八十五話 タコとイカと女神様
ダンジョンに女神ニフナジュレタのイベントが隠されている。
よって、三人がかりで探し回った。【沈没船】の中を徹底的に探しまくった。
くまなく探し、マップも全て埋め、ついでに宝箱も回収した。
さほど広いダンジョンではないが、しっかり調べようとすると時間もかかる。一日では終わらず二日がかりの作業になった。
必死に探した甲斐があり、なんとか発見できたのだが。
「性格が歪んでるわ。このゲームの開発者は、絶対に性格が歪んでるわ。トキヒメみたいな連中が大勢いるのよ」
不満たらたらになっているのはソーニャだ。本人は意識していないだろうが、開発者がトキヒメみたいとのセリフは核心に迫っている。
「こんな場所に隠し部屋を用意しなくてもいいよね」
イアも不満を漏らした。
タゴサクも二人に同意したい。かなり意地悪な仕掛けだった。
隠し部屋があったのは、ボス部屋の直前だ。
普通、ここまでくれば、ボスと戦うことを考える。罠の位置も、ついうっかり踏んでしまわないようになっているし見つけにくい。
「予測しておくべきだったかもしれんが、難しいよな」
空中ダンジョン【ソラ】は、罠の宝箱の下に仕掛けがあった。
気付きにくい仕掛けだし、今回も分かりやすくなっていないのは当然だ。
三人そろって不満を口にしつつ、隠し通路と、その先の隠し部屋に向かう。
隠し部屋にあったのは、奇妙な機械だ。ボタンを押せば、女神のホログラムが出現した。
女神のメッセージを聞いて、キーワードを入力できるようになる。
空中ダンジョン【ソラ】と同じ展開だ。キーワードも同じだし、戦闘があると思われる。
「キーワードを入力すれば、多分女神との戦闘になるぞ。準備はいいか?」
「大丈夫よ。アイテムも使ったし、一時間は呼吸できるわ」
「わたしも大丈夫です」
「あと、念のために確認だ。女神は三周するのでいいよな? どうせ三周して全員が倒すんだし、今回は誰がとどめを刺してもオッケーってことで」
女神と戦闘になった場合は、三周する予定だ。
自分で倒さなければ、女神イベントをクリアした扱いにならないため、最低でも三周する必要がある。
タゴサクは、【星樹トチノキ】で女神に会い、暫定クリアと言われた経験があるので知っている。
ソーニャたちには言えない。
タゴサクがオーロステラに行ったことも、トキヒメとの関係も内緒だ。
SOSはソロ前提なので、とどめを刺したプレイヤーのみがクリア扱いになるのではないかと推測の形で述べておいた。
二人はあり得そうな展開だと納得してくれ、三周することになった。
「お兄ちゃんが言ってくれなかったら、一回倒して終わりにしてたわね」
「ちょっとだけ見直しました。ちょっとだけ頼りになります」
褒められると、まるでカンニングをしている気分になって心苦しい。
さておき、メッセージを入力する。「愛してる」と。
すると、次の展開は当然。
「哀れな虫けらども」
女神が出現して、懐かしのセリフが飛び出した。
女神との戦闘になる。
「おいでなすったぞ!」
女神の戦い方は以前と同じで、十本の指が武器に変化し襲ってくる。
ただし、厄介さでは空中ダンジョンよりも上だ。女神の実力自体は大きく変わらないが、海中で戦う点が厄介にしている。
こちらは水の影響を受け、動きにくい。スキルや魔法の威力も、ものによっては減衰する。
女神は一切影響を受けていないらしく、地上と変わらない。
これだけでも厳しいのに、女神以外にも二体のボスがいる。
巨大なイカとタコのモンスターだ。
「イカはわたしが引き受けます! イアとイカの戦いです!」
「寒っ! くだらないダジャレはいいけど、タコは私ね! 女神はお兄ちゃんにあげるから倒しちゃって!」
「サンキュー!」
ちょうど三対三なので、役割分担を決めて戦うことにした。
タゴサクの相手は女神だ。強敵だが、今のレベルなら互角以上に戦える。
「【全力】! 【バースト】!」
武器に変化している女神の指を弾きつつ接近し、奥義を食らわせる。
「【全テヲ滅スル光】!」
ボス相手に使うには、【全テヲ滅スル光】では少々物足りない。
不足分は他のスキルで補う。鈍色の星で覚えたスキルだ。
「【壁鈍曇】!」
ネーミングセンスはいつものSOSだが、攻防一体のスキルになる。
女神の目を鈍色の雲が覆い、視界を塞ぐ。
目が見えなくなればタゴサクへの攻撃も外れてくれるし、こちらの攻撃も当たりやすくなる。
そこで、女神に剣を突き刺し、壁際まで押し込んでからドン!
カベドンの完成だ。【壁鈍曇】でダメージを与え、続けてあるスキルを放てば効果は倍増する。
「【脳髄祭】!」
敵に剣を突き刺した状態でのみ使用可能なスキル、【脳髄祭】だ。熟練度が最大になっているのでずっと外していたが、久しぶりに出番がきた。
本来の【脳髄祭】は、プレイヤーが自力で剣を突き刺さなければ使えない。
この条件が意外と面倒で使い勝手が悪いが、【壁鈍曇】を先に使っておけば剣を突き刺す事前動作が不要になる。
視界を塞いで剣を突き刺し、カベドンまでが【壁鈍曇】の効果だからだ。剣を突き刺す動作にシステムのアシストを得られるので、【脳髄祭】を単体で使うよりもやりやすい。
「【女神の息吹】」
女神がスキルを使用した。強風で敵を吹き飛ばす効果がある。
海中でも強風が発生するのは卑怯だが、女神に剣を突き刺してカベドン状態のタゴサクは吹き飛ばされずに済む。
女神がこのスキルを使うのは、HPが減り行動パターンが変化する前兆だ。美しい顔が般若へと変貌し、攻撃が苛烈になる。
そうなってしまうと非常に面倒だ。タゴサク一人では処理し切れない。
女神が強化される前にHPを削り切ればいい。
プレイヤーを強風で吹き飛ばし、攻撃を封じておいてから般若になるので、吹き飛ばされなかった今なら一気に押し切れる。
「【全力】! 【バースト】! 【流星帝】!」
カベドン状態に持ちこんだまま、スキルや魔法を連発する。
「【邪王剣】!」
単体では、タゴサク最強の一撃となるスキルだ。下手をすれば奥義の【全テヲ滅スル光】よりも上かもしれない。
鈍色の強力なスキル、邪悪なる王の一撃だ。
邪王となると、色的には黒の気もするし、どこが鈍色なのかと疑問を抱く。
タゴサクは勝手に考えており、絶対悪は存在しないと言いたいのではないかと。
絶対的な善、絶対的な悪。
世の中の構図はそこまで単純ではなく、見方によって善にも悪にもなる。
ゆえに、【邪王剣】は鈍色だ。おそらく。
まあ、この考えが正しいか間違っているかはどうかはどうでもよく、強力なスキルである点が重要だ。
女神にも効果抜群で大ダメージを与えた。
女神は般若に変貌しているが、HPはほとんど残っていないはずだ。
「【神罰】!」
「【全テヲ滅スル光】!」
女神の神罰の光に対し、タゴサクは終末の光だ。
両者は互角であり相殺される。【神罰】を使われる前に決めたかったが、わずかに遅かった。
ならば、この魔法だ。
「【フルバースト】!」
MPを全てつぎ込み、魔法を放った。
MPが枯渇すると、魔法が使えなくなるのはもちろん、SPとMPを消費する奥義も使えなくなる。
敵を倒せる見込みもないのに使ってしまうと、スキルのみで戦う羽目になる。
それでは強敵に勝てないし、敗北が確定するようなものだ。
使いどころの難しい魔法だが、今回は女神が瀕死だったので使用に踏み切った。
どうにかうまくいってくれた。【フルバースト】で女神を倒したのだ。
空中ダンジョンでは三人がかりで戦い、タゴサクが犠牲になってギリギリ勝利した相手を、今回は単身で倒した。
強くなっている証拠だ。
ソーニャはタコを、イアはイカを倒しており、三人とも勝利した。
勝利したにしては、イアが不服そうな顔をしている。
「わたし、文句言っていいですか?」
「なんかあったのか?」
「わたしが戦ったイカのモンスターは、【キングイカ】って名前なんですよ」
「【キングイカ】……大王イカ? 変な名前だから文句があるって?」
「名前はいいんです。どうせSOSですからね。サクさん並のネーミングセンスなのは問題ありません」
余計な一言はあったが、では何が問題というと。
「問題なのはセクハラですよ。多分ですけど、キングだからオスだって設定だと思うんですよね。オスだからセクハラをしてきまして、十本の足を触手みたいにうねうねって感じで……」
「そりゃ酷いな。ソーニャは無事だったのか?」
イカの足が触手になるなら、タコの足も同様ではないかと考えた。
「タコのモンスターは【クイーンタコ】よ。クイーンだから多分メスになるし、女同士じゃセクハラはしないってことだと思うわ。同性同士で戦うと弱くて楽勝なのよ。私はさっさと【クイーンタコ】を倒して、途中からイアに手を貸したしね」
「なんつうゲームだ」
イカやタコに性別があるのはいい。現実でも確かあったはずだ。
オスが女性プレイヤーにセクハラをかますとは酷い設定だ。
「もしかして、俺が【クイーンタコ】と戦えばセクハラされる?」
「試しちゃダメですよ! モンスターでも、サクさんにセクハラをするのは許せません! やっていいのはわたしだけです! ソーニャちゃんなら妹なのでまだいいですけど!」
「やらないわよ。何が悲しくてお兄ちゃんにセクハラするの」
好きな子が変な独占欲を発揮してくれて、少し嬉しくなるタゴサクだった。
タコのモンスターにセクハラされたいとも思わないし、次からはタゴサクが【キングイカ】と戦い、ソーニャやイアに【クイーンタコ】と戦ってもらう。
とりあえず、女神を倒したので一旦ダンジョンから脱出だ。
ボスを倒せば、脱出用の転移装置を使えるため、脱出は一瞬でできる。
アイテムのドロップはなかったが、イベントクリアにはなっているはずだ。
小休止を挟み、再び女神に挑む。ボス部屋の近くまで行かなければならないので面倒だが、仕方ない。
プレイヤーがボス部屋を占拠し、何度も繰り返し戦う真似はできない仕様だ。
ボスと戦いたくて待っているプレイヤーがいるかもしれない。その人を無視して独占し、延々と戦い続けるのはよくない。
独占させないために、システム的にできないようになっている。
待っているプレイヤーならすぐに戦えるが、勝利したプレイヤーは一度ダンジョンから出なければボスがリポップしない。
「他人を蹴落とすゲームのくせに、ちゃんと気遣ってるのよね。助かるような、往復が面倒なような」
往復が面倒だと言うソーニャには賛成したいが、独占できない仕様はトラブルを避けるために必要だと思う。
「システム的にはパーティーを組めなくても、協力プレイはできる。他人にアイテムを譲渡するのも一応できる。開発者たちだって、できれば楽しく遊んでもらいたいんだろ。レベルによって星を移動させてるのもそうだ」
「星の移動が関係するの?」
「高レベルプレイヤーと低レベルプレイヤーが遭遇しにくい。クエストなんかで下の星に用事ができるケースもあるが、大抵は適正レベルの星で行動するからな。俺たちも、コモンステラやレアステラにはほとんど行かないだろ」
初心者プレイヤーがフィールドを歩いていたら、レベル400や500のプレイヤーに遭遇してPKされました。
これは、初期のフィールドで魔王にエンカウントするようなものだ。
PKされる初心者プレイヤーは面白くないし、胸糞悪くなる。嫌気が差してゲームをやめるかもしれない。
だから、PKしにくいように、あえて行動場所を別にしてある。
ソロ前提、PK前提でも、配慮はしてあるということだ。
PK前提だからこそ、必要不可欠な配慮になるのかもしれない。
「行かないと行けないは違うでしょ。私たちも他の高レベルプレイヤーも、コモンステラには行けるわよね?」
「もちろん行けるが、わざわざ足を運ばないとダメだろ。人は、他人から悪く見られるのを忌避する傾向にあるから、『遥か格下の初心者相手に無双して力をひけらかしたいです』とは言わない。『PKするのに仕方ない理由があったんです』って言って、自分を正当化したがる。俺自身、キモい奥義を使う理由を欲してたし、よく分かるよ」
「私たちが、襲ってきたプレイヤーにやり返すのと同じなのね。相手が襲ってきたんだし仕方ないって。行動場所を別にすれば、仕方ないって理由が使いにくくなるわけね」
「そうだな。わざわざ行ってるんだし、仕方なくない。それでもPKする奴はするが、数は減ると思う。多分な」
「なるほどねえ」
この辺の事情は、トキヒメから教えてもらった。
ここまで考えるトキヒメがおっかないと感じたものだ。
雑談をしつつ女神に挑み、ソーニャ、イアの順で勝利した。
三人とも女神のイベントクリアだ。
余談だが、【キングイカ】と【クイーンタコ】の出現はランダムだと判明した。
ソロプレイヤーなら、ボスの数が多いと苦戦する。何度か挑戦すれば、女神だけの状態を狙える仕様だ。
タゴサクたちは、二度目に女神と戦った時は【キングイカ】も【クイーンタコ】も出現せずに女神だけだった。
三度目は両者が二体ずつ出現するという事態に遭遇した。
おまけに合計四体の【キングイカ】と【クイーンタコ】が合体し、【キングイーンイカタコ】とバカ丸出しの名前になったから、さすがSOSだ。
こいつはソーニャがとどめを刺し、レアアイテムをドロップした。
女神のイベントクリアにレアアイテム入手と、まずまずの収穫だ。
「新しい杖は嬉しいけど、なんで触手みたいになってるのよ! こんなの使えるわけないでしょ!」
レアアイテムである杖のデザインにソーニャはご不満のようだが、ドロップしないよりはマシだろう。人目のない場所で使えばいい。




