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たった一つの輝くもの  作者: ともむらゆう
第4章 オーロステラ
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九十一話 元親衛隊の男

 クエストを終えたタゴサクは町に帰還した。

 ソーニャとイアからはメッセージが届いており、宿屋で待っていると書かれていた。

 わざわざ待ってくれているのだから律儀だ。【難星(なんせい)グンマー】を離れ、別の星でレベリングでもクエストでもすればいいのに。


 二人の心遣いに嬉しくなる。

 オーロステラに行けるようになったし、吉報を届けられるのも嬉しい。

 意気揚々と宿屋に行けば、ソーニャとイア以外になぜかミディーリもいた。


「あ、お兄ちゃん。おかえり」

「おかえりなさい、サクさん」

「ただいま。んで、ミディーリはどうしたんだ?」

「少々お伝えしたい話がありまして、ソーニャさんにメッセージを送りました。ここにいると返信をいただきましたので、出向いた次第です」


 ミディーリは、普段はコダることを嫌がる。

 信念を曲げてまで会おうとするのだから、重要な話だと思われる。


「わたくしの話をするのもよいですけれど、サクさんはクエストの最中だったのですよね? 先にそちらを終わらせてください」

「そんじゃ、お言葉に甘えてNPCに報告してくるか」

「私もついて行っていい? 結果が気になるし」

「わたしも行きます」

「わたくしはここで待っております。消耗していますし回復もしたいですので」


 ミディーリを残し、三人でNPCの民家に向かう。


「二人とも、足止めサンキューな。おかげで神殿にたどり着けた」


 足止めをしてくれた二人に対し、改めて礼を述べた。


「気にしないでいいわよ。ああいうの、ちょっと格好いいって思ったし。イアの厨二病がうつったかもしれないわ」

「最高のシチュエーションだったよね。『別にあれを倒してしまっても構わんのだろう?』を言い忘れたのがちょっと心残りかな」

「有名なセリフよね。元ネタの作品は知らないけど」

「随分と楽しそうだが、負けたんだよな?」

「負けたわよ。というか、勝てるわけないでしょ。人数もレベルも、相手の方が遥かに上なんだし」

「でも、わたしは一人倒しましたよ。ソーニャちゃんも一人倒してましたし、痛み分けですね」


 PKされ、金やアイテムを失ったはずなのに、二人とも楽しそうだ。

 悔しいはずのPKすら、シチュエーション次第で楽しみに変える。

 いいことだと思う。


「私たちはこんな感じだけど、お兄ちゃんは?」

「そいつは、NPCに報告した時のお楽しみだ」


 せっかくなので、もったいぶっておいた。

 民家に到着し、中に入ってクエストの結果を報告する。


「不届き者たちを退去させられなかったのか。役に立たない奴だな。別の奴に頼むから、もういいよ」


 NPCにはバカにされてしまい、報酬はもらえなかった。

 厳しい言葉だが、オーロステラに行けるようになったのだから、クリアになっているはずだ。

 メニュー画面で確認すれば、「大成功」の文字があった。


 普通に退去させていれば成功で、今回のやり方では大成功だと思われる。

 成功の場合は、NPCから報酬をもらえる。大成功の場合は、NPCからは何ももらえないが、代わりに女神の報酬がある。

 こんなところだろう。


「お兄ちゃん、クエストに失敗したの? 私たちにあそこまでさせたくせに?」

「サクさんはサクさんでしたね。教育します。猫ちゃんです」


 NPCとの会話を聞けば、二人が勘違いするのも仕方ない。

 だが、クエストは大成功だ。

 大成功させるのは、レアステラで罠のクエストに引っかかった時以来だが、あの時とは違い今回は罠ではない。

 正真正銘の大成功だ。自慢してやろう。


「甘いな。クエストは大成功だぞ。俺ってすげえ。天才」

「嘘ついてるんじゃなくて?」

「すぐにバレる嘘をついてどうすんだ。大成功の証拠に、ニフナジュレタの装備をもらったぞ。【ニフナジュレタの(ゆる)し】だ。しかも、オーロステラにも行けるようになった。まだ行ってないが、あとで行って金色になってくる」

「さ、さすがお兄ちゃんね。私は信じてたわよ」

「わたしも信じてました。教育した成果ですね」

「調子のいい」


 見事な手のひら返しを見せた二人に突っ込んでおいた。

 NPCへの報告も終えたし、ミディーリが待っている宿屋に戻って話を聞く。


「タチの悪いPKがおります。皆さんも注意してください」


 ミディーリの話とは、PKへの注意喚起だった。


「PKなんてタチが悪いものだと思うが?」

「サクさんが考えている以上です。PK自体はわたくしもしますし、サクさんたちもすると思います。わたくしが言っているPKは、PK時に狙ったアイテムを奪うスキルを覚えているようでして、ですから厄介なのです」


 狙ったアイテムを奪うPK。

 三人とも心当たりがあった。ありまくりだ。

 昨日PKされたばかりだ。ミディーリの言っているPKと同一人物ならばだが。


「俺たちが襲われた奴と同じなのか? 長身の若い男性プレイヤーだったが」

「わたしもサクさんも、ニフナジュレタ装備を奪われたよ。ピンポイントでレアアイテムを奪うのは、好きなアイテムを奪えるスキルがあるんだって話してた」

「既に被害にあっていましたか……お顔はどうでした? シンガーさんには及ばないものの、かなりイケメンではありませんでした?」

「イケメンだったな」

「うんうん。お兄ちゃんより上、シンガーさんより下って感じね」


 タゴサクが知る中では、シンガーに続いて二番目にイケメンのプレイヤーだ。

 仮にだが、SOSイケメンプレイヤーランキングでも実施されれば、上位に入ること間違いなしである。

 他にも外見の特徴をすり合わせると、ミディーリが言っているPKと同一人物に思えた。


「彼の名前はウルフォド。本人曰く『(ウルフ)』だそうです。元はトキヒメ親衛隊の一人でした」

「元ってことは、今は違うのか?」

「今は抜けております。ウルフォドさんがSOSを始めたのは、トキヒメさんのスクリーンショットを見て好きになったからです。ところが、せっかく近付いて貢いでいたのに、フラれてしまったらしいのです。ゆえに親衛隊を抜けました」

「賢明な判断でしょ。男を下僕扱いする性悪女と一緒にいる方が変よ」

「何度聞いても、下僕って酷いよね」


 タゴサクを猫にしているイアが言っても説得力皆無だが、突っ込まないでおく。


「親衛隊を抜けただけでしたら問題ありません。ただ、フラれて終わりにする性格はしておらず、復讐を目論んでおります。可愛さ余って憎さ百倍。恨み骨髄といった様子ですね」

「ミディーリはやけに詳しいな。そいつと知り合いなのか?」

「本日、ナンパされました。その時に恨み言も聞かされましたね」

「トキヒメさんを好きだった人が、ミドリちゃんをナンパしたの?」

「イアさん、わたくしのどこを見ましたか?」

「ど、どこも見てないよ」


 イアは誤魔化したが、視線は明らかにミディーリの胸に向けられていた。

 スタイル抜群のトキヒメに対し、ミディーリは失礼ながら子供体型だ。美少女プレイヤーランキングでも、ロリっ子巫女と言われていた。


 一口に「美少女」と言っても、二人はタイプが違う。

 トキヒメを好きになる人は、ミディーリに興味を持たない。逆もまたしかり。

 タゴサクのように、美少女であればオールオッケーと考える無節操な男なら話は別だが。


「彼がわたくしをナンパしたのは理由があります。美少女プレイヤーランキングが発表されましたよね。わたくしの好みも一部で知られているようなのです。隠してはおりませんし、知られていても不思議ではありません」

「ミディーリの好みっつうと、あの贅沢な条件?」


 身長百八十センチ以上、年収一千万円以上の、十八歳から二十二歳までの細マッチョイケメンだったはずだ。


「身長、年齢、顔やスタイルは条件を満たしております。年収に関しては、実家がお金持ちだと言っていましたね。わたくしの好みに合致しているなら、ナンパも成功すると考えたのでしょう。危うくコロッといきかけましたよ」

「てことは、断ったのか?」

「お断りいたしました。サクさんの時と同じです。外見は好みでも、性格が好みではありません。いえ、あの人と同じにするのはサクさんに失礼ですね」

「俺の性格も大概だと思うが、もっと酷いのかよ。どんだけだ」

「サクさんと比べれば、悩むまでもなくサクさんを選ばせていただきます」

「ダメ!」


 ミディーリのセリフに過剰反応したのはイアだ。

 反射的に大声を発してしまい、イアは慌てている。


「わ、わたしのことはどうでもいいから、ミドリちゃんは続き続き」

「イアさんは、素直ではありませんね。まあよいでしょう。ウルフォドさんは、わたくしをべた褒めしてくれましたよ。トキヒメさんへの罵詈雑言と合わせてです」


 ウルフォドはトキヒメを散々貶した。

 ミディーリは、トキヒメとはまるで違う人間だと褒めた。

 うまいやり方だと思う。美少女プレイヤーランキング堂々の一位であるトキヒメと比較し、彼女よりも遥かに素敵だと褒めちぎれば、女性も喜びそうだ。


「わたくしを褒めたいのか、トキヒメさんを貶したいのか分かりませんでした。そもそも、初対面なのにわたくしの何を知っているのかと思いましたね」

「性格の悪いことを言うが、気分よくなるんじゃないのか? 俺はなるぞ。今がまさにそうだ。ミディーリみたいな美少女が、俺とイケメンを比較してる。イケメンを悪く言って、俺を選ぶって言ってくれる。超気分いい。同じことをソーニャやイアに言われても、やっぱり気分いい」

「最初だけですね。わたくしも褒められて悪い気はしません。男性に大人気の女性と比較され、その人より素晴らしいと言われれば嬉しいです。しかし、トキヒメさんへの悪口が常軌を逸していたせいで、ドン引きですよ。キモいとか死ねとかは序の口で、もっと酷い言葉もありました」


 キモいや死ねで序の口とは恐ろしい。

 一度は愛した女性に対し、そこまで言うのか。

 もしくは、恋愛感情がこじれるとそうなるのが普通なのかもしれない。恋愛経験に乏しいタゴサクでは何も判断できなかった。


「私やイアもトキヒメの悪口は言うし、ウルフォドって人を否定するとブーメランになるんだけど……」

「お二人が何をおっしゃっているのか、わたくしは存じません。しかし、あそこまで悪くはおっしゃっていないと思います。『男性を下僕にするのは酷い』や『トキヒメさんは性格が悪い』といった程度ではありませんか?」

「そんなところね。人の振り見て我が振り直せ。注意するわ」

「よいことです。わたくしも注意しましょう。ともあれ、ウルフォドさんの言葉でなびく女性は滅多にいません。当然、わたくしもお断りしたのですけれど、するとPKです。レアアイテムを奪われてしまいました」


 ナンパをして、断られればPKする。酷い話だ。


「ウルフじゃなくて、まるでハイエナだな」

「サクさんは珍しくうまいです」

「ナンパもナンパしてるが、断られたからってPKはしない。仮にもナンパしようとした相手なんだし、断られて手のひらを返すのはダサい」

「ウルフォドさんに言わせれば、トキヒメさんに復讐するためにレアアイテムを集めているから仕方ないのです。悪いのはトキヒメさんです」


 ミディーリの発言が正しいなら、身勝手な男だ。

 悪いのは全てトキヒメだと主張するのはおかしい。PKを楽しむガンタというプレイヤーがいたが、彼のようにPKしたいからする方がまともだ。


「とにかく、PKに精を出しておりますので、注意してくださいとお伝えするつもりでした。既に被害を受けたのでは遅かったですね」

「いや、ミディーリの厚意は嬉しいよ。それに、PKも悪いことばかりじゃなかったからな」


 PKされ、【ニフナジュレタの癒し】を失ったおかげで、イアからもらえた。

 今は装備していないが、ゲームのデータに過ぎない指輪なのに、身に着けていて心が満たされる。


「サクさんのお顔が崩壊しておりますね。イケメンにPKされて喜ぶ趣味がおありで? ウル×サクですか?」

「んな趣味があるか! 掛け算すんな! PKされたおかげで、イアから指」

「言っちゃダメです! 言ったらサクさんを嫌いになりますよ!」

「どうも、面白そうな出来事がおありだったようで。今度女子会をして、イアさんから聞き出しますか」

「教えないもん!」


 イアをからかってから、ミディーリはなまめかしいため息をついた。


「サクさんとイアさんは、よい雰囲気ですね。羨ましいです。わたくしにはいい男性がいないというのに。いっそ、今からでもサクさんに乗り換えましょうか」

「ダメだよ! 格好いい人なら、シンガーさんでもナンパさんでもいるよね!」

「シンガーさんはイケメンですけれど、あまりにも細過ぎます。細マッチョではなく細いのです。爽やかで男臭くない部分が魅力でして、わたくしの好みとは違いますね。ナンパさんは、サクさん以上に軽薄なのがマイナス印象です。ここはやはりサクさんしか」

「そこまでにしといてくれ。俺を認めてくれるのは嬉しいし、イアに発破をかけようとしてるのも分かるが、俺たちはちゃんと前に進んでる」

「お節介でしたか。失礼しました」


 ソーニャもミディーリも、タゴサクとイアを気にかけてくれている。ありがたい話だ。

 みんなのおかげで、二人の関係も少しずつではあるが進展している。

 指輪をくれたほどだ。何度思い返しても頬が緩む。


 ミディーリの話は終わり、別の星に行った。金色になると意気込んでいる。

 タゴサクたちもゲームを続行する。金色の星に行くわけだが、その前に。


「一回、コモンステラに行きたい」

「なんか用事あるの?」

「アイテムを買いたいんだ。PKされた時の防衛策だな。安物のアイテムを大量に所持しておけば、レアアイテムを守れる確率が上がる。今は、絶対に失いたくないアイテムを持ってるから」


 使わなくても、大量のアイテムを所持しておくだけで有効だ。

 好きなアイテムを奪うスキルを使われれば無意味だが、それ以外では効果を発揮する。対策しないよりはマシだ。

 コモンステラで安物のアイテムを買い溜めておく。


「め、女神様からもらった報酬ですよね? わたしは分かってますよ」

「そういうことにしとくか。俺の気持ちは、ちゃんと伝わってるだろうし」

「生意気です! 猫ちゃんです! 金色になっちゃうと、猫ちゃんにもなれなくなりますし、今のうちにいっぱいもふもふしておきます!」

「まとめると、まずはコモンステラで適当に買い物するのね。次に、お兄ちゃんが猫になってイアから調教される。最後がオーロステラで金色になると」

「ソーニャちゃん、正解。百点満点」

「正解じゃない! 真ん中がおかしいぞ!」


 ほとんど告白じみた行動をしておきながら、イアは相変わらずだった。

 ソーニャも便乗して、ネコサクをもふりたいと言い出す。


「私もお兄ちゃんをもふっとこっと。尻尾がいいわね。こすると気持ちいいの。お兄ちゃんも気持ちいいでしょ? 棒状のモノを、美少女の指でこすこすって」

「言い方!」


 ソーニャは、他人のセクハラ発言には【打杖(ホームラン)】をぶちかますくせに、自分はセクハラ発言をするのだから酷い。


「わたしは猫耳だね。二回猫ちゃんになってもらって、猫耳と尻尾を交代でもふもふしてもいいけど」


 ネコサクがおもちゃにされることは決定してしまった。

 二人とも、冗談で言っているのではなく、本気も本気だ。抵抗は無駄である。

 イアも言っていたが、金色になればネコサクにはなれなくなる。鈍色の奥義である【獅子ガ纏イシ死屍炎魔(ライオンエンマ)】が使えなくなるからだ。


 最後のネコサクということもあり、二回では満足してくれない。

 何度も何度もネコサクに変身し、散々弄ばれた挙句。


「らめぇ……こ……壊れりゅ……」


 お婿に行けない体にされてしまった。

 タゴサクが「らめぇぇ!」とか「壊れりゅうぅぅ!」とか言っても気持ち悪いだけだが、声が出てしまうのだ。


 しかし、ネコサクになるのも今日までだ。

 これから金色になってネコサクとはお別れする。男のプライドを取り戻すのだ。

 とっくに手遅れの気がしないでもない。

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