八十二話 鈍色の星
美少女プレイヤーランキングのせいで、ソーニャが有名になってしまった。
変なトラブルを避けるために、プレイヤーの少ない場所で遊びたいと考える。
「いい場所ないわよねえ。イアはある? お兄ちゃんは?」
「一晩考えたけど、思い浮かばなかったよ」
「俺もだ。当然っちゃ当然だが。プレイヤーが少ない場所は、メリットも少ないことになる。【離星オキナ】みたいな場所なら少なくなるわけがない」
金色モンスターが多数出現する【離星オキナ】は毎日盛況だ。大勢が足を運ぶ。
他にも、レベリングに適していたりレアアイテムが入手できたりする場所は、プレイヤーに人気があるし人も多い。
プレイヤーが少ないということは、メリットがないか、メリットを遥かに上回るデメリットがあるかのどちらかだ。
「【離別の草原】でも行くか? 【グロノキワミ】狩りで【モザイク眼鏡】を集めて、欲しがってるプレイヤーに売りさばいて金儲けだ。金の代わりに情報を教えてもらってもいい。アイテムと女神の情報を交換だ」
「死んでも嫌! 【モザイク眼鏡】を装備しても、あの場所に行くだけで思い出すじゃない!」
「【死者の館】にする? ソーニャちゃんも平気そうだったし、人が少ないよ」
「レベリングにも不向きだし、いいアイテムもないでしょ」
「コローレステラの【試練十二階】……は避けたいよな。一人で試練をクリアしたい場所だ。いっそ、穴場のスポット探しでもするか?」
プレイヤーに知られていない穴場スポットが、どこかに存在するかもしれない。
タゴサクたちは三人とも情報通ではないので知らないし、自分たちで探すのも面白そうだ。
簡単に見つかるなら穴場にはならない。無駄足になる可能性が高そうだが、宝探しのようでワクワクする。
「PvPイベントがなければ、面白そうだしやってもいいけど」
「時間を浪費するのはもったいないです。探すなら金色になってからの方がいいですよ。時間に余裕ができてからにしませんか?」
「んじゃあ、色専用の星に行くのは? ソーニャはコローレステラ・アランチョになるんだっけか?」
基本的には三人で遊ぶが、一度くらいは色専用の星にも行ってみたい。
金色モンスター狙いで【離星オキナ】に行った時も、数日別行動をして色専用の星に行ってみないかと案を出した。
「それにする?」
「今の状況で、ソーニャちゃんが単独行動して大丈夫?」
「無理そうなら連絡入れるし、合流して欲しいかなって。あれこれ考えるよりも行動あるのみよ。今日は色専用の星で決定ね」
相談の結果、タゴサクの意見が通った。
二人と別れ、【コローレ】から宇宙船に乗って鈍色の星を目指す。
コローレステラ・グリージョにある町、【グリージョ】だ。
名前がどんどん適当になっていくが、町の様子は普通だった。【コローレ】のようにカオスにはなっておらず、平和なものだ。
「鈍色一色だったらどうしようかと思ってた」
普通の町なら散策もしやすい。
RPGでは、初めて訪れる町の散策が楽しみだ。
最初に武器屋に向かう。鈍色専用の武器が売っているはずだ。
町にはプレイヤーの姿がちらほら見える。
彼らも皆、タゴサクと同じく鈍色なわけだ。そう考えると親近感が湧く。
どのジョブになっているのか、スキルや魔法、奥義は何を覚えているのか。色々と聞いてみたい気分だ。
コダる行為になるのでやめておくとして、武器屋に着いた。
売っているのは、全て鈍色専用武器だ。剣もあるので二本購入する。
強さ的には【コローレ】で買った剣と同程度だが、鈍色専用の響きに惹かれた。
武器は壊れることがあるため、何本持っていても困らない。
ダンジョンの探索中に耐久度が減り、せっかくボス直前まで進んだのに引き返さざるを得なくなるのはもったいない。
メインで使うのは【コローレ】で買った剣だ。
予備として今買った二本の剣と、モンスタードロップの【蟷螂剣】を持つ。
なお、剣を何本持っていようと、装備できるのは一本だけだ。
二刀流になっているプレイヤーがいたが、あれは二本で一つの剣であり、別々の剣を装備しているのではない。
武器の次はスキルや魔法を見てみたが、残念ながらピンとくるものがなかった。
高レベルになってくると、ジョブで覚えるスキルや魔法が増え、店売りの重要性が下がる。使ってみたいとは思うが、百も二百も覚えたところで使い切れない。
何も買わずに店を出て、クエストをやってみようと考える。
外に出てモンスターと戦ったり、ダンジョンに挑んだりするのもありだ。
クエストの内容次第では、どうせ戦闘やダンジョン攻略が必要になるため、最初にクエストを受ける方が効率はいい。
報酬のいいクエストは知らないので適当に受ける。直感任せだ。
NPCの民家を訪ねれば、このような話が聞けた。
「鈍色以外のモンスターが増えているみたいなんだ。鈍色以外は認めたくないのに困ったもんだぜ。邪魔なモンスターを退治してくれる人がどこかにいないものか」
「俺がやりますよ」
「おお、本当か!? じゃあ頼む。倒してくれたら礼もするぞ」
タゴサクが受けたのは、モンスター退治のクエストだった。
鈍色以外は認めたくないとか、鈍色の星らしい内容だ。
NPCの家を出て、モンスターを倒しに向かおうとする。
そこで見知らぬ人から声をかけられた。
「ねえ、お兄さん」
「俺ですか?」
相手は女性プレイヤーだ。かなり美人でスタイルもいい。
トキヒメクラスとは言わないが、美少女プレイヤーランキングに入っていてもおかしくない人だ。
「そこの民家から出てきたけど、ひょっとして鈍色以外のモンスターを退治して欲しいってクエストを受けた?」
「受けましたね」
「あちゃあ、やっぱりか。そのクエストは罠だよ。クリアしても報酬はないの」
「え? 本当に?」
NPCの態度は、罠のクエストっぽくなかった。礼をするとも言われたし、普通のクエストだとばかり思っていた。
まさか罠だったとは。
「私も引っかかってね。酷い目にあったの。同じ思いをする人がいるのは忍びないから、お節介かと思ったけど声をかけさせてもらったってわけ」
「わざわざありがとうございます」
「どういたしまして。本当は、コダるのはよくないけど、困っている人を助けてあげるのは当然だからね」
美人で、しかも親切な人だ。タゴサクは彼女の言葉を信じた。
信じたが、モンスター退治はどうすべきか。
クエストのキャンセルは可能だ。NPCの家に入り直し、やめると告げればキャンセルになる。煩雑な手続きはいらず、ペナルティもない。
「キャンセルする方がいいよ。時間の無駄だからね。よければもっといいクエストも教えてあげるよ」
「せっかくのご厚意ですが、そこまでしてもらうのは申し訳ないですし、やめておきます。クエストも、一応やりますよ。報酬をもらえなくてもモンスターとは戦ってみたいので」
「ちょ、本気でやるの? やめときなって。他のクエストの方がいいから。なんなら一緒にクエスト受ける? PvPイベントでパーティー戦もあるし、そのまま組み続けてあげてもいいよ。もう一人探してパーティー戦に参加するの」
「お誘いはありがたいですが、パーティー戦に参加するメンバーはもう決まってるんですよ」
美人から誘ってもらえるのは男冥利に尽きる。嬉しいか嬉しくないかなら、当然嬉しい。
しかし、ソーニャやイアと参加するのでパーティーは組めない。
クエストも、できれば一人でやりたいところだ。
男性プレイヤーなら一時的に協力してもいいが、美人相手だと浮気になる。
浮気はダメ、絶対。
「親切に教えてくれてありがとうございます。俺はクエストに行くので、これで」
「ま、待って待って」
タゴサクは立ち去ろうとしたが、引きとめられた。
「私、クレアトゥールって名前だけど」
「クレアトゥールさんですか。素敵な名前ですね。俺はタゴサクです」
「タゴサク? ダッサ……なんでもない」
微妙に本音が漏れているが、名前をダサいと言われるのはいつものことだ。
何人ものプレイヤーに名乗っているものの、男女関係なく否定される。褒めてくれたのは、ナンパとグレスの二人だけだ。
「そっちの名前はともかく、私のこと知らない? クレアトゥール」
「すみません、知らないです」
「美少女プレイヤーランキングを見てないの?」
「見ましたよ。知り合いの名前しか気にしてなかったので、誰がランキングに入ってるかはほとんど知りません。せいぜいで上位五人くらいですね。クレアトゥールさんも入ってるんですか?」
「上位五人かあ。せめてトップテンはチェックしておこうよ。私は十位」
「十位!? 凄いですね。ランキングに入ってもおかしくない美人だとは思いましたが、本当に入ってるなんて」
数多く存在する女性プレイヤーの中で十番目だ。九位のジュンキが男性である点を考えると、実質九位になる。
九位と言われても納得できる美人だ。
タゴサクが褒めれば、クレアトゥールは気分をよくしたのか顔をほころばせる。
「私さ、自分で言うのもなんだけど、男性からのお誘いが多いのよ。パーティー組んで、一緒にイベントに参加しようって引く手数多でね」
「美人と組みたがる男性は多いでしょうね。俺の友達も探してますよ」
ナンパが、美少女のナンパに成功したかどうかは知らない。
クレアトゥールを誘っている一人がナンパかもしれない。
「誘われることは多いけど、自分から誘うのは初めてなのよね。誰にでも声をかけると思わないで。一目見て、タゴサクを気に入っちゃったから誘ってるの。凄く素敵な人だからね。もう一回言うけど、私とパーティー組んでくれない? 私のことは、クレアって呼んで欲しいな」
「光栄ですが、さっきも言った通りメンバーが決まっているので」
噂に聞く逆ナンだろうか。初めてされた。
タゴサクはスケベだし、実を言うと惜しいと思っている。素敵や気に入ったのセリフも男のプライドを満たしてくれて嬉しい。
それでも、クレアトゥールには申し訳ないがイアと組みたい。
「頑固だなあ。ひょっとしてあれ? 『美人にもなびかない俺、かっけえ』って考える厨二病患者だったりする? 『美人でも容赦なくフる俺、男らしい』とかさ。魅力的だと思ってるのは自分だけで、女から見ればダサいだけだからやめた方がいいよ。モテないブ男が強がってるとしか見えないし、余計にモテなくなる」
「耳が痛いですね。昔の俺は、そういうタイプでした」
中学時代、バスケ部で活躍していたタゴサクは、これでも女子に人気があった。
当時は、内心では嬉しいくせに隠していたものだ。
モテている事実にデレデレするのはダサく、クールに振る舞い「女になんか興味ないぜ」とうそぶくのを格好いいと思っていた。
スケベで変態なお調子者キャラになったのは、高校生になってからだ。
本当にクールな性格ならともかく、本性はスケベで変態なのにクールぶっても滑稽だと気付いた。
今と昔、どちらがいいかは分からない。ソーニャは昔がいいと言いそうだが、タゴサク自身は今がいいと思っている。
「厨二病患者なのは否定しません。MMORPGで遊んで、スキルや奥義の名前をガンガン叫ぶのを格好いいと思ってますしね。美人をフるのを格好いいとは思いませんよ。それは数年前に卒業しました。俺はスケベなんで、ぶっちゃけるなら嬉しいです。先約がなければお誘いを受けてました」
「そ、そうなんだ……弱ったな」
「パーティーメンバーが見つからないんですか? 誘われていても、これだって思える人がいないとか?」
「まあ……ね」
クレアトゥールの返答は歯切れが悪かった。
事情はよく分からないが、タゴサクはパーティーを組む気はないし、ここらでお暇する。
「じゃあ、俺は行きます。アドバイス、ありがとうございました。誘ってくれたのも嬉しかったですよ。いい仲間が見つかることを祈ってます」
今度は引きとめられなかったので、クレアトゥールと別れた。
町を出てフィールドを歩き、クエストで依頼されたモンスターが出現する場所に向かう。
場所はちゃんと分かるようになっている。あてもなく探し回るクエストではなくて助かった。
クレアトゥールは罠だと言っていたが、罠のクエストは基本的に簡単だ。
場所が簡単に分かるのは、罠の証拠かもしれない。
罠なら罠でも構わない。モンスターと戦ってみよう。
モンスターと戦って経験値を稼ぎ、あわよくばアイテムのドロップも狙う。これなら罠でも無駄足にはならない。
モンスターを探せば、森に入ったところで奇妙なモンスターが出現した。
タゴサクの予想を遥かに上回る怪しいモンスターだ。
「SOSだからな」
定番の一言で終わらせることにした。
モンスターは五体出現している。端的に言えば、戦隊ヒーローだ。
赤、青、緑、黄、ピンクのヒーロースーツを着た五人組のモンスターになる。胸の膨らみがあるため、黄とピンクが女性で他が男性だと分かる。
分かったからといってどうだという話だ。
五対一は少々厳しいが戦ってみる。
最近は三人で戦ってばかりだったし、一人で戦うのは久しぶりだ。
腕が錆びついていなければいいが。
「【トリノライオン】!」
まずは、ほどほどの威力の魔法で先手を打った。
一対一ならいきなり奥義でもいいが、五体もいると奥義は温存しておきたい。
「【流星帝】!」
続けてスキルを放つ。激しい連続突きが赤を捉えるが、他の四体がフリーになり攻撃されてしまう。
連続突きなので、一度の発動がそこそこ長い。敵が複数いる時に使えば、スキルを食らわせている敵以外に攻撃されるのは自明の理だ。
不適切なスキルを選択してしまった。
「なまってんなあ……」
強力なスキルや奥義を連発すれば勝てるほど単純ではない。ソロでモンスターと戦う難しさを久々に体感した。
フォローしてくれる味方もおらず、厳しい戦いになりそうだ。
気を引き締めて戦おう。




