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たった一つの輝くもの  作者: ともむらゆう
第3章 ジャパンステラ
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六十五話 深刻な突っ込み不足

 NPCの少女に案内されたのは、【皇星ジャパン】にある民家だった。

 プレイヤーが入れないはずの民家だ。

 SOSに限った話ではないが、VRゲームは現実に近く、リアルに作ってある。

 昔のRPGのように、民家が数件しかない町ではリアリティがない。数十件、町の規模によっては数百件もの民家が存在する。

 すると、それはそれで面倒臭い。数百件もの民家を訪ねて回るのは苦行だ。


 よって、プレイヤーが入れる場所、入れない場所が決まっているし、分かるようにもなっている。

 入れる場所では何かが起きる。有用な情報が聞けたりクエストが受けられたり。

 入れない場所はただのオブジェクトだ。芸の細かいことに、NPCが住んでいる気配はあるため、ハリボテのように感じさせない仕組みになっている。

 ただのオブジェクトだと思っていたが、条件を満たせば入れるケースもあるのだと知った。


「おじゃましまーす。せんせー、いますかー?」

「おじゃまします」


 NPCの少女が家に入ったので、タゴサクも挨拶をしつつ続く。

 民家の中は狭く、しかもゴチャゴチャと散らかっているせいで足の踏み場すら碌にない。

 だらしない人間が住んでいそうな家だ。


 服や本が散らかっているのは単にだらしないで済むが、変な物もある。

 干からびた植物、不気味な色の液体が入った試験管、正体不明の粉末に錠剤などなど。警察の家宅捜索でも受ければ、非合法の品がわんさか発掘されそうだ。


「せんせー」

「あいよぉ」


 少女が声をかければ、奥からNPCが登場した。

 寝癖のついたボサボサ頭に、よれよれの白衣を羽織った妙齢の女性だ。美人ではあるが色気は皆無で、眠そうな目をしている。

 散らかった家の様子といい、偏屈な雰囲気を持つNPCだ。研究熱心だが、研究にしか興味を持たないタイプと言えば近いだろう。

 そして、タゴサクはこの女性の顔に見覚えがあった。


「女神……ニフナジュレタ?」


 空中ダンジョン【ソラ】やコモンステラの泉で見た女神に似ている。

 女神に比べれば、いくらか年上だ。ボサボサ頭などもあり、神と呼べるほどの神秘性はない。

 ソーニャとトキヒメのように、他人の空似と考えられなくもないが、偶然にしては出来過ぎている。

 女神に似ているNPCが【女神の秘薬(エリクサー)】を作れるのだ。

 ゲームにおいて、ここまで意味深な設定にされると、何もないとは考えにくい。


「アタシが女神ぃ? 面白いことゆぅねぇ」

「違うんですか? 俺は、あなたに似た女神様を知ってるんですが」

「女神なんてご大層なもんじゃないよぉ。アタシは三十……二十歳のピチピチギャルさぁ。お肌もツヤツヤスベスベだしぃ、小じわに悩んでなんかないからねぇ」


 ピチピチギャルとは表現が古い。「三十」とも言いかけたし、年齢を十歳以上サバ読んでいると見える。

 肌のハリツヤが失われ、目元の小じわが気になり、髪には白髪が交ざり、と。

 辛い現実を見つめられず、必死に否定しているのだ。


「かわいそうに……」


 思わず同情するタゴサクだったが、現実逃避の否定はどうでもいい。

 女神との関係も否定された。現状では条件が満たせていないとかだろうか。


「せんせーは、相変わらずものぐさな生活をしてるんですね。そんなのだから旦那さんをもらえないんですよ」

「うっさいねぇ。アタシはジジイに興味ないんだよぉ。二桁の年齢になったらジジイだからねぇ。これ常識ぃ」


 変態限定の常識を持ち出すなと突っ込みたい。

 タゴサクも「女性の胸は性的ではなくロマン」という持論を持っているが、ここまで変態ではないと主張させてもらう。


 だらしなくてものぐさで、しかもショタコンの三十代女性である。

 年齢詐称や、肌や小じわの発言といい、ここまでの残念美人も滅多にいない。

 ゲームの設定とはいえ無駄に凝り過ぎだ。


「んでぇ、どしたのぉ? なんかあったぁ?」

「実は、こちらの人が【女神の秘薬】を欲しがっているんです。ワタシの恩人ですし、作ってあげてくれませんか?」

「ほほぉ、あと十年早くお会いしたかったねぇ」

「十年前の俺に何する気だ」


 敬語を使う気分ですらなくなり、タメ口で突っ込みを入れた。

 タゴサクの突っ込みを丸っと無視し、ショタコン残念美人は持論を展開する。


「子供はいいよぉ。無知で無邪気で真っ白でぇ、一切の汚れがないショタっ子をアタシの色に染めるのぉ。一度やれば病み付きになるねぇ」

「やったのかよ!」

「未遂だよぉ。未遂なのにぃ、上の星からジャパンステラに追放されたのさぁ。天才は凡人に理解されないねぇ」


 天才ではあるかもしれない。【女神の秘薬】を作れるなら優秀なのだろう。

 同時に、天才となんとかは紙一重を体現する人物でもある。


「天才でも天災でもいいが、【女神の秘薬】を作ってくれるのか? そもそも、本当に作れるのか?」

「作れるよぉ。上の星も下の星も合わせて、作れるのはアタシ一人だねぇ」

「自信家だな。自分一人って言い切るのかよ」


 ゲームの設定に深く突っ込む必要はない。「【女神の秘薬】を作れるのは彼女ただ一人」という設定を開発者という名の神様が定めた以上、一人に決まっている。

 現実で考えるなら、全世界の人々をくまなく調べ、他に誰もいないと証明しなければ言い切れない。

 事実上不可能に近いので、碌な根拠もなく言い切る傲慢な人間になる。


 ゲームの設定を口にしているだけなのか、あるいはこれも女神との関連を暗示する伏線なのか。

 女神だから全知全能だ。ゆえに、自分一人とも言い切れる。


「信じてもらえないかもだけどぉ、なんでかアタシ一人なんだよねぇ」

「いや、信じるよ。【女神の秘薬】を作って欲しいんだが」

「今は材料を切らしててねぇ」


 日本のRPGはこれが多い。お使いに次ぐお使いで、あちこちをたらい回しにされる展開だ。

 材料集めという面倒臭い展開になるに決まっている。


「材料を集めてこいって?」

「お願いねぇ」

「何が必要なんだ?」

「切らしてるのは三つだからぁ、その三つだねぇ。まず【美少女の美髪】でぇ」

「待てやコラ!」


 あり得ないアイテム名が飛び出したせいで突っ込んだ。

 が、こんなものは序の口だった。


「【美少女の美顔】にぃ、【美少女の愛】だねぇ」

「おまわりさーん! この危険人物を逮捕してくださーい!」

「うっさいねぇ。何が不満なのさぁ」

「不満だらけだわ!」


 髪の毛を入手しろと言われたのも驚いたが、美顔に愛とはなんだ。


「髪の毛を集めるってのもキモいが、ギリギリ理解できた。顔は、首を刈り取って渡せとでも言ってんのか? 愛は形ある物じゃねえよ」

「そぉゆぅ名前なんだしぃ、アタシに怒らないでよぉ。髪の毛を引っこ抜くのでも首を刈り取るのでもなくてぇ、そぉゆぅ名前なのぉ。アタシが名付けたんじゃないしねぇ。【女神の秘薬】を欲しがってるのもそっちだしねぇ」


 理路整然と反論されてしまい、タゴサクは言い返せなくなった。

 NPC相手に怒っても不毛なだけだ。

 アイテム名が不気味だからといって、本当に不気味なアイテムとも限らない。意外と普通かもしれない。

 聞いてみないことには判断できないし質問する。


「どこでどうやったら手に入るんだ? それも俺が探すのか?」

「モンスターを倒せばいいんだよぉ。ただのモンスターじゃダメだよぉ。美少女型モンスターを倒すのぉ。倒し方も特殊だからねぇ」

「美少女型モンスターなんてどこに……いたな。双子のボスがいた」


 星宮ダンジョン【ゾディアック】に出現するふたご座のボスだ。瓜二つの美少女型モンスターだったし、条件に合致する。


「あぁ、ボスはダメよぉ。通常の雑魚モンスター限定ねぇ」

「めんどくせえ!」

「なんでぇ? ボスを倒すよりも簡単じゃないのぉ」

「……なるほど、一応簡単にするための設定になってんのか」


 反射的に面倒臭いと叫んだが、ダンジョンのボスを倒すのは大変だ。フィールドに出現する通常のモンスターであれば、まだ楽になる。


「イアは【陰火(いんか)帝国モッコリーゴ】で男性型モンスターが出たって言ってたな。男性型が出るなら、美少女型も出るだろ。【ボインニーゴ】って町もあるし、その周辺ならもしかして」


 ぶつぶつと呟きながら、美少女型モンスターに出会えそうな場所を考える。

 第一候補は【陰火帝国モッコリーゴ】だ。見つからなければ、誰かに聞いてみればいい。

 ソーニャやイアに質問し、軽蔑される情景が目に浮かぶ。

 なにせ、【美少女の美髪】、【美少女の美顔】、【美少女の愛】だ。

 スケベなタゴサクですら「おまわりさーん!」と叫ぶ、変態的かつ猟奇的なラインナップだ。


「んで、特殊な倒し方ってのは?」

「【美少女の美髪】はぁ、モンスターの頭ぁ、要するに髪の毛を攻撃してとどめを刺せばいいのぉ」

「倒し方は普通か。いや、安心できないな。二つ残ってる」

「【美少女の美顔】はぁ、顔を攻撃しちゃダメよぉ。顔に傷がついたら美顔じゃなくなるからねぇ。【美少女の愛】はぁ、倒しちゃダメぇ。攻撃して瀕死にまで追い込んでからぁ、とどめを刺さずに治療してあげてぇ、見逃すのぉ」

「なんてマッチポンプだ」


 自分で攻撃しておいて、治療してあげれば愛が手に入るらしい。

 極めてバカである。


「そんなに簡単に、美少女の愛が手に入るかよ。俺がどれだけ苦労してるか」

「分かるよぉ。一桁の年齢の子に手を出すとぉ、周囲に認めてもらえないよねぇ」

「俺はロリコンじゃねえ! お前と一緒にすんな!」


 タゴサクはスケベだがロリコンではない。可愛いとは思っても、それはあくまで子供に対する気持ちだ。

 合法ロリならありだが、正真正銘のロリに手を出すほど鬼畜ではない。


「ロリじゃないならアタシぃ? 悪いけどぉ、ジジイはお断りなのよねぇ」

「突っ込み役が足りない! ソーニャ! イア! 助けてくれ!」


 この変態三十路ショタコンに突っ込むには、一人では全然足りない。

 バカな理由で仲間を求めた。

 求めても誰も助けてくれないため、変態の家を出る。

 変態に付き合ったせいで疲労困憊になりながらも、クエストは進んでくれた。

 タゴサクはアイテムを入手するために【陰火帝国モッコリーゴ】まで行く。


「案内してくれてありがとう。おかげで助かった……助かったと思う。多分」

「せんせーは、変人ですけど悪い人じゃないですよ。嫌わないであげてください」

「善処するよ。じゃあ、さよなら」

「はい!」


 NPCの少女と別れ、アイテムを使って移動する。

 まずは【陰火帝国モッコリーゴ】にある【チンチマーニの町】だ。

 フィールドに出て、【ボインニーゴ】までは徒歩で移動する。


 この星は、自然豊かな山々が連なっている。レアステラほどのジャングルではないが森があるし、綺麗な水の流れる川もある。

 森林浴でもするにはピッタリだ。

 HENTAI文化の国をモチーフにしているくせに、景色だけは美しいから始末に負えない。


 文句を考えつつ【ボインニーゴ】に到着する。町に入り、死亡時に戻れるようにしておいてから、フィールドでモンスターを探し回る。

 一時間ほど歩き回るが一向に出現してくれない。山だからか、動物や植物のモンスターがよく出る。

 セクハラモンスターに出くわさないのは幸運だが、美少女型モンスターも出ないのは困る。


「しゃあない。【暗乱夢(アラーム)】!」


 面倒になって、モンスターを呼び寄せるスキルを使用した。

 大量のモンスターを呼び寄せても美少女型モンスターが出現しなければ、この周辺にはいないと考えていい。

 二、三回試してみて、ダメなら別の場所に行くつもりだったが、出てくれた。


 動物や植物のモンスターに交ざって、牛の角を生やした巨乳美少女モンスターが出現する。

 胸だけではなく全体的にでかい。身長など軽く二メートルは超えている。

 顔は人間の美少女だが体は牛に近いので、いくら巨乳美少女でも興奮しない。

 人外美少女が好きな人には好評なのだろうか。「人間そっくりではないので、美少女型でも攻撃して大丈夫です」というアピールの可能性もある。


「どうでもいいや。【獅子ガ纏イシ死屍炎魔(ライオンエンマ)】!」


 奥義を使用して殴っていく。邪魔な周囲のモンスターを殴り倒して、牛娘モンスターだけを残す予定だ。


「【星ヲ滅ボシ獅子ノ王(ゾディアックレオ)】!」


 ネコサクからシシサクになれば、モンスターを簡単に蹴散らせた。

 シシサクが強いのもあるが、モンスター自体がたいして強くない。

 牛娘モンスターにもダメージを与えてから、とどめの一撃は脳天に放つ。


「【全テヲ滅スル光(ラグナロク)】!」


 無事に倒せ、アイテムもドロップした。狙い通り【美少女の美髪】を。

 ドロップ率も高いらしい。ひょっとしたら百パーセントの可能性もある。クエストさえ受ければフラグが立ち、ドロップするようになるのだ。

 同じやり方でモンスターを呼び寄せ、牛娘モンスターを倒し、【美少女の美顔】を入手する。

 最後も、瀕死に追い込んでからポーションで回復してやれば、【美少女の愛】をドロップした。


 どうでもいいが、牛娘モンスターの名前が分かった。

 名前は【グロッサプリン】である。

 コモンステラに【グロッサイノシシ】というモンスターがいたが、グロッサはイタリア語で大きいの意味だ。

 巨乳牛娘で、大きいプリン。

 完全無欠の下ネタだった。


「突っ込みが……俺一人じゃ追いつかない……」


 考えると頭が痛くなるので【皇星ジャパン】に戻る。

 あまり会いたくない相手だが、自称天才の変態三十路ショタコンの家を訪ね、三つのアイテムを渡した。


「早かったねぇ」

「やり方が分かってれば難しくないからな。これで【女神の秘薬】を作ってくれるんだよな?」

「それがさぁ、もう一個アイテムが必要だったのよねぇ」

「めんどくせえ! 入手してくるから、さっさと教えやがれ!」


 たらい回しにされ過ぎて、タゴサクは乱暴な口調になった。

 残りのアイテムは入手に時間がかかりそうなので、続きは明日にする。

 今日はログアウトしてゲームを終わりにした。

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