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たった一つの輝くもの  作者: ともむらゆう
第4章 オーロステラ
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八十九話 指輪

 四十七の星で最高難易度を誇る【難星(なんせい)グンマー】。

 タゴサクたちは、ここで女神の情報を集めている。

 コダるプレイヤーとして嫌悪の目で見られながらも、NPCから話を聞いて回った結果、女神に関連していると思しきクエストに行き当たった。

 民家にいるNPCからこんな話を聞けた。


「女神様を(まつ)った神殿があるが、不届き者が根城にしているんだ。勝手に神殿内をいじったりとかもしてて、荒れ果てている」

「その不届き者を倒せばいいんですか?」


 タゴサクの問いかけに対し、情報を教えてくれたNPCは首を横に振った。


「いんや、違う。不届き者ごとき、傷つこうが死のうが構わないが、女神様の神殿を血で汚すのはご法度だ。バチが当たる。傷つけずに退去させてもらいたい。あんたらが傷ついてもダメだぜ」

「ちょ、ちょっと待ってください。俺たちにできるかどうか分からないので、仲間と相談したいです」

「やってくれるなら、オレに声をかけてくれ」


 非常に面倒臭そうな内容なので、タゴサクは即断しなかった。

 一緒にNPCの話を聞いていたソーニャやイアと相談する。


「どうする? 受けるか?」

「難易度が読めないわよね。単純に倒すよりも簡単なのか難しいのか」


 問題があるクエストだ。ソーニャが言うように、難易度が読めない。

 モンスターを倒すとなれば、レベルによって可能か不可能かを判断しやすいが、血で汚すのはご法度と言われている。

 傷つけるのも傷つくのもダメとなると、戦闘行為自体がタブーだ。


 戦闘をせずとも、出て行くよう頼めば出て行ってくれるならいい。

 それでは逆に簡単過ぎるし、退去させる条件があるはずだ。

 条件次第では、難易度が大きく変化する。


「SOSじゃ血は流れないって理屈は通じないか? ゲームだし、未成年の教育に配慮して、健全な仕様になってるよな。要するに、血を流してないから攻撃してもオッケーだ」

「さすがに通じないんじゃない?」

「じゃあ、イアが覚えてる奥義……【正シキ者ハ死セヨ(インファーナル)】だっけ? 即死攻撃だから傷つけてないし血で汚してもいない。どうだ?」

「ドヤ顔されましても、通じないと思いますよ。屁理屈にもなってません」


 タゴサクが出した二つの案は、ソーニャとイアに否定された。

 ならば考え方を変える。


「俺たちは女神と何度も戦ったよな。実体じゃないだろうが、当の本人……本神? とにかく女神自身を傷つけてるのに、バチが当たるとか言われても今さら感が半端ない。シカトしても許される?」

「絶対に通じないわね。なんなら聞いてみれば」


 NPCへの質問はまとめて行うので、他の問題点も洗い出す。


「神殿は町の外にありますし、モンスターやプレイヤーと戦闘になりますよね」


 イアが言った内容も大問題だ。

 最高難易度と言われるのは、だてではない。モンスターが非常に強いと聞く。

 コダるタゴサクたちは、PKの危険性も高い。

 神殿にたどり着く前に殺されそうだ。


「退去させる方法も不明だし、やめとく方が無難か……」


 タゴサクはやめる方向で考え始めていた。

 一応、聞くだけ聞いてみることにし、NPCに疑問点をぶつける。


「血が流れるとか流れないとかの問題じゃない。戦闘行為は厳禁だ。退去させる方法は、女神様の使徒でもご降臨されれば、恐れおののいて逃げ出すんじゃないか」


 タゴサクの理屈は通じず、戦闘行為は禁止だった。

 退去させる方法もよく分からない。女神様の使徒とは誰のことを指すのか。


「トキヒメさんでも連れてこいってか? 女神って呼ばれてるプレイヤーだし」

「ないわね。特定のプレイヤーしかクリアできないクエストは絶対にない。ゲームの大前提よ。ゲームのルールは、全プレイヤーに公平でなきゃいけないの」


 オンリーワンの装備やスキルがないのと同じだ。

 ゲームのルールは、全てのプレイヤーに対して公平。これは鉄則である。


 バスケの試合で、タゴサクだけが特別扱いを受けるのはあり得ない。反則が反則にならないとか、ゴールを決めれば特別に百得点とかだ。

 それはもはやバスケではない。

 冗談で言ってみただけだ。本気でトキヒメを連れてくるとは考えていない。


「ジョブはどうです? 女神様の使徒に近い名前のジョブに就くんですよ」

「俺は、それっぽいジョブに心当たりがないぞ」

「黒なら、【黒天女ブラックセレスティアル】か【黒冠聖女(クラウンマリア)】あたりでしょうか」

「橙色は、【天成灯貴(ロイヤルトーチ)】とか?」

「そんなのでよければ、鈍色にも【教祖(グル)】や【教皇(ポープ)】があるぞ。いくらなんでも苦しいだろ」


 トキヒメを連れてくるという意見に比べれば、ジョブが関係する方があり得る。

 各色に最低一つは正解のジョブを用意しておく。これは公平だ。

 もし、「女神」だの「使徒」だのというジョブがあれば、イアの意見が正しいと思える。


 天女や聖女が女神の使徒かというと疑問だ。

 絶対に違うとは言い切れないが、可能性が高そうなものが別にある。話している最中に思いついた。


「ニフナジュレタの装備品を身に着ける?」

「ありそう!」

「ありそうです!」


 タゴサクの出した意見は、二人の支持を得られた。

 女神のイベントをクリアした中で、ニフナジュレタの名前がつく装備を入手している。これを装備すれば、女神の使徒と見なされるのではなかろうか。

 ただし、これにも問題はある。


「俺、持ってない……」

「なんで? 【ニフナジュレタの癒し】を手に入れて……あ、PKか」

「そうなんだよ。昨日のPKで奪われたんだ」

「タイミング悪いわねえ」


 ソーニャはPKされていないので、【ニフナジュレタの癒し】を持っている。

 イアはPKされたが、奪われたのは【ニフナジュレタの祈り】だ。同じアイテムを奪っても意味がないので、タゴサクとは別のアイテムにしたのだろう。

 つまり、イアも【ニフナジュレタの癒し】を持っている。

 タゴサクだけが何も持っていない。


 ソーニャとイアが【ニフナジュレタの癒し】を装備し、不届き者とやらを退去させれば、タゴサクもクリア扱いになってくれるかもしれない。

 しかし、クリアにならない可能性の方が高そうだ。

 よりにもよって、金色になりたがっているタゴサクだけが持っていないとは、運が悪い。


「サ、サクさん……ちょっとお話が……」

「他にありそうな案が浮かんだ?」

「そうじゃなくてですね……ソーニャちゃんは、悪いけどここにいてくれる?」

「お兄ちゃんと二人になりたいの? あー……はいはい、なんとなく分かったわ。いってらっしゃい」


 イアはタゴサクを連れて民家を出た。

 そのまま、プレイヤーの姿が見えない裏路地に入り込んで行く。

 キョロキョロと挙動不審に周囲を見渡して、誰もいないことをしきりに確認していた。


「愛の告白でもしてくれるのか?」


 タゴサクが茶化しても、イアは否定しない。普段なら否定しそうなものなのに。

 まさか、本当に告白だとでも。

 イアは無言のままでメニュー画面を操作し始めた。

 何かと思っていると、タゴサクにアイテムが届く。


「あ、あげます……」

「譲渡はルール違反だぞ。しかもこれ、【ニフナジュレタの癒し】じゃないか。受け取れないって」

「サクさんは鈍いです。鈍色だからって鈍くならないでください」

「鈍いって言われてもな」

「【ニフナジュレタの癒し】が何か、忘れたんですか?」

「【真南都(しんみなと)カンナ】で、枯れ木に花を咲かせたら女神様が出現したな。その時にもらったアクセサリだ。一度だけHPを全快できる効果になる」


 装備の説明をつらつらと口に出したが、イアはむくれていた。

 お気に召さない答えのようだ。


「本当に鈍いです。ロマンチックじゃないです。【ニフナジュレタの癒し】は指輪なんですよ? 覚えてないんですか?」

「覚えてるが……え?」

「わたしがあげたいんです。サクさんに受け取って欲しいんです。ダメですか?」

「ダメっつうか……あの、なんだろ……意味があったりとか……」


 クエストをクリアするために必須だから、アイテムを譲渡する。

 ただそれだけの意味には思えない。

 指輪を持っているのは偶然でも、指輪を渡す行為に意味を込めている。


「サクさん、言ってましたよね。告白したのはわたしが初めてで、PKもわたしが初めてだって。わたしたち三人で決めた、アイテムを譲渡しないルール……わたしが初めて破るのはサクさんです。ちょ、ちょっと苦しい初めてですけど、もらって欲しいです」


 最後は消え入りそうな声になっていたが、イアは言い切った。

 指輪をもらって欲しいと。

 イアが可愛い。非常に可愛らしい。


「本当はですね、交換したかったんです。サクさんの指輪をわたしがもらって、わたしの指輪をサクさんにあげて。なのに、なんで奪われちゃうんですか? サクさんはバカなんですか? ここぞって場面でしくじるのがサクさんですよね」


 タゴサクを罵るイアの顔は、真っ赤に染まっていた。

 これは、もしかしてもしかすると。


「俺と付き合ってくれる?」

「付き……言いません!」

「そりゃないだろ! 指輪をくれるって、告白の返事がオッケー以外になんの意味があるんだ! 素直になってくれよ! 俺はイアが好きなんだぞ!」


 タゴサクは何度も気持ちを伝えており、そのたびに拒絶されていた。

 今度こそオッケーをもらえたと思えば、イアは言葉にしてくれない。


「まだ早いです! 教育は終わってません! サクさんがSOSを引退する日まで教育するんです!」

「んじゃあ、八月末に返事をくれるんだな!? 絶対だな!?」

「試合で格好いいところを見せてくれたら、ほんのちょーっとだけ考えてあげてもいいです!」

「素直じゃねえ! 見せるさ! いくらでも見せてやる! イアに『サクさん、素敵です!』って言わせてやるからな!」

「サクさんが素敵とか、ちゃんちゃらおかしいですね! ぶんぶく茶釜ですね!」

「意味分からんわ!」

「とにかく! 指輪はあげます! 女神のイベントもクリアしちゃいましょう!」


 言うだけ言ってから、イアは脱兎のごとく逃げ出した。

 タゴサクは、しばし頭を冷やしてから民家に戻る。

 なぜかソーニャの胸に顔をうずめるイアがいた。


「何やってんだ?」

「イアは、素直になれなくて自己嫌……ひゃっ」


 イアがソーニャの胸を鷲掴みにしたせいで、言葉が途中で止まった。


「女同士だからって、セクハラで通報するわよ!」

「余計なことを言うソーニャちゃんが悪いもん!」

「分かったわよ。言わないって」


 イアが落ち着いたところで、クエストを受けることにした。

 PKやモンスターはどうするかだが、ソーニャとイアが盾になってくれる。


「人生で一度は使ってみたいセリフってありますよね。『ここはわたしに任せて、先に行け!』です。というわけなので、PKが襲ってきたら、わたしがサクさんを守ってあげます。セリフを使ってみたいだけですよ! 他意はありません!」


 要は、二人で足止めしてくれるので、タゴサクは女神の神殿まで駆け抜けろと言いたいのだ。

 妹と好きな子を犠牲にし、一人だけで先に進むのはダサい。タゴサクが足止め役になり、二人に対して「ここは俺に任せて」と言いたいところだ。

 が、今の状況でくだらないプライドにしがみつくのは、もっとダサい。


「足止め、頼んだぞ」

「頼まれました。その代わり、成功させてくださいね。失敗したり死に戻りしてきたりすれば、教育しますよ。猫ちゃんです」

「ソーニャも頼むな」

「できるだけのことはやるわ。私って、なんて健気な妹なのかしら」


 方針も決定し、NPCに話しかけてクエストを受ける。

 戦闘用にスキル構成を見直して、いざ出発だ。

 フィールドに出ようとして町を歩けば、何人かのプレイヤーがついてきている。

 コダるプレイヤーをPKしたいのだろう。戦闘が可能になれば襲ってくると思われる。


「行くぞ!」


 フィールドに出た瞬間、三人そろって全速力で駆け出した。

 このまま逃げ切れれば一番いいが、そんなに都合よくいかない。

 プレイヤーたちが追いかけてくる。ステータスの差で足の速さも決まるため、相手の方が速い。


 後方から魔法が放たれる。モンスターまで出現する。

 どこもかしこも敵だらけで目が回りそうだ。

 素直に行かせてはくれなかった。


「【赤ヲ染メシ双ノ橙(ダブル)】!」

「【命ヲ壊ス黒紅点(アンタレス)!】


 ソーニャとイアが奥義を使用した。

 敵を足止めする準備に入る。


「【星ヲ包ミシ双子ノ王(ゾディアックジェミニ)】!」


 臨戦態勢は整った。二人と一緒なのはここまでだ。


「ここはわたしに任せて、サクさんは先に行ってください!」


 厨二病セリフを言えてイアは満足気だ。


「出し惜しみなしでいくわよ! 【吹キ飛ビ舞散レ(グランドスラム)】!」


 ソーニャの奥義で、敵を上空に打ち上げた。

 プレイヤーもモンスターもまとめて吹っ飛ばす。

【星ヲ包ミシ双子ノ王】の効果で二倍の威力になっているにもかかわらず、【吹キ飛ビ舞散レ】のみで倒せた敵はいない。相当強い証拠だ。


「【星ヲ奪イシ(ゾディアック)蠍ノ王(スコーピオ)】!」


 上空の敵をイアの奥義で落とす。さそり座のボス【アンタレス】がドロップした奥義だ。

 撃ち漏らした敵には、別の奥義をお見舞いする。


「【豊ナル穣ノ声(クレイドル)】!」

「【白ヲ斬リ裂ク闇(ヘカテイア)】!」


 二人とも、SPやMPに糸目をつけずに攻撃しまくっている。

 最初から勝てるとは考えていない。どうせ負けるなら、SPやMPを温存しておいても意味がないし、強力な奥義を使いまくっているわけだ。


 二人とも、スキルと魔法の枠をほぼ奥義で埋めている。

 PKされる瞬間まで撃ち続けるのみだ。

 決死の足止めをしてくれる二人の少女を置いて、タゴサクだけが駆ける。


「黒のイアの底力、見せてやります! 【我ハ黒ノ執行者(メタトロン)】!」

「橙色も忘れてもらっちゃ困るわよ! 【夢ノ庭ニ笑顔ノ花咲ク(アルヴヘイム)】!」


 戦いを見届けられないのは残念だが、背後の頼もしい声を聞きつつ神殿へ。

 クエストをクリアしてみせると決意を固めて。

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