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たった一つの輝くもの  作者: ともむらゆう
第3章 ジャパンステラ
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六十三話 女神の秘薬

 七月になり、タゴサクがSOSを引退する日まで一ヶ月を切った。

 タゴサクたち三人は、クエストの真っ最中だ。

 荒野に出現するモンスターに、非常に厄介な性質を持つ相手がいる。そいつを倒すクエストだ。

 攻撃の大半を無効化するせいで、通じる物がほとんどない。

 スキルと奥義は一切効かない。例外はなく、全て無効化される。


 有効なのは、「物理攻撃判定になる魔法」のみだ。

 タゴサクが覚えている魔法なら【ミラージュカッター】が該当する。

 他にも、コモンステラでPKされた時に食らった魔法【アースクエイク】もそうだ。

 攻撃方法が限定されるせいで倒しにくいが、有効な手段は用意されている。

 皇帝陛下がおわす星、【皇星ジャパン】で売っている魔法を使えばいい。


「【ライトジャベリン】!」


 ソーニャは、その魔法を使用した。【ライトアロー】の上位魔法になる。

 性質も似ており、【ライトジャベリン】単体では弱いが、別のスキルや魔法と組み合わせることが可能だ。

 魔法のみの【ライトアロー】に対し、【ライトジャベリン】は魔法でもスキルでも組み合わせられる。


「【豪撃(ダイナマイト)】!」


 あらゆる魔法やスキルと組み合わせられるわけではなく、店売りの物だけだ。

 よって、店売りの【豪撃】と組み合わせて攻撃する。


「【ダイナマイトジャベリン】!」


 魔法とスキルを組み合わせた攻撃は、どのような扱いになるか。

 これが少々ややこしく、分類は魔法になる。ただし、物理攻撃か魔法攻撃かの判定は、スキルの方で決まる。

 要するに、「物理攻撃判定になる魔法」を割と簡単に生み出せるわけだ。

 このやり方で、ソーニャはモンスターにダメージを与えていく。


「【ライトジャベリン】!」


 光の槍を生み出してから。


「【轟爆撃(グランドボム)】!」


 スキルと組み合わせて。


「【グランドジャベリン】!」


 攻撃する。

 激戦を繰り広げるソーニャを、タゴサクとイアは見守っている。

 クエストは、ソーニャにクリアしてもらわなければ困るからだ。


 ソロ前提のSOSでは、クエストもソロ用になっているケースが多い。

 今回のようにモンスターを倒すなら、とどめを刺したプレイヤーがクリアした扱いになる。アイテムを入手するなら、入手して渡したプレイヤーだ。

 タゴサクやイアが倒してしまっては、ソーニャがクリアしたことにならない。

 フォローはするが、メインで戦うのはソーニャにやってもらう。

 まあ、フォローするまでもなく、一人で倒し切りそうな勢いだ。


「ソーニャちゃん、強いですよね。和装のせいで防御力はないですけど」

「俺たちの中で一番レベルが高くなってるんだよな。ただ、あの服はちょっと」


 タゴサクは、イアと決闘をしたくてレベリングを敢行した。

 付き合ってくれたソーニャもレベルが上がり、三人の中で一番になっている。タゴサクのレベリングなのに、何度モンスターのとどめを持っていかれたことか。

 どうしても譲ってもらいたい相手以外は恨みっこなしでやっていたし、タゴサクも文句を言う気はさらさらない。

 情けない兄を見捨てずに付き合ってくれただけでも感謝だ。


 こういった事情から、ソーニャのレベルが高くなった。

 和装にこだわっているせいで、防御面だけは紙装甲のままなのはご愛嬌だ。

 新しい服を購入し、花嫁が纏う白無垢姿になっている。

 その日の気分によって、これまで着ていた藍染(あいぞめ)の和装と新しい白無垢を着替えるなど、妙な楽しみ方を満喫しているようだ。

 満喫するのはいいが、白無垢でモンスターを屠る絵面が恐ろしい。花嫁を冒涜しているとも見えてしまう。


「服はいいんですよ。現実で白無垢を普段着扱いするとダメですけど、ゲームならありです。悔しいのは、わたしのレベルが一番下になっちゃったことです。この悔しさは、もふもふしないと収まりません。戦闘後は猫ちゃんです」

「……はい」


 現実で猫のタゴサクを飼い始めたのに、イアはネコサクにも飽きていない。

 毎日ではないものの、数日に一度はネコサクにさせられてしまう。

 モンスターとの戦闘中ではないのに【獅子ガ纏イシ死屍炎魔(ライオンエンマ)】を多用しているせいで、熟練度が最大になってしまったほどだ。

 最初に覚えた【全テヲ滅スル光(ラグナロク)】よりも先に、【獅子ガ纏イシ死屍炎魔】の熟練度が最大になるとは思わなかった。


「【パワージャベリン】!」


 タゴサクがネコサクに変身すると決まった頃、ソーニャはモンスターを倒した。


「あー、もう。無駄に面倒臭いモンスターだったわ」

「でも、一人で倒したじゃないか。ピンチなら俺も手を貸すつもりだったが、いらなかったみたいだな」

「今は、一番レベルが高いのは私だからね。三人中、私が一番! 気分いいわ」

「SOSに毒されてんな」

「一番になりたいって気持ち自体が悪いわけじゃないでしょ。お兄ちゃんだって、中学時代はバスケ部で全国に行ったじゃない。地区で予選に勝ち抜いて優勝したから、全国にも行けたんでしょ」

「そうなんだが」


 一番になりたいという欲求そのものはおかしくないし、むしろ向上心があっていいとすら思う。一番になるのはいけないことだから、スポーツの試合で負けろとは誰も言わない。

 SOSで言われている一番は、どこか不健全な感じがするからよくないのだ。


「サクさんってバスケ部だったんですか? しかも全国に行くほど? 初めて聞きました」

「話したことなかったか? 誰かに教えたような覚えがあるが……ヴァイスか」


 コモンステラでヴァイスに話した。

 イアには話していなかったかもしれない。


「ちょっと自慢するが、これでもうまかったんだぞ。レギュラーだった。全国でもベスト8まで行ったし、スポーツ推薦で進学しようと思えばいくらでもできた」

「しなかったんですか?」

「バスケも楽しいが、部活ばっかりしてると遊べないのがネックだ。プロになる気もないし、高校で続けるつもりはなかったんだよ」


 バスケは、たまに遊ぶだけで十分だ。タゴサクのように、昔はバスケをしていた友達も何人かいるし、時々遊んでいる。


「私は、続ければよかったのにって思ったわね。バスケをしてるお兄ちゃんって、ちょっと格好いいの。バスケ中はスケベでも変態でもないし、真面目でしょ。同じ中学だったから、私の同級生なんか騒いでたわよ。スポーツ万能な年上の男性は魅力的に見えるんでしょうね。お兄さんを紹介してって何度か頼まれたし」

「……猫ちゃんです」

「この流れでどうしてそうなる!?」

「ムカッとしました。猫ちゃんになってください。さっきも約束しました」

「【獅子ガ纏イシ死屍炎魔】……」


 ネコサクに変身し、イアのもふもふ攻撃を受ける。


「今のお兄ちゃんに適切な言葉を知ってるわ。諸行無常、盛者必衰、会者定離」

「さ、最後は意味が違……ひゃん」

「声がキモい。喘がないでよ。しかも『ひゃん』とか、女子じゃあるまいし」

「くすぐったく……あへぇ」

「バスケをしてたお兄ちゃんに憧れた女子も、今の姿を見れば幻滅するわね」


 年下の女子のペットになっているのだ。百年の恋も冷める。

 最も輝いていたのは、バスケをしていた中学時代かもしれない。

 奥義の効果が切れるまでイアにもふられ続けてしまう。


「嫌がるサクさんを無理矢理……興奮します」

「イアが目覚めちゃいけない方向に目覚めてるわよ。どうするの?」

「お、俺に聞くな……」

「ミディーリと相談しなきゃまずいわね。まあ、モンスターも倒したし、町に戻りましょ。これで三人とも条件クリアよね」


 ネコサクとイアの危ない関係から、真面目な話に戻る。

 三人は【皇星ジャパン】で皇帝陛下に認められ、上の星に行こうとしている。

 最初にすべきは【皇星ジャパン】のクエストを受けることだった。

 十回連続で成功させれば、皇子殿下や皇女殿下に会えるらしい。


 タゴサクとイアは、既に十回連続で成功させた。ソーニャは九回だったが、今回のモンスター退治で十回目の成功になる。

 十回連続という条件が何気に厳しかった。

 途中で失敗すれば最初からやり直しになる。実際に失敗してしまい、やり直したので時間がかかった。


 なんとか三人とも成功させたので【皇星ジャパン】に戻る。

 クエストを依頼したNPCに報告すれば、SOSならではの展開になる。


「ふん、あの程度のモンスターを倒した程度でいい気にならないでもらおう。ボクでも勝てたが、君たちのためを思って譲ってあげたんだ」

「はいはい」

「ボクに感謝してもらいたいね。君たちのために譲ってあげたんだ」


 クエスト報酬はもらえず、嫌味なセリフを聞かされた。

 罠のクエストだからこうなる。

 人助けのクエストは大半が罠になるが、見極める方法は難しくない。NPCのセリフで大体判別できる。

 いかにも困っていますという態度になっているNPCは罠だ。お母さんが病気だと言っていた少女しかり、大怪我をしていた少女しかり。

 普通に「何々をして」とか「何々を持ってきて」といったセリフを告げるNPCは、罠ではない。


 モンスター退治は、NPCの青年から頼まれた。

 金持ちのボンボンで、口先だけは立派だが実力と行動が伴わない性格だ。

 モンスターも、自分が退治してみせると周囲に豪語したのに、とても勝てない。

 困っている青年に代わり、プレイヤーがモンスターを退治して助ける展開になるので、これは罠となる。

 モンスターを退治した手柄は青年が持っていく。プレイヤーは何ももらえない。


 理不尽な結末だが、罠と知っていて受けたのでソーニャも文句は言わなかった。

 罠と知っていてもいい気分ではないし、用が済めばさっさと離れるだけだ。


「ムカついたけど、これで十回連続成功ね」

「わざわざ罠を受けてまで頑張った甲斐があったな」


 例外はあるが、基本的には罠のクエストの方が簡単になっている。

 ソーニャが倒したモンスターも、倒せる攻撃手段を持っていれば難しくなく、しかも【皇星ジャパン】で売っている。

 十回連続で成功させるために、あえて簡単な罠のクエストを受けた。

 ここまで苦労して、やっと皇子殿下や皇女殿下に会えるようになる。


 三人で皇族が住まう場所に向かう。

 町の中でも一際目立つそこは、たとえるなら平等院鳳凰堂だ。あくまでも外観が似ているだけであり、そのものではないが、大きさや威容に圧倒される。

 クエストをクリアしているので中に入れてもらえる。


 三人別々になってしまうが、これは仕様上致し方ない。

 八人いる皇子殿下や皇女殿下のうち、誰に会うかはランダムだ。依頼内容も異なる。

 相手や依頼内容が気に入らなければ、断ってもいい。再びクエストを十回連続成功させれば、誰かに会えるようになる。


 タゴサクはお座敷に通された。畳が敷いてあり、イグサの匂いもする。

 待っていれば、現れたのは七、八歳くらいの女の子だった。八人中最年少の皇女殿下だ。

 幼いが、非常に可愛らしい見た目をしている。十二単を着こなし、仕草も楚々としたものだ。

 コモンステラの時といいレアステラの時といい、小さな女の子に縁がある。

 さて、皇女殿下の頼みだが、次のようなものだった。


「【女神の秘薬(エリクサー)】が欲しいですわ」


 ゲームなどでよく耳にする単語が登場した。

 エリクサーは、高価な回復薬として描かれる。あらゆる怪我や病気を治療する万能の秘薬、霊薬だ。

 SOSでは聞いたことがないし、探すのに苦労しそうだ。


「誰かがご病気なのですか?」


 依頼を達成するヒントになるかと思い、皇女殿下に質問した。


「ワタクシの護衛を務める者が、先日大怪我を負いましたの。ワタクシを守ろうとして怪我をしたのです。治療するために【女神の秘薬】を入手していただければ、ワタクシの力の及ぶ範囲で願いを叶えましょう」

「承りました」


 相手が偉い人なので、タゴサクまでかしこまった言い方で返事をした。

 これで、皇女殿下からクエストを受けたことになる。

 メニュー画面でクエスト内容を確認すれば、「【女神の秘薬】を入手せよ」とのクエストが発生していた。

 女神の秘薬と書いてエリクサーと読むらしい。


 手がかりはないが、女神と名前がついているのがヒントになるだろうか。

 空中ダンジョンでも出会った女神様だ。

 イアから聞いた話によると、他の星でも女神の情報があったらしい。

 女神の情報を集めれば、やがて【女神の秘薬】にたどり着く。

 ただの推測だが、他にヒントもないしこの方針でいこう。


 お座敷を後にし、外に出る。

 ソーニャやイアと合流してから、どのようなクエストを受けたか教え合う。


「私は、皇子殿下から刀が欲しいって頼まれたわよ。【妖刀虚空(こくう)】だって」

「妖刀っておっかないな」

「皇子殿下が趣味で集めてるらしいわ」

「わたしは皇女殿下で、【ユニコーンの瞳】が欲しいってことでした。宝石よりも美しいそうです。宝石とかのアクセサリが大好きな人だって設定なんですよ。普通の宝石に飽きたので珍しい物が欲しいって」

「俺は最年少の皇女殿下で【女神の秘薬】だ。大怪我した護衛を治療するんだと」


 タゴサクが受けた内容を説明すれば、イアが怪訝な顔をした。


「サクさんの内容、変じゃありません?」

「どこが? 至って普通のクエストだと思うが」

「八人の皇子殿下や皇女殿下は、一風変わった趣味を持っているって設定なんですよ。蒐集(しゅうしゅう)家です。【女神の秘薬】は趣味じゃありません」

「あ、確かに」


 ソーニャは妖刀、イアは宝石よりも美しい瞳。

 どちらも趣味に関する物を要求されているのに、タゴサクだけが違う。

 偶然とも考えられるが、一風変わった趣味を持つ設定になっていることを考えると、少々変だ。

 設定を作り込んだのだから、要求されるのは趣味の物になりそうに思う。


「もしくは、あれですかね。わたしとサクさんみたいな関係?」

「イアが汚れてくわ……幼い皇女殿下が、護衛をペットにしてるって言いたいの? 護衛は男か女か知らないけど、ペットにするのが趣味なら【女神の秘薬】も趣味に関連するわよね」

「そんな展開があってたまるか」


 ペットの話は関係ないと思っておく。

 趣味の物ではなく、【女神の秘薬】なのはなぜか。

 これは、意外なヒントになるかもしれない。考えながら探してみよう。

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