八十八話 難星グンマー
タゴサクは【天界】から帰り、ジャパンステラでソーニャやイアと合流した。
話を聞きたがる二人だったが、まずは女神に報告しに行ってイベントを終わらせる。
レアステラに行ってまで【強化ゴブリン】を救ったおかげで、クリアできた。
オーロステラにはまだ行けなかったが、若干変化があった。
女神からオーロステラの名前を聞けたのだ。
公式で発表されているため、プレイヤーはオーロステラの存在を知っている。女神のイベントと関係しているのも周知の事実だが、本来ならここで初めて情報を入手する流れなのだ。
オーロステラの名前が出たなら、ゴールも近いと考えていい。
終わりが見えるとやる気も倍増する。近日中には金色になれそうだ。
ハイテンションのままで宿屋に移動し、タゴサクは【天界】に行ったことや条件を教える。
「PK数かあ。私はどっちが多いんだろ? PKされた回数の方が多そうな気はするけど、【天界】に行けなかったってことは、条件を満たせてないのよね」
「わたしは同じくらいかなって思う。片方だけが突出するケースは少ないよ」
「高レベルなのに、コモンステラでPKに勤しむような人でもないと、なかなか増えないわよね」
大抵のプレイヤーは、PKをするし、PKされる。
両方を体験しつつ進めるのがSOSの遊び方だ。
「で、お兄ちゃんは【天界】のスキルを覚えたんだっけ?」
「すんません。誘惑に負けてしまってすんません。【魔界】の魔法も手に入ればいいなって思ったんです」
「わたしが【魔界】に行けるなら、サクさんにあげてもいいですよ」
「い、いや、それはちょっと……ぶっちゃけ欲しいが、ダサいから嫌だ」
好きな子に貢がせるのはダサい。物欲はあるが思いとどまった。
「トキヒメなら、下僕の男に行かせて両方持ってるかもね。スキルと魔法を四つ全部持ってて、二種類の奥義を覚えてても驚かないわよ」
「ありそうだね。でも、たくさんあっても使える数は限られるし、使わないんじゃないかな。金色の奥義も強いのがあるだろうしね」
二人の中では、相変わらずトキヒメの評価が最悪になっている。
いずれ誤解が解けてくれることを願うばかりだ。
「まあ、私とイアじゃ行けそうにないわけね。残念だけど諦めるわ」
「条件を満たそうと思えば満たせるぞ。俺がソーニャとイアをPKしまくればいいんだ。逆に、二人が俺をPKしてもいい。奪った金やアイテムは返せば解決する」
PKした回数もPKされた回数も、仲間がいれば水増しするのは簡単だ。
PKの際に奪った物、奪われた物は、譲渡用のアイテムを使って返せる。
譲渡用のアイテムを購入するのに少々金は必要だが、今なら十分な数をそろえられるし、やってやれなくはない。
「私はやらなくていいわよ。あからさまな水増しはちょっとね」
「わたしもソーニャちゃんに賛成。自然に行けるようになるのを待つ方がいいよ」
二人がやらないと言っているので、話はおしまいだ。
タゴサクがレアスキルを覚えたことで満足とする。
本日のゲームはここまでだ。レアステラでずっと【強化ゴブリン】狩りをしていたせいで時間がかかった。
ログアウトし、軽く勉強をしてから寝る。
翌日も朝からSOSだ。
藍子が遊びにくるのを待ち、彼女が猫のタゴサクとじゃれ合ってから、三人でログインする。
夏休みの日課となった流れだ。猫のタゴサクもすっかり藍子に懐いている。
「わたしを待たなくてもいいのに。勝手にサクちゃんと遊んで、満足したら勝手にソーニャちゃんの部屋に入って、勝手にログインするよ」
「自分の家みたいな気軽さね。それ、本当にログインするだけで済むの?」
「無防備なソーニャちゃんにいたずらしようとか考えてないよ。サクさんの部屋に忍び込もうとか考えてないよ」
「はい、アウト。私の貞操が危険だから、絶対に待つわ。お兄ちゃんはどうでもいいけどね」
「いいの? わたし、ちょっと用事を思い出した。二時間ほどログアウトするね」
「待てい!」
現実のタゴサクの肉体が危険なのでイアを止めた。
兄を売るソーニャもソーニャだ。
強い衝撃があればVRゲームデバイスが感知して強制ログアウトさせるが、微弱な刺激は無視される。
イアが多少いたずらをしても、タゴサクはログインしている限り抵抗できない。
「二時間もいる? お兄ちゃんなら二分でいい気がするけど」
「サクさんってそうなの?」
「お前ら、最近マジで自重しないよな。セクハラ発言のオンパレードだ。俺のお株を奪うなよ」
「私たちのセクハラは、いいセクハラ。お兄ちゃんのセクハラは、悪いセクハラ」
「なんつう暴論を」
朝っぱらから酷い会話だ。
頭の悪い会話は切り上げて、ゲームで遊ぼう。
ジャパンステラで女神の情報を探すが、問題が一つある。
「残ってる星ってどこだっけか?」
実のところ、タゴサクたちは四十七の星をほぼ訪れている。
行っていない星はあるが、それは【絶壁街ゼル】のように色が限定される星だ。
ここは、鈍色のタゴサクと黒色のイアは行けて、橙色のソーニャは行けない。
逆パターンで、ソーニャが行けてタゴサクとイアが行けない星もある。
「三人で行けない星は除外するとして、残りは五つもないんじゃない?」
「数えれば分かりますよね。ちょっと待ってください」
イアは、町に転移するアイテムを使い、行ける場所を数えていた。
これなら行っていない星が分かる。鋭い考えだ。
「こことここは同じ星の町で……これはコローレステラだし……あ、数が分かんなくなっちゃいました」
鋭い考えだが、実行する側の頭脳が追いついていなかった。
「頼りになるのかならないのか」
「サクさんに言われると屈辱です。だったら、サクさんが数えてくださいよ」
「いいぞ」
「私もやるわね。二人の意見が一致すれば、多分正しいでしょ」
タゴサクとソーニャも数え始める。
コモンステラからコローレステラまでの町があり、並びが五十音順になっているせいで数えにくい。
「これさ、星順でソートできるよな? 五十音順だからごっちゃになるんだよ」
「サクさん、ずるいです! 卑怯です! 反則です!」
「気付かないイアが悪いわよ。私も気付いたのに。えっと、【桃源郷シュト】から始まってて、【コローレ】の前までだから」
「四十三だな。【絶壁街ゼル】を除けば四十二」
「私は【絶壁街ゼル】に行ってなくて、四十二だったわね」
二人が一致したので、まず間違いあるまい。
特定の色でなければ行けない星は、【絶壁街ゼル】、【月光街ソル】、【恐竜街アル】の三つだ。
すなわち、まだ訪れていない星は二つだけになる。
訪れた四十二の星の全てで女神の情報を得たわけではない。女神の情報を求めて訪れたはいいが発見できず、まともに探索していない星も多い。
単に遊ぶだけなら、ダンジョンもクエストもあるが、今日は残る星の片方に行ってみる。
宇宙船に乗り、目指すは【難星グンマー】だ。
理由は知らないが、群馬県であると思われるこの星は、四十七の星の中で最高難易度を誇る。
モンスターがやけに強く、フィールドに出た途端、雑魚モンスターに殺されかねない。クエストを一つクリアするにも困難を極める。ダンジョン攻略などもってのほかだ。
仮に女神の情報を発見したとして、到底クリアできるとは思えなかったので後回しになった。
今のレベルでも攻略は難しいが、他に選択肢もないしやるだけやってみる。
「もう一つの星にした方がよかったですかね?」
イアは不安そうに言ったが、正直どちらでも変わらない。
「残ってるのは【修羅の星ヘヴンズ】だろ? あっちはあっちで問題だからな」
ここは、NPCが全員敵という恐ろしい星だ。世紀末世界に登場しそうな、モヒカンヘッドでヒャッハーなNPCが住んでおり、町を歩いているだけで襲われる。
店で買い物をするにも、民家でクエストを受けるにも、必ずNPCとの戦闘が発生する。戦闘に勝たなければ、施設は利用できないしクエストも受けられない。
まさしく修羅の星である。なのに天国とはバカなネーミングだ。
どうでもいいが、【修羅の星ヘヴンズ】に該当する都道府県はない。
特定の都道府県への風評被害になるので避けたのだろう。
該当する都道府県がない星は、【陰火帝国モッコリーゴ】や【皇星ジャパン】もそうだ。
代わりとして、【水の国トゥーリバー】が香川県と石川県であるように、一つの星で複数の都道府県をまとめて数を調整してある。
「ちょっと心配事があるんだけど」
イアに続いて、ソーニャも不安そうな声を発した。
「【難星グンマー】は、ジャパンステラ中で最高難易度でしょ。ここにいるプレイヤーも高レベルぞろいだと思うのよね。モンスターも心配だけど、こっちも心配でさ。PKされそうになった場合、私たちが勝てる?」
「無理だろうな」
「わたしも無理だと思う。昨日も男性プレイヤーにPKされたけど、あのくらい強い人がうじゃうじゃいそうだよ」
「どうするのよ」
「内容次第だ。【難星グンマー】でモンスターを倒せとかダンジョンを攻略しろとか言われりゃ、諦めるしかないな。レアステラで【強化ゴブリン】を救えって言われたみたいに、他の星に行ってクリアするタイプならなんとかなる」
PKも、町の中にいる限りは安全だ。フィールドに出なければ襲われない。
他の星に行くタイプか、あるいは町の中で完結できるタイプであることを祈る。
多くの不安を抱えながら、宇宙船は【難星グンマー】に着陸した。
町の様子は、よくあるジャパンステラの町だ。和風になっている。
プレイヤーの姿も見えるが、妙に強そうな空気を纏っていると感じるのは気のせいだろうか。
コダっているタゴサクたちは、嫌悪の目で見られてしまう。
あからさまに舌打ちしたり、罵倒の言葉を吐き捨てたりするプレイヤーもいる。
ここにいるのは上級者ばかりで、SOSで長く遊んでいる古参プレイヤーだ。
古参プレイヤーが定めたマナーに従わない、常識知らずの新参者に対して、厳しい態度を取るのは当然だった。
「フィールドに出れば、即PK間違いなしだな」
「空気悪いわよねえ」
タゴサクとソーニャがぼやいた。
マナー違反をしているのはこちらであると理解している。
理解していても気分のいいものではない。
「だから、わたしたちの出番なんですよ。最近は言ってませんでしたけど、世界が定めた運命に抗うんです!」
「確かに、久しぶりに聞いたな。どうやって運命に抗うんだ?」
「もちろん、PvPですよ。パーティー戦で優勝すればいいんです。PvPのためだけに組んだ即席パーティーよりも、わたしたち三人の絆が一番強いです」
優勝とは大きく出たものだ。目標は高く持つべきだが、高過ぎる気もする。
イアは優勝する気満々のようだ。ナレーションっぽくまとめる。
「世界がパーティーを否定しても、屈さずにここまできました。三人の絆を引き裂こうと、様々な試練が襲いました。些細なすれ違いから、一時は別れる寸前まで追い込まれますけど、世界が定めた運命に抗い続けたんです。そして、集大成となる試合で優勝して脚光を浴びます。めっちゃ格好いいです!」
この部分だけを聞けば、本当に少年マンガのような展開だ。
実際は、それほど立派でも綺麗でもない。実にバカなことばかりやってきた。
しかし、バカでこそタゴサクたちだ。真面目になったりシリアスになったりするよりも、バカのままで笑い合い、遊びたい。
「優勝するためにも、金色にならなきゃな」
「それなんですけど、この際言っちゃいますね。わたしは金色になるつもりがないんです」
「マジ?」
「わたしは黒ですからね。黒天女、深淵、死宮と色んな二つ名を名乗ってきましたけど、結局のところわたしは黒です。黒のイアです。最後まで黒で通します。最高峰の金色にならなくても、黒のままでパーティー戦に優勝してみせますよ」
「あれこれ言ってるけど、格好いいのが好きってことでしょ?」
ソーニャの身も蓋もないまとめに、イアは全力で頷く。
「うん! シンプルイズベスト! 色々名乗ってきて、最後は黒のイアに落ち着くんだよ! めっちゃ格好いいし鼻血出そう!」
イアらしい理由だった。顔面崩壊レベルで興奮している。
ここまでゲームを楽しんでもらえれば、開発者たちも嬉しいだろう。
「じゃあ、私も言っておくわね。私も金色にはならないわ」
イアに便乗して、ソーニャも暴露した。
「ソーニャもかよ。夏休みに入ってから、金色になるために頑張ってきただろ。女神との戦闘を三周したりとか」
「結構悩んだけど、いつでも金色になれる状態にしておけばいいかなって。いざ金色になりたいと思っても、そこから女神のイベントをやり始めたら大変でしょ」
すぐに金色にならなくても、なれる状態にしておけば無駄にならない。
PvPで金色同士の試合があり、参加したいから急いでいるだけだ。強制参加ではないし、金色になれる条件を満たしておいて現状維持でも問題ない。
「金色になりたかったのは、トキヒメにバカにされたのが悔しいからなの。完全下位互換の評価を見返してやるって。でも、金色にならなくても戦えそうだし、橙色のままでいたいかな」
「この流れは、俺も鈍色のままになるのか?」
「お兄ちゃんは金色になればいいわよ。というかさ、気付いてないの?」
「何をだ?」
「私は橙色の奥義を育てるのよ。金色になっちゃうと使えなくなるでしょうが。金色になるなら、色に関係ない奥義を育てるべきかなって考えてたの。でも橙色の奥義の方がいいし、悩むなあって。育てる奥義を決めた時から、金色になる気はほとんどなかったわ」
「わたしも同じですよ。黒の奥義を育てるので、金色にはなりません」
「……全然考えてなかった」
今、ソーニャに言われるまで、タゴサクの頭になかった考えだ。
言われてみればその通りである。
黒の奥義は黒でしか使えない。橙色も鈍色も同様だ。
金色になれば、現在覚えている奥義の大半が使用不可能になってしまう。
スキルや魔法も大部分が入れ替えになるし、戦闘スタイルがガラリと変わる。
「お兄ちゃんは気付いてるから、【全テヲ滅スル光】を育てるのかと思ったけど」
「うっわ……俺ってバカだな。当たり前のことを忘れてた。【全テヲ滅スル光】は鈍色の奥義じゃないし、金色になっても使えるのか。偶然だが助かった。鈍色の奥義を育てるっつってたら、マジでただのバカだ」
結果オーライだが【全テヲ滅スル光】を育てると決めてよかった。
おかげで、安心して金色になれる。
「私もイアも金色にならないけど、女神のイベントは一緒にクリアするから。レアアイテムとかをもらえればラッキーだしね」
「サクさんは金色になってください。わたしたちのリーダーです。金色のサクさんを筆頭に、橙色のソーニャちゃんと黒色のわたしが合わさって……うへへへ、ぐへへへへへ、ぐうぇっへっへっへ」
ゴールデンウィークにも聞いた、気持ちの悪い笑い方三段活用だった。
少年マンガチックでイアの好みなわけだ。
三人とも金色になるよりは、個性が出ている方がいいと思う。
タゴサクは変わらずに金色を目指す。ソーニャとイアは今のままだ。
そうと決まれば、町で女神の情報を集めよう。




