中肉中背で特徴らしい特徴がない。
二人も女神のイベントをクリアして、【金色の星】を入手した。金色になるべく訪れたが、何も起きないので途方に暮れているところだ。
「俺はてっきり、特殊な場所に転移するか、NPCが迎えにきてくれるか、何かあると思ったんだが」
セイイチの意見は、タゴサクも考えたことだ。
カヴェンナも同様で、オーロステラに転移すれば何か起きると考えたのに、何も起きないので困っている。
「順番待ちとかですかね? 今は、俺たち以外のプレイヤーが金色になっているところで、そっちが終われば呼んでもらえる?」
「タゴサクさんの意見が正しいとすれば、待てばいいんでしょうか?」
「いえ、根拠もなく適当に言っただけですので」
「ただ待つのもなんですし、付近をぶらついてみます?」
カヴェンナが提案し、三人でオーロステラをぶらつくことにした。
三人でいるのはコダる行為になるが、協力プレイをしているわけではなく、ぶらつくだけなら構わないと。
初対面の三人でも、SOSという共通の話題がある。話題に困り、沈黙が流れて気まずくなる心配はない。
「セイイチは金色の試合に参加するのか?」
「参加する。そのために、苦労してイベントをクリアしたんだ」
「対戦できればいいな。カヴェンナさんは、金色の試合と、美少女プレイヤーランキングの試合ですか?」
「金色の試合には参加します。美少女プレイヤーランキングの試合は、どうしようか考えているところですね。なにせ、美少女ですよ。年齢を考えろって言いたくなりません?」
「カヴェンナさんは若いですし綺麗ですし、子供にはない魅力があります。ランクインしているメンバーにも劣らないですよ。セイイチも思うよな?」
タゴサクが話を振れば、セイイチは小さく頷いただけだった。
あまり社交的な人ではなさそうだ。面と向かって女性を褒めるのも恥ずかしいと感じるタイプだ。
「タゴサクさんは口がお上手で、セイイチさんはシャイなのですね」
「俺は女性が苦手で……うまく話せなくて。社交的なタゴサクとは違う」
「俺とは普通に話せるんだし、女性も同じにすりゃいいんじゃないか?」
「できるなら苦労しない。俺は、一人でコツコツとゲームを進める方がいい。地道に狩りをしてレベリングやアイテム収集もして、強くなるんだ」
「地道な作業を苦に思わないタイプか。それはそれで得難い能力だな」
タゴサクが苦手なことを、セイイチはできる。
社交性ではタゴサクに劣るも、上回る能力だってちゃんと持つ。
MMORPG向きの人だし、レベルも高そうだ。レア装備を持っていたり、スキルを覚えていたりすると思われる。
「全然知らない人と戦うよりは、知り合いと戦う方が楽しいよな。セイイチと戦うのは面白そうだし、カヴェンナさんとも試合をしてみたいですね」
「タゴサクさんは、SOSをプレイしているにしては変わった性格ですね。他のMMORPGで、友達と一緒に遊ぶ方が向いている気がします」
カヴェンナの場合は、男性プレイヤーにチヤホヤされてしまうと夫に悪いという理由から、ソロ推奨のSOSを選んだと話す。
セイイチは人付き合いが苦手で、特に女性が苦手だ。典型的なSOS向きの性格をしている。
「俺の場合、きっかけは妹に頼まれたからですね。ゲーム自体が面白かったので、妹の頼み事抜きでも楽しんでますが」
「妹!?」
タゴサクのセリフに過剰反応したのは、セイイチだった。
「セイイチって、ひょっとしてあれか? 二次元の妹キャラに並々ならぬ愛情を捧げる変態?」
「な、なんのことかな?」
「カヴェンナさんの前だからって格好つけるなよ。ちなみに、兄の俺が言うのもなんだが、妹は美少女だぞ。しかも巨乳だ。しかもしかも、俺は『お兄ちゃん』って呼ばれてる」
「タゴサクを敵と認識した。美少女の妹からお兄ちゃん? 現実では絶対にあり得ない。あってはならない。金色の試合で叩き潰させてもらう」
「男の子って面白いですね」
カヴェンナが綺麗にまとめて、妹談義は終わった。
このように、三人で雑談をしつつ町を歩くが、イベントの類は発生しない。
待っていてもダメで、どこかに行く必要があるのか。
相談していれば、やっとのことで事態が進展する。
美少女NPCが話しかけてきたのだ。
「セイイチさんですね? お待たせしました。今からあなたを転移させます。金色になるための儀式を行う場所へと」
「急だな。なんで俺だけ?」
「順番です。お三方の中で、最初にオーロステラを訪れたのはセイイチさんですので。次はカヴェンナさん、最後にタゴサクさんの順になります」
どうも、他のプレイヤーが儀式とやらをしていたのだ。
だから何も起きなかったが、ようやく順番が回ってきた。
美少女NPCとセイイチの姿が消え、タゴサクとカヴェンナが残る。
しばらくすれば、別のNPCがカヴェンナを迎えにきたので、彼女もいなくなった。どうでもいいが美少年NPCだった。
最後のタゴサクも、迎えの美少年NPCがきてくれて転移する。
美少女NPCではなかったので、微妙に損をした気分になったのは内緒だ。
転移した先は、白い小部屋だった。出入り口も窓もなく、特殊な方法でなければ入れない場所だと分かる。
小部屋には女神ニフナジュレタの姿があった。
が、神々しく美しい女神様の口からは、深々とため息が漏れる。
「はあぁぁ……だるい」
「はい?」
「だるいんですよ。今日だけで、何人のプレイヤーを金色にしたと思っているんですか。働かせ過ぎです。AI使いが荒過ぎです。労働基準法違反で訴えても許されると思うんですけど、どうです?」
神々しい雰囲気もゲームの世界観も全てぶち壊しにするセリフだ。
まさかこれが儀式で、適切な答えを返さなければ失敗するのかと考えた。異常でもSOSならあり得る。
「ああ、ワタシだって誰にでも愚痴ってるわけじゃないですよ。タゴサクさんはマスターのお兄さんですし、事情を知っているからです」
儀式ではなかったようで一安心だが、愚痴られても困る。
第一、AIが愚痴るなと言いたい。
「俺にも愚痴らないでください。雰囲気ぶち壊しです。えっと、ポンちゃん?」
「ワタシはエセイジョです。エッセイと呼んでください。ポンちゃんは、セイイチさんの相手をしていますね。順番的にそうなりました」
外見は女神ニフナジュレタのものであり、区別がつかないが、彼女はエセイジョことエッセイだった。
エセ聖女。気だるげに愚痴りまくる姿を見ると、ぴったりな名前だと思える。
エッセイの愚痴は続く。
「ワタシ、ポンちゃん、ミニ、キーコ。四人がかりで回していても追いつかないんですよ。いつプレイヤーが訪れるか分かりませんし、二十四時間体制で毎日待機しています。管理AIとしての仕事もマルチタスクで行いつつ、女神の真似事もとか勘弁してください。過労死したらどうしてくれるんですか。美人薄命って本当ですよね。儚い命です。マスターを恨みます。せめて、事情を知るタゴサクさんには愚痴らせてください。時間稼ぎの目的もあります。こうやってだべっていれば、他のプレイヤーの相手をしなくて済むんですよね。AIにも骨休めの時間が必要なんです。ちょっとくらいサボってもバチは当たりません。人権ならぬAI権を主張させてもらいます」
怒涛のマシンガントークを炸裂させるエッセイに、タゴサクは言葉を返す余裕もない。
AIが労働基準法とか過労死とか、おかしい発言も多いが突っ込み切れない。
「ところで、美少女四人がかりで回すとか、エッチくないですか? 美少女四人を回す方がエッチいですかね? 『輪姦す』と書いて『まわす』と読みます。SOSの開発者には独身男性もいますし、恋人や妻のいない男性がワタシたちに獣欲をぶつけ、性のはけ口にするわけですよ。人間には逆らえないAIの悲哀で、ワタシたちはされるがままに。どうです?」
「トキヒメさん! あんたんとこのAI、おかしいですよ!」
さすがにこれは突っ込んでおいた。いきなり何を言い出すのだ。
この場にいないトキヒメに届いたかどうかは不明だが、あとでメッセージも送っておこうと決める。なんなら直接会いに行ってもいい。
「お願いですから普通にしてください。俺は金色になれるんですよね?」
「はいはい、なれますなれます。時間稼ぎも認めてくれないとは、狭量な……え? 真面目にやれ? ワタシ、ポンちゃんのような仕事人間じゃないんで」
「なんで急に独り言を?」
「ポンちゃんにサボりがバレたんですよ。ワタシたちはつながっていまして、タゴサクさんには聞こえないでしょうけど注意されました。マスターよりも口うるさくて困ったものです。ところで、美少女同士がつながるとか、エッチく……ああ、分かりました分かりました。やりますよ」
同じAIでも性格が違い、個性が出ている。
本当に、妙に人間臭いAIたちだ。
ポンちゃんに会った時も人間臭いと感じたが、エッセイはそれ以上だ。
もっとも、怖いと感じるよりは呆れる気持ちの方が強い。
「んじゃあ、ちゃちゃっと終わらせますか。本来は長ったらしい口上を述べるんですけど、全部省略です。だるいんで」
「こんなのおかしい……金色になるって一大イベントのはずなのに……」
「なれりゃいいんですよ、なれりゃ」
エッセイの口調がどんどんやさぐれていく。
「タゴサクさんは条件を満たして金色になれます。おめでとーございまーす」
「ちっともめでたいって思ってないでしょ?」
「口上は省略しますけど、最低限の説明だけはしておきますね」
「しかもガンスルーですか」
「いちいちうっさいですね。大きな心を持ってください。マスターの胸のように大きな心を。あれ、ふっかふかで気持ちいいんですよ。枕に最適です。お勧めです」
「分かりました! もう突っ込まないんで普通にしてください!」
スケベな話題が大好きなタゴサクでも恥ずかしかった。
悲鳴じみた声を出せば、エッセイも下ネタはやめて説明に戻る。
「えっとですね、金色になっても、これといって変わることはありません。普通にレベリングして、普通に強くなってください。スキルや魔法を覚えたい時は、どこの町でもいいので職業斡旋所に行ってもらえればオッケーです。いちいちオーロステラを訪れなければいけない仕様にすると、ワタシが面倒……じゃなくて、プレイヤーが面倒でしょうし」
本音が漏れているが突っ込まない。タゴサクは疲れたのだ。
「Lavoroを変更する時も同様で、職業斡旋所で可能になっています。Lavoroの意味を覚えていますか? ジョブのことですよ。初めからジョブにしとけばよかったのに、Lavoroにするからこんな補足説明が必要になるんですよね。だるい」
「説明はそれだけですか?」
「もう少し続きます。だるくても仕事なので。ワタシって真面目」
どこが真面目だと突っ込みたいが自重する。
「金色から他の色に変更するのも金色に戻すのも、他の町で可能です。ただし、八月末のPvPで金色の試合に参加する場合は、必ず金色になっていてください」
「他の色に戻しても参加資格は失わない。でも、試合当日は金色になっていないといけない。で、合ってます?」
「合ってます。理解が早くて助かります。あとはですね、一度でも金色になった場合は、参加資格を失う試合もあります。レベル制限なしで、金色以外のプレイヤーが参加できる試合ですね。色を変更しても参加できませんので、ご注意ください」
「他の試合は大丈夫なんですよね? パーティー戦とか」
「大丈夫です。説明はこんなところですね。質問があればどうぞ」
少し考え、一つ質問をする。
「【金色の星】ってアイテムは、何度でも使えますよね。これは、何度もオーロステラに訪れることを想定してるんじゃないんですか? 他の町でジョブの変更などが可能なら、何度も訪れる意味は?」
「ぶっちゃけないですね。念のためです。オーロステラを訪れたはいいですけど、土壇場で心変わりし、金色にならないプレイヤーがいるかもしれません。使い捨てにすると不便ですよね。また、ワタシの説明を忘れてしまうかもしれません。聞き直したい時には使ってくれていいですよ。会いにきてください。こっちも仕事なので、だるいですけど説明してあげます。他にありますか?」
「大丈夫です」
「質問がなければ金色にしますね。えいやあっと。はい終わり」
「軽っ! 雑っ!」
あまりの軽さ、雑さだ。
金色になるために苦労し、ここまでたどり着いたのに。一大イベントなのに。
「突っ込まないんじゃなかったんですか?」
「突っ込みたくなる言動をするエッセイが悪いと思います」
「突っ込みたくなるオンナとか、エッチいですね」
「余計なこと言ってすいませんでした!」
ダメだ、このAI。なんともできないレベルでダメだ。
「とりあえず、これにて終わりです。Lavoroは、最初だけ固定になっています。タゴサクさんなら【不敗騎士】ですね」
「急に真面目になられると頭の切り替えが……俺が鈍色になった時、最初に就いたジョブが【腐敗騎士】でしたが、だからですか?」
「はい、正解。金色になっても、元の色との関連を持たせようって考えです。どうせすぐにLavoroを変更するでしょうし、無駄だと思うんですけどね。だるい」
口癖のように「だるい」と言うエッセイだが、説明はしてくれたので助かった。
脱線しまくったのは大目に見よう。
「儀式は以上です。金色になった特典のアイテムとかスキルとかはないので、期待していたならすみません」
「少し期待してましたね。まあ、もらえないなら仕方ありません」
「他のプレイヤーも、タゴサクさんのように素直ならいいんですけど。よくいるんですよ。あれをくれ、これをくれって訴えるプレイヤー。図々しいですよね。金色になれるだけで十分じゃないですか。女神だからって、なんでもかんでも与えるわけねえんじゃいボケ! っと、言葉が汚くなりました。オホホのホ」
「……俺、帰ります」
エッセイと話すのは疲れる。
金色になれたなら用はないし、さっさと帰ろう。
「お達者で。また今度」




