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たった一つの輝くもの  作者: ともむらゆう
第4章 オーロステラ
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八十七話 天界

 女神のイベントをクリアするために【強化ゴブリン】を狙ったが、なかなか出現してくれずに苦労した。

 あまり楽しい作業ではない。


 RPGで一番楽しくないのは、単調な作業の繰り返しだ。

 アイテム狙いで、同じモンスターを延々と狩り続けるような作業はつまらない。

 レベリングや熟練度上げになるならまだしも、一蹴できる雑魚をアイテムのためだけに狩るのは面倒だ。


 それを苦に思わない人は、MMORPGに向いている。時間というリソースを限界まで割いて、地道にアイテム収集やレベリングができる人だ。

 タゴサクは、あまり根気強い性格はしていない。地道な作業は嫌いである。


 今回はアイテム狙いではないが、【強化ゴブリン】が出現するまで延々と粘るところは似たようなものだ。

 余計なモンスターを倒しているおかげで、アイテムがドロップすることだけは少し嬉しい。


「アイテムが随分集まったな。レアアイテムの【ゴブリンレイピア】も二本ある」

「【スマートゴブリン】のドロップだっけ? 私は【レディーゴブリン】のドロップアイテムがあるわよ」

「サクさんもソーニャちゃんも、あるだけマシじゃないですか。わたしは安物のアイテムしかないんですよ」


 狩りの成果を教え合う。

 なお、【強化ゴブリン】を三体救うミッションは、三人ともコンプリートした。

 用は済んだので、町に帰ればいい。

 徒歩で帰る必要があるならのんびりできないが、アイテムを使えば一瞬だ。

 いつでも帰れるとなると、焦らなくてもいいと思える。


「なあ、この辺を探索してみないか?」


 タゴサクはそう提案した。

 町からかなり離れているし、プレイヤーを避けたので普通では足を踏み入れない場所にきている。

 周辺に何かあるかもしれない。探してみるのも面白そうだ。


「モンスターを狩り続けるのがあんまり面白くなかったし、ちょっと冒険してみたいんだ。未知なるジャングルの奥を冒険するとか、男心をくすぐる」

「わたしは女ですけど、分かります。サクさんに賛成です」

「私もいいけど、あんまり長くはやらないわよ」


 二人の同意を得られたし、ジャングルの探索を行う。

 提案したタゴサク自身、何か特別なことが起きるとは考えていない。

 効率のいい狩り場があったとしても、所詮はレアステラだ。コローレステラまで行っているタゴサクたちにとってはレベリングにならない。

 金色のレアモンスターがいたとしても同様で、たいした収穫ではない。


 何かを求めているのではなく、未知なるジャングルを冒険するという行為そのものが楽しみだ。

 三人でジャングルを進む。


「こういうの、いいですよね。無人島を手探りで探検するゲームとか、わたし大好きです。中学生の頃はよく遊んでました。なんでもない雑草や石ころを手に入れるだけでも、不思議と楽しいんです」

「もう遊んでないのか?」

「今はSOSだけですね。サクさんはどんなゲームをしてました?」

「俺は、ゲームはあまりしなかったな。小中学生の頃はバスケに夢中になってた」

「バスケ部時代のサクさん……」

「似合わないってか?」

「そうじゃなくて……逆だから困るんですよねえ」

「お兄ちゃん、お兄ちゃん」


 タゴサクとイアが会話していると、ソーニャが入ってきた。


「イアに、お兄ちゃんの試合を見せたのよ。全国の試合で、お兄ちゃんが大活躍したやつね。撮影して残してあるでしょ」

「わたしが知るサクさんじゃありませんでした。めっちゃ格好よかったんです。あんなの、後輩の女子にモテるに決まってますよ。サクさんを格好いいと感じるなんて屈辱です」

「私のファインプレーでしょ。お兄ちゃんは感謝してね」

「サンキュー」


 ソーニャがバスケの試合をイアに見せたおかげで、格好いいと言ってもらえた。

 確かにファインプレーだし感謝を捧げる。


「今度、ミディーリにも見せてみる? お兄ちゃんを好きになって、そのまま付き合えるかもよ?」

「ミ、ミドリちゃんが?」

「ミディーリは、最初からお兄ちゃんの外見が好みだって言ってたでしょ。試合でミディーリを辱めたし、性格が好みじゃないから付き合わないだけよ。格好いい姿を見せれば評価も変わる可能性があるわ。女性を辱める鬼畜でも、許していいと思えるほど格好よければね」

「ソーニャ、あんまりやり過ぎるな。俺の試合を見せてくれたのは感謝するが、今のはやり過ぎだ」


 ソーニャの気持ちは理解する。

 いつまでたってもくっつかない二人がじれったくて、イアに発破をかけようとしているのだ。

 態度を保留にしていたら、他の女性に取られてしまう。くっついてしまう。

 そうやって不安をあおろうとしている。


 タゴサクとイアためを思ってやってくれているとしても、こちらはこちらのペースで気持ちを伝えていく。

 第一、妹に全てお膳立てをしてもらって恋人を作るのは、兄としても男としても情けない。タゴサクがスッキリしないので嫌だ。


 少々変な会話になりながらも、三人でジャングルの探索を続けた。

 これといったものは何もない。レアモンスターもいないしダンジョンもないし、収穫はゼロだ。

 そろそろ町に戻ってもいい。

 タゴサクが言い出そうとして、異変に気付く。


「あれ? ソーニャ? イア?」


 二人の姿が消えている。周囲を見渡してもいないし、声をかけても反応がない。

 はぐれたのかと考えるが、つい先ほどまでは傍にいて会話をしていた。短時間ではぐれるとは思えない。

 道を引き返すと、二人が急に現れた。


「どこに行ってたんだ?」

「それは私たちのセリフよ。お兄ちゃんはどこに消えてたの? 急に姿が見えなくなったし、アイテムで町に戻ったのかと思ったわよ。メッセージを送ろうとしてたんだから」

「どこって、普通に歩いてただけだぞ」

「私たちも普通に歩いてたわよ」

「普通に歩いてました」


 三人の会話が噛み合わない。

 一緒に歩いていて、タゴサク一人がはぐれてしまった。

 ジャングルの中は見通しが悪く、同じような景色が続くので迷いやすいが、三人でまとまっていれば大丈夫だ。事実、ずっとはぐれずに移動できている。


「実験してみよう。二人とも、動かないでくれよ」


 ソーニャとイアの姿を視界に収めつつ、タゴサクは後ずさりしていく。

 ある地点で、二人の姿が急に消えた。見えなくなるほど離れていないのに、いきなりだ。

 少し前進すれば姿が見えるようになる。


「今の俺は、二人からどう見えた? 俺からしたら、二人が急に消えたんだが」

「私もお兄ちゃんが消えたように見えたわね」

「わたしもです。見えなくなる距離じゃないのに、急に消えました」

「あの場所になんかあるのか?」


 次はソーニャとイアにもやってもらうが、こちらは姿が消えなかった。

 どうやらタゴサクだけのようだ。見た目ではこれまで通りのジャングルが続いているが、タゴサク一人が奇妙な場所に入り込める。


「俺だけか。俺たちの違いってなんだ?」

「違いだらけだし分からないわよ。色、ジョブ、装備、性別、その他諸々。なんでも考えられるわ」

「何かしらの条件があるのは間違いないですよね」

「お兄ちゃんが行ってみてくれない? 条件が分かれば教えて。私たちは、一足先にジャパンステラに戻ってるから」

「了解だ」

「サクさん一人とか心配です。美人さんにくっついて行ったらダメですよ。危ないと思ったらアイテムで引き返してください」


 イアは過剰に心配していたが、一旦二人と別れて単独行動をする。

 何があるのか気になるし行ってみたい。

 レアステラのイベントなら、タゴサク一人でも対処可能だ。戦闘やダンジョン攻略になったとしても問題ない。

 おいしい展開があり、この場所に入り込める条件も判明すれば、二人に伝える。


 単身ジャングルを進んでいると、景色が一変した。

 花畑が広がっていたのだ。色とりどりの花々が咲き乱れる美しい場所である。

 そして、子供が何人もいた。全員が幼稚園児くらいの年齢だ。

 ロリコン、ショタコンなら歓喜すること間違いなしだ。


「ようこそ、心清き者よ」


 一人の少年がタゴサクに声をかけてきた。彼もまた、幼稚園児くらいで幼い。

 それはいいが、心清き者だ。タゴサクにはふさわしくない評価である。


「ここはどこで、あなたたちは誰なんです? なんで俺が心清き者?」

「ここは【天界】です。我々天使が住まう楽園ですね」

「【天界】に天使」

「人間界には、【天界】へと続く特殊な場所がいくつか存在します。あなたは偶然にも足を踏み入れたのです」


 レアステラのジャングルだけではなく、他の場所からも移動できるようだ。

 最下級のコモンステラは微妙だが、上の星であるジャパンステラやコローレステラにも【天界】へと続く場所が存在するのだろう。


「【天界】を訪れることができるのは、心清き者だけです。人同士で争い、殺している者では不可能です」

「人を殺す……ああ! PK数か!」

「人間界ではそう呼ばれているようですね」


 PK自体はタゴサクもやっているし、ゼロではない。

 が、回数は極めて少ない。片手で数えられるほどだ。

 逆に、PKされた回数は、PKした回数の何十倍にもなる。

 PKした回数とされた回数が、【天界】を訪れられる判定に使われていた。

 ソーニャとイアは、タゴサクよりもPKしている。だから【天界】には入れなかった。


「PKした回数が少なければいいんですか? 具体的な数字は?」


 二人に伝えるためにも、具体的な条件を知りたかった。


「人間界の言葉で申しますと、PKした回数がPKされた回数の五分の一以下になりますね」

「五分の一ですか」


 かなり厳しい条件になっている。単純にPKした回数が少ないなら、条件を満たすプレイヤーも多そうだが、五分の一以下では滅多にいない。

 PK数がゼロではないだけ温情措置とも言える。

 以前にソーニャたちと話したが、PK数がゼロから一になれば、二度とゼロには戻らない。取り返しのつかない数値を基準にした展開はないと。


「ひょっとして、【魔界】みたいな場所もあります? PKした回数の多いプレイヤーが行ける場所です」

「存在しますね。心穢れし者が訪れることのできる場所です。条件は【天界】の正反対になります」


 PK数が少ないプレイヤーだけが得をする展開もあり得ないと考えたが、案の定であった。【天界】と【魔界】が存在し、PK数が多いプレイヤーは【魔界】に行ける。

 これならばプレイヤーから苦情も出まい。ジャンジャンPKして【魔界】に行けばいいだけだ。

 PK数を稼ぐのは、コモンステラで初心者プレイヤーを狙えば難しくない。


「条件は把握しました。それで、俺は【天界】にきたわけですが、一体何があるんです?」

「我々天使は、心清き者を好みます。心清き者には、天使の秘宝を授けましょう」

「アイテムがもらえるんですか? モンスターを倒したりクエストをクリアしたりした時の報酬じゃなく、タダで?」

「はい、そうです」


 アイテムをもらえるとはラッキーだ。

 物欲満載の人間が果たして「心清き者」なのかという疑問は浮かぶが、もらえる物はありがたくもらっておこう。


「天使の秘宝はいくつかあります。全てを授けることはできません。一つだけお選びください」


 少年が言うと、タゴサクの目の前に複数のアイテムが出現した。

 一つ一つ確認していく。天使の秘宝と呼ぶだけあり、有用なアイテムばかりだ。

 ぶっちゃけるなら全部欲しい。

 悩みに悩み抜き、三つにまで絞り込んだ。


 一つ目は【天剣ミルザスト】。天使の力が込められた強力な武器だ。

 二つ目はスキルを覚えられるアイテム。【光帝太輝(サンオブサン)】というスキルだ。

 三つ目は魔法を覚えられるアイテム。【アルカディア】という魔法だ。


 武器も捨てがたいが、スキルや魔法にも惹かれる。

 説明文を読めば、どちらも相当強い。覚えればPvPでも役に立ってくれる。

 二つもらえるなら、スキルと魔法にしてもいい。両者の熟練度を最大にすれば、きっと奥義にもなってくれるはずだ。


「凄く図々しいことを聞きますが、二つもらえる方法はないんですよね?」

「ありません。一人につき一つだけです。次に【天界】を訪れたとしても、秘宝を授けることはできません」

「ついでにもう一つ質問しますが、【光帝太輝】と【アルカディア】で奥義になったりします?」

「なりません」

「あ、ならないんですか」


 一人一つであり、スキルと魔法を同時に習得できないので、奥義にもならない。

 割と真っ当な仕様だった。

 二つ入手する方法もなくはない。他のプレイヤーから譲ってもらえばいいのだ。


 スキルや魔法を覚えられるアイテムは、入手後すぐに使うのが普通だ。

 タゴサクは昔、すぐに使わなかったせいで、ミディーリとの戦闘で負けて失った経験がある。あれはもったいなかった。

 以来、同じ轍を踏まないよう、すぐに使うようにしている。


 つまり、PKしてアイテムを奪うのは現実的ではない。使用済みであれば奪えないからだ。

 二つ入手したければ譲ってもらうしかない。

 ソロ前提のSOSではこちらも現実的ではなく、ゆえにスキルと魔法で奥義にもならない仕様だ。

 奥義にならないなら剣にしようかと思ったが、少年から補足が入る。


「【魔界】で入手できる秘宝と合わせれば、人間の言う奥義にもなります」

「マジですか!? それって、今からPKしまくって【魔界】に行けって意味ですよね? ありなんですか?」

「推奨はしません。心清き者と見定めたからこそ秘宝を授けるのです。心穢れし者になってもらっては困りますが、なるかならないかはあなたの自由です。心穢れし者になったとすれば、それは我々の見る目がなかっただけの話。秘宝を返すよう要求したりはしません」


 プレイヤーの良心にゆだねると言っている。

 天使の信頼を裏切ってもいいなら、PKしまくって【魔界】に行き、スキルか魔法をもらえばいい。【天界】のスキルと【魔界】の魔法、あるいは【天界】の魔法と【魔界】のスキルで奥義にできるのだから。


 さすがにそこまでやる気はない。

 今から何百人ものプレイヤーをPKできるとも思えない。

 だったら、やはり剣にしておくべきか。


「……サ、【光帝太輝】をください」

「承知しました」


 少年は何も言わなかったが、誘惑に負けたタゴサクは自己嫌悪だ。

 何かしらの方法で奥義にできないかと思ってしまった。


 アイテムを使わずに持っているプレイヤーと遭遇し、PKして奪える。

 誰かから譲ってもらえる。

 少年が教えてくれない抜け道のような方法で入手できる。


 可能性は低くとも、ゼロではないせいで諦め切れなかった。

 優柔不断な人間なのだ。

 とにもかくにも、強力なスキルを覚えられるアイテムを入手できた。幸運なことだし素直に喜ぼう。

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