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たった一つの輝くもの  作者: ともむらゆう
第3章 ジャパンステラ
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四十八話 指切り

 空中ダンジョン【ソラ】に出現するモンスターは機械系が多い。

 コンセプトとしては、遥か昔に滅んだ謎文明の遺跡になるのだろうか。超技術を持つ古代文明は物語のお約束だ。

 女神がいたし、神の居城だったかもしれない。

 考えられる線はいくつもある。色々と想像してみるのも楽しいが、とりあえずボス戦だ。


 タゴサクたちはボスの場所にたどり着いた。

 モンスターも機械なら、ボスも機械だ。ロボットと呼ぶ方が適切な、ガン○ム的な巨大人型ロボットになっている。

 でかいせいで屋内には入り切らないのか、居場所は外になる。入口と同じ西洋式庭園だ。

 抜けるような青空の下での戦闘になるが、幻想的な雰囲気は欠片もない。


 ボスの攻撃方法が、剣や魔法ではなく重火器であるせいだ。全身に搭載された兵器から、でかい鉛玉を雨あられと放ってくる様は、ファンタジーとは相容れない。

 とにかく手数が多い。休まずにドッパンドッパン撃ちまくる。泳ぎ続けなければ死んでしまうマグロのように、撃ち続けなければ死ぬのかと思うほどドッパンドッパンドッパンと。

 なお、ボス名は【ドッパン】である。バカだ。


「【ドッパン】がドッパンドッパン撃って、こっちの体がドッパンと弾ける?」

「寒いわよ!」

「ドッパンドッパン、じゃなくてすまんすまん。そんじゃあ、寒くなったところで氷の魔法を。【アイシクルアイズ】!」

「ドッパンドッパンで、すまんすまん……ぶふっ」


 タゴサクのジョークは、ソーニャには寒いと言われ、イアには不思議と受けていた。自分で言っておいてなんだが受けるとは思わなかった。

 ボス名に匹敵するバカな会話をしつつ、一応攻撃もしている。

 真剣になれないのは【ドッパン】の名前のせいとしておく。


 文字通りの弾幕を張る【ドッパン】だが、実のところさほど脅威ではない。

 激しい弾幕に見えて、隙間はちゃんとある。回避は十分に可能だ。

 全身に搭載された兵器を同時に放つのではなく、ランダムでもない。決まった順番になっており、完全にルーチン化されている。

 きちんと対処すれば避けられる仕組みだ。


 仮に食らってしまってもダメージは低い。強そうな見た目の割に、たいしたことのないボスだ。女神に比べれば雑魚当然だ。

 では楽勝かというとそれも違い、面倒な仕掛けがある。

 地面が徐々に崩れていくのだ。崩れた場所では、もれなく紐なしバンジージャンプが楽しめる。

 つまりは、地上に真っ逆さまであると。

 戦っていれば、タゴサクたちの中からも被害者が出る。


「いぃぃやぁぁぁ……」


 悲鳴を上げつつソーニャが落下した。

 断末魔の声は下方に遠のき、やがて聞こえなくなる。

 運悪く、弾幕をジャンプして回避した先の地面が崩れてしまった。どうしようもなかったと諦めるしかない。


「南無」


 不運な妹に哀悼の意を捧げるが、タゴサクにとっても他人事ではない。

 戦闘が長引けば崩れる場所が増え、落下死の確率が上がる。その前に倒し切らなければならない。


「【黒旗(ブラックフラッグ)】!」


 イアが攻撃を加えているので、これを利用させてもらう。

 それなりにダメージを与えているはずだし、うまくいけば一発で決まる。

 弾幕を回避しながらボスに接近し、剣を突き刺す。機械の体だが関節部分なら刺さる。


「【脳髄祭(ブレスト)】!」


 敵に剣を突き刺した状態でのみ使用可能なスキル、【脳髄祭】を食らわせた。

 攻撃回数に幅があり、昔は最大で三十回だった。

 今は熟練度が最大になっているおかげで、最大百回になる。


「うっそだろ……」


 タゴサクがぼやいた理由は、攻撃判定がたったの一回だったせいだ。

 ゼロはあり得ず、最低回数は一回だ。何度も使っているが初めて出た。

 よりにもよってボス戦で出なくてもと思ってしまう。


「【六芒連槍(グノーランサー)】!」


 倒すことに失敗したタゴサクに代わり、イアのスキルが命中した。ボスの胴体が六芒星の形にくり抜かれる。

 とどめを取られたと思ったが、ボスはまだ死んでいない。

 タゴサクにもチャンスが残った。


「【全テヲ滅スル光(ラグナロク)】!」

「【首カラ吹キ出ス黒流血(エグゼキューショナー)】!」


 タゴサクとイアがほぼ同時に奥義を繰り出した。

 二種の奥義でボスは倒れたが、どちらがとどめを刺したかは微妙な線だ。

 メニュー画面を開いて確認する。ボスを倒していれば、ログに記載されているはずだ。


「お? おっしゃあっ!」


 とどめはタゴサクだった。

 嬉しさのあまり、両拳を天に突き上げて喜びを表現する。


「あー、ちょっとタイミングが遅かったですか。サクさんに取られちゃいました」


 イアは残念そうな声を出しているが、変に恨み言を漏らすことはない。

 事前の取り決め通り、恨みっこなしだ。


「おめでとうございます、サクさん」

「ありがとう。素直に祝福できるイアは、精神的に大人だよな。大人の女性だ」

「褒めたって何も出ませんよ。大人のオンナであるわたしは、褒め言葉一つで一喜一憂しないんです。常に余裕を持っています。うっふーんって」


 珍妙なセクシーポーズを決めるイアは、まるで似合っていなかった。

 美少女なのは間違いないが、美女ではない。高校一年生という年齢もあるし、子供っぽさが残っている。


「セクシー路線を目指すより、厨二病路線で格好つける方が似合うんじゃ」

「厨二病のセクシー美女だっていいじゃないですか。悪の組織の女幹部とかです」

「いかがわしいイメージしか湧かないな。ビキニアーマーでも着てそうだ」

「サクさんは、そうやってすぐエッチな方向に結び付けますよね。男の人ですし、ある程度は仕方ないのは分かりますけど」

「こればっかりはなあ。改善するためには、相当な荒療治が必要だぞ。ソーニャやイアもだし、学校の友達もだが、みんな優しいんだよ。俺のスケベな発言に突っ込んでくれる。呆れたり軽蔑したりしても、ガチで俺を嫌うことはない。だから、手痛い失敗をしないんだな。失敗しなきゃ改善もできない」


 スケベな発言を繰り返した結果、好きな人にフラれたり、全員から愛想を尽かされて孤独になったり、性犯罪者の前科を背負ったり。

 タゴサクは、こういった失敗をしていない。痛い思いをしていない。

 痛みを知らなければ、たまに反省することはあっても口先だけになる。今まで大丈夫だったから、これからも大丈夫だと思ってしまう。


「みんなが悪いって責任転嫁したいんじゃない。悪いのは俺だ。自覚してるなら改善しろって話だわな。する気はないが」

「おー、真面目モードのサクさんになりました」

「しばらく真面目モードでいくか。ソーニャがいないと突っ込みが不足する」

「ソーニャちゃん、落っこちちゃいましたね。高高度から地面に落下とか、ゲームでしか体験できませんよ」

「得難い体験だな。つっても、マイルドな表現になってるとは思うが」


 空高くから墜落する感覚を、そっくりそのまま再現するとは思えない。すればトラウマを刻まれる人が続出するし、ゲームが訴えられてしまう。


「マイルドなら体験してみたいかもしれません。わたし、絶叫マシンとか好きなんですよ。デスペナルティがなければ飛び降りるんですけど」

「物好きだな」

「サクさん……いえ、なんでもありません」

「俺が物好きだって? 物好きってよりは変態だぞ」

「で、ですよね。それより、ボスは何かドロップしました?」


 何か都合でも悪かったのか、イアが話題を変えた。

 しつこく聞くのはよくないし、質問に答える。


「ドロップはないな。経験値はおいしい」

「経験値だけですか。ドロップアイテムは気になりますけど、周回するには面倒なボスですよね。空を飛んでこないといけませんし、ダンジョンも長いです」

「機会があればってとこだな。今日は帰ろう。ダンジョンから帰る方法って、ログアウト以外にどうやるんだ? 入口まで歩いて戻る?」

「ボスを倒せば、脱出用のワープ装置みたいな物が出現します。ほら、あそこに」


 タゴサクとイアは、入口まで一気にワープした。

 あとはアイテムで町に戻る。【空中都市アオゾラ】では、死んだソーニャが不機嫌な様子で待っていた。


「私だけ死んだ……」

「そういうこともあるって。俺だけが死ぬケースもあっただろ」

「分かるけど、あれはゲームのシステム的な意味以外でも死ぬかと思ったわよ。実際は、落ちてく感覚はなかったから助かったけど」

「やっぱりないんだね。サクさんもマイルドにしてあるはずだって言ってたよ」

「そのまま再現はできないでしょうね」


 空を飛ぶ時は、風を切る感覚を味わえた。空を飛んでいると感じられて気持ちよかった。

 落下時はちゃんと抑えてある。

 リアリティはなくても致し方ない部分だ。


「で、ボスはどっちが倒したの? いいアイテムをドロップした?」

「俺だ。ドロップはなし」


 ソーニャの落下の話からボスの話になった。

 経験値以外の収穫はなかったと伝えるだけで終わる。

 空中ダンジョン攻略は、ひとまず完了だ。

 続いて、イアのクエストになるが。


「時間がまずいな。昨夜は遅くなったし、今日は早めにログアウトしたい。勉強もやりたいし」

「私も寝不足気味かも。今日は終わりにする?」

「えーっ、もっと遊びたい」


 タゴサクとソーニャはログアウトする気でおり、イアは遊びたがっている。


「明日でいいじゃないか。クエストも焦る必要ないだろ」


 イアのクエストは、泉を探して女神に会わなければならない。

 泉を探す手間があるため、一日や二日でクリアを迫られるとは思えない。


「じゃあ、我慢します。一人で遊んでもつまらないですし、わたしもログアウトします。明日は泉に案内してくださいね。約束です」

「分かったが……その小指は?」

「指切りしましょう」


 イアが右手の小指を立てていた。タゴサクも小指を絡める。

 細い指にドキリとした。スケベな発言を散々している割に、タゴサクは異性との交際経験はないし意外と純情だったりする。

 口に出してもイアには信じてもらえないだろうし、やめておく。

 子供のように指切りをする。


「ゆ~びき~りげ~んまん」


 弾んだ声で歌うイアは笑顔になっていた。

 他意はないのだろうが、勘違いしそうになる。

 明日の約束をしたところで、本日は終わりにする。

 ログアウト後もイアの小指の感触が残っている気がしたが、さすがに気のせいだ。受験勉強をしてから眠った。

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