八十一話 美少女プレイヤーランキング
SOS美少女プレイヤーランキング。
SOSをプレイしている女性プレイヤーの中で、美女美少女を格付けするという失礼極まりないランキングだ。
どこがどうなったのか、インターネット上の掲示板では専用のスレッドが立ち、美少女プレイヤーランキングを作っていた。
「【離星オキナ】での乱戦が原因だろうな」
「やっぱりあれなの? 四日しかたってないのに、どれだけ行動が早いのよ。無駄に労力を使い過ぎでしょ」
乱戦から四日後の夜、一日SOSで遊んでログアウトする前に、ソーニャやイアとランキングについて話している。
知り合いからは「ソーニャちゃんに投票したした!」との連絡をもらっている。
ナンパであるのは言うまでもない。
ヴァイスは恋人のサンサンに投票したそうだ。
シンガーはユメで、タゴサクはイアに投票した。
なんだかんだ言いつつ、みんなちゃっかり参加していた。
ランキングが作られる発端になったのは、【離星オキナ】での乱戦だ。
トキヒメ親衛隊の横暴に他のプレイヤーは不愉快な思いをし、それがそのままトキヒメの悪評につながった。
顔は間違いなく可愛いしスタイルも抜群だが、性格がクソだ。
もっと可愛い女の子はいくらでもいる。
ネット上で火がつき、あれよあれよとランキングが作られた。
結果だが、一位はやはりトキヒメだ。彼女を崇める男性プレイヤーの組織票が強く、そもそも純粋に人気が高い。
悪評を補って余りある美貌を持つため、妥当な結果と言えよう。
二位と三位はタゴサクの知らない人で、四位にソーニャがランクインした。
「素直に喜べないわね。同情票も多そうだし、トキヒメとの因縁を面白がって私に投票した人もいると思うわよ」
「ネットでも言われてるけど、トキヒメさんの性格がちょっとね。わたしもあんまり好きじゃないよ。ソーニャちゃんに勝ってもらいたかった」
「親衛隊だものね。トキヒメを慕ってるユメさんには悪いけど、私が当事者じゃなかったとしても好きになれないわ」
トキヒメを悪く言う二人に事情を説明できず、タゴサクは歯がゆい思いをしていた。
せめて話を逸らそう。
「トキヒメさんがどうであれ、プレイヤー数が多い中で四位は立派な結果だ。喜んどけ」
「普通にやってればランクインなんて無理無理」
「それは、ソーニャが美少女じゃないことにはつながらないぞ。SOSは他人との交流が少ないゲームで、プレイヤーの存在自体を知らないケースが多い。俺も顔と名前が一致するプレイヤーは三十人程度だ。男女合わせてな。女性だけならもっと少ないし、二位や三位の人は知らなかった。ソーニャを知ってりゃ美少女だと思って投票する奴も、知らなきゃできない」
「お兄ちゃんは、私をフォローしてるようで、イアをフォローしてるでしょ」
ソーニャはタゴサクの思惑を鋭く見破っていた。図星だった。
今回のランキングは五十位まで発表されているが、イアの名前はどこにもない。
これは、イアが美少女ではないという意味ではないと考える。イアという女性プレイヤーの存在が知られていないのだ。
知名度の有無で結果は大きく変わってくる。
証拠と言えるか分からないが、知り合いでランクインしたのはミディーリ一人だけだ。サンサンやレンはもちろん、現役アイドルのユメですらダメだった。
「わたしは気にしてません。ソーニャちゃんやミドリちゃんに負けたことなか、全然気にしてないんです」
「明らかに気にしてるじゃない」
「だって……興味ないつもりだったけど、実際に結果が出ると悔しいよ。人気と不人気が、順位っていう明確な数字で見えちゃうし」
「だから俺は、知名度の問題だって言ってるんだ。イアは可愛い。上位に入っても当然の可愛さだ」
元気づけるための嘘ではなく、本心から思っている。
知名度は重要だ。名前を知られていなければどうにもならない。
ソーニャはトキヒメと似ているので知名度が上がったが、イアは違う。
「男性プレイヤーのコメントは読んだか? 二位と三位は実の姉妹らしい。可愛いのもあるが、美少女姉妹として注目を集めてるから上位になれた。姉妹でコダってるのに、この二人に限りコダるのを認めるとまで言い出す奴がいる」
「五位の人はアラサーの主婦だってさ。大人の色香を放つ美人で、実年齢よりも若く見える。母性や包容力にあふれるからマザコン男に大人気。ママって呼びたい。甘やかしてもらいたい。コメント書いた人、絶対にバカでしょ」
上位のメンバーは、容姿が優れているだけではなく、何かしらの特徴を持つ。
下位も同様だ。ミディーリは三十八位にランクインしているが、可愛い巫女さんとして人気だった。幼めの容姿もポイントで、ロリっ子巫女だと騒がれている。
五位の主婦とも比較され、ロリコン男とマザコン男が抗争を繰り広げる。
きのこたけのこ戦争ならぬ、ロリコンマザコン戦争だ。
いつの時代も男はバカだ。
ロリコンマザコンはさておき、イアには特徴がない。
友達付き合いをしてみれば、特徴がないとは口が裂けても言えなくなるが、パッと見で分かりやすい特徴がないから不利になる。
普通に可愛いです、程度では無理なのだろう。
「納得しておきます。わたしもちょっと自惚れてました。自分が可愛いって内心で思ってたんですけど、上には上がいますね。たくさんいます」
「一ヶ月後にもう一回投票すれば、結果はガラッと変わるぞ。PvPイベントには大勢のプレイヤーが参加するだろうし、これまで知られてなかった美少女も出てくると思う。イアの名前も知れ渡るよ」
「知れ渡ったら知れ渡ったで面倒そうですけどね。ソーニャちゃんみたいに、知らない人から告白されても困ります」
「あいつのことは忘れてやれ。さすがに気の毒だ」
会話に出たのは、刀使いの男性プレイヤーだ。
ちなみに、名前はジュンキだ。他のプレイヤーがいる前で名乗り、ソーニャに正面から告白した勇気は立派だったが、あえなく玉砕した。
もう一つちなんでおくと、勇気ある姿が評判になり、美少女プレイヤーランキング九位とトップテン入りを果たしたのはギャグでしかない。彼がSOSを引退しないことを祈るばかりだ。
まあ、男性まで入ってしまういい加減なランキングであり、イアが気にする必要はさらさらないとタゴサクは主張したい。
ソーニャとイアには言えないが、タゴサクが気にしているのはトキヒメの方だったりする。
親衛隊の横暴は、トキヒメに伝えておいた。
その件について話があると言われ、これから会うことになっている。
「ぼちぼちログアウトするか」
「うん。明日からのゲームが憂鬱だわ。美少女プレイヤーランキングで変に顔が売れちゃったし、自意識過剰かもしれないけど見られてる気がするのよ」
「人の少ない場所で遊ぶ方がいいかもな。候補は三人で考えておこう」
三人そろってログアウトし、藍子は帰宅する。
夜に女の子の一人歩きは危ないので、両親がいる時は車で送り、いない時は空と双那の二人で送る。
今日は両親が仕事から帰宅していたため車だ。
藍子を見送り、空は自室で受験勉強をしながらトキヒメとの待ち合わせ時間になるまで過ごす。
深夜零時になればSOSにログインだ。
今だけの特別仕様として、タゴサクはオーロステラに移動できる。開発者の力は凄い。
普通に会ってもいいが、トキヒメは有名人のため非常に目立つ。二人の関係は知られたくないのでオーロステラになった。
前回と同じく和風の部屋に転移すれば、トキヒメが待っていた。
「久しぶりね、兄さん。会いたかったわ。とっても寂しかったの」
会うなり先制パンチを食らった。
潤んだ瞳で上目遣いになり、熱を帯びた声音で言われたのだからたまらない。
相手が実の妹である事実も、イアのことも忘れ、押し倒したい衝動に駆られる。
なけなしの自制心を総動員して思いとどまり、タゴサクも挨拶を返す。
「こんばんわ、トキヒメさん」
「思ったよりも冷静な反応でつまんない。兄さんの大好きな妹おっぱいを押し付けなきゃダメなのかな?」
「全然冷静じゃないっての。男にそんな真似をしたら勘違いさせるぞ」
「以後、気を付けるわね」
からかってきたトキヒメに注意してから本題に入る。
「親衛隊の連中だが」
「あれはごめんなさい。彼らも悪いし、私の責任でもあるわね」
「俺としちゃ、トキヒメさんを責める気はないんだ。事情を知ってるからな。トキヒメさんでも制御し切れないんだろ?」
「ごめんなさい。注意はしておいたけど」
トキヒメを女神と崇める男性プレイヤーが何人いるかは知らないが、全員の行動に目を光らせるのは現実的ではない。
年齢も職業も異なれば、ログインする時間帯もバラバラになる。
トキヒメにも現実の仕事があり、ずっとログインし続けるわけにはいかない。
狩り場やモンスターの独占をやめろと注意したところで、相手が素直に聞き入れるとも限らない。トキヒメに喜んでもらうため、トキヒメに献上するために、問題行動を起こすことはあり得る。
開発者としても、軽いマナー違反程度で警告やアカウント削除にはできない。
その理屈でいくと、コダるというマナー違反をしているタゴサクたちは、とっくの昔にアカウント削除になっている。
結局は、トキヒメが個人的に注意するしかないわけだ。
「俺が心配してるのは、親衛隊連中でもないし、彼らの問題行動で被害を受けるプレイヤーでもない。トキヒメさんなんだ。親衛隊連中をけしかける悪の親玉みたいに扱われてるぞ」
事情を知るタゴサクは、トキヒメが故意にやったのではないと理解している。
何も知らないプレイヤーは確実に誤解する。根拠もないのに信じる方が変だ。
冷静な人は、自分の目で確かめなければ真相は分からないと考えるものの、少数派になる。
トキヒメに会っておらず事情を知らなければ、タゴサクも誤解した。
ソーニャやイアも誤解して悪く言っているし、二人と一緒に悪口で盛り上がったに違いない。
このように、トキヒメを快く思わないプレイヤーは多い。信者もいる反面、評判はさらに悪くなっている。
愛を欲する彼女が傷ついていないか心配だ。
「兄さん、私を心配してくれたの?」
「一応、俺は『兄さん』らしいからな」
「嬉しい。でも、優しいのが必ずしも美徳とはならないわよ。さっき、兄さんは男が勘違いするって言ったけど、女だって勘違いするの」
「俺は優しくないぞ。ソーニャからは『優しくもなくて誠実でもないのがお兄ちゃんだ』とか言われてるほどだ。今日もトキヒメさんに会うかどうか悩んだ」
イアに内緒で、浮気相手と密会している気分になるからだ。
メッセージのやり取りに抑えておき、直接会うのはやめておくべきかと考えた。
イアとユメ、二人にいい顔をしようとして修羅場になった経験がありながら、まるで懲りていない。今度はイアとトキヒメの二人にいい顔をしようとしている。
「兄さんは優しいわよ」
「俺が優しいかどうかはいいんだよ。トキヒメさんは大丈夫なのか?」
「私は平気。愛して欲しい気持ちはあるけど、世界中の人が私を愛するべきだとか思ってないから。私を嫌う人、否定する人がいて当然よね」
「嫌ったり否定したりする理由が事実無根だから気になるんだよ」
「事実無根じゃないでしょ。私は男性から崇められる女神で、彼らを下僕にしているのは事実よ。それでいいの。美少女プレイヤーランキングなんてものまで作られてるし、盛り上がってるからね。PvPイベントも盛り上がるわよ」
「盛り上げるために悪役になるって?」
「ラスボスみたいで素敵でしょ。女神がラスボスになるRPGも多いしね」
さすがの精神力だった。タゴサクが心配するまでもなかったようだ。
「嫌っているなら嫌っているで、本気でぶつかればいいのよ。殴り合いをして相互理解が深まり、友情が芽生えるの」
「マンガじゃあるまいし」
「コミュニケーションが苦手な人は、本気でぶつかることも苦手だからね。他人を蹴落としているだけじゃ、相互理解は生まれない。親衛隊の人たちを庇うわけじゃないけど、狩り場の独占は可愛いものよ。乱戦になったみたいに、不満を持つ人とぶつかるでしょ。お互いに譲れないならぶつかる。現実でもよくある話よ」
タゴサクも、ヴァイスとぶつかった経験がある。
あれはあれで得難い経験だった。ぶつかるのが悪いわけではない。
「色々と考えてんなあ」
十五歳だが、深謀遠慮という言葉を贈りたくなる。
とにかく、トキヒメが平気なようで安心した。
「大丈夫そうだし俺はログアウトする」
「もっとゆっくりしていけばいいのに。おしゃべりしましょう」
「深夜だし眠いんだよ。夏休み中でも規則正しい生活を心がけてるんだ」
「毎日ゲーム三昧で、規則正しい生活?」
「無慈悲な突っ込みはやめてください」
ゲームで遊んでいる件を持ち出されると、タゴサクは反論できなくなる。
トキヒメは声を上げて笑ってから、以前に言っていたご褒美の話に変えた。
「兄さんの家庭教師はどうする? 私はやるつもりだけど」
「あれ、マジで言ってたのか?」
「大マジよ。夏休み後ね。休み中はSOSをやりたいでしょうし」
「もし家庭教師をしてもらうとしても、場所はどこだ? うちだと両親がいるから困るだろ? ソーニャへの説明も面倒だしな。だからって、トキヒメさんの家には行けない。清流院の両親には会いたくないし」
「場所は考えておくから、兄さんも私に教わるかどうか考えておいて。無理強いはしないから」
兄として、妹に勉強を教わるのは屈辱に感じてもおかしくない。
ソーニャなら屈辱だが、トキヒメは天才だと知っているので気にならない。
場所の問題や周囲への説明が面倒なだけで、それらが解決するなら教えてもらいたいところだ。トキヒメに教わることで成績が上がるのは助かる。
「前向きに検討しておく。ただし、説明が下手ならクビにするからな」
「任せて。兄さんこそ、私が教える以上は、いい成績を取ってもらうわよ。成績が上がればイケナイお勉強もしてあげよっかなあ、なんて」
「ふざけたことばっかり言ってると、マジで襲うぞこの野郎」
「きゃー、こわーい」
ログアウトすると言っておきながら、なかなかログアウトせずにバカな話をして夜を過ごした。
できれば、ソーニャたちも加われたら。
家族としては触れ合えなくても、友人として交流できたら。
小さな願いを抱くのだった。




