四十二話 空中ダンジョン【ソラ】
ソーニャと話しながら空を飛んでいれば、ダンジョンがある島に着いた。
イアは先に到着しており、タゴサクたちを待っていてくれた。
今日はダンジョンを攻略する時間がない。明日以降にし、ログアウトする。
専用エリアでログアウトしたので、次回のログインはここからだ。明日はすぐにダンジョン攻略に移れる。
翌火曜日になり、学校から帰宅後にログインする。
授業中から楽しみにしていた。ラッキースケベは当然として、ダンジョン攻略そのものが楽しみだ。
三人が集まったところでダンジョンに挑む。空中ダンジョン【ソラ】に。
「お兄ちゃん、【ソラ】だってさ」
「ソーニャとイアが【ソラ】を攻略するのか。ありだな!」
「キモい」
タゴサクの本名である空と同じ名前のダンジョンだ。
ダンジョン名を聞くたびに、変な気分になる。
「ねえねえ、ソーニャちゃん。【ソラ】がどうかしたの?」
「イアに教えていい? 個人情報になるけど」
「いいぞ。神経質になって隠すほど重要な情報じゃない」
「あのね、お兄ちゃんの本名が空なのよ。名前だけなら素敵でしょ」
「いい名前ですね。名前は格好いいです。名前だけは」
「だけは余計だ。俺という男そのものが素敵だと言え」
突っ込んでも言ってもらえなかった。
代わりというか、イアがこんなことを言い出す。
「わたしの名前も教えましょうか?」
「知りたい! ぜひ!」
気になっている女の子の本名だ。ぜひとも知りたい。
「お兄ちゃんに教えていいの?」
「サクさんとも一ヶ月以上の付き合いになるし、いいかなって。名前だけなら悪用もできないよね。ここまで食いつかれるとは思ってなかったけど」
「悪用なんてしないから教えてください」
「木野蔵藍子です。藍色の子供で藍子」
「藍子か。可愛い名前だ」
素敵な名前だし、プレイヤー名であるイアの由来も分かった。藍を逆から読んだのだ。
「厨二病患者にしては普通の名前にしたなって思ってたが、ソーニャと同じで本名のもじりなんだな」
「名前で厨二病ネタに走るのはどうかと思ったんです。他にも候補は考えました。苗字の木から木星でジュピター。藍を英語にすればインディゴなので、ちょっともじってティコ。しっくりこなかったのでイアにしました。わたしとしては、サクさんが不思議ですよ。どこをどうしたら、空からタゴサクになるんですか?」
「俺のセンスのたまものだ」
自信満々に言い切った。
一般受けしなかろうと、タゴサクの中ではセンスのある名前だ。ナンパやグレスのように理解してくれる人もいる。
「センス?」
「お兄ちゃんって、名前のセンスがないのよ。ファッションとかは特に変じゃないのに、なぜか名前だけ。好きな女性アイドルの名前を言ってみて」
「森田ウニ」
現実でファンになっているアイドルの名前だ。芸名なので本名ではないが、名前が気に入ったのがきっかけでファンになった。
「すみません、知らないです。わたしが知ってるのは、山田ユゼッタとか佐藤モニカとか高橋ベルサとか」
「トップクラスのアイドルばっかだな」
イアが挙げた面々は、アイドルに興味のない人でも名前を知っているであろう有名人だ。人気もあってメディアへの露出も多い、トップアイドルたちである。
ところでアイドルの名前だが、平凡な日本の苗字に欧米風の名前を組み合わせるのが流行だ。ハーフでもクウォーターでもないが、最近のアイドルはこういった芸名をつける。
森田ウニは、なぜウニなのかは知らない。もっと可愛い名前はあるのに。
名前のせいなのかなんなのか、人気はいまひとつだ。失礼ながら三流か、せいぜい二流だろう。
タゴサクは、森田ウニの名前が好きだ。もちろん、アイドルだから顔が可愛くて好きなのもある。
アイドル談義はここまでにして、真面目にダンジョン攻略をする。
ログインした場所はダンジョンの入口で、西洋式庭園のようだ。
ゆったりとした芝生が広がり、中央には噴水が設置されている。女性をかたどった像から透明な水が流れる美しい噴水だ。噴水の周辺には赤や青の花も咲いているし、空の旅とは違った意味で見ごたえがある。
ダンジョンらしき建物は見えないが、調べてあるので問題ない。
噴水の傍に、奇妙な紋様が描かれた床がある。ここだけは花も咲いていない。
転移装置になっており、乗れば遺跡に運んでもらえる。
転移先はいくつかの中からランダムで選ばれる。固定にすると、プレイヤーが詰まってしまうためだ。
どこに転移したとしても、遺跡内部はつながっているので、ボスの元にたどり着けないという事態は起きない。
三人で乗ると、次の瞬間には別の場所に立っていた。
石か金属か、材質のよく分からない床や壁に囲まれた屋内だ。
一本道になっているので前に進む。扉が見えるが、モンスターが守っていた。
「出たな。こいつを倒さなきゃ、ダンジョン攻略も始められないらしいぞ」
空中ダンジョンの門番だ。【ケダモノの塔】では有志のプレイヤーが門番をしていたが、こちらは正真正銘の門番になる。
転移先では必ず門番が出現し、倒さなければ先に進めない。
見た目は、モンスターというよりも謎の機械だった。直径一メートルほどの球体で、角のような二本の突起がある。
分かりやすい例を出すと、のっぺらぼうのバ○キン○ンだ。そいつがふよふよ浮かんでいる。
戦闘開始だ。
「【黒壁】!」
角からビームが放たれれば、イアが即座にスキルを使用して防いだ。
タゴサクは【桃源郷シュト】で購入した武器を持ち、前に出る。ソーニャは魔法を使うので後衛だ。
「【流星衝】!」
スキルで連続突きお見舞いするが、機械なので硬かった。ダメージもたいして与えられていない様子だ。
スキルが通じないなら、ソーニャの魔法に頼る。
「【オレンジバード】!」
橙色の鳥が飛翔し、モンスターに直撃する。
タゴサクが使う【スカイバード】に似ている魔法だが、【スカイバード】が【港町ゲン】の店売りなのに対し、ソーニャの【オレンジバード】は橙色のジョブで覚えたものだ。
バードと名のつく魔法は他にもあり、イアも【ブラックバード】を使える。使い勝手のいい魔法が多いので、プレイヤーたちの間では愛用される。
「【断崖斬】!」
「【ディバイン】!」
タゴサクが前衛、ソーニャが後衛だ。
二人がかりで攻撃を加えている間に、イアもスキルを発動する。
「【三途黒鬼】!」
以前、ヴァイスと戦った時に使ったが、変身中に殺されてしまったスキルだ。
タゴサクはモンスターに接近しているため、後方にいるイアの姿は見えない。
だが、以前と同じく恐ろしい見た目になっているのだろう。頭から爪先まで漆黒の闇に覆われ、顔には黒鬼の仮面が張り付くのだ。
予想は正しかったようで、黒鬼へと変貌したイアがモンスターの前に躍り出た。
イアの新しい武器、【冥骸槍グラムガラム】を携え、強力なスキルを放つ。
「【死黒】!」
死の黒と書いて「しっこく」と読む。「しこく」にしなかったのは、四国在住の人たちに申し訳ないからだろうか。
SOSにも、その程度の良識は残っている。いるはずだ。
スキルの効果だが、何も即死効果があるわけではない。ただし、威力がべらぼうに高いため、生半可な相手では耐えられないが。
武器の【冥骸槍グラムガラム】の攻撃力に、【三途黒鬼】の効果でアップしたステータス、そして超強力な【死黒】だ。
三者が合わさり、たったの一撃でモンスターを屠った。
「深淵のイアの前に立たなければ死なずに済みましたのに……ふっ」
「イア、戻ってこーい」
「邪魔しないでくださいよ。今、浸ってるところなんですから」
「その外見で言われるとシャレにならないんだよ。マジで怖い」
戦闘が終われば【三途黒鬼】の効果も切れる。闇は晴れ、仮面もはがれるが、一瞬では戻らず徐々に消える。
美少女顔と黒鬼が中途半端に交ざった状態で言わると余計に怖い。
ましてや、禍々しい槍を持っているのだからなおさらだ。
名前から分かるだろうが、ミディーリが使っていた【冥骸斧ギゼムガゼム】のお仲間だ。黒の穂先には赤い線が入っており、血が滴っているように見えるのも同じだ。
これは【桃源郷シュト】で購入したが、実はタゴサクも勧められた。【冥骸剣ゲゾムガゾム】を買えばどうかと。
速攻で断ったのは言うまでもない。これ以上、邪悪に染まってたまるか。
タゴサクは【白銀剣】というひねりも何もない普通の武器にした。
「にしても、いきなり【死黒】なんか使ってよかったのか? 強いがSPの消費量もバカにならないんだろ?」
「なんとかなりますよ。いざとなればアイテムもありますし」
SPやMPを回復するアイテムを購入してあるので、枯渇した時は使えばいい。
安くても一つ十万スターするし、できれば使わずに済ませたいところだ。
「金を気にせず使えるようになれたらいいよな」
「いつになりますかね。完全回復するアイテムなんか、一つ一千万スターですよ。信じられません」
「それって使う人いるの? 安物をいくつか使えばいいじゃない」
ソーニャが会話に加わり、質問した。
「戦闘中に一気に回復したいとかじゃないか?」
「わたしもサクさんと同意見。他に使い道ないし」
「そんな暇ないでしょ。メニュー画面を開いてアイテムを選択して、とかやってるうちに殺されるわよ。私たちみたいにコダってるなら、仲間に時間を稼いでもらえばいいしできるけど」
ソーニャの言う通り、SOSのアイテムは咄嗟に使えない仕様だ。
タゴサクも、ポーションでHPを回復するのは戦闘終了後だった。戦闘中にモタモタ回復している余裕はない。
「なんか方法があるんだろ。アイテムを一瞬で使うためのスキルや魔法とか」
「あー、なるほど。あっても変じゃないわね」
「アイテムを使うために、スキルや魔法で時間を稼ぐのもいいかもね。適したスキルがあるかも。色々考えるのが楽しいんじゃないかな」
「やっぱり、いいゲームなのよ。ほんともったいない」
昨日に続きSOSへの愚痴になりそうだったが、とりあえず先に進む。
扉を開けた先も一本道だった。
ただし、渡り廊下になっており、左右には手すりも何もない。横幅も狭く、二人がギリギリ並べる程度だ。
高高度に位置するダンジョンなので、落ちれば終わりだ。情報収集した時にも読んだが、落下死には注意しなければならない。
タゴサクが先頭になり、イア、ソーニャと続いて一列で歩く。
そこへモンスターが襲ってきた。人間の女性に近い外見だが、両腕は機械的な羽になっている。鋭利な刃物のように薄く鋭い。
機械的な部分を除けばハーピーだ。
「【アイシクルアイズ】!」
「【ライジングサン】!」
「【黒眼の怪光線】!」
タゴサク、ソーニャ、イアは、三人同時に遠距離攻撃を繰り出した。
狭い渡り廊下で呑気に戦えば落下してしまう。遠距離攻撃で一気に倒した。
「あんまり強いモンスターじゃなくて助かった」
「ここは危険だし、早く進みましょう」
「だな」
モンスターに襲われ続けるとまずい。少し早歩きになって急ぐ。
空中ダンジョン【ソラ】の攻略は、ここからが本番だ。




