七十九話 モンスターPK
タゴサクたちは、一日中【試練十二階】の探索を続けた。
中ボスの部屋は発見したが、倒して上に進むよりも、一階をくまなく探索する方を選んだ。宝箱を探したかったからだ。
おかげで一階のマップは全て埋まった。
罠に引っかかるトラブルはあったものの、他は順調だった。
今のレベルでは勝てない強敵は出現しなかったし、男性プレイヤーと出会ったが戦闘にはならずに済んだ。
穏便とは言えず、タゴサクは思い切り睨まれたが。
相手からすれば、コダるプレイヤーをPKしたいのに、三人相手では勝てないと判断したのだ。口惜しいが諦めたのだろう。
些細なトラブルを経験しつつ一階の探索を終えたので、ダンジョンを出て今日のゲームは終わりにするつもりだ。
探索の収穫だが、時間をかけた割にいまいちだった。
入口に引き返しながら本日の結果を話す。
「有用なアイテムを手に入れたのはイアだけか」
「わたしも、有用って言えるか微妙な線ですよ。大鎌の武器ですからね。使うかどうか悩みます。格好いい武器なので使いたい気持ちはありますけど」
「格好いい……か? 一周回って格好いいと言えなくもない?」
「イアの中じゃ格好いいんでしょ。私には理解できないけどね」
イアが入手した大鎌の武器だが、名前が酷い。【大虐葬送殺無塵】だ。
物騒な単語を適当に組み合わせましたと言わんばかりの名前である。センスがあるか問われれば首を傾げる。
「私には理解できなくても、それはいいわよ。イアが厨二病なのは今さらだしね。問題は、使えるの? イアのスキルは槍用が多くなかった?」
「そうなんだよねえ」
「【無限ノ槍ヨ刺シ穿テ】なんか、名前からして完全に槍用だよな」
スキルや奥義には、武器が限定されるものが少なくない。
初期に覚えた【全力】や【初心者潰し】なら、全ての武器で使用可能だ。近接武器は当然として、弓でもちゃんと使えるようになっている。
タゴサクの【流星衝】や【流星帝】は連続突きだが、これは剣、大剣、小剣、槍などで使える。突きを放てそうな武器で使用可能だ。
ミディーリが使っていた両手斧や、イアが入手した大鎌では使えない。
イアのスキルは【六芒連槍】や【七英連槍】のように槍とつくものがあるが、これですら槍限定にはならない。剣でも使える。
奥義の【無限ノ槍ヨ刺シ穿テ】になると、完全に槍専用だ。
「大鎌みたいにちょっと変わった武器は、汎用性が低いんですよ。ミドリちゃんの両手斧もそうです。ジョブを育てて、新しいスキルを覚えるじゃないですか。強そうなスキルでやったーって喜んでたのに、自分の武器じゃ使えなくてガッカリするとか、ざらにありますよ」
「だから、汎用性の高い剣が好まれるんだろうな。剣を使うプレイヤーが一番多い気がする」
「不遇武器が結構ありますね。ヴァイスさんの弓が最たる例です。弓使いなのにあそこまで強くなったのは尊敬しますよ。苦労も多かったと思います」
SOSでは、スキルや魔法に熟練度が設定されているが、各種武器にはない。
剣を使い続ければ剣の熟練度が上がり、剣用のスキルを覚える、といったメリットがないから厄介だ。
武器を変更しやすいとも言えるが、変更後の武器で使用できるスキルがなければまともに戦えない。新しいスキルを覚えるまでは苦労する。
店で基本的なスキルは買えるものの、強力なスキルになるとジョブで覚えるかモンスタードロップが中心になる。ドロップは不確実だし、弓なら弓使いっぽいジョブになってレベルを上げ、スキルを覚えるやり方だ。
「んで、結局武器は変えるのか? 変えないのか?」
「保留にしておきます。三人で戦うのもやりにくくなりそうですし、変えるとしてもソロの時専用ですね」
金色になれば金色の試合に出場するが、その時はソロで戦う。
金色の試合とパーティー戦で使い分けようというわけだ。
「俺は剣一本で育てる方がいいな。考えることが増え過ぎると頭が混乱する」
「考えるのが楽しいんじゃないですか。学校の勉強は嫌いですし、頭なんか使いたくありませんけど、ゲームで頭を使うのは好きです」
勉強で頭を使いたくないとは、高校生にあるまじき発言が飛び出した。
「ちょっと聞くが、イアの学校の成績は?」
「内緒です」
「下から数えた方が早いわね」
「なんで言っちゃうの! ソーニャちゃんのバカ!」
イアの成績は悲惨なようだ。
ソーニャやイアが通う高校は、まあまあ偏差値が高い。タゴサクが通っている高校も同レベルだ。
その分、勉強を疎かにすれば、授業についていけなくなる。
「ご両親から怒られてる姿が簡単に想像できるな。『ゲームばっかりして! 勉強もしなさい!』とか言われてるだろ」
「ちゅ、中学生の頃は頑張ってたんですよ。ゲームもしてましたけど、面白いのが少ないんです」
「年齢制限のせいで遊べなかったのか。SOSも十五歳以上だよな」
VRゲームはリアルに作られている。子供向けのほのぼのしたVRゲームならまだしも、戦闘があるRPGは教育に悪い。残酷な表現を抑えてあってもだ。
小中学生に遊ばせ、武器で攻撃して敵を殺すのが当然になってしまうと、現実でも同じ真似をする子供が出かねない。
よって、大半が十五歳以上、つまり高校生以上を対象としている。
十八歳以上対象のゲームも少なくない。
「受験生なのにゲームで遊ぶ俺に言えた義理じゃないが、勉強はちゃんとした方がいいぞ。俺と一緒に勉強するか?」
「サクさんのエッチ! 保健体育の勉強ですね!」
「言ってねえよ!」
「違うの? イアの家庭教師として勉強を教えるとか言い出して、イケナイお勉強も教えてやるぜ、的な考えじゃなくて?」
「……血のつながりってすげえな」
「お兄ちゃんの考えそうなことは分かるわよ」
ソーニャは誤解しているが、タゴサクが思い浮かべたのはトキヒメだ。
トキヒメも同じセリフを言っていた。家庭教師の先生とイケナイお勉強だと。
ゲームの話題から現実の話題まで、あれこれ雑談は続く。
雑談と雑魚モンスターとの戦闘を繰り返しながら歩いていれば、入口の扉がある部屋まできた。
そこには、今日出会った男性プレイヤーが待ち構えていた。
ダンジョンの入口は一ヶ所しかない。外に出るにはここを通る必要がある。
ダンジョン内でログアウトする可能性もあったのに、待っていたのだろうか。
町に戻り、宿屋に泊まってログアウトしなければ、回復ができない。入口に戻ってくる可能性が高いと予測はできるが、確実ではないのに暇人だと思う。
戦う気かと思って身構えていると、相手はスキルを使用する。
「【暗乱夢】!」
タゴサクも覚えている【暗乱夢】だった。モンスターを呼び寄せるスキルだ。
スキルを使った男性プレイヤーは、即座に塔を出て行った。
「あの野郎!」
何をやりたいか理解でき、タゴサクは毒づいた。
モンスターを使ってPKするつもりだ。
モンスターを誘導し、他のプレイヤーになすりつけてPKする行為がある。
モンスターPKと呼ばれる方法だ。昔のMMORPGでも存在していたと聞く。
男性プレイヤーは、スキル使用後すぐに塔を出て、アイテムで町に帰還するのだろう。そうすればモンスターに襲われずに済む。
タゴサクたちは大量に集まってくるモンスターに囲まれた。
突破しなければ外に出られないし、町にも戻れない。戦闘中はログアウトも不可能だ。
「ここまでするか? 自分でPKしなきゃ金やアイテムも奪えないのに、嫌がらせ以外になんの意味があるんだよ」
「まさしく嫌がらせをしたいんじゃないの?」
「結構いますよ。自分が勝てないと分かったら、嫌がらせに切り替える人って。ウケ狙いでふざけた行動をしたりもしますね。わたし、レースゲームで遊んだことがあるんですけど、コースを逆走したりわざと車をぶつけてきてクラッシュを狙ったり、レースを台無しにするバカな人がいるんです」
呑気に会話をしている間も、モンスターは続々と集まってくる。
十や二十ではきかない。百体近くのモンスターが部屋を埋め尽くしている。
弱いモンスターも多いが、タゴサクの知らないモンスターもいる。
馬に乗った漆黒の騎士。
体長二メートルはあるカマキリの化け物。
機械仕掛けのゴチャゴチャした奴。
全身真っ白で和服をはだけた色っぽい美女。
股間に棍棒を生やしたイケメン。
一部おかしなモンスターはいるが、見るからに強そうだ。
逃げられないし戦うしかない。もっとも、勝てるかどうかは未知数になる。
「お兄ちゃん、どうするの? バラける?」
「いや、固まろう。この数を回復なしで切り抜けるのは無理だ。フォローし合って全滅させるぞ」
三人パーティーの利点を最大限に活用する。
フォローし合い、回復しつつ戦うのだ。
回復を前提にして、SPやMPに糸目をつけず攻撃しなければ勝てない。
「【トリノライオン】!」
「【アースクエイク】!」
「【ブラックメテオ】!」
タゴサク、ソーニャ、イアの魔法で広範囲にダメージを与えた。
ここから、長い戦闘が始まる。
タゴサクは、ソーニャを気にしながらモンスターを屠っていく。紙装甲の彼女は乱戦に不向きだ。攻撃を食らえばHPを一気に持っていかれる。
分身を作り出す奥義【赤ヲ染メシ双ノ橙】を使ってはいるが、肩代わりしてくれるダメージにも限界がある。
「私じゃなくて、イアを気にしてあげなさいよ」
「んなこと言ってる場合か!」
空気を読まない発言をしたソーニャに突っ込んでおいてから、戦い続ける。
モンスターの数は確実に減らせている。最初に比べれば半分以下になった。
半分になっても残りは多いし、何より強敵ばかりが残っている。
「サクさん、まずいです! 回復アイテムを使い切りました!」
「私も残り少ないわ!」
一日中ダンジョンを探索していたため、準備したアイテムも消耗していた。
残り少なかったところに、モンスターの群れとの戦闘なので、タゴサクも残数が心許ない。
戦い続ければ、モンスターを全滅させる前にアイテムが切れて、回復できなくなり負ける。
「ランダム効果の奥義を使う! どうなるかは知らん!」
「お兄ちゃんらしい博打ね! いいわよ、やって!」
「サクさんを信じてあげます!」
「【災厄ニ耐エ希望ヲ待テ】!」
本日覚えたばかりの奥義を使用した。【脳髄祭】と【ワイルドカード】で覚えた奥義だ。
ギリシャ神話にあるパンドラの箱をイメージした効果になる。
箱を開けたせいで災厄に見舞われたが、閉じたパンドラの箱に最後に残ったのは希望だった。
これがパンドラの箱の逸話だ。
奥義では、使用者にいくつもの災厄が降り注ぐ。災厄に耐え、乗り越えた時、最後に残った希望となる効果が発現する。
災厄や希望の内容はランダムだ。災厄に耐え切れず、死ぬ可能性も高い。
まずは、タゴサクの武器が壊れた。
SPとMPがゼロになった。
毒や麻痺など複数の状態異常にかかった。
三度の災厄はあったが、死ななければ安い。なんとか耐え切った。
災厄に耐え切り、最後に残った希望。それは。
「【凍ル世界ニ生ハ無シ】!」
覚えていないはずの超強力な奥義を放てることだった。
SPやMPは消費しない。ゼロになっている今でも使用できる。
クールタイムも存在せず、連発可能だ。
「【凍ル世界ニ生ハ無シ】! 【凍ル世界ニ生ハ無シ】!」
生物が存在できない極寒の世界が訪れる。
モンスターは凍りつき、粉々に砕け散った。
地獄のような極寒の世界とは対照的な、氷が舞い散る美しい光景だ。
名前や効果からして青の奥義だろうか。鈍色のタゴサクでは、普通のやり方では絶対に使えない。
三度の奥義を放ち終えたところで、使用不可能になる。
災厄が三度なら希望も三度だ。必ず一致する。
最後に残った希望なのに複数回放てるのは、SOSにしては親切な設計だ。
災厄や希望の回数はランダムであり、奥義を覚えたての今なら一回から四回になる。
回数がランダムで、効果もランダム。ギャンブルが極まった奥義だ。
「すっご……ほとんど全滅させるとか」
「悪いが俺は限界だ。武器は壊れたし、SPとMPもゼロ。戦えないから残りは任せたぞ」
モンスターを全滅させるには至らなかった。
氷に強いモンスターなのか、単純に強いのか。
二体残っているので、ソーニャとイアに任せる。二対二でちょうどいい。
「【虹ノ二番ハ橙々キ雨】!」
「【無限ノ槍ヨ刺シ穿テ】!」
二人も疲れているが、力を振り絞り必死に戦っている。
実力的にはモンスターの方が格上っぽい。三人で一体と戦うなら勝てるが、一人では厳しい相手だ。
タゴサクの奥義三連発でいくらかのダメージを与えているので、ギリギリ勝てると思う。
「【ガーディアン】!」
ソーニャは、星宮ダンジョン【ゾディアック】のクリア報酬である魔法を使用した。
黄道十二星座を模した召喚獣になるのか。十二の召喚獣による十二連撃だ。
タゴサクとイアも覚えているが、あまり使ったことはない。なんとなく、魔法はソーニャだという印象があったからだ。
ソーニャの魔法で、馬に乗った漆黒の騎士が倒れる。
「【白ヲ斬リ裂ク闇】!」
次はイアは奥義だ。ヴァイスが使っていた【闇ヲ斬リ裂ク白】と対になりそうな名前である。
ヴァイスの【闇ヲ斬リ裂ク白】には苦しめられた記憶しかない。
タゴサクの最強(笑)の奥義である【全テヲ滅スル光】とぶつかり合い、手も足も出ずに敗れた。
同じ奥義ではないが、かつて苦しめられた敵が味方になったように感じる。味方になってくれれば非常に頼もしい。
イアの奥義で、雪女のような白い美女が倒れる。
これにてモンスターの群れは全滅だ。
一時はこちらが全滅しかけたものの、幸運にも恵まれて倒し切った。
モンスターPKされそうになった状況を切り抜けたのだ。




