八十三話 詐欺師の手口
タゴサクは、森の中で五体のモンスターと戦闘中だ。
一人で五体を相手にするのは大変で、少々ミスはあったが立て直せた。
一体ずつ確実に仕留めていく。
残りが青だけになったところで異変が発生する。
モンスターが続々と集結してきたのだ。
この森はモンスターが集まりやすい場所なのかもしれない。
戦っていた五体のモンスターは、最後の一体になった時にモンスターを呼び寄せる性質を持つのかもしれない。
あるいは。
「あの人……」
後ろを振り向けば、一人のプレイヤーが全速力で逃げて行く姿が見えた。
先ほど町で出会ったクレアトゥールという女性プレイヤーだ。
こっそりとタゴサクについてきており、【暗乱夢】を使ったのだろうか。
モンスターが集まってくるタイミングからして、そう考えるのが自然だ。
コモンステラの【底都テイヘーン】で売っているスキルなので、誰でも買える。
色やジョブに関係なく使用できるし、覚えているプレイヤーも多いだろう。クレアトゥールが使ってもなんらおかしくない。
「モンスターPK? なんでだ?」
モンスターを呼び寄せる目的など他に考えられない。
クレアトゥールがこの場に残っていれば、レベリング目的とも考えられる。
逃げ出したのだから、ほぼ確実にタゴサクをPKする目的で使用した。
モンスターの特性として、出現場所が決まっている。森に入れば森のモンスターが出現するし、森の外までは追ってこない。
ダンジョンの入口でモンスターPKをされた時と同じだ。自分は安全地帯に逃げられ、相手だけをPKできる。
タゴサクはモンスターに囲まれて逃げられなくなった。
ソロでは、通常の方法で全滅させるのは不可能だ。
一か八かで奥義を使う。
「【災厄ニ耐エ希望ヲ待テ】!」
以前にモンスターPKをされた時、タゴサクたちを救ってくれたランダム効果の奥義だ。
今日は何が起きるか。
災厄が降り注ぎ、タゴサクのHPが残り1になった。
災厄は一つで終わりだ。災厄が一回なので、希望も一回になる。
「【全テヲ滅スル光】!」
タゴサクが放った奥義はいつもの【全テヲ滅スル光】だが、威力が桁違いになっている。
希望は、次に放つ攻撃の威力を十倍にする効果だった。
最強(笑)とは言わせないだけの破壊力を誇るが、モンスターを全滅させるには至らない。
災厄のせいでHPが1になっているタゴサクは、あえなく殺されてしまった。
町に死に戻りする。
「今回はダメだったか。まあ、いつもいつもギャンブルがうまくいくわけないな」
毎回成功していてはギャンブルにならない。非常に強力だし、誰もが覚えようとするに決まっている。
ギャンブルは、幸運に恵まれてたまに勝つことはあっても、トータルでは負けるのだ。パチンコなどがいい例である。
パチンコはいいとして、被害状況を確認する。
アイテムは失ったが、たいした物ではないので問題ない。
問題なのは、クエストが失敗になっている点だ。
推測になるが、クエストで倒すべきモンスターを倒す前に死んだせいだろう。
クエスト失敗によるペナルティはない。どうせ罠のクエストなら報酬もないし、失敗しても許容範囲内と考えよう。
「……罠のクエスト?」
ふと思った。
罠のクエストだと言っていたのは、タゴサクをモンスターPKしたクレアトゥールだ。タゴサクが自分で確認したのではない。
「罠じゃない?」
罠どころか、おいしいクエストだとは考えられないか。
クレアトゥールは、クエストを横取りしたかったのではなかろうか。
だから罠のクエストだと嘘をつき、キャンセルするように勧めた。
モンスターPKをしたのも、クエストを成功させられては困るからだ。
クエストには色々なパターンがある。
受けられる人数が限定されていたり、誰かが成功させたら次に受けられるまでには時間が必要だったりと。
一度きりのクエストは存在しないし、受けられるようになるまで待てばいいだけだが、時間がもったいない。次も誰かに先を越されるかもしれない。
クエストをキャンセルさせるか失敗させるかする方が確実だ。
もちろん、証拠は何もない。
そもそも、モンスターPKをしようとしたのではない可能性もある。何かしらの理由があって【暗乱夢】を使い、不運にもタゴサクが巻き込まれたのだ。
モンスターPKを狙ったのだとしても、親切心からの忠告を無視したタゴサクに怒り、殺そうとしたとも考えられる。
考えられる可能性はいくらでもあるし、考えても答えは出ない。
「昔、ナンパが言ってたな」
コモンステラで出会った時、上の星はマジで殺伐だと言っていた。ナンパどころではないからコモンステラまで降りてきたと。
今回の件は、不幸な偶然が重なっただけならいい。
タゴサクを蹴落とそうとしたのであれば、SOSらしい殺伐さだ。
嘆いていても仕方ない。失敗したなら失敗したで、気を取り直して別のクエストをやる。
今度はPKされないことを祈るのみだ。
コローレステラ・グリージョで一日遊んだタゴサクは、ジャパンステラの【皇星ジャパン】に移動した。
コローレステラの町は目に優しくないため、ジャパンステラでソーニャやイアと合流する。
宿に入るが、イアはまだきておらず、タゴサクとソーニャの二人だけだ。
「お疲れ、ソーニャ。一人で大丈夫だったか?」
「なんとかね。私を知っている人は結構いるみたいで、コソコソ言われたけど。指差して『完全下位互換』とか言われたのにはムカついたわ」
「トラブルとかは?」
「特になし。コソコソしてるだけで、話しかけられたりはしなかったわよ。普通にクエスト受けて、普通にモンスターと戦ってたわ。お兄ちゃんは?」
「ちょいとトラブルはあったが、概ね平和だったな。鈍色のスキルも覚えた」
クレアトゥールにモンスターPKをされて以降は、特に何もなかった。別のクエストを受けてクリアし、報酬としてスキルも覚えた。
鈍色の星に行った甲斐はあったと言える。
「ちょいとトラブルって何があったの? PKされたとか?」
「【暗乱夢】でモンスターPKされた……と思う」
「なんで曖昧な言い方なのよ。PKされかけたけど切り抜けたとか?」
「いや、死んだぞ。クエスト中だったが、死んだせいで失敗した。曖昧な言い方になったのは、モンスターPKをしようとしたって証拠がないからだ」
一部始終をソーニャに説明する。
コローレステラ・グリージョでクレアトゥールに出会い、モンスターPKされるまでの出来事を話せば、ソーニャは憤慨していた。
「証拠も何も、そんなのモンスターPKしようとしたに決まってるじゃない。クエストを横取りしたかったのよ」
「断言するのは乱暴だろ。不幸な偶然が重なったのかもしれないぞ」
「あのねえ……まあ、童貞のお兄ちゃんだし、美人に騙されても仕方ないけどさ」
「ど、童貞ちゃうわい!」
「童貞じゃないの? いつの間に童貞卒業したの? 童貞を捧げた相手は誰?」
「女の子が童貞を連呼するんじゃありません」
「答えられないってことは、やっぱり童貞なんじゃない。三十歳とかのいい歳したおっさんが童貞だとキモいけど、高校生なら気にしなくていいでしょ」
ソーニャは多くの男性を敵に回す発言をしたが、童貞の話は横に置く。
「クレアトゥールって女の手口、完全に詐欺師そのものでしょ。女が男を騙す時に使う手よ。気付きなさいよね」
「どの辺が詐欺師なんだ?」
「親切を装って声かけて、油断させたところで褒めた部分がよ。『あなただけ特別なんですよ』みたいなセリフを言われたんでしょ?」
男性からパーティーに誘われることは多いが、自分から誘うのは初めてだと言っていた。誰にでも声をかけるわけではないし、タゴサクを気に入った、素敵だと。
クレアという愛称で呼んで欲しいとも言われた。
明らかに、タゴサクに気を許している雰囲気だった。
「よく聞くでしょ。『アンケートにご協力お願いします』とか言われて、そのまま騙されて高価な代物を買わされるって話。まさにそれよ。お兄ちゃんを信用させておいて、クエストを横取りしようとしたの。パーティーを組むって言ったのも、隙を見てPKしてアイテムとか奪うつもりだったのかもね」
「考え過ぎじゃないか?」
「それだけなら考え過ぎかもしれないけど、続きを聞けば真っ黒よ。お兄ちゃんがクエストをキャンセルしないし、パーティーも組んでくれないせいで、予定が狂っちゃった。だから態度を急変させて、悪しざまに貶したの」
確かに、素敵だと褒められた次は貶された。
厨二病患者であり、モテないブ男が強がっている、だったか。
なかなか失礼な発言だ。
「格好つけの厨二病患者だって言って、プライドを刺激したの。『美人にもなびかない俺、かっけえ』、『美人でも容赦なくフる俺、男らしい』なんて言われたら、男としてはカチンとくるでしょ? 自分はそんな男じゃないって主張したくなるでしょ? そんな男じゃないから、そこまで言うならパーティー組もうって言い出すのを狙ったの」
「へえ、凄いな」
「感心してどうするの!」
「ソーニャに感心したんだよ。女なのに、男の気持ちをよく理解してるなって。プライドを刺激されてカチンとくるのは、まさしくだ」
女性でありながら、男性の気持ちをピタリと言い当てたのは見事だ。
タゴサクは女心など碌に理解できない。ソーニャはよく男心を理解できると感心する。
「騙されてモンスターPKされたくせに、何を呑気な」
「SOSってゲームはそんなもんだ。いちいち怒ってたら身がもたないぞ」
ソーニャの言う通り、騙されたのだとしよう。
だとしても、悔しいよりもうまい手口を考えたと感じる気持ちの方が強い。
現実で大金を騙し取られたとなれば呑気なことは言えないが、所詮はゲームだ。
ユメも言っていたように、信じると決めた側にも責任はあるし、クレアトゥールに仕返ししてやろうという思いはない。
タゴサクとソーニャが話をしていれば、イアも遅れて到着した。
ソーニャはイアにも事情を説明し、女子二人で能天気なタゴサクに物申す。
「サクさんは頼りないですね。一人になると必ずトラブルに巻き込まれます」
「本当よ。お兄ちゃんは、もっとしっかりして」
「必ずじゃないだろ。ジャパンステラの皇女殿下のクエストは、特にトラブルには巻き込まれなかった。普通にクリアしたぞ」
変態三十路ショタコンのNPCはいたが、トラブルというほどではない。
トラブルに巻き込まれてばかりと言われるのは心外だ。
「そういう問題じゃないんですよ。サクさんを一人にするのは心配です。ご主人様として、わたしが猫ちゃんの面倒を見てあげます」
「恋人って言わないのが、イアの素直じゃないところね。いい加減にくっつけばいいのに。お兄ちゃんが、トキヒメやクレアトゥールみたいな性悪女に取られてもいいの? お兄ちゃんの童貞も奪われるわよ」
「どどど童貞ちゃうわい!」
兄妹二人きりの時ならまだしも、イアの前でまで童貞発言をされては敵わない。
タゴサクは慌てたが、それ以上に慌てているのはイアだ。
「サクさんがど……とか考えてないもん! 妄想してないもん!」
「こりゃ妄想してたわね」
「俺の好きな子が耳年増に……」
最近のお馴染みとなった、タゴサクの嘆きである。
下世話な下ネタは終わりにして、三人は一日の報告をする。ソーニャの話は先ほど聞いたが、イアもそれなりに収穫があったようだ。
「もうちょっと黒の星で遊びたかったですけど、サクさんを一人にするのが心配なのでやめます。明日からは三人に戻りましょう」
「戻るのはいいが、どこで遊ぶ?」
「さっき、偶然ミドリちゃんに会ったんですよ。いい話を聞きました」
ミディーリもイアと同じく黒だ。黒専用の星にいても不思議ではない。
「ソーニャちゃんの要望にピッタリのダンジョンがあるんです。プレイヤーが少ないダンジョンですね。しかも、女神のイベントもあるので一石二鳥です」
「どこだ?」
「ジャパンステラの星で、【海底都市ミズナカ】です」
名前や特徴はタゴサクも知っている星だ。
この星には陸地が一切存在しない。星全体が海になっている。
海底都市の名の通り、町は海底に存在するし、当然プレイヤーも海中で行動するわけだ。
そして、SOSでは溺死判定がある。タゴサクも落とし穴に落ち、溺れかけた。
普通に訪れれば溺れるだけだ。情報を持たないプレイヤーが宇宙船で移動し、到着後に溺死して死に戻りするパターンもある。酷い罠だ。
かろうじて救いなのは、【海底都市ミズナカ】には死に戻りしない点だろうか。
これは当然の措置だ。【海底都市ミズナカ】に死に戻りすると、戻った途端に水の中で、再び【海底都市ミズナカ】に死に戻りしてしまい、という感じで死の無限ループが発生する。
溺死を防ぐには、水中で呼吸ができるようになるアイテムを使用すればいい。いくつかの町で売っている。
これが地味に高価で、一つ三十二万スターだ。
32というダジャレだと思われる。
効果は永続ではなく一時間で、しかも消耗品だ。三十二万スターもするアイテムを買い溜めしておかなければ、【海底都市ミズナカ】では活動できない。
だからこそ、避けるプレイヤーが多く、人も少なくなる。
タゴサクも行ったことはなく、女神の情報も知らない。
「女神の情報なんて、よくミディーリが教えてくれたな。高潔で孤高のお嬢様はどうしたんだよ。コダるのは嫌がりそうだが」
「ギブアンドテイクです。わたしもミドリちゃんに【水の国トゥーリバー】のクエストを教えたんです。ミドリちゃんは、女神のイベントが見つからなくて困ってるみたいでした。このままじゃ金色になれないので、孤高のお嬢様でも妥協するって言ってましたね」
「ミディーリって、結構妥協するケースが多くないか?」
「おかげで情報を教えてもらえたんですし、いいじゃないですか。明日、早速行ってみましょう」
明日の予定も決まり、今日はログアウトする。
トラブルはあったが気にせず遊び続けよう。




