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たった一つの輝くもの  作者: ともむらゆう
第4章 オーロステラ
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七十一話 天才でもアホな妹

「トキヒメさんの事情は分かった。俺をここに呼んだのはなんでだ? オンリーワンがないはずのSOSで、俺限定のシークエンスとか言われたが」

「本来は、女神の情報を集めていけば、オーロステラにたどり着くようになってるの。管理AIのポンちゃんに会ったでしょ。他にもミニとかエッセイとかキーコとかがいるけど、彼女たちが女神を演じてプレイヤーに力を与えるって展開ね。複数人いるのは、複数のプレイヤーが同時に訪れても対処できるようにってこと」


 ポンちゃんに与えられている基本的な役目は、女神ではないと言っていた。

 普段は管理AIだが、プレイヤーが訪れた時のみ女神を演じるわけだ。

 女神がプレイヤーに与える力とは、おそらく。


「金色か」


 オーロステラなので、金色になれる。

 そう考えるのが自然だ。


「正解。私もね、兄さんを特別扱いする気はなかったの。兄さんたちがSOSを始めたことは知ってたわよ。これでも開発者だし、プレイヤー情報も好きに閲覧できるから、こっそりとチェックしてたわ。会話ログを覗き見したりね」

「プライバシーの侵害だ!」

「兄妹だしいいじゃない。他の人にはやらないわよ」

「兄妹でもダメだっての。今までやった分は仕方ないとして、今後はやめてくれ」

「はーい」


 トキヒメは可愛らしい返事をした。

 素直で助かる。今後はタゴサクのプライバシーが守られそうだ。


「特別扱いする気はなかったけど、兄さんが女神の情報を集めて、オーロステラにきてくれないかなって思ってたの。会いたかったし話をしたかった」

「別に、そっちから俺に会いにくればいいじゃん」

「囚われのお姫様が、自分から王子様に会いに行ってどうするのよ。王子様が助けにきてくれるのが定番でしょ」

「誰が囚われのお姫様だ。誰が王子様だ」


 少なくとも、タゴサクは王子様という柄ではない。

 トキヒメならお姫様役も似合うが、タゴサクではギャグにしかならない。

 知り合いの中では、シンガーは王子様然としていた。彼なら似合う。

 タゴサクは、お姫様にセクハラをして、王子様に退治される役目だろうか。

 自分で想像していて悲しいが、こちらは実に簡単に思い描けた。ピッタリな配役である。


「私は待ってたわけだけど、兄さんは私を助ける前にSOSをやめるって言い出したでしょ。王子様が、お姫様を助ける役目を放り出してどうするの」

「天才かもしれんが、意外とアホだな」

「女の子は、みんなお姫様よ」

「お姫様だから、プレイヤー名もトキ『ヒメ』ってか? 漢字も当ててたよな?」

「永遠の姫で永姫(トキ)、氷の姫で氷姫(ヒメ)。合わせて永姫氷姫(トキヒメ)ね。可愛いでしょ! 最高の名前だと思ってるわ!」


 この残念なネーミングセンスは、タゴサクと兄妹っぽい。

 ソーニャ一人が常識人であり、変人二人に囲まれて頭を抱える場面を想像してしまった。

 まともなのはソーニャのはずが、数の上では二対一と不利なので勝てない。

 兄妹三人の間で、ボケとツッコミの応酬が繰り広げられるだろう。

 バカバカしいが、それはきっと温かな一幕だ。


「一緒に育ってきたソーニャじゃなくて、俺とトキヒメさんのネーミングセンスが似てるのか。変な話だ」

「血のつながりは侮れないわよね。話を本筋に戻すと、このままじゃ兄さんに会えなくなるし、特殊シークエンスを準備して無理矢理招いたの。申し訳ないけど、金色にはできないわよ。なりたければ女神の情報を集めて、正攻法で訪ねてきて」

「いや、俺はやめるんだぞ」


 オーロステラにきたせいでうやむやになっているが、【星樹の涙】は入手できるはずだ。

 変態三十路ショタコンに【女神の秘薬(エリクサー)】を作ってもらい、皇女殿下に渡してクエストクリア。皇帝陛下に認められてジャパンステラを脱出だ。

 脱出後は、ヴァイスやナンパと戦って、ゲームは終わりとなる。

 タゴサクは予定を立てているが、トキヒメは予定を乱す発言をする。


「引退は、もうちょっと延期できない? 夏休みが終わるまでは続けて欲しいな」

「続けない。そりゃ俺だって遊びたいさ。好んで勉強する優等生じゃない。だが、遊べば勉強時間が激減するし、受験にも失敗する。夏休みにゲーム三昧の受験生とかあり得ないだろ」

「私のために続けて。可愛い妹のために」

「『妹のためにゲームしてるんだ』とか言い訳にしか聞こえないだろ」


 嫌ならゲームをやめればいい。受験勉強に集中すればいい。

 妹のためだろうと、ゲームを続ける時点でタゴサクの責任になる。

 物好きな人間でもない限り、勉強は嫌だ。ゲームで遊ぶ方が楽しい。

 妹をだしにして嫌な勉強から逃げ、ゲームで遊んでいるとしか受け止めてもらえなくなる。


「もしも受験に失敗すれば、『妹のためにゲームをしたせいだ』ってか? んな無責任な話があるかよ」

「頑固ねえ。イアって子が言ってたけど、兄さんはたまに真面目になるわ」

「頑固で結構。俺は引退する」

「夏休みに、SOSでは大規模なイベントを実施する予定なの。せっかくの夏休みだからってことで」


 イベントには興味を惹かれるが、タゴサクが続ける理由にはならない。

 決定を変更する気はないのに、トキヒメは話を続ける。


「女神とオーロステラの情報を、全プレイヤーに解禁するわ。金色のプレイヤーがいつまでたっても誕生しないから、そろそろ解禁しようって話になってるの」

「頑張ってくれ」

「プレイヤーには女神を探し求めてもらう。オーロステラを目指し、金色になってもらう。八月三十日と三十一日には、二日間かけてPvP大会よ。金色になって強くなったプレイヤーを集めてのお祭り騒ぎ」


 プレイヤーVSプレイヤーでPvPだ。

 プレイヤー同士の対戦を大々的に行うと言っている。

 これもやはり、タゴサクには関係ない。


「私も出場する予定なの。兄さんと戦いたいなあ、とか」

「大会じゃなくても戦えるだろ。戦いたいなら相手になる。俺が勝てるとは思えないが」


 トキヒメはトッププレイヤーの一人だ。具体的なレベルは知らないが、ナンパやヴァイスよりも高レベルに違いない。


「私のレベルは754よ」

「勝てるか! てか、他のプレイヤーだって勝てないだろうが! 開発者が出場して優勝をかっさらってく気かよ!」

「そう言われると思ったから、趣向を凝らすの。メインイベントは金色同士の試合になるけど、他のプレイヤーが参加できる試合も組むわ。金色以外のプレイヤーに限定した試合とか、レベル200以下のプレイヤー限定とかね。パーティー戦もあるわよ。三人パーティーでの参加を受け付ける予定」


 パーティー戦まであるとは思い切ったものだ。

 協力プレイをコダると揶揄し、ソロ前提になっているゲームなのに、公式イベントでコダることを推奨する。従来のSOSとは相容れないイベントだ。


「他のはともかく、パーティー戦は反感を買うんじゃないか?」

「平気よ。公式では、最初からパーティーを禁止してない。システム的には組めなくても、協力して遊ぶのは認めてる。本気でソロ前提にするなら、他人にアイテムを譲渡するアイテムだって実装しないわよ」

「理屈が通じるプレイヤーばかりじゃないと思うぞ。ソロだから、他人を蹴落とせるからって理由でSOSをやってる奴は多いはずだ。そういった連中は、裏切られたって考える。炎上して大問題に発展しても知らんぞ」


 イベントは、ユーザーを楽しませ、これからもゲームを続けてもらうために実施するものだ。

 SOSはこんなにも面白いゲームですという宣伝にもなるし、新規ユーザーの獲得も見込める。

 イベントでユーザー離れを引き起こすなど本末転倒だ。


「私は、いつまでもプレイヤーを甘やかさない。輝いてもらいたい。パーティーが正義でソロが悪とは言わないわよ。コミュニケーション能力で劣っても、他の分野で秀でて輝く人もいる。偏屈な芸術家とかが典型的よね。秀でてるならいいけど、これといった能力はないし、でも他人と関わるのも嫌とかふざけてるの? 甘ったれるな。私は、現実で苦しむ人を愛するけど、甘やかしはしないわ」

「母親みたいだな」

「まさにそんな気分よ。出来の悪い子ほど可愛いって言うでしょ。こんなことは公言しないけどね。表向きは、お祭りイベントだからってことにしておくわ。レベルに関係なく参加できるようにしたいって」


 イベント限定だから、コダっても許せるか否か。

 プレイヤーの反応は未知数だが、やると言っているしやればいいかと思う。

 考えなしに決めたとは思えない。タゴサクと同じ懸念を抱く人もいる。

 それでもやる価値がある、勝算があると判断した。


「やってみりゃいいのか。面白い試みだしな」

「案外受け入れてもらえるんじゃないかなって思うわよ。ネットの掲示板だとみんな仲良しだしね」

「やるのはいいが、ネットと一緒くたにするのはどうだろ。ネットは匿名だし、言いたい放題言えても、現実じゃさっぱりって人も多い」

「ダメならダメで、他の方法を考えるわよ。イベントはこんな感じね。兄さんも参加してくれない? 金色になってもよし、三人でパーティー戦に参加してもよし。きっと楽しいわよ」

「楽しそうなのは同意するが、引退を撤回するほどじゃないな」


 最後まで聞いても、タゴサクは引退する気でいた。

 楽しそうだとは感じるし、参加もしてみたいが、そんなことを言い出せばいつまでたってもゲームをやめられない。


「本当に頑固。仕方ないわね。それじゃあ、ご褒美と罰でどう? 八月中まで続けてくれたらご褒美をあげるし、続けずにやめちゃったら罰を与える」

「一応聞くが、内容は?」

「ご褒美は、私が勉強を教えてあげる。兄さんの家庭教師ね。日本の高校生レベルの勉強なら、余裕で満点取れるわよ。ついでに、家庭教師の先生とイケナイお勉強もしちゃう?」

「説明下手なのにできるのか? 名選手は名監督にあらずってよく言われるぞ」


 トキヒメが満点を取れるとしても、家庭教師として優秀とはならない。

 天才だから、タゴサクがなぜ理解できないかが理解できない事態に陥りそうだ。


「イケナイお勉強の方はスルー? 兄さんはエッチだし、巨乳好きでしょ?」

「実の妹なんだろ? 妹としては見れないが、手を出せるかっての。俺はイアが好きだしな」

「猫になってるくらいだものね」

「なんで知って……覗き見してたからか」

「ええ、覗いてたわよ。ついでに、こんな物もあったりするんだけど」


 トキヒメは写真を取り出して、思わせぶりにピラピラとひらめかせる。

 嫌な予感しかしない。


「見る?」

「見たくないが見る」


 写真を見れば案の定だった。

 イアにもふられているネコサクの写真である。

 しかも、ネコサクの表情がまずい。ア○顔一歩手前になっている。

 イアはイアで恍惚の表情だし、どこからどう見ても怪しいプレイの現場を押さえた写真だ。


「これが罰ね。ばらまいちゃおっかなあ」

「性格悪っ! やめてくれよ! シャレになってねえ!」


 こんな物をばらまかれた日には、タゴサクは社会的に死ぬ。


「兄さんが、私のお願いを聞いてくれないから悪いの。愛に飢えるかわいそうな妹なのよ。もっと愛して。可愛がって」

「愛ならたっぷりもらってるだろうが。女神として男から崇められてるんだろ?」

「違うの! それは違う! あれは私も誤算だったの!」


 常に余裕の態度を崩さなかったトキヒメが、妙に慌て始めた。

 よほど触れられたくない部分なのだろうか。


「私は、それこそ母親が子供を守るイメージでいたの。みんなが夢中になったのは誤算なのよ」

「変な部分でアホだな。ちょっと考えりゃわかるだろうが。昔はアイドル業もしてたんだろ? 男の反応も知ってるはずだ」

「アイドルは、両親の意向だったの。私の才能を買って子供にしたけど、容姿も優れてるから、そっちでも少し売ってみようかって。勉強しかできない頭でっかちな女よりも、なんでもできる女の方がいい。価値が高いって。清流院の価値を高めるためにアイドルになったのよ」

「やりたくてやったんじゃないと?」

「無責任な言い方になるけど、そうね。売れっ子になる気はなかったし、なっても困る。私の本業は研究職だもの」


 人気が欲しくても得られない人がいるのに、贅沢な話だ。


「森田ウニを助けたのは?」

「ウニ先輩は、私によくしてくれた人だから好きだったの。助けたかったし、本気でアイドルをやってない私がクビになって助けられるなら問題なかったのよ」

「ウニ……先輩?」

「私の方が年下よ。芸歴も浅かったし、私が後輩になるわ」

「そういやそっか」


 トキヒメと会話をしていると、十五歳であるという事実を忘れそうになる。

 日本なら高一であり、森田ウニよりも年下になるのは間違いない。


「森田ウニの話は横に置くが、女神として崇められたのは誤算だって?」

「誤算よ。大誤算。女神ニフナジュレタの設定を作ったと思えば、まさか私が女神になるとか皮肉な話よ」

「愛されて万々歳じゃないのか?」

「愛されたいけど、恋愛感情はちょっと違うのよ。家族愛とかが欲しいの。男は下僕だって公言すれば愛想を尽かされるかと思ったのに、全然効果なくて……なんでこうなるのって思ったわね」

「んで、そのまま女神に、か」

「私だって、女神扱いが恥ずかしいって気持ちはあるからね。兄さんもできるだけ触れないで」

「俺を脅すくせに、自分の黒歴史には触れられたくないって? わがままな」

「妹は、兄にわがままを言ってもいいの。妹の特権よ」


 先ほどから、しきりに「妹」を強調している。自分は妹だと。

 タゴサクの呼び方も「兄さん」のまま変えないし、兄と妹の関係にこだわりがあるようだ。


 愛するから、愛して欲しい。家族の愛情に飢えている少女だ。

 普通に明るい性格で暗さを感じさせないが、もっと歪んでいてもおかしくない経験をしている。

 そんな少女の頼みを聞くかどうか。


「ああもう、分かったよ。兄として、妹の望みを叶えてやる」


 このままやめたら寝覚めが悪い。妹と思うのは無理だが望みを叶えてあげたい。

 写真をばらまかれるのも困る。イベントも楽しそうだ。

 様々な思いがあり、タゴサクは前言を撤回する。


「引退するのは八月末まで延期だ。イベントにも参加する」

「本当!? ありがとう、兄さん!」

「はあ……ソーニャとイアになんて説明しよう。やめるやめるって言ってきて、今さらやっぱやめませんとか、ダサいにもほどがある」


 トキヒメの正体は明かせないし、ちょうどいい理由が見つからない。


「兄さんに、表向きの理由をあげるわ。ソーニャにこう伝えて」


 トキヒメの口から出たのは、ソーニャの神経を逆なでするセリフだった。

 伝えるのが怖い。


「なんでまた、そんなことを?」

「双子の妹とじゃれ合ってもいいでしょ。あなたの姉ですって名乗り出る気はないけど、ちょっとした姉妹喧嘩ね」

「ソーニャの方が妹なのか?」

「兄さんの妹であり、ソーニャの姉でもある。姉と妹、両方の立場を味わえてお得でしょ」


 産まれた順番などではなく、トキヒメらしい理由だった。


「イベントが楽しみだわ。兄さんは、他に聞いておきたいことある?」

「森田ウニが、ユメって名前でSOSをプレイしてるのは知ってるか? トキヒメさんに会いたがってたぞ」

「知ってるわよ。そうね、ウニ先輩にも伝言を頼もうかな。私に会いたければ、イベントに参加してって」

「すぐに会ってやればいいのに」

「私に会っちゃうと、目的達成でSOSをやめそうだからね。せめてイベントまでは続けて欲しいの。兄さんがいてくれて、妹と姉妹喧嘩ができて、大好きな先輩にも会える。私にとってかけがえのないイベントになるわ」


 楽しそうにするトキヒメを見ていると、引退を撤回してよかったと思える。

 受験勉強は不安だが、なんとかなると考えよう。

 なんとかなるはずだ。きっと。おそらく。多分。

 なってくれればいいなあ、と。

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