八十話 親衛隊
モンスターPKをされかけた翌日、コローレステラの【コローレ】に集合した。
昨日は疲れており、モンスターの群れと戦った成果を確認する元気もなかった。
今日改めて確認する。
「レベルがすっげえ上がってる」
「お兄ちゃんが一番多く倒したもんね。普通は使えない奥義を、クールタイムなしで三連発とかチート級よ」
「運がよかっただけで、次もうまくいくとは限らないがな。アイテムもドロップしてるな。たいした物は……お、剣がある! 超ラッキー!」
「本当に運いいわね。揺り戻しがきても知らないわよ」
揺り戻しは怖いが考えないようにする。
タゴサクが入手したのは【蟷螂剣】という武器だ。
「カマキリのモンスターのドロップか? ログをたどれば……」
ログには、どのモンスターがどのアイテムをドロップしたか記述されている。
いいアイテムをドロップするモンスターが分かれば、そいつを狙って狩り続けられる仕組みだ。
調べてみたところ、やはりカマキリのモンスターのドロップだと思われる。モンスター名が【ウロウロトウロウ】というアホな名前になっていた。
ウロウロしている蟷螂か。トキヒメの命名に違いない。
「カマキリなら鎌じゃないんですか?」
「中国拳法の蟷螂拳から取ってるから剣なんじゃ? よく知らんが」
名前の由来はどうでもいい。重要なのは性能だ。
攻撃力は、残念ながらたいしたことはなかった。【コローレ】で売っている剣の方が強い。
特殊効果があり、昆虫系モンスターに特攻だそうだ。
「昆虫系モンスターねえ。戦う機会があれば使うか。普段は【コローレ】で買える剣を使う方がいい」
「昨日、壊れてましたよね? 買い直すんですか?」
「買い直すしかないだろ。【蟷螂剣】以外は武器のドロップがないしな。イアはどうだ? いいアイテムをドロップしてたか?」
「それがですね、見てください!」
イアは防具を切り替えた。鎧姿から白い和装になる。
ソーニャの白無垢も白だが、イアの服はもう少しシンプルだ。
「最後に倒した雪女がドロップしました。【ヒトヅマユキオンナ】ってモンスターですね。これは【雪女の衣】です」
「【ヒトヅマユキオンナ】? SOSだからありだな」
「モンスター妻じゃないの? 語呂が悪いから? まさかと思うけど、人妻の方が興奮するとか言い出す変態開発者がいるんじゃないわよね?」
「サクさんじゃないんだし、いないと思うよ」
酷い言われようだ。タゴサクは人妻になど興味はないのに。
「でも、イアの服いいわね。私も欲しいかも」
「あげてもいいけど、どうする? ソーニャちゃんの和装と一緒で、防御力は全然ないの。氷とか冷気とかの攻撃には強いらしいけど、わたしは装備する気ないし、ソーニャちゃんが使う?」
「欲しい……けど、譲渡禁止のルールは守りましょう」
「了解。どうしても欲しくなったら言ってね。一時的に貸すのもいいと思うよ。装備して楽しんだら返してもらうの」
「そこまでしなくていいわよ。欲しければ自分で狙うわ。私も、一応装備をドロップしてるし、収穫ゼロでもないからね」
ソーニャが入手したのは、【風の髪飾り】だった。アクセサリになる。
素早さが微量にアップする効果で、いい装備とは言えないが、羽の形をした可愛らしい見た目をしているので気に入っていた。装備して満足気だ。
「レベルも上がったしドロップもあったし、意外とおいしい戦いだったな」
「最初は死ぬかと思ったけどね。それで、確認が終わったけど今日はどうする?」
「俺は【試練十二階】の一階のボスを倒して、二階に行ってみたいって思ってる。最上階まで攻略する気はないぞ。二階か三階までならやりたいなって」
「わたしもそれでいいですよ」
「私もオッケー。じゃあ、決まりね」
壊れた武器を買い直したり消耗品を補充したりしてから、本日も【試練十二階】に挑戦する。
フィールドに出てダンジョンに向かうが、問題はモンスターPKだ。
昨日のプレイヤーと遭遇する可能性もあるし、他のプレイヤーが同じ行為をしてくるかもしれない。対策を相談しておく。
「夜にネットで調べてみたが、モンスターPKに【暗乱夢】を使うのは常套手段なんだとさ」
「にしては、私たちってモンスターPKされたことなかったわよね?」
「条件を整えるのが地味に面倒なんだ。普通は【暗乱夢】を使ったプレイヤーも巻き添え食らって死ぬ。アイテムで町に戻るにしろ、戦闘中は使えない。【暗乱夢】を使用した瞬間には戦闘中扱いになるみたいなんだ」
ダンジョンの入口で使い、すぐに外に出れば平気だ。
他の方法でもいいが、自分が巻き込まれない手段を確立しておく必要がある。
あとは、モンスターPKでは自分でPKしたことにならず、金やアイテムを奪えない問題もある。
嫌がらせ程度の効果だ。やられる方にとってはたまったものではないが。
「面倒ね。対策はどうするの?」
「俺が考えたのは【シールドロック】だ。【暗乱夢】を使われたら、こっちも魔法を使って足止めする。相手を逃がさないようにな。俺たちも死ぬが相手も死ぬ」
目には目を、嫌がらせには嫌がらせをだ。
モンスターPKをしようとしても、自分も死んでしまうと分かれば躊躇する。
迂闊に手を出してこなくなればいいと期待するやり方だ。
「こっちも嫌がらせってこと? 対策になってない気がするけど」
「それ以前に、できますか? サクさんの魔法って、効果範囲が狭くありませんでした? 以前に使った時は近付いてましたよね?」
「確かにね。だから、お兄ちゃんごとモンスターを倒したんだし」
「【瞬剣】で接近してから【シールドロック】でどうだ?」
「また懐かしいスキルを持ち出すわね。私なんか存在自体を忘れてたわよ」
「ソーニャちゃんも【瞬剣】を覚えてるのに、忘れてるとはこれいかに」
イアの寒いジョークはスルーした。
いきなりだったし、反応もできない。
「あのぉ、さすがに何か反応が欲しいなあ、とか思ったり」
「ソーニャ、パス」
「今すぐログアウトして、座布団の代わりに布団を没収したいわね」
「ソーニャちゃんが変態になった! わたしのお布団をサクさんに売りさばこうって魂胆だね!」
「イアの発想が変態よ」
真面目な対策会議にならないのはいつものことだ。
モンスターPKを狙うプレイヤーをどうするか、有効な作戦は思いつかない。
その場のノリに任せようという結論に達した。
そんなこんなで【試練十二階】に到着し、昨日埋めたマップを頼りにボス部屋まで向かう。
最短距離を突き進んでも時間がかかるが、PKされなかった点は運がいい。
三人とも無事な状態でボス部屋に到着した。
一階のボスは黒いイノシシだ。
これまでの復習になるため、最初は動物型のモンスターから始まる。
「コモンステラに【グロッサイノシシ】っていたよな。あいつのお仲間か?」
「ダンジョンの中ボスだし、【グロッサイノシシ】みたいに弱くはないと思うけどね。黒いから【ブラックイノシシ】とか?」
「わたしの色が一階で出るのは不満。黒が一番弱いって言われてるみたい」
三人が各々の感想を述べた。
しょうもない感想はどうでもいいので、ボスと戦い。
普通に勝利した。
見どころも何もなく、普通に戦って普通に勝った。
ボスは決して弱くない。タゴサクがソロで戦えば、それなりに苦戦した。
三人いるおかげで楽に勝てたのだ。
「これは、ちょっくら卑怯だよな。試練なのに試練になってないっつうか」
「普通のダンジョンならいいけど、コローレステラ脱出のための場所だしね。お兄ちゃんに同意するわ」
レアステラで宇宙船のチケットを入手する時は、三人とも自力でゴブリンの王を倒した。
ジャパンステラのクエストも、やはり自力でクリアした。
コモンステラは百万スター貯めるだけなので除外するとすれば、上の星に行く条件を満たす時は自力でクリアしてきたのだ。
ならば、【試練十二階】も自力でクリアすべきだろう。
「二階の探索はやめておきます?」
イアが言ってくれたが、タゴサクも同じ提案をしようとしていた。
アイテムの譲渡のルールと同じだ。三人で協力する時、しない時を区別したい。
二階以降の探索はやめるが、ではどこに行くか。
「別のダンジョンで強い武器を狙うにしても、いい場所を知らないんだよな」
ジャパンステラにもコローレステラにも、ダンジョンはいくらでもある。
強い武器が入手できそうな場所となると、タゴサクの知識にはなかった。
仮に知っていても、多くのプレイヤーがいそうだし、PKの危険がつきまとう。
「サクさんとソーニャちゃんは、金色モンスターが多く出現するフィールドでレベリングしたんですよね? そこで金色モンスターのドロップを狙いますか?」
「女神の情報集めに戻る手もあるわね。女神ニフナジュレタの装備で、強い剣とか槍とかがあるかもしれないでしょ」
「二、三日だけ別行動して、色専用の星に行ってみるのもありだ」
意見が分かれたが、答えは簡単だ。
全部やればいい。夏休みだから、思う存分ゲームで遊べばいい。
今日のところは、【試練十二階】を探索する予定を変更し、金色モンスターと戦いに行く。
二階には進まずに引き返してから、ジャパンステラに移動する。モンスターPKはされなかったのでラッキーだった。
さて、金色モンスターが多数出現するフィールドだが、【離星オキナ】にある。
沖縄県だろう。沖縄には、本州とは違った動植物が生息している。そこから、特殊な金色モンスターが生息する星としてあるのだ。
沖縄県をモチーフにした【離星オキナ】は、町が一つも存在しない。星全体もたいして広くなく、ダンジョンもなければボスモンスターもいない。
代わりに、星全体が金色モンスターの住処になっている。
町がないため、転移用のアイテムでは移動できない。別の星から宇宙船に乗って移動する。
この宇宙船も、一日に二便、朝と昼のみだ。
タゴサクたちは昼の便に乗れた。
宇宙船にはプレイヤーの姿が多い。金色モンスターが目当てだと思われる。
「あえて移動を不便にしてあるんだろうな。アイテムで転移できると、プレイヤーでごった返して、収集がつかなくなりそうだ」
「PKされたとしても、何度でも挑戦できるもんね。まあ、お金やアイテムを失うのは痛いけど」
アイテムでは移動できず、宇宙船の本数も少ない。
タゴサクもそうだが、今乗船しているプレイヤーたちが死んだ場合は、明日の朝まで【離星オキナ】には行けなくなる。
「わたしたちの中で、誰かが死んだ場合はどうするんですか?」
「俺とソーニャの時は、残った方はそのまま金色モンスターを狩り続けたな。合流はしない。死んだら自己責任だし、適当に時間を潰すってことだ」
「今回も同じでいいでしょ。死んだらそれまで。次頑張ってねって」
「いいの? ソーニャちゃんが死んじゃって、わたしだけが強くなるよ?」
「言うわね。やれるものならやってみなさい。イアだけが死ぬかもしれないわよ」
自信ありげな発言をするイアだが、誰がPKされて死ぬかは分からない。三人とも死ぬ可能性だってある。
熱い火花を散らしているうちに、宇宙船は【離星オキナ】に着いた。
プレイヤーたちは小島に降り立ち、宇宙船は帰って行った。
この小島だけは安全地帯になり、モンスターも出現しないしプレイヤー同士の戦闘もできない。
小島から別の場所に続く道がある。海の潮が引き、浅瀬になって通れる道だ。
プレイヤーたちは三々五々に散って行く。
タゴサクたちも続き、金色モンスター狩り開始だ。
「【虹ノ二番ハ橙々キ雨】!」
浅瀬を進んでいる時に出現した金色の魚のモンスターは、ソーニャに取られた。
「よっし、私が一番乗りね」
「負けないもん!」
イアはやる気になっているし、タゴサクも後れを取るつもりはない。
三人で別の小島に移動し、金色モンスターを探し求めてさまよい歩く。
あちらこちらでプレイヤーが戦闘している。金色のモンスターと戦っている人もいれば、プレイヤー同士で戦っている人もいる。
スキルや魔法、奥義が派手に飛び交う空間に、タゴサクたちも加わった。
プレイヤーに攻撃されない限り、こちらからは手を出さない。狙いはあくまでも金色モンスターだ。
小一時間ほど続けたが、思ったほどの収穫はない。タゴサクは一匹しか倒していなかった。
場所が悪いので移動する。
場所によって出現するモンスターが異なり、日によって出現率も変化する。効率的な狩り場を求めて移動するやり方だ。
三人で別の小島に行けば、なんだか揉め事が起きている雰囲気だった。
プレイヤー同士が戦うのはいくらでも見られる光景だが、様子がおかしい。二つのグループが争っている感じだろうか。
十数人ほどの男性プレイヤーがグループになっていて、他のプレイヤーは彼らに文句を言っていた。
タゴサクは近くにいるプレイヤーに話しかけてみる。
「何かあったんですか?」
「あいつらが、効率のいい狩り場を独占してるんだよ。だから文句を言ってるわけだ。どかないなら戦闘も辞さないってな」
「十人以上でパーティーを組んでいると?」
「パーティーっつうか、トキヒメ親衛隊だ」
頭を抱えたくなる単語が登場した。トキヒメ親衛隊とはなんぞや。
「そっちの子、トキヒメに似てるな? お前らも関係者か?」
「他人の空似です。私とあの人は無関係ですから。私は、男性を侍らせる趣味も下僕にする趣味もありません」
「そうか。無関係ならいいが、あいつらは親衛隊で、トキヒメにレアアイテムを献上するために入手したがってんだよ。八月末のPvPに向けて、女神様に強くなってもらうんだとさ」
トキヒメが彼らに頼んだとは思えない。親衛隊の暴走だろう。
タゴサクは、あとでメッセージを送ろうと考えた。親衛隊の暴走を伝えて対処してもらう。
親衛隊になど関わりたくないし、戦いたくもない。今は別の場所に行こうかと思えば、向こうがソーニャに気付く。
「ふむ、お前が噂の完全下位互換か?」
トキヒメ親衛隊の一人は、大勢の前でソーニャを完全下位互換呼ばわりした。
トキヒメを知るプレイヤーは、「確かに」とか「うまい」とか言っている。
ソーニャの神経を逆なでするには十分だった。
「誰が完全下位互換よ!」
「ブスとは言わんが、トキヒメ様の美貌には遠く及ばないな。だが、今は見逃してやる。トキヒメ様は、ご自身の手で完全下位互換を倒すとおっしゃっていた」
「あの女は……」
ソーニャの怒りが頂点に達しつつある。いつ奥義をぶっ放してもおかしくない。
が、ソーニャよりも先にキレたプレイヤーがいた。
「【裟ト斬リテ茶沙ト成ル】!」
刀を装備した男性プレイヤーが奥義を放ったのだ。
先日、ソーニャと戦い敗れた人だ。
「あなたは、あの時の?」
「黙って聞いてりゃ好き勝手言いやがって。俺は、この人に惚れたんだ! 一目惚れだぞ! バカにされるのは我慢できん!」
「は、はい?」
「この前戦った時から好きでした!」
「いや、こんな場所で告白されても困るんですけど……」
「では、こいつらを片付けてからゆっくりと! 再会できたのは運命です!」
「運命と言われても困ります……」
告白も唐突だが、奥義で攻撃されて親衛隊が黙っているはずがない。
トキヒメ親衛隊VS他プレイヤー。
乱戦が繰り広げられる運びとなった。




