六十四話 約束
タゴサクは、【女神の秘薬】を入手すべく情報を集め始めた。
ソーニャやイアとは別行動になっている。
三人がそれぞれ別のアイテムを探しているので、一緒に行動しても効率が悪い。
有用な情報があれば教え合うことにし、しばらく別行動だ。
誰が最初に目当てのアイテムを入手するか、ちょっとした勝負でもある。
ひとまず【皇星ジャパン】で情報を集めるが、これといった話は聞けなかった。
他の町にも行ってみた。【桃源郷シュト】に【空中都市アオゾラ】、【陰火帝国モッコリーゴ】などだ。
あちこちで情報収集するが、手がかりは見つからない。
ダメ元で、コモンステラやレアステラにも行ってみた。結果は変わらず、ヒントらしき情報はない。
何日も進展なしのせいで、途方に暮れている。
「で、俺の出番ってわけわけ?」
「何かヒントを知ってれば、教えて欲しいなって」
タゴサクはナンパに協力を依頼した。上の星にいる彼に【皇星ジャパン】にまで足を運んでもらい、情報を教えて欲しいと頼んでいる。
何度も会っているし、連絡先も交換済みだ。ナンパしか頼れる人がいない。
「ナンパは、あまりコダることを気にしないだろ? おまけに上級者だし、ヒントもくれるかなって。情報量を支払ってもいいから」
「教えてあげたい気持ちはあるけど、俺も知らないんだよ。【女神の秘薬】なんてアイテムは初耳初耳」
「女神の情報は?」
「いくつか知ってるけど、【女神の秘薬】は聞いたことないね。もちろん、俺が知らないだけの可能性も高いよ高いよ。俺だってレベル409だし、上級者に片足を突っ込んだ程度なんだ。行ってない場所も知らないことも山ほどあるある」
ナンパのレベルは思ったほど高くない。
ゴールデンウィークに初めて出会った時で、既にレベル402だった。
当時のタゴサクのレベルは20ちょっとであり、レベル400オーバーは凄いと感じたものだ。
あれから二ヶ月以上経過しているのに、7しか上がっていない。
今でもタゴサクとは倍以上の開きがあるが、レベルアップが随分と遅い。
高レベルになれば、低レベル時の比ではないほど時間がかかると考えても、もう少し高くてもよさそうだ。
「ナンパのレベルは低くないか?」
「ナンパだからね! なははは!」
ナンパに精を出しているせいだ、と言いたいのだろう。
ゲーム攻略よりもレベリングよりも、ナンパが第一というわけだ。
「大体さ、俺が強くなったのもナンパのためなんだよ。強い男って格好いいじゃんいいじゃん? 女の子にもモテそうだなって思った思った」
「成果は?」
「それがさっぱり! いやまあ、俺が可愛い子にしか声をかけないせいもあるんだけどね。これだって思える子が少ない少ない」
「可愛い子は、ナンパ男について行かなくても、男に困らないってのもあるか」
「悲しい悲しい! 選り好みしなければいいって考えもあるけど、したくなっちゃうんだよ!」
「分かるが……って、話が逸れたな。結局、【女神の秘薬】は知らない?」
「知らない知らない」
期待したナンパでも知らないと言われてしまった。
これは弱った。他に頼れる人がいない。
「さすがは皇族のクエストだね。難易度が高い高い。こういうのって、最近のゲームじゃほとんどないはずだけど」
「こういうのってどんなのだ?」
「ヒントなしで闇雲に探し回るような状況。二十世紀の、コンピュータRPGが出始めた頃は多かったらしいらしい」
「聞いたことあるな。容量の問題もあって、ゲーム自体を長く複雑にはできないから、わざとヒントを出さないんだっけ?」
「それそれ。普通にやると数時間でクリアできちゃうし、プレイ時間を引き延ばすための苦肉の策だね」
今回のタゴサクが恵まれていると感じるほど、一切のヒントがないケースも珍しくなかったと聞く。
昔はパソコンやインターネットもなく、ゲームで遊ぶ子供たちは学校の友達と情報交換をしつつ必死で探したとか。
今のご時世にそのようなゲームを作れば、クソゲー確定だ。
辛抱強く付き合うユーザーはおらず、絶対に売れない。
娯楽が少なく、コンピュータゲームという物が目新しかった時代だから成立していたやり方だ。
実際に、SOSのクエストも、やるべきことは分かりやすい。
どこに行って何を実行し、何を入手するか、ほとんど明白になっている。
難易度とは、実際に成功させられるかどうかになる。強いモンスターを退治するのは難しく、弱いモンスターなら簡単だという感じだ。
少ないヒントで探し回る状況は、タゴサクも初めてになる。
「ソーニャとイアは、もうちょいヒントをもらってるらしいんだよな。俺だけがやけに少ない」
「ラッキーだと思えばいいじゃんいいじゃん。体験したくてもできないよ」
「他人事だと思って、簡単に言ってくれるよな。少な過ぎだっての」
あてもなく探し回るのは、酷く無意味な作業をさせられているようで徒労感にさいなまれる。
レアドロップ狙いでモンスターを狩り続けるよりも辛いかもしれない。
せめてもう少し、方向性を絞りたいところだ。
モンスターのドロップか、ダンジョンなどで入手するか、店で購入するか。
あるいは。
「ちょっと聞くが、SOSに生産職ってある?」
タゴサクは考え方を変えてみようと思った。
アイテムが見つからないなら、作れるプレイヤーに作ってもらえばいいと。
「一応あるよあるよ。装備やアイテムを作れるジョブだね。たださ、あんまり意味がないんだよ。SOSはソロ前提だから」
アイテムを作り、他のプレイヤーに譲渡したり売却したりといったやり方は、コダると判断される。SOSの趣旨から外れた遊び方だ。
必然的に、生産職が作るアイテムは自分専用になる。
自分専用の超強力な装備やアイテムを作り、自分を強化できるならいいが、それも不可能らしい。
ダンジョンの宝箱でもボスモンスターのドロップでもクエストでも、強力な装備を入手する手段はいくつもある。
それらと比較し、生産職の作る物が優れているかというと違う。
「もっともっと高レベルの生産職になれば分からないよ。生産職を極める勢いで強くなったら、超強力な装備だって作れるかもしれない。そこにたどり着くまでが至難の業だし、何より戦闘能力は劣るよね。装備だけ充実しても意味ないよ。一番を目指せなくなるなる」
「生産職に【女神の秘薬】を作ってもらえないかって考えたが、無理か」
「絶対に無理とは言えないよ。さっきも言ったけど、俺だって知らないことは山ほどあるある。作れるプレイヤーが皆無とは言い切れない」
「いるとしても、すっげえ高レベルになるんだろ? これはジャパンステラを脱出するためのクエストだぞ。高レベルのプレイヤーに頼らなきゃクリアできない難易度になってるとか、ゲーム的にあり得ない」
皇帝陛下に認められるクエストだから、決して簡単ではない。現にタゴサクも苦労させられている。
だが、何事も限度がある。生産職を極めなければ作れないのはおかしい。
生産職に【女神の秘薬】を作ってもらうという考え方が間違っているのだ。
「力になれなくてごめんごめん」
「気にしなくていいって。わざわざ足を運んでくれてありがとう」
本来なら、頼み事をするタゴサクが出向くのが常識であり、礼儀だ。
上の星にはどうやったって行けないので、ナンパにきてもらった。嫌な顔一つせずにきてくれて感謝だ。
「どういたしましてまして。ところで、今日はソーニャちゃんは?」
「感謝したのに、ソーニャが目当てだったのかよ」
「タゴサクの話を聞くためでもあるよあるよ。一割くらいね」
「たったの一割ってひでえ。男同士の友情なんてそんなもんか」
「俺とタゴサクがイチャイチャラブラブして、誰が楽しい? ソーニャちゃんとイアちゃんの百合ん百合んな姿は目の保養だけど、俺たちだと発禁だよ」
「真理だな。ちなみに、ソーニャはソーニャでアイテムを探してる最中だ。俺とは別行動してる」
「残念残念」
ソーニャがいないと知り残念がるナンパは、不意に真面目な顔になった。
「タゴサクは、ジャパンステラを脱出したらSOSをやめるって聞いたけど、やめるのやめるの?」
「やめる。受験勉強があるからな。いつまでもゲームで遊んでられない」
「ヴァイスとの約束は? 上で待ってるよ?」
「ちょっと悩むが、最後に戦ってみようかって思ってる」
レベル的に勝ち目はない。コモンステラでも負けたが、次に戦っても負ける。
それでもいい。イアのセリフではないが、序盤のライバルに引導を渡してもらうような感じだ。
区切りとしては悪くない。
「じゃあさじゃあさ、俺とも戦ってよ。今まで一度も戦ったことないよね。タゴサクと勝負したい。当然、一対一で」
「構わないが、いつやるんだ?」
「ジャパンステラを脱出してから。ヴァイスの前でも後でもいいけど、今ではないねないね。今だと結果は見えてるでしょ。残りの時間で強くなってなって」
「分かった。正直、俺が勝てるとは思えないが」
「そんなこと言わずに、勝つ気できてよ。勝ちを諦めてるタゴサクと戦う意味はないない。コモンステラで、ヴァイスが『上で待つ』って言ってたでしょ。あれを聞いて羨ましかったんだ。俺もライバルみたいな立ち位置になりたいなって。そういうの、男として憧れるじゃん? 友達でもありライバルでもある、みたいなみたいな」
ナンパが言うように、男同士のライバル関係は憧れる。格好いいと感じる。
ライバルと表現するにはレベル差があり過ぎるが、勝つ気で挑もう。
「んじゃあ、勝ってやるさ。半分以下のレベルの奴に負けて後悔するなよ」
「バッチこいこい。お義兄さんを倒してソーニャちゃんをいただきます!」
「誰がお義兄さんだ!」
「なははは! とにかく約束約束!」
勝負の約束をして、ナンパは上の星に戻って行った。
ヴァイスに続いてナンパとも戦う。二人とも、タゴサクよりも高レベルだ。
どうせ最後だから、PKされて金やアイテムを失ってもいいと思っていたが、本気で勝ちに行こうと決意する。
SOSで知り合った友人にしてライバルたち。
彼らとの決着を目標に、ジャパンステラ脱出だ。
タゴサクの決意に呼応したわけではないと思うが、面白い出会いがあった。
「あ、タゴサクさん! お久しぶりです! ワタシのこと覚えてますか!?」
「君は、レアステラの」
「はい! タゴサクさんにチケットを譲ってもらったおかげで、こうしてジャパンステラに移住できました!」
タゴサクが【皇星ジャパン】で出会ったのは、小学校低学年くらいの少女だ。
レアステラで宇宙船のチケットを渡したNPCの少女である。
少女の頼みでクエストを受け、宇宙船のチケットを入手したのだ。サンサンやミディーリとの試合など、思い出深い出来事もあったし、よく覚えている。
確かに移住するとは言っていたが、あくまでもクエストの一環の発言だと思っていた。本当に移住しているのは予想外だ。
NPCがいなくなれば、他のプレイヤーがクエストを受けられなくなる。
一度きりのクエストは、SOSの理念上あり得ない。
公式に「オンリーワンはございません」と明言している。特定のプレイヤーだけが受けられ、他のプレイヤーが受けられないクエストでは、特定のプレイヤーのオンリーワンになってしまう。
確認していないが、タゴサクがクリアした時点で、新しいNPCが出現しているのかもしれない。目の前にいる少女と同じ設定のNPCが。
思考にふけっていると、少女は元気よく発言する。
「タゴサクさんのおかげで、ワタシもこんなに元気になれました! ありがとうございました!」
「どういたしまして」
大怪我をしていてボロボロだった少女は、すっかり元気になっている。
以前は包帯を巻いていたが、それもない。包帯に覆われていた顔の右半分は、傷一つない綺麗な肌に変わっている。
話し方も違い、今の方が明るくて年齢相応だ。
女の子の肌に傷跡が残らなくてよかった。明るくなってよかった。
ゲームのNPCが相手なのに、そんなことを思う。
「ジャパンステラに移住できなかったら、【女神の秘薬】も手に入りませんでしたし、ワタシの怪我も治りませんでした」
「ちょっと待って。【女神の秘薬】を知ってるの?」
「はい、知ってますよ」
ヒントを探し回っていたのに、向こうから飛び込んできた。
そして、今さらながら気付く。
関連しているクエストなのだと。
レアステラで、大怪我をした女の子からクエストを受けた。
今回は、大怪我をした皇女殿下の護衛のために【女神の秘薬】が必要だ。
どちらも「大怪我」という共通点があり、つながっている。
ソーニャやイアが趣味に関する物を要求されているのに、タゴサクだけが違うのも、レアステラでクエストをクリアしたプレイヤー限定だからだと考えられる。
こういったクエストには心当たりがある。
コモンステラで受けた薬草採取のクエストだ。
クエストをクリアしても報酬がない罠のクエストだと思っていたが、泉で女神に出会えるという報酬があった。
チケットを入手するクエストも、報酬をもらえない罠のクエストだ。
しかし、ここにきて【女神の秘薬】を入手するための鍵になる。
罠のクエストは全てがこうなっているのか、一部だけなのかは知らないが、面白い仕掛けだ。
「よければ、【女神の秘薬】がどこで手に入るか教えてもらえないかな? 俺も探してるんだ」
「もちろん構いません! 恩返しをさせてください! 【女神の秘薬】を作ってくれた人のいる場所に案内しますね!」
話はとんとん拍子に進み、少女に案内してもらうことになった。




