四十七話 王様からの依頼
双那の名前の由来が気になっているが、それよりも昨日の戦闘結果を知りたい。
夕方にログインしたタゴサクは、ソーニャとイアから教えてもらう。
「結論から言うと、勝てたわよ」
「俺の犠牲は無駄にならなかったんだな」
「格好つけたのが報われてよかったわね。でもさ、一つ困ったことがあって」
「あの女神を倒したら、宝箱が出たんですよ。順番的に、宝箱を取るのはサクさんですよね。でも死んじゃってましたし、わたしがもらったんです。サクさんの次はわたしの順番でしたから」
「問題ないだろ」
確かに、宝箱はタゴサクがもらう順番になっていた。
死んでいては取りようがない。せっかくの宝箱を無視するのはもったいないし、イアが手に入れるのは何もおかしくない行動だ。
「渡さなくて大丈夫ですか?」
「いらないって。アイテムが欲しい気持ちはあるが、譲渡禁止のルールを破るほどじゃない。イアが持っておけばいいよ」
「わたしはサクさんをPKしたことにもなってますし、お金やアイテムを奪いましたよ。なんだか申し訳ないです」
ソーニャとイアで奥義を使ったが、イアがとどめを持っていったらしい。
あの時は、イアは奥義を使うために松明を破棄した。暗くなったせいで、タゴサクは自分がどのように死んだかも把握できていない。
少しだけ見えたのは、七色ではなく橙色オンリーの虹に、無数の黒い手のような物だった。
「とどめはイアだったんだな。そっちも問題ない。俺が選んだ行動だ」
「恨んでいません? PKしたこともそうですけど、わたしの奥義は結構極悪でしたよ?」
「よく見えなかったが、どんな奥義だ?」
「アイアンメイデンっていう拷問器具がありますよね。とげで全身を突き刺すやつです。わたしの奥義は、腐り果てた亡者の手がとげの代わりになって、全身穴だらけにするといいますか」
「……見えなくてマジでよかった。俺の【神ニ反逆セシ小鬼王】みたくキモいってことだろ? イアは綺麗な顔してるのに、奥義はえげつないな」
「綺麗? えへへ」
昨日も美女と言われて喜んでいたが、大人の女性として見られるとイアは嬉しいようだ。
アピールするために、今後は褒め言葉を工夫してみようと思う。
「それで、宝箱にあったのはどんなアイテムだ?」
「効果はよく分からないんですよね。何かのキーアイテムになるのかなって考えてます。【ニフナジュレタの祈り】ってアクセサリで……見せた方が早いですね」
イアがメニュー画面を操作すれば、細い首に金色のネックレスが装備された。
「一応装備品になるんですけど、ステータスがアップするわけじゃないですし、アイテムの説明を読んでもたいしたことが書いてないんです。『女神ニフナジュレタの加護を得たネックレス』とだけ」
「女神の名前はニフナジュレタっていうんだな。分かったのはそれだけか」
「ログアウトしてから調べましたけど、情報はありませんでした。知っているプレイヤーは隠してるんだと思います」
「女神の秘密を探るのも面白そうだな。つっても、手がかりなんかないが」
昨日の結末を教えてもらったし、今日のゲームを開始だ。
三人は【空中都市アオゾラ】にいるので、ここで必要なことを済ませる。
ソーニャは服を修理し、奥義の効果で壊れた武器を買い直す。タゴサクとイアも装備のメンテナンスを行った。
続いて、職業斡旋所に向かう。ダンジョン攻略で多少レベルアップしたので、新しいスキルを覚えるアイテムを受け取れないかと考えた。
タゴサクはレベル104と2レベルアップだが、一つだけもらえた。
ミディーリに負けてアイテムを失った経験があるため、もったいぶらずに使う。
覚えたのは【堕天】というスキルだ。【瘴炎焼閻】と入れ替えておく。
スキルの効果だが、HP、MP、SPを完全回復し、ステータス異常まで全て治療するという破格の性能だった。
ただしデメリットもあり、スキル使用後の一定期間は、モンスターを倒せば倒すほど経験値が減少する。
経験値が減ればレベルも下がるし、事実上モンスターと戦えなくなるに等しい。
「堕天ねえ。白い天使が、黒い悪魔に堕ちるイメージか。鈍色らしいな」
便利だが使いどころが難しい。
完全回復するスキルを使わなければならない状況に置かれるとなると、強力なボスモンスターとの戦闘になる。
スキルを使えば起死回生の一手にはなるだろう。ボスも倒せる。
だが、ボスの莫大な経験値が仇となり、レベルが一気に下がりかねない。
そこまでのリスクを負うなら、大人しく負ける方がマシだ。
リスクを背負ってでも勝たねばならない、絶対に負けられないと判断した時のみ使うことになる。
重要な決断を迫るスキルだ。タゴサクのジョブである【審聖騎士】にふさわしいとも言える。
ソーニャとイアも新しいスキルや魔法を覚えたし、やるべきことを終えた。
「空中ダンジョンに行くか? 全部探索してないし、ボスも倒してない」
「そうね。イアはいい?」
「いいよ」
三人は再び空中ダンジョン【ソラ】に挑むつもりだった。
空を飛ぶために移動しようとしたが、町中でイベントが発生する。
すれ違ったNPCの男性がイアを見て、目を見開いた。
「そのネックレスは!」
正確には、イアのネックレスだ。装備したままになっていた【ニフナジュレタの祈り】に注目している。
「君、それはもしかして、【ニフナジュレタの祈り】では?」
「そうですけど」
「おお、やはりか! では、女神にお会いしたのだな!」
「会ったといいますか……」
「女神に会った君に、折り入って頼みがある」
これはよろしくない展開だ。
タゴサクは、コモンステラの【テイヘーンの町Ⅱ】で薬草採取のクエストを受けた経験がある。病気の母親を助けたがっているNPCの少女に頼まれ、薬草を採取しに行くクエストだ。
罠であり、報酬も何ももらえないが。
レアステラでは、宇宙船のチケットを入手するクエストもあり、こちらも報酬はない。
今の状況は似ているのだ。
イアも同じように考えているのか、頼みと言われても乗り気ではない。
頼みを受けるとも断るとも言わないが、NPCは構わずに話す。
「我が国には女神の伝承があり、願いを叶えてくださるという話だ。叶わぬ願いはないと言われている。実は、我が国の国宝が壊れてしまい、困っているのだ。女神に会えるのであれば、国宝を元に戻してもらえるよう頼んでくれないか?」
「我が国の国宝……ですか?」
疑問の声を上げたのはイアだが、タゴサクも疑問に思った。ソーニャも怪訝な表情をしている。
国宝だ。薬草やチケットとは桁が違う。
話している男性NPCの服装は華美であり、いかにも偉そうな人に見える。
「これは失礼した。名乗っていなかったな。ワタシは四十七の王が一人、ネルガルドニアノ・ソラという」
「こ、国王陛下!?」
「うむ。もしも君が、ワタシの頼みを聞き届けてくれるのであれば、上の星へ行けるよう推薦状を書くと約束しよう。ネルガルドニアノ・ソラの名に懸けて嘘ではないと誓う」
「わ、分かりました。やってみます」
「おお、引き受けてくれるか! では頼んだぞ。これが壊れた国宝だ。修理してくれる者を探して町を回ったが、誰もが無理だと言い途方に暮れていたのだ」
イアはクエストを受けることにしたようだ。王様から風呂敷を受け取っている。
王様の名前まで出して、実は嘘でしたという展開はあるまい。いくらSOSでもないはずだ。
王様に認められるという目的が達成できるのであれば、引き受ける価値はある。
「伝承によれば、女神は遠くの星にある泉に姿を見せると言われておる。どこの星なのかは分からぬが、探してくれ」
「遠くの星ですか? ここではなくて?」
「伝承ではそうなっておる」
言うだけ言って、王様は去って行った。
クエストを受け、壊れた国宝を持つイアは、予想と違う展開になったのか困った顔をしている。
「大丈夫か?」
「クエストを受けたのはいいけど、クリアできるの?」
タゴサクとソーニャが声をかけても首をひねる。
「空中ダンジョンに行けばいいと思ってたんだけど……遠くの星?」
「コモンステラかレアステラだろうな」
「どうしてですか?」
「ゲーム的な都合だ。ジャパンステラよりも上の星じゃないのは分かるよな? 王様に認められて上の星に行きたいからクエストを受けるのに、上の星に泉があると意味がない」
「ジャパンステラのどこかでは?」
「遠くの星って表現が気になる。ジャパンステラの四十七の星なら、比較的近いんじゃないかって。つまり、コモンステラかレアステラのどっちかだ」
「コモンステラとレアステラをくまなく探せっていうんですか? 広いですよ?」
タゴサクたちは、星全体を巡ったわけではない。行っていない場所も多く、探すとなると骨が折れそうだ。
「ラッキーって思って受けちゃいましたけど、失敗だったかも……」
「ダメ元で空中ダンジョンに行ってみない? 昨日の場所で女神に会えないかどうか試すためにね。うまくいけばそれでいいし、ダメならボスを倒して明日から泉探しでどう?」
ソーニャの意見が妥当なところだろう。
タゴサクにもイアにも異論はなく、空中ダンジョン【ソラ】に行く。元々その予定だったし、ついでにクエストもクリアできればラッキー程度に考える。
二日続けて空中ダンジョンの攻略を行うが、一度探索した場所は地図があるのでスムーズに進んだ。
女神に出会った隠し部屋にも行ってみた。
起きる展開は同じだ。女神のホログラムがメッセージを残し、キーワードを入力するよう促された。
入力すれば戦闘になるのだろうが、面倒なので戦わなかった。
「やっぱりダメでしたね。泉を探さないといけないみたいです」
「今日はボスと戦っておこう。誰がとどめを刺しても恨みっこなしで」
「とか言って、お兄ちゃんはとどめを持っていく気満々でしょ?」
「まあな。昨日は俺だけ死んだし、今日こそはって思ってる。だからって、俺に譲る必要はないぞ。三人とも真剣にやらなきゃつまらん。対等にやろう。ソーニャやイアが倒しても文句は言わない」
雑魚モンスターでも、三人で戦う時は恨みっこなしでやっている。
譲ってもらいたい時はあらかじめ言っておき、一人で戦うやり方だ。
宝箱の順番もだが、ここら辺のルールをなあなあで済ませてしまえば、人間関係が壊れかねない。モンスターやアイテムを奪った奪われたと揉めてしまい、一緒に遊べなくなる。
三人の関係は対等だ。楽しく遊ぶためには対等でなければならない。
「真面目な時のサクさんは格好いいんですよね。悔しいですけど」
「イアも、ついに俺の魅力を理解したか?」
「しました」
てっきり「ないですね」と言われると思ったのに、イアは肯定した。
「俺は夢でも見てるのか? 俺にも春が?」
「サクさんとお付き合いするのはないですよ。ないですけど、どうしようもない事情があって、今すぐに彼氏を作らないと絶対にダメだって状況になるとするじゃないですか。その場合は、サクさんがいいです」
「微妙……」
そのような状況になるわけがないので、結局付き合わないという意味だ。
しかし、他の男性よりもタゴサクが一歩リードと考えれば、悪くはない。
「なら、イアの好感度を稼ぐために、泉の情報を教えようか」
「知ってるんですか?」
「ダンジョン探索中に思い出した。俺さ、コモンステラで薬草採取のクエストを受けたよな。薬草が生えてたのが泉だったんだよ。あそこだって決まったわけじゃないが、可能性はある」
他に思い当たる場所はない。タゴサクが知らないだけで、別の泉があるのかもしれないが、明日にでも行こう。
「ありがとうございます」
「好感度がアップしたか?」
「自分で言わなかったらもっといいんですけど」
少しずつアピールしていけばいいので、必要以上に恩に着せることはしない。
今はダンジョンのボスが重要だ。そろそろダンジョンの最奥に到着する。
ボスを倒せるように、タゴサクがとどめを刺せるように頑張ってみよう。




