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たった一つの輝くもの  作者: ともむらゆう
第4章 オーロステラ
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九十話 鬼ごっこ

「【獅子ガ纏イシ死屍炎魔(ライオンエンマ)】!」


 タゴサクはネコサクへと変身し、自身のステータスをアップさせる。

 敵を倒すためではなく、敵から逃げるためだ。走るスピードを少しでもアップさせたい。

 ネコサクに変身を遂げれば、次はシシサクになる。


「【星ヲ滅ボシ獅子ノ王(ゾディアックレオ)】!」


 鈍色の(たてがみ)をなびかせて、フィールドを駆ける駆ける。

 町から追ってきていたプレイヤーは、ソーニャとイアが足止めしてくれている。

 二人を倒したとしても、改めてシシサクに追いつけるスピードはないはずだ。


 フィールドで遭遇するプレイヤーは、全速力で駆け抜けるシシサクを見て呆気に取られ、PKをするどころではない。

 モンスターが出現した場合は殴り飛ばす。倒すのは無理でも逃げられればいい。

 途中で奥義の効果が切れ、シシサクからタゴサクに戻るが、構わずにひたすら走り続けた。


 そして、無事に女神の神殿にまでたどり着く。

 そこは廃村だった。コモンステラに【テイヘーンの村】があったが、あそこからNPCを除いた村と表現すれば近い。


「【バースト】」


 村の中で戦闘が可能かどうか確かめるために、タゴサクは魔法を使ってみた。

 問題なく使えたので、廃村はフィールドと同様の扱いだと考えられる。

 戦闘が可能ならモンスターも出現する。ここでモンスターに殺されては目も当てられないので、のんびりはできない。早く神殿に行く。


 ボロボロになった民家が立ち並ぶ廃村の奥には、立派な神殿が鎮座している。

 民家はボロでも神殿は綺麗だ。占拠している人たちが手入れしているのか、女神の神殿なので不思議な力に守られているのか。


 タゴサクは、イアからもらった【ニフナジュレタの癒し】を装備する。

 指輪を見ているだけで、イアの顔まで浮かぶ。素直になれずに照れて、でも指輪を受け取って欲しいと言っていた可愛い顔が。

 あんなセリフを聞かされて発奮しなければ男じゃない。


「よしっ!」


 自らを鼓舞して白亜の神殿に入って行く。

 回廊を歩き、不届き者がいそうな場所を探す。

 襲われる可能性があるため、警戒は怠らない。血で汚すのはタブーだと言われているし、攻撃されてダメージを受ければクエスト失敗になる。


 いくつかの部屋を覗いても誰もいないが、しばらく探していれば見つけた。

 NPCたちが中庭で酒盛りをしていたのだ。

 年齢も性別もバラバラで、老若男女のNPCがいる。数は三十人ほどだ。


「んだぁ、てめえ」


 若い男性NPCがタゴサクを見咎め、ドスの効いた声を発した。

 赤ら顔だし酔っ払っているのだろう。

 酔っ払いに話が通じるかは不安だが、左手の薬指に装備した指輪を見せつつ交渉する。


「神殿を占拠するのはやめてもらえないか? ここは女神様の神殿だぞ」

「そ、その指輪は……」

「まさか、女神様の使徒?」


 狙い通りの展開になってくれた。【ニフナジュレタの癒し】を装備したタゴサクを女神の使徒だと誤解し、何人かのNPCは「ははーっ」と平伏する。

 まるで某黄門様の印籠だ。

 平伏しているのはお年寄りが多い。神殿を占拠していても、女神を信仰する気持ちは残っていると見える。


 だが、全員が平伏しているわけではなかった。

 子供のNPCは、事情を呑み込めないらしく、きょとんとしている。

 若者のNPCは、タゴサクの言葉に従う気がなさそうだ。

 先ほどドスの効いた声を発したNPCは、千鳥足でタゴサクに近付いてくる。


「なーんにも見えねえな。酔っ払いの目にゃあ、なーんにも見えねえ」


 ヘラヘラと薄ら笑いを浮かべてとぼけた発言をすれば、便乗するNPCが出る。


「オレも見えねえ。酔っ払いだもんなあ。仕方ないよなあ」

「アタシもだねえ」


 酔っ払い集団は【ニフナジュレタの癒し】にビビる様子を見せない。

 指輪を見せるだけで足りないようだ。ならば名乗ってみる。


「俺は女神様の使徒だぞ。ニフナジュレタ様の使徒だ。ひ、控えおろう!」


 信憑性を持たせるために「ニフナジュレタ」の名前も出した。某黄門様の家臣が言っているセリフを記憶から引っ張り出し、真似もしてみた。

 威厳など欠片もないが、嘘でも効果があるなら構わない。

 タゴサクが名乗ったのに、NPCの若者は態度を変えなかった。


「酔っ払いにゃあ見えねえんだよなあ」


 酔っ払い。繰り返されたこの言葉がヒントになりそうだ。

 若者なので女神を信じていないとも考えられるが、酔っ払っているせいで気が大きくなっている可能性が高い。

 指輪を見せれば解決すると思っていたのに、面倒な事態になった。


「女神のクエストだし、簡単にはいかないか。酔っ払いの目を覚まさせる方法っつうと……水でもぶっかける?」


 何かしらの手段が用意されているはずだ。

 RPGのお約束として、おそらく神殿内にある。

 クエストを受ける際、女神の使徒が降臨すれば恐れおののいて逃げると聞いた。

 酔っ払いの目を覚まさせる必要があるとは聞かなかった。


 クエストを受けるプレイヤーは、ニフナジュレタ装備を身に着けることは思いついても、酔っ払いを正気に戻す手段は用意しない。

 神殿内に手段が用意されていなければ、クエスト失敗になってしまう。

 事前情報になかったことで失敗するとは考えにくい。


 一旦、中庭から神殿に引き返し、鍵となるアイテムを探す。

 若者のNPCたちは、タゴサクを追いかけてくる。剣や槍、棍棒などの武器も携えているし、攻撃する気満々だ。


 神殿内で鬼ごっこが繰り広げられる。

 勝利条件は、NPC(おに)から逃げ回り、キーアイテムを入手することだ。

 NPCに見つかり攻撃されてしまえば失敗になる。

 酔っ払いの動きなので、逃げること自体は簡単だ。相手は複数いるが十分に逃げ切れる。


 ただし、モタモタとキーアイテムを探していれば追いつかれる。

 探し物に夢中になり過ぎれば、NPCの接近に気付かず攻撃されてしまう。


「変なクエストだな! 普通に戦う方が楽だ!」


 毒づきながら、タゴサクはアイテムを探し回る。

 水なのか、薬なのか、他の物か。NPCを正気に戻すアイテムプリーズ。


 部屋の中に入り、棚を漁ったり壺を割ったりと家探しを敢行する。

 RPGの主人公になった気分だ。民家を漁るのは昔からのお約束である。

 SOSもRPGだが、民家の中は漁れないようになっている。棚や壺を漁ってアイテムを入手することはできない。

 今回は例外なのだろうか。


 通常の民家では、家具などは破壊できない仕様だ。タゴサクが今やっているように、壺を割る芸当は不可能である。

 不可能な行為ができているのは、どこかにアイテムが隠されている証拠と考えられなくはない。

 それにしては、神殿が広過ぎる気もする。むやみに探して見つけるには相当運が必要だ。


「ダメだ、集中できない」


 いつNPCが部屋に入ってくるか分からない上に、考え事までしていては、アイテム探しに集中できなかった。

 大雑把に探してから部屋を出ると、通路でNPCと鉢合わせする。


「うおっ!」


 女性NPCは棍棒を振り回してきた。物騒な攻撃を、体を沈めて回避する。

 タゴサクの頭を狙った一撃が外れ、壁を砕いた。女性NPCの力が強いのか壁が脆いのか、どちらだろう。

 ガラガラと音を立てて崩れる壁を見ながら、タゴサクは逃げ出す。


 今のは危なかった。棍棒の攻撃を食らっていればアウトだ。

 部屋を出るタイミングが少し遅かったとしても詰みだった。扉は一つしかないので、塞がれてしまえば脱出できなくなる。袋の鼠だ。

 部屋に閉じ込められているうちに他のNPCも集まってきてジエンド。

 いや、NPCが棍棒で壁を壊したように、部屋の壁を壊して脱出できるか。


「壁を壊す? なんで壊せるんだ?」


 家具などを破壊できないように、壁だって破壊できない仕様になっている。

 ダンジョンでも同様だ。ダンジョンの壁を壊し、正規ルートを無視して突き進む真似はできない。

 ちょっとした物ならギミックとして活用できる。タゴサクも、ダンジョンにあった植物の蔦を使い、落とし穴に落ちたルーシャを助けた。


 民家にせよダンジョンにせよ、開発者側が意図しない物を壊されてしまえばゲームが台無しになるため、システム的に不可能にして防いでいる。

 神殿の壁が壊せるのは、開発者側が意図したことに違いない。

 アイテムを探すだけなら破壊不可能にしておけばいいものを、なぜ壁まで壊せる仕様にしたのか。

 クエストをクリアするために必要だからだ。


「方針変更!」


 タゴサクは、壁を壊した先に何かがあると考えた。

 思えば、ヒントはあった。クエストを受ける時に「勝手に神殿内をいじったりしている」と言っていた。

 勝手に通路や部屋の入口を塞ぎ、何かを隠しているのではなかろうか。


 隠されている場所を探す。ある程度、分かりやすくなっているはずだ。

 あちこち走っていれば、それらしき場所を見つけた。

 行き止まりになっている通路があるが、色が周囲と違うしヒビも入っている。

 素人が突貫工事で塞いだような場所だ。


「【全力(パワー)】!」


 ここが当たりであると信じて、壁の破壊を試みる。

 背後からはNPCたちが迫っている。破壊できなければ追い詰められて失敗だ。


「【バースト】!」


 攻撃を加えていけば、ヒビが広がっている。壊せそうだ。


「【全テヲ滅スル光(ラグナロク)】!」


 奥義を放ち、行き止まりになっていた壁を見事破壊した。

 壊した壁の先に進めば、広い部屋に出た。聖堂というか会堂というか、礼拝のために作られたと思われる場所だ。

 女神ニフナジュレタの像があり、神々しい雰囲気を感じる。


「ここか!?」


 NPCの目を覚まさせるのは、女神様のお力である。ありそうな展開だ。

 まあ、目を覚まさせる相手が酔っ払いのせいで台無しだが。

 女神像の前まで駆け、仕掛けがないか調べる。

 NPCたちも聖堂に入ってきているし、急がなければならない。


 女神像を調べていると、急に輝き出した。

 タゴサクが装備している指輪まで、女神像に共鳴するかのごとく輝いている。

 光はタゴサクの全身を包み込むほど広がり、やがて収まる。


「な、なんじゃこりゃ!?」


 思わず叫んだ声は、普段のタゴサクの声ではなかった。甲高くなっており、まるで女性のようだ。

 手足を見ても細くて色白になっている。服装だって鎧からドレスに早変わりだ。

 鏡がないので顔は確認できないが、きっと顔も変わっている。


 変貌したタゴサクを前にして、酔っ払いのNPCたちは武器を落とし、跪いた。

 口々に「女神様」、「女神ニフナジュレタ様」と言っている。

 タゴサクの外見が女神ニフナジュレタのそれになっているようだ。


「えーっと……どうすればいいんだ?」


 困惑するタゴサクだが、NPCたちは弁明の言葉を口にする。


「お、お許しください、女神様! 他に行き場がなかったんです!」

「神殿を占拠するのは不届きであると理解していました! だから聖堂の入口を塞いでしまいました!」

「信仰心はちゃんと持っています! 持っているからこそ、聖堂を塞いで見ないふりをしたんです!」

「説明セリフ、ありがとうございます」


 プレイヤーへの種明かしだろうが、やけに説明臭いセリフだった。

 これでクエストクリアだろう。女神の外見になっているタゴサクが、一言「出て行け」と告げれば、彼らは出て行く。

 退去させる内容だし、出て行くよう告げればいいだけだが。


「行き場がないと言いましたよね? 町には住めないんですか?」


 ここで退去させてしまうと行き場がなくなる。子供や老人もいたのに、かわいそうだ。

 人々を愛してくださる女神様が追い出すかと考えると、追い出さない気がする。

 追い出すなら、せめて行き場を確保してからにしたい。

 そう考えて問いかければ、素直に答えてくれる。


「オレたちは町を追い出されたんです。町には戻れませんし、他に行くあてもありません」

「ここだけなんです。ここだけがオレたちの居場所です」

「弱ったな」


 町には戻れないとの答えだった。

 タゴサクがクエストをクリアするために、NPCを不幸にする。「お許しを、お許しを」と懇願する彼らを無理矢理追い出す。

 ありと考えるか、なしと考えるか。


「後味が悪いっての」


 悪人を成敗して万事解決! ならよかったが、無理矢理追い出す解決方法は後味が悪い。やりたくないのが本音だ。

 これはゲームのクエストだし、追い出したとしてもどうせ占拠される。NPCがいなくなってしまえば、他のプレイヤーがクエストを受けられずに困るからだ。

 逆に、追い出さなかったとしても改心しない。神殿を占拠する不届き者でなければクエストが成立しないため、やはり他のプレイヤーが困る。


 メタな視点で考えるなら、遠慮せずに追い出せばいいのだ。

 結果は何も変わらない。ただのクエストであり、定められたストーリーだ。

 だが。


「神殿にいてくれて構いません。ただ、荒れ果てているのはよくないので、綺麗に使ってくださいね」


 女神なら、人々を愛そうとするトキヒメなら、きっとこう告げる。彼らのSOSを聞き届ける。

 タゴサクは、NPCたちを退去させることを断念した。


「ありがとうございます!」

「さすが女神ニフナジュレタ様!」

「すぐに神殿内を掃除します!」


 NPCたちが聖堂を出て行った。

 クエストの結果がどうなるかは不明だ。追い出そうと追い出すまいと、どちらにせよクリア扱いになってくれればラッキーだ。

 もしも失敗なら、犠牲になってくれたソーニャとイアに謝ろう。

 町に戻り、クエストを依頼したNPCに報告しようとした。

 そこで、女神像から声が聞こえる。


「人々を救ってくださり、ありがとうございました」


 女神像は女神像のままだ。先ほどは輝いたが、今は何も起きていない。

 声だけが聖堂に響いている。


「ワタシでも同じように告げたでしょう。お見事です」

「やっぱりですか。女神様の気持ちになってみたんです」


 答えるタゴサクの声は、元に戻っていた。

 女神に変身する時間は終わりというわけだ。


「あなたには、この【ニフナジュレタの(ゆる)し】を差し上げ……」


 何やらアイテムをくれると言いかけたが、女神の言葉が止まった。


「プレイヤーID……TY98HG55。プレイヤー名……タゴサク」

「俺の名前を?」


 かつて、【星樹トチノキ】で発生した展開と同じだ。

 となると、ひょっとして。


「クリア回数OK。女神の真名OK。ニフナジュレタ装備OK。プレイヤータゴサクは条件を満たしました」


 以前と比べれば間が省略されているが、間違いない。

 オーロステラに行ける条件を満たしたのだ。

 タゴサクの考えを裏付けるように、女神は言葉を続ける。


「プレイヤータゴサクは、オーロステラへの移動条件を満たしました。移動用アイテム、【金色の星】を授けます。オーロステラに行きたい場合は、どうぞお使いください」


 強制的に移動にはならず、プレイヤーの意思で自由に行き来できるようだ。

 女神の声が聞こえなくなり、二つのアイテムを入手する。


 クリア報酬である【ニフナジュレタの赦し】。NPCを許したので赦しか。

 そして、オーロステラへの移動用アイテム【金色の星】だ。オーロステラを日本語にしただけの安直な名前だが、固有名詞は基本的に「SOSだから」の一言で終わる。分かりやすいのでいい。


 説明を読むと、【金色の星】は何度でも使えると書いてある。売却は不可能で、他人への譲渡も不可能だ。PKされて奪われることもない。

 金色になるには、他人から譲ってもらったり奪ったりしては意味がなく、あくまでも自力で条件を満たせということだ。

 条件を満たしたタゴサクは、ついにオーロステラに行けるようになった。

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