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たった一つの輝くもの  作者: ともむらゆう
第3章 ジャパンステラ
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四十九話 セクハラ

 御堂(みどう)(そら)は高校三年生、つまり受験生である。

 とはいえ、今はまだ六月だ。受験モードに突入するにはいささか早く、通っている高校のクラスもピリピリした空気にはなっていない。

 受験勉強に追われる前に、最後の高校生活を満喫しようとする人が多いほどだ。

 よって、こういった会話も起きる。


「おーい、御堂。今日遊びに行かね?」


 昼休み、昼食を食べ終えて自席でボーっとしていた空を呼ぶ声がした。

 クラスメイトの男子だ。空は友人が多いので、この手のお誘いはよく受ける。


「メンバーは……」


 友人は一緒に遊ぶメンバーの名前を挙げた。同じクラスの人もいれば他クラスの人もいる。女子が一人も含まれていない点だけは残念だ。

 ゴールデンウィーク前までなら悩むことなく遊びに行っていた。女子がおらずとも、男友達と遊ぶのは楽しい。

 だが、今では事情が変わっている。


「ごめん、今日は無理」

「またかよ。最近の御堂って付き合いわりいな」


 SOSを始めたため、そちらを優先することが増えている。友達付き合いも重要なので常に断るわけではないが、遊びに行く機会は間違いなく減った。

 昨日は、イアと指切りまでしたのだ。彼女との約束を破りたくない。

 声をかけられる前も、ボーっとしていたのはイアのことを考えていたからだ。

 最近はいい雰囲気に思えるし、もっと積極的になってみようかどうかと。


「彼女でもできた?」

「あいにくできてないが、狙ってる子はいるぞ。可愛いし好みのタイプなんだよ。今日もその子との約束がある」

「へー、脈あんの?」

「現時点じゃ微妙。少しずつ距離は近付いてると思いたいが、エッチで変態な男って評価が主だな。男がエッチなのは仕方ないって理解してくれる子だから、嫌われてないのが救いだ」

「逆に、エッチで変態と思ってる相手と一緒にいてくれるのか? 御堂のキャラだからできることだよな。コツとかあんの?」


 クラスでも、空の評価は似たようなものだ。エッチで変態であると思われているし、その評価は実に正しい。


「コツっつうか、直接的なセクハラは絶対にしないぞ。体には指一本触れない。やり過ぎないように言動も注意してる。冗談の延長線上で許される範囲を見極めるのがポイントだ」


 空とて無節操にセクハラ発言をしまくっているわけではない。

 妹の双那と比べれば、イアには遠慮もある。双那の胸ならガン見するが、イアならチラ見になる。

 そもそも見るなという真っ当な反論は受け付けない。真面目で誠実な男は目を逸らすだろうが、空はそういうタイプではない。


「見極めるのが難しいっての。ミスったら目も当てられないし、だったら最初から紳士的に振る舞っとく方が楽だ。そっちの方が好感度も上がる」

「普通はそれでいいと思うぞ。俺も、出会って一日か二日くらいはギリギリ紳士的だった」

「本性出すのがはええよ!」

「御堂君、サイテー」


 友人とバカな会話をしていれば、空の隣から突っ込みが入った。

 クラスメイトの女子だ。席が隣だし今も座っているので、会話は丸聞こえになっていた。突っ込みたくもなるだろう。


「ごめんね、花屋敷(はなやしき)さん。全部こいつが悪いから」

「俺のせいかよ!」


 友人に責任を押し付けてから、なぜか三人での雑談になる。

 女子生徒の名前は、花屋敷恋歌(れんか)という。華やかな名前をしているが、特別に美少女ということなく平凡だ。

 しかし、性格が明るく、男子とも分け隔てなく接してくれる。


 何より空にとって嬉しいのは、胸が大きいところだ。双那以上のサイズをお持ちである。スクリーンショットでしか見ていないが、SOSにいるトキヒメという女性プレイヤーと同程度といったところか。

 顔はやや地味だがスタイル抜群で、性格も好感が持てるとなれば、花屋敷を狙う男子も多い。確か彼氏がいたはずだし、その事実を知って諦めるわけだ。


「御堂の代わりに、花屋敷さんが一緒にどう?」

「あたしも約束あるから無理だね」

「ちぇっ」


 花屋敷を遊びに誘い、断られていた。

 織り込み済みだったようで、ショックを受けた様子はない。

 彼氏とのデートを想像しているのかもしれない。空も聞きはしないがデートだろうと考えた。

 雑談をしているうちに昼休みが終わる。

 午後の授業も頑張ろう。放課後はすぐに帰宅して、ゲームだ。





 SOSにログインし、イアやソーニャと合流して挨拶を交わす。

 毎日のことなので慣れたものだ。


「サクさん、泉ですけど」

「コモンステラに行こう。【テイヘーンの町Ⅱ】だ」


 アイテムを使い。三人で【テイヘーンの町Ⅱ】に転移する。

 久しぶりのコモンステラは相変わらず鬱々としていた。


「この空気も紫の空も懐かしいわね。恋しかったって気持ちは全くないけど」

「用事がなきゃ、久しぶりに行ってみようかって気にはならないよな。泉が正解かどうか確かめて、上に戻ろう」


 薬草を採取した泉に向かって出発する。

 フィールドのモンスターは、レベル100を超えている三人にとっては相手にならない。スキルや魔法を使うまでもなく蹴散らせる。


 PKにも襲われた。コダっているプレイヤーとなれば襲われるに決まっている。

 モンスターと同様、相手にならないし、倒すのは簡単だ。

 昔は、PKと遭遇すれば死亡確定だったが成長した。

 コモンステラのプレイヤーから色々奪うのは申し訳ないので、逃げてもらった。レベル100以上だと伝えても信用していなかったが、力の差を見せつければ逃げてくれた。


「楽しくないわね、これ」


 ソーニャがポツリと呟いた。言葉通り、楽しくなさそうな顔をしている。


「これってどれ? わたしがお邪魔で、大好きなお兄ちゃんと二人がいいとか?」

「なんでそうなるのよ。格下相手に力をひけらかして、『弱っ! 雑魚っ!』って見下すのが面白くないって意味。あの人、私たちに見逃してもらえて感謝なんかしてないわよ。見下されて悔しいとしか思わない。私があの人の立場なら思うもの」

「レベル100超えのプレイヤーが、コモンステラにくんなって感じるよな」


 レベルが上がれば上の星に行き、下の星にはほとんど用事がない。

 今回のタゴサクたちは用事があるが、相手からすれば格下を見下して悦に浸りたいがためにコモンステラにいると考えかねない。

 タゴサクたちがいくら「見下していない」と主張しても通じず、「だったらコモンステラにくるな」と反論されるのがオチだ。


 お互いにいい気分にはなれない。余計なトラブルを避けるためにも、用事を済ませて上に戻ろう。

 泉は町から徒歩三十分ほどと遠くないので、問題なく着けた。

 あとは、ここで何をするかだが。


「イソップ物語的なら、泉にアイテムを投げ込めばいいのか?」


 金の斧というイソップ物語の一つだ。有名な話であろう。

 木こりが手を滑らせて斧を落とし、女神が現れる。

 金の斧を見せ、落としたのはこれかと尋ねる。木こりが違うと答えれば、次は銀の斧を見せ、同様に尋ねる。木こりがそれも違うと答え、最後に鉄の斧を拾ってくると、自分の斧だと答えた。

 正直者の木こりに感心し、三つの斧を全て与える。

 正直者が報われますよ、と教訓を伝える物語だ。


「壊れた国宝を投げ込むんですか? 何も起きなかったら国宝を失いますよ」

「失えばクエスト失敗か。リスクが高いな」

「投げ込む前に、色々試してみれば?」


 ソーニャが提案し、三人で調べてみることにした。

 ヒントらしき物は見つからず、当然女神も姿を現さない。


「ソーニャはなんか見つけたか?」

「なんにも。イアは……」


 イアは、王様から預かった国宝を持ち、泉の傍に寄っている。女神が現れないかどうか試しているのだろう。

 残念ながら女神は現れないが、代わりに不可思議な出来事が起きる。


「きゃあっ!」


 可愛い悲鳴を上げて、イアが泉にダイブしたのだ。

 足を滑らせたのではなく、自ら飛び込んだように見えた。


「何やってんだ?」

「さあ?」


 イアの行動の意味が分からず、兄妹は顔を見合わせた。

 しばらく待っていると、泉から這い上がるイアがいた。そして、タゴサクたちに対して文句を言ってくる。


「何するんですか!」

「何って?」

「とぼけないでください! わたしを突き飛ばしましたよね! 背中を思い切り押されました! やったのはサクさんですか!? それともソーニャちゃん!?」


 イアは怒っているが、タゴサクに心当たりはない。無論、ソーニャもだ。

 第一、二人とイアには距離があった。背中を押せる位置ではない。

 タゴサクとソーニャは、お互いに無実であると証明し合える。

 それを伝えようと思ったが、タゴサクはもっと重大なことに気付く。慌てて後ろを向いた。


「サクさんなんですね! 目を逸らしたのが証拠です!」

「違うぞ! 俺じゃない!」

「今回に限っては、お兄ちゃんは無実よ。私の近くにいたし、押せる位置じゃないの。目を逸らしたのも、お兄ちゃんにしては紳士的な行動ね。自分の格好を冷静に見てみなさいって」

「わたしの格好……って、いやああああっ!」


 絹を裂くようなイアの悲鳴が聞こえた。彼女も気付いたようだ。

 今のイアは濡れ透けになっている。

 鎧を装備しているのに、金属の鎧が透けるというアホな状況が起き、肌色が見えているのだ。


 タゴサクもチラッと見えてしまったが、たとえるならエロい深夜アニメにおける謎の光だ。局部のみを覆い隠す光の防御。

 逆に言うなら、局部以外は見えているに等しい。

 タゴサクにとっては非常に嬉しいラッキースケベだ。これを望んでいた。

 が、さすがに見え過ぎだ。ガン見どころかチラ見するのもイアに悪く、とても見られない。


「見ないで! 見ないでください!」

「もう見てないから!」

「もうってなんですか! ちょっと見たんですか!? サクさんのエッチ! セクハラです! セクハラ!」

「ごめん!」


 イアが泉に落ちたのも濡れ透けになったのもタゴサクのせいではない。少し見てしまったのは悪かったが、不可抗力だと言い訳したいところだ。

 現在の状況下ではいくら言っても通じないし、平身低頭する。


「落ち着きなさいって。見られて嫌な気持ちは分かるわよ。私も女だしね。でも、ヒステリー起こしたっていいことないわよ」

「分かるけど……分かるけどぉ……」

「セクハラ被害で運営に報告入れる? 酷いセクハラされたから、アカウントを削除してって。一発でSOSから追い出せるかもよ?」

「そ、そこまでは……」

「貸し一つってことにしておけばいいじゃない。機嫌直して。ね」


 ソーニャがイアを落ち着かせようとしてくれていた。

 タゴサクは振り向けないので、妹に全て任せる。謝罪や弁明はイアが落ち着いてからだ。

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