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たった一つの輝くもの  作者: ともむらゆう
第4章 オーロステラ
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七十八話 てんやわんや

 コローレステラにあるダンジョン【試練十二階】に到着する。

 塔型のダンジョンであり、重厚な扉が入口になる。

 中に入れば四角い部屋になっていた。

 ダンジョンの構造自体は分かりやすい。四角い部屋がいくつもあり、通路でつながっているだけだ。

 罠に注意しながら進めばモンスターも出現した。

 非常に懐かしいモンスターが。


「【全テヲ滅スル光(ラグナロク)】!」

「【虹ノ二番ハ橙々キ雨(レイニーボウ)】!」

「【首カラ吹キ出ス黒流血(エグゼキューショナー)】!」


 奥義を使う必要などなく、剣を振れば倒せる相手だ。

 熟練度を上げたくて使ったが、モンスターがかわいそうになった。

 なにせ、相手はコモンステラで出現するモンスターだ。ゲームを始めて間もない初心者プレイヤーが戦うような雑魚だ。


「ゴールデンウィークを思い出すな。【全力(パワー)】すら覚える前、ソーニャと二人で、初心者丸出しの動きでレベリングしてた頃だ」

「私たちが弱かった頃よね。PKされまくってたわ。ここって、コモンステラからジャパンステラまでのモンスターが出現するんだっけ?」

「らしいな」


 ボスを除けば、【試練十二階】には目新しいモンスターは一切出現しない。

 まるで復習のように、コモンステラからジャパンステラまでのモンスターばかりが出現する。

 ただし、ジャパンステラには、レベル300や400のプレイヤーが戦うモンスターもいる。高難度ダンジョンに出現するモンスターだ。

 運悪く出会えば、死はまぬがれない。


 単純な実力だけではなく、運も関係する厄介な試練だ。

 運が悪ければ、中ボスよりも強い雑魚モンスターに囲まれて蹂躙されたりする。


「強いモンスターが出現しても困りますけど、コモンステラのモンスターでも困りますよね。経験値もドロップアイテムもおいしくありません」

「私は、害虫が出ないか不安よ。【モザイク眼鏡】があって本当に助かるわ」


 復習だから、害虫モンスターが出現する可能性もある。

 そして、復習はモンスターだけではない。罠もこれまでのダンジョンにあった物が登場する。

 よって、うっかり罠を踏んでしまえばこういったことも起きる。


「ごめん、ソーニャちゃん! 避けて!」


 イアの体が操られ、ソーニャを攻撃していた。

 スキルや魔法は使っていない。思考はクリアなままだし、スキル名を唱えなければ発動しないからだ。

 槍で鋭い突きを繰り出しているだけだが、和装で紙装甲のソーニャではそれすら脅威になる。


「お兄ちゃんもいるのに、なんで私を狙うのよ!」

「わたしも知らないよ! 体が勝手に動くの!」

「こないで! 【打杖(ホームラン)】!」


 スキルでイアを吹っ飛ばすが、ダメージはほとんどないせいで、ちょっとした時間稼ぎにしかならない。すぐさま体勢を立て直してソーニャを攻撃する。


「レベルは俺よりソーニャの方が上だよな? 防御力の低いプレイヤーを優先的に狙うアルゴリズムになってるのか?」

「お兄ちゃんは、冷静に考察してないで助けて! イアは攻撃できないし、避けるのもキツイの!」

「システムのアシストで、最適な動きを再現してるってところか」


 助けたいのはやまやまだが、タゴサクだって迂闊に近寄れない。

 スキル使用時はシステムのアシストを得られるし、マンガのキャラクターのように派手な動きを披露できる。

 アシストがなければ、戦闘経験などない普通の高校生だ。

 ステータスのおかげで現実よりもいい動きはできるが、イアはアシストを得ているし、とても太刀打ちできない。


「どうやって止めりゃいいんだ?」

「動きを封じる魔法は!? 【シールドロック】ってやつ!」

「入れてないんだよ。他のも攻撃用ばっかで、イアを倒さずに無力化できそうな技がない。ソーニャこそ、なんかないのか?」

「あれば使ってる! 【打杖】で無理なら他にないのよ!」

「ごもっとも。どうすっかな」

「今だけは特別に許可するから、イアに抱きついていいわよ! 力づくで押さえ込んじゃって!」


 我が身可愛さから、親友を売るソーニャがいた。

 イアに抱きついて、力づくで押さえ込む。

 それならば、謎のスケベパワーを発揮し、生身でシステムを凌駕できそうな気がするタゴサクだった。

 まあ、ただの錯覚だろうが。


「ソーニャはこう言ってるが、イアはいいか? 俺はぶっちゃけ抱きつきたいし、許可さえもらえれば抱きつくぞ」

「サクさんに押し倒されるのは嫌です! わたしがサクさんを押し倒すのはありですけど! 天井のシミを数えてる間に終わります!」

「それは男のセリフだぞ? てか大胆だな」

「男女平等です!」


 テンパっているのかなんなのか、イアは大胆な発言をした。

 男としては押し倒したいが、好きな子に押し倒されるのもありかも。

 そうやって考えてしまうあたり、タゴサクが教育されている証拠だ。


「お兄ちゃん! アホなこと言ってないで助けて!」

「分かった分かった。ランダム効果の魔法はあるが、一か八か使ってみるか? 何が起きても責任持たないぞ。それでもよければ」


 攻撃用のスキルや魔法で枠が埋まっている中、状況を打破できそうな唯一の魔法がランダム効果の【ワイルドカード】だ。

 何が起きるか不明だし、余計に悪化する可能性も高い。賭けになる。


「私はオッケー!」

「わたしも構いません! 怒らないので使ってください!」

「んじゃあ、【ワイルドカード】!」


 久方ぶりに【ワイルドカード】を使用した。

 何が起きるかと思っていれば、イアが盛大にすっ転んだ。

 敵を転ばせる効果のようだ。普通の戦闘なら致命的な隙になるし、ここで攻撃を加えて倒せる。

 今はたいした意味がない。イアはすぐに起き上がり、ソーニャに攻撃する。


「意味ないじゃない!」

「ランダムだからしょうがないだろ。悪い効果が出なかっただけマシだ」

「もう一回!」

「再使用できるようになるまで待て。【打杖】を使って時間稼ぎだ」

「【打杖】!」


 イアはカッキーンっと吹っ飛ばされる。

 タゴサクには転ばされ、ソーニャには吹っ飛ばされと散々だ。


「サディストな兄妹です! わたしをボールにして遊んでます!」


 サッカーやろうぜ。お前ボールな。

 のようなギャグを見たことがあるが、それを再現した状況だ。


「操られてる方が悪いでしょうが! 奥義使うわよ!」

「わたしだってやり返すもん!」

「ガチで戦うのか? 俺の魔法はどうする?」

「使えるようになったなら使って!」

「【ワイルドカード】!」


 てんやわんやの状況の中で、二度目の【ワイルドカード】を使用した。

 今回は、見た目上は何も起きない。


「失敗だな。俺のHPが半分になってる。自分のHPが半減して、その分敵を回復させるハズレの効果だ」

「お兄ちゃんの役立たず! 【打杖】!」


 ソーニャの【打杖】は弱いスキルだからか、クールタイムも短い。何度もイアを吹っ飛ばしている。

 タゴサクの【ワイルドカード】はあてにならないし、このまま罠の効果が切れるのを待つ方がよさげだ。

 一応、三度目の【ワイルドカード】も使ってみたが状況は改善しなかった。

 イアは思い切り暴れ回り、ソーニャは少なくないダメージを負って、しかし死にはせず乗り切れたのは幸いだ。


「やっと効果が切れた。疲れたよ……」

「疲れたのはこっちよ」

「二人ともお疲れ。これから注意するとして、俺は魔法を入れ替えとくよ」


 動きを封じる【シールドロック】を入れておけば有効だ。

 スキルや魔法の入れ替えはメニュー画面から簡単にできる。

 タゴサクは入れ替えるためにメニュー画面を操作する。


「お? ラッキー」

「今のでラッキーなことあったの?」

「【ワイルドカード】の熟練度が最大になった。しかも、奥義まで覚えたぞ」


 タゴサクは、既に熟練度が最大になっていた【脳髄祭(ブレスト)】と、今最大になったばかりの【ワイルドカード】で奥義を覚えていた。

 ついでだし、新しい奥義も入れてみる。【シールドロック】も入れ、スキルも入れ替えておいた。


 トラブルはあったがダンジョン探索を再開する。

 モンスターや罠がオールスターになっているダンジョンは、宝箱の中身も同様にオールスターだ。当たり外れが大きい。

 コモンステラの【テイヘーンの村】、すなわち初期の村で売っている剣を入手した時など、なんとも言えない気持ちになった。


「懐かしくていいとは思えないな」

「しょぼくても、お兄ちゃんの番は終わりだからね。次はイアよ」

「もしもですけど、わたしが強い剣を入手したらどうします? サクさんが強い槍を入手する可能性もありますよね? 交換しますか?」

「アイテムの譲渡はしないってルールを破るかどうか……その時になってから考えればいいんじゃないか? どうしても欲しけりゃ金を払って買うとかさ。ソーニャがサンサンさんから【モザイク眼鏡】を買ったみたいに」


 アイテムを譲渡しないのは、三人で決めたルールだ。破ったところでペナルティはない。

 好きに譲渡でも交換でもすればいいが、気持ちの問題だ。


「三人パーティーって、便利なのか不便なのか分からないわよね。モンスターの経験値も宝箱のアイテムも、単純計算で三分の一になる。でも、三人でいれば効率よく進められたり強いモンスターに勝てたりもする」

「今だって、【試練十二階】にくるよりも、色専用の星に行く方がいいよね。強い装備が手に入りやすいよ」


 三人でパーティーを組み、メリットはあるがデメリットもある。

 が、それはさして重要ではないと思う。


「三人で遊べば楽しい。これ以上に重要なことがあるか?」

「キザ」

「今日は真面目モードのサクさんでしたね。キザですけど」


 二人にはからかわれたが、タゴサクの本心だ。

 いくら効率がよかろうと、メリットが大きかろうと、一人でゲームを遊んでもつまらない。一人で遊ぶのが好きな人はいるだろうが、タゴサクはそういうタイプではない。


「というか、私がいてもいいの? イアと二人きりになる方がよくない?」

「変な遠慮はするな」

「ソーニャちゃんも一緒だよ。わたしのお婿さんだもん」

「その設定、まだ続いてたのね」


 お婿さんは冗談としても、ソーニャをのけ者にする気はない。

 現実も含めて、四六時中三人だと困る。

 仮にイアと付き合える未来があれば、二人でデートをしたい。恋人同士がするアレやソレもやりまくりたい。

 そこに妹のソーニャ入るのはあり得ないが、ゲームは三人で遊べばいいのだ。

 と、柄にもなく真面目な話をしたはいいものの、真面目な空気は長く続かない。


「イア! そこ罠だ!」


 タゴサクの警告はわずかに遅く、イアは罠を発動させてしまった。

 今回も体が勝手に動く罠であり、ソーニャに襲い掛かる。


「またか! 私に恨みでもあるの!?」

「わたし、これ知ってるよ。マンガでよくあるやつで、天丼だよね!」

「こんな天丼はお断りよ! お兄ちゃん!」

「おう! 【奴隷創造(スレイブクリエイト)】!」


 タゴサクが使用したのは、入れ替えたばかりのスキルだ。

 敵を奴隷にする効果がある。奴隷は攻撃の一切を禁じられてしまい、主に危害を加えられなくなる。

 攻撃不可能になるため、ソーニャにも攻撃できない。


 使ったタゴサク自身、決まるとは思っていなかった。

 モンスター相手に何度か使った経験はあるが、成功確率が極めて低いスキルなので一度も成功したことがない。本当に成功するのかと疑ったほどだ。

 成功しないスキルなど使い道がなく、ずっと外していた。

 今回、久しぶりに使ってみれば、まさかの初成功だ。

 イアの動きが止まり、攻撃できなくなる。


「なんてスキルを使ってるのよ。素直に【シールドロック】にすればいいのに」

「サクさんはエッチです! わたしを奴隷にしてナニをする気ですか!」

「深い意味はなくてだな。【教祖(グル)】のジョブで覚えたはいいが、ほとんど使ったことなかったし、今回が使い時かなと思った。失敗すりゃ【シールドロック】を使えばいいわけで、デメリットもないからな」

「使い時ってなんですか!? わたしにエッチなことするんですね! 飼い犬に手を噛まれる状況です! サクさんは猫ちゃんですけど!」


 てんやわんやの状況再びだ。

 イアは「お嫁に行けなくなります!」とか「ご主人様はわたしです!」とか好き放題言いまくっている。

 生意気なので、これは下剋上のチャンスだろうか。


「マジでやってやんぞコラ。シシサクになって、黒ずんだぶっとい棒状のモノを口に突っ込むぞ」

「変態さんがいます! ソーニャちゃん、助けて!」

「お兄ちゃんが変態なのは事実だけど、どうせ口だけよ。やる度胸はないし、やったらアカウント削除になるしね」


 アホな会話をしていれば、タゴサクにメッセージが届く。

 差出人はトキヒメだ。オーロステラで会って以降、たまに届くようになった。

 内容は他愛もない雑談だ。必ず「兄さん」と「妹」の文言が入っているのが特徴だろうか。

 今日に限っては、タイミングがピッタリだった。


『兄さんと因縁のあるアキオーダックって男性プレイヤーが、昨日アカウント削除になったわよ。セクハラのやり過ぎで三度の警告が累積したの。妹として伝えておこうかなって』


 タイミングがよすぎて、また覗いているのかと疑ってしまった。


「メッセージ? 誰からだったの?」

「知り合いのプレイヤーだ。ソーニャは、アキオーダックって奴を覚えてるか?」

「あの変態セクハラ野郎? お兄ちゃん、あいつと連絡取ってるの?」

「アキオーダックからのメッセージじゃないぞ。あいつに関係する内容だ。セクハラのやり過ぎでアカウント削除になったとさ」

「いつかはなりそうだったし、よかったんじゃない? 変態セクハラキモ眼帯野郎がいなくなるのはいいことよ。お兄ちゃんもセクハラには注意してね」

「やらないっての」


 イアへの言葉はただの冗談であり、セクハラをしようとは思わない。

 そのイアは、妄想の世界に旅立っている。口から微妙に漏れているが、放送禁止用語の連発だ。エロ系のフィクションでしか耳にしない単語が出ている。


「俺の好きな子が、耳年増になっていく……」

「ドンマイ、お兄ちゃん」


 何度でも言うが、てんやわんやだ。

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