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たった一つの輝くもの  作者: ともむらゆう
第4章 オーロステラ
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六十九話 兄と妹

 タゴサクは、ジャパンステラを脱出するために、【女神の秘薬(エリクサー)】というアイテムを入手しようとしていた。

 そのはずが、全く別の星に移動することになった。

 オーロステラ。金色の星。

 どのような場所であり、何が待ち受けるのかドキドキしていたが。


「なんつうか……普通?」


 町に転移したが意外と普通で、感想に困る場所だった。

 典型的な中世ヨーロッパ―風のファンタジー世界とでも表現すればいいのか。

 あくまでも中世ヨーロッパ「風」であって、地球にあった本物の中世ではない。マンガやアニメ、ゲームなどに登場する、なんちゃって中世ヨーロッパだ。


 町は清潔に保たれている。糞尿が散らばっていたりはしない。

 石畳によって整備された大通りがあり、NPCが行き交う。格好は西洋風の金属鎧が多いが、シャツにズボンといった普通の服装の人もいる。

 空を見上げれば青空だった。コモンステラのように紫の空ではない。


 よくも悪くも普通なのだ。特筆すべき点が何もない。

 現代の日本にこのような町があれば驚くが、RPGの世界ならいくらでもあると思える。

 タゴサクの貧困な想像では、天国のように美しい場所かと考えていた。

 あるいは、どこもかしこも金ピカで、目が痛くなる世界か。


 町やNPCを観察するのもいいが、ずっとこのままでいても仕方ない。

 だが、どこに行けばいいのやら。

 途方に暮れていると、一人の女性NPCが話しかけてくる。


「タゴサクさんですよね? オーロステラにようこそ」

「女神様?」

「ワタシは女神ではありません」

「いやだって、その外見」


 女性NPCの外見は、女神ニフナジュレタそのものだ。似ているというレベルでは済まず、瓜二つになっている。


「外見は女神ニフナジュレタになっていますが、与えられている基本的な役割は女神ではないのです。Solo(ソロ) Oro(オーロ) Stella(ステラ)の世界を管理するAIです」

「世界の管理? 人手で全部やるのは不可能に近いですし、AIが担当してても不思議じゃないですが」


 SOSほど大規模なVRMMORPGを、人間だけで全て管理するのは現実的ではない。よほどの人数と人材をそろえれば可能だが、膨大なコストがかかる。

 今の時代は、どこもかしこもAIによる自動化だ。

 ゲーム業界だけが例外になるわけがない。


 彼女の言葉が真実だとするなら、ここはSOSの世界であってSOSの世界ではない。管理ルームやデバッグルームとでも呼ぶべき場所だ。

 一般のプレイヤーは、決して足を踏み入れない。


「管理者がいる世界が、どうして中世ヨーロッパ風なんです? ここにいるNPCたちはみんな管理者なんですか?」

「殺風景では寂しいとマスターが言いまして、町を作りました。特別な意味も役目もありません」


 管理者のAIを統括する人物がマスターだろう。

 マスターの正体は一人しか考えられない。


「町にいるNPCに役目がないなら、NPCの管理者はあなただけだと?」

「ワタシは管理者の一人ですね。ワタシ以外にも何人かいます。AIを『人』と表現してもよければ、ですが」

「ややこしいんで、人とさせてもらいます。できれば名前も教えてもらえると助かりますね」

「これは失礼しました。マスターからは、ポンコツオトメと呼ばれております。どうぞ、気軽にポンちゃんとお呼びください」

「ポンコツオトメって……いじめ?」


 悪意を持って名付けたとしか思えない名前だ。

 まともな名前はいくらでもあるのにポンコツオトメ。

 ネーミングセンスが常人とは違うタゴサクですら、酷いと感じた。


「いじめではありません。ワタシのマスターは、タゴサクさんと同じですよ」

「ネーミングセンスがない人間だと?」

「はい。他の管理AIも、ミニスカムスメ、エセイジョ、BLスキーコなどなど、バラエティーに富んだ珍妙が並んでおります」

「後ろになればなるほど酷いですね」


 ミニスカ娘辺りは、まだしも理解できる。

 エセイジョは、エセと聖女を合体させた名前だろう。

 BLスキーコは、男同士の恋愛、いわゆるボーイズラブが好きな子か。


「この三人を呼ぶのでしたら、ミニ、エッセイ、キーコでお願いします」

「覚え切れれば。俺の記憶力には、あまり期待しないでください。にしても、SOSに変な名前が多いのは、もしかして」

「お察しの通り、考案したのは九割方マスターですね。残りの一割は、マスターに影響されて悪ノリした方々が考えました。マスターのセンスには遠く及びませんでしたが」


 及ばない方がいい。明らかに負の方向のセンスだ。


「ひっでえな」

「割と常識人ですよ。BLスキーコの名前を見ればご理解いただけるかと思いますが、ホモスキーコにはなっていません。ホモは差別用語なのでBLです。他でしたら、【チンチマーニの町】は【チ○チ○マーニの町】にはなっていません。『ン』の文字は一つしかないので、チ○チ○ではないと言い張れるのです」

「それは常識人とは言いません」


 タゴサクは力強く断言した。

 これを常識人と言ってしまえば、世の中の常識人が迷惑を被る。素直に変人と呼ぶべきだ。


「はあ……ここ最近、突っ込んでばかりの気がします。俺はどっちかっていうとボケなんですよ。セクハラ発言をして突っ込まれるのが俺です」


 NPCにしても意味がない愚痴をこぼしてしまった。


「タゴサクさんらしいですね。マスターに似ています」

「セクハラ発言が多い人なんですか?」

「欠点の多い人です。ネーミングセンスに限らず、数多くの欠点があります。タゴサクさんもそうではありませんか? セクハラ発言などしなければいいのに、ついしてしまうのでは?」


 確かに、タゴサクは欠点の多い人間だ。

 スケベで変態で、美女や美少女には見境がない。

 自分に甘く、受験生なのにゲームで遊んでしまうほど自制心が弱い。

 家が金持ちなのをいいことに親のすねをかじる。

 面倒臭がりで料理を作らない。

 他にも、細かい点を列挙すればキリがないほど欠点だらけだ。

 が、人間なんてそんなものだと思う。


「欠点のない人間の方が少なくありません? 欠点が多いから似ていると言われてしまえば、大半の人間が似ていることになりますよ。自分の欠点を棚上げしてるとも言えますが」

「その通りですね。失礼しました。諸事情あり、タゴサクさんとマスターを重ねて見ていたせいで、些細な部分も似ていると判断してしまいました」


 ポンちゃんのセリフはAIらしくない。

 AIは、人間とは違って感情に左右されない。常に冷静な判断を下す。人間の感情からすれば冷酷で受け入れがたくとも、AIは最適に行動できる。

 人間味がなく、不気味に感じて敬遠する人もいるが、それこそがAIの強みだ。


 SOSに登場するNPCは、笑ったり泣いたりと人間らしい感情を見せる。

 これはあくまで、そのようにプログラムされているからだ。

 ポンちゃんも同様なら問題ない。プログラム通りに動いているのであれば。

 重ねて見ていたとか、そのせいで些細な部分も似ていると判断するとか、わざわざプログラムするだろうか。

 プログラムには見えず、しかしAIが絶対にやらない行動だ。


 人間らしいが、だからこそ怖くなる。

 AI、人工知能と呼んではいるものの、本当の意味で人間らしい知能を持つAIは存在しない。科学技術が発達した現代でさえ作れていない。

 そこまでいくと神の領域だ。


「考えないでおこうか」

「何をです?」

「こっちの話なので気にしないでください」


 技術的な内容になると、タゴサクの頭では処理し切れない。

 考えても分からないのだから考えないことにする。

 気を取り直して本題だ。


「それで、マスターって人ですが」

「マスターは、普段は完璧に振る舞っていますが欠点も多い方です。頭はよくても運動はからきしですし、食べ物の好き嫌いも激しいです。いまだにピーマンが大嫌いとか子供ですか」

「いえ、欠点の話じゃなくて、会わせてください……トキヒメさんに」


 ポンちゃんがしきりに口にするマスターは、トキヒメだ。

 聞いたわけではなくとも、ここまでくれば分かる。


「さすがにお気付きでしたか」

「そりゃ気付きますよ。【星樹(せいじゅ)トチノキ】でも名前が出てましたし、管理者のAIが住む世界にプレイヤーがポツンといるのはおかしいです。プレイヤーではなく、開発者側の人間なんですよね? なんでプレイヤーとしてSOSをやってるのかまでは知りませんが」

「マスターから直接お聞きください。では、移動させます」


 ポンちゃんが言った瞬間、タゴサクは別の場所に移動していた。

 ポンちゃんはついてきておらず、タゴサク一人でだ。


 こぢんまりとした和風の部屋の中だった。

 畳が敷かれており、ちゃぶ台と座布団がある。ちゃぶ台の上には、季節外れのミカンまで。

 和風の部屋は、【皇星ジャパン】で皇女殿下に会った時にも入ったが、あちらとは違う。この部屋の方が、庶民が暮らす部屋に近い。


 そして、部屋の中には一人の美少女が立っていた。

 スクリーンショットで見た顔は、実際に目にしてみても可愛い。

 服装も、スクリーンショットに映っていたローブだ。魔法使い風のローブで、だぼっとしているのに、胸部だけは窮屈そうに押し上げていてパツンパツンになっている。


 スタイル抜群の美少女。

 ソーニャのそっくりさんである、トキヒメという名の女性プレイヤーだった。


「いらっしゃい。待ってたわよ」

「……え?」


 トキヒメの言葉は変哲のない挨拶だ。

 しかし、タゴサクは信じられないものを聞いた気分になる。

 そっくりだ。声がソーニャとそっくりなのだ。

 目を閉じて、声だけを聞かされれば、どちらなのか看破する自信はない。

 片方は長年の付き合いになる妹なのにだ。


「立っていないで座って。座布団も用意したし」


 再び発せられた声は、やはりソーニャのものだった。

 頭が疑問符で満たされたまま、言われたように座る。トキヒメも座って向かい合う態勢になる。


「驚いてるわね。何に驚いてるの?」

「その……似てたので……」

「妹さんに? どこが? 顔? 声? 仕草?」

「顔も似てます。トキヒメさんの方が可愛いですが。声は、本当にそっくりなので驚いてしまいまして」

「念のために言っておくと、容姿はいじってないわよ。他のプレイヤーに合わせてあるの。むしろ、私の容姿は現実そのものよ。髪型から何から一切いじってない」


 実は、その可能性も考えていたが、失礼な感想だったようだ。

 開発者がプレイヤーとしてゲームをやっているなら、一般のプレイヤーと同じ土俵に立つ必要はない。

 基本的に容姿の変更ができないSOSでも、好きに外見をいじればいい。

 美少女になって男性からちやほやされればいい。

 トキヒメは外見をいじっておらず、正真正銘の超絶美少女だった。


「いじろうと思えばいくらでもいじれるけどね。私は管理者として、最高クラスの権限を有してるわ。たとえば、こんな風に」


 メニュー画面を操作したかと思えば、トキヒメの外見が変化した。

 燃えるような真紅の髪はショートヘアになっている。瞳も髪と同色だ。

 ソーニャと同じ色になると、ますます似ている。

 トキヒメの方が可愛いし胸も大きいが、身長はほとんど変わらない。双子と言われれば信じる。


「どう、()()()()()?」


 呼び方までソーニャと同じにされてしまうと、もう何が何やら。

 ソーニャを前にしていると錯覚する。


「頭がこんがらがるので勘弁してください。そもそも、俺より年上……いや」


 言葉を止めたのは、女性の年齢に言及するのが失礼だと思ったからではない。

 その気持ちもあるにはあるが、トキヒメの年齢が判別できないからだ。

 こうして会ってみた上での感想は、ソーニャと同年代に見える。高一くらいだ。

 高レベルのトッププレイヤーである点を考えると、高一ではない。数ヶ月やそこらではトップに上り詰められないからだ。


 では、高二か高三か。

 それもしっくりこない。

 ゲームの開発者なんて仕事をしているなら社会人だ。高卒で就職するとも考えにくく、少なくとも大学は卒業しており二十代前半になる。


 というか、開発者なら中学生でゲームをやってもよさそうだし、管理者権限でレベルを一気に引き上げることも可能だ。

 トッププレイヤーだから高一ではないという理論は成立しない。

 大人びた高校生。大学を卒業している二十代前半。

 どちらと考えても通じるから判別も不可能になっている。


「私の年齢が気になる?」

「あの……はい。女性の年齢に言及するのは失礼だと思いますが」

「普通は失礼だけど、特別に教えるわ。私は十五歳よ。学年なら高一」

「年齢までソーニャと一緒ですか。高一なのにトッププレイヤーになってるのは、管理者権限で?」

「サービス開始当初から遊んでいる最古参プレイヤーだからよ。SOSを遊べる年齢は満たしてなかったけど、そこは開発者の立場を使ってね」

「失礼しました」


 管理者権限でレベルを引き上げているかと思ったが、違うらしい。

 普通にゲームをして強くなったのだ。


「謝る必要はないわよ。卑怯なのは事実だからね。管理者権限でレベルを上げたりアイテムを入手したりはしてないけど、他のプレイヤーが持たないゲームの知識はあるからズルよ。卑怯者って誹りを受けても仕方ないわ」


 知識があればレベリング効率もいいし、アイテムだって入手できる。

 トキヒメは金色になっていると聞いているが、金色になる方法も熟知しているからなれる。

 ズルいと言えばズルい。


「でも、中学生でゲームの開発者になったんですか? 小規模の同人ゲームならまだしも、大規模なVRMMORPGですよ?」

「私、アメリカの大学院を卒業してるの。飛び級でね。博士号を持ってるわよ。日本の学年に合わせて言えば高一ってだけで、高校生じゃないの」

「マジ!?」


 驚きのあまり、素の口調になってしまった。

 中学生の年齢で大学院を、それも博士課程を卒業するなど、ちょっと頭がいいでは済まない。紛れもなく天才の部類だ。

 容姿が優れており天才。天は二物を与えたようだ。

 タゴサクが驚愕していれば、トキヒメは嬉しそうに笑っている。笑顔は年齢相応で可愛らしい。


「それにして。敬語なんか使わずに、妹に対するみたいな口調でいいわよ」

「年下なら敬語はおかしいかもしれませんが、なんていうか雲上人なので」

「お願い、お兄ちゃん」

「うぅ……分かったから、お兄ちゃん呼びは勘弁して。タゴサクで頼む」


 タメ口の方が話しやすいタゴサクでも、身構えて敬語の方が楽だと感じてしまう相手だ。

 恐れ多い気がするが、なんとかタメ口にしてみた。

 代わりに、タゴサクの呼び方も変えてもらおうとしたが。


「じゃあ、兄さん? 個人的にはこっちがいいかな」

「お兄ちゃんも兄さんも一緒だって。俺はトキヒメさんの兄じゃないんだ」

「ところが、そうでもないのよね」


 トキヒメは妙な発言をした。

 まさか、タゴサクの妹だと主張したいのだろうか。


「兄に憧れてるから、俺を兄って呼びたいとか?」

「違うわ。改めて、自己紹介させて」


 トキヒメは姿勢をただした。厳かな雰囲気になる。


「プレイヤー名はトキヒメ。本名は清流院(せいりゅういん)永久(とわ)。でも本当は、御堂(みどう)(そら)の妹です」

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