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たった一つの輝くもの  作者: ともむらゆう
第3章 ジャパンステラ
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三十九話 防具ではなく服を買おう

 タゴサク、ソーニャ、イアの三人は、ジャパンステラに到着した。

 四十七の星の一つであり、都市の名前は【桃源郷シュト】だ。

 名前に込められた意味はなんとなく分かる。東京と桃源郷をかけており、シュトは首都だ。


「東京ってさ、日本の首都じゃないよな?」

「サクさん、高校三年生なのに、日本の首都も知らないなんて……」

「憐みの目で見るな。マジな話だぞ。首都じゃないって言い切ると乱暴だが、正確には違うんだよ」

「またまたあ。いくらわたしでも騙されませんよ」

「マジなのに……」


 日本の首都は東京だと考えている人が多いが、厳密に言えば首都ではない。

 日本の首都を制定すべき法律がないからだ。

 法律にはなくとも、事実上の首都は東京になる。よって、首都は東京と言っても間違いではない。


「こればかりは、お兄ちゃんが正しいわよ。法律だと東京は首都じゃないの」

「え、そうなの? ソーニャちゃんはよく知ってるね」

「俺とソーニャへの反応が違い過ぎる! 断固抗議するぞ!」

「受け付けません」


 イアが冷たい。いつも通りとも言えるが。


「でも、東京が首都じゃないならどこなんですか? 京都?」

「首都はないってのが正解だ。法律上は首都が存在せず、事実上の首都は東京。ややこしいよな」

「ソーニャちゃん」

「お兄ちゃんが正しいわ」

「初めて知ったよ。首都はないんだね」


 ここでもタゴサクは信用してもらえず、ソーニャに確認を取っていた。

 ソーニャの言葉は素直に信じ、一発で納得する。なぜだ。


「信じてくれよ! 俺、イアに嘘ついたことってそんなにないよな!? スケベな発言なら山のようにしてるが!」

「言われてみれば……ごめんなさい。悪気はなかったんですけど、サクさんを信用しちゃいけない気がしまして」

「悪気がないのが余計に悪いわ!」

「えっと、あれですよ、あれ。あの……あれです」


 イアが理由を探している。すぐに言葉にできない時点で、咄嗟にでっちあげていると言っているようなものだ。


「日本の首都も知らないサクさんは、ちょっとおバカ……ではなくて頭が悪い……でもなくて、手遅れなレベルでバカだなって思ったんです」

「言い直せてないどころか悪化してる!?」

「手遅れでしたら、受験勉強もするだけ無駄ですし、わたしと一緒にSOSで遊べるなって。サクさんと遊べて嬉しいです!」

「って言っておけば、お兄ちゃんなんてイチコロよね。さすがイア。あざとい」

「完璧な理由だよね! 今考えたにしては上出来!」

「でっちあげを隠す気ないだろ!」

「あはははは」


 イアとの漫才も終わり、【桃源郷シュト】で行動を開始する。

 この町の印象を簡単に述べるなら、明治時代や大正時代の日本だろうか。

 レアステラのように近代的な高層ビルは存在しない。和風建築の平屋が多く、時折西洋風の建物が目に入る。

 NPCの服装は、和装と洋装が半々だ。現代風のおしゃれさはないが、古き良き趣がある。まるで映画の世界に入り込んだ感じだ。


 趣のある町を三人で歩き、ソーニャの武器を購入しに行く。

 タゴサクとイアはこれまで使っていた武器があるが、せっかくなので新調した。

 武器の次は防具だが、ここではしゃぎ出したのは女子二人だ。


「この服、素敵!」

「こっちも可愛い。ソーニャちゃんに似合いそう。お嬢様みたいに清楚な服だよ」

「その手の服は、現実で嫌ってほど着てるのよ。イアと遊びに行く時も大体そうでしょ。現実じゃ着ない服を着たいわね」


 会話の内容が、ゲームの防具を選んでいるようには聞こえない。

 それもそのはずで、商品の大半は普通の服なのだ。

 現実にあるファッションとは異なる。NPCが着ていたような、懐古趣味の服が多い。

 無駄に凝ったつくりで見た目は綺麗だが、ただの服なので防御力は紙だ。初期装備である革鎧と同等の強さしかない。

 しかも、弱いくせに値段だけは高い。安くても一着十万スターはする。


「見て見て。あれってミドリちゃんが着てた巫女服だよね」

「こうして見ると可愛いわよね。コスプレ風のなんちゃって巫女じゃなくて、凄く本格的に見えるわ。高いけど」


 店内の目立つ位置には、ショーケースに入れられて飾ってある巫女服がある。

 ソーニャの言う通り、値段が高い。三百万スターとかバカだ。


「ミディーリは三百万も払ってこれを買ったのか? ゲームの金だからって、俺には理解できない趣味だ」

「三百万スターじゃ済みませんよ。闇市の商品は、実際の値段よりも高くなりますから、最低でも倍はしますね」

「ますます理解できないな。ジャパンステラにくれば買えるのに、レアステラで高い金を払って買うのか。まあ、似合ってたのは間違いないし、可愛いとも思うが」


 本当にRPGらしくない。可愛くて強いなら分かるが、可愛いだけで弱い装備に価値があるのかどうか。

 可愛い服を着たいなら、着られるゲームで遊べばいい。

 様々な服を着てアクセサリも身に着け、さらにはメイクまでして、自らを飾る目的のVRゲームもある。女性向けのゲームだ。


「誰かに見てもらいたいのか? 女性向けだから詳しくないが、着飾るゲームって一人用だったよな?」

「ミドリちゃんの気持ちは知りませんけど、一人用のゲームなのは合ってます。わたしも小さい頃に遊びました。少年マンガが好きで厨二病ですけど、女の子らしい趣味だってあるんです。あるんですからね!」

「誰も疑ってないって」


 イアは変なアピールをしているが、可愛い服を着たがる気持ちをおかしいと言うつもりはない。至って普通の感情だ。

 普通だからこそ、美しく着飾るゲームが成立する。


「俺が開発者なら、マルチプレイに対応させるがなあ。着飾っても、誰にも見てもらえないと寂しくないか? 変身した自分を見てもらって、可愛いとか綺麗とか褒められたいよな? むしろ、褒めてもらう方が重要だ」


 タゴサクは男だが、格好いいと言われたい。特に異性から褒められたい。

 イアやミディーリのような女性に褒めてもらいたいから、ファッションにも気を配ろうと思える。

 部屋の中で孤独にファッションショーをしても空しいだけだ。

 この気持ちは男女関係なく共通だろうし、ならば一人用のゲームよりも大勢で遊べるゲームの方が望ましい。


「お兄ちゃんは正論だけど、女心が分かってないわね。みんなに見てもらいたい気持ちはあるわよ。私だって、よくお兄ちゃんに見せてるでしょ?」

「ソーニャちゃん、大胆だね。サクさんに何を見せてるの?」

「変な想像しないで。普通の服よ」

「下着かと思った」

「私は痴女かっての。新しい服を買えば、家で着てみてお兄ちゃんに見せてるだけよ。お父さんやお母さんでもいいけど、仕事でいないことが多いからね。一番見せやすいのはお兄ちゃんなの」


 昔からやっていることだ。妹のファッションショーはお馴染みになっている。

 男子よりも女子の方が早熟だとよく聞くが、タゴサクとソーニャも例に漏れず、ソーニャは小さい頃からませていた。


「こいつ、面倒臭いんだよ。褒めなきゃ不機嫌になるんだ」

「ブラコン? お兄ちゃんに可愛いって言ってもらいたいの! とか?」

「違うわよ。褒めてもらえれば嬉しいってだけ。でさ、褒めてもらいたがる女が大勢集まれば、どうなると思う? ギスギスのドロドロになるわよ。ゲームを楽しむどころじゃないわ。一人用のゲームにしてあるのは英断よ」


 英断とまで言うほどか。どれだけギスギスしているのやら。

 タゴサクは恋人がいたことがなく、女性に幻想を抱いている部分があるだけに、生々しい現実は知りたくなかった。夢を壊さないでもらいたい。


「暗い感情を一切持たずに、キャッキャウフフしてるだけなんて、あり得ないとは分かるが……」

「女ってそんなものよ。男は知らないけどね。だから、SOSに可愛い服をたくさん用意してあるのが意外……でもないかも。一番を目指すゲームだし、他の女どもは自分の引き立て役にして踏み潰せばいいのよね。納得したわ。さすがSOS」

「自己解決すな」


 このような納得の仕方をされるゲームということだ。分かっていてもおかしい。

 SOSのバカさ加減を話しつつ、ソーニャは服を購入してしまった。防御力など碌にないただの服を。

 お値段は、なんと三十五万スターだ。巫女服には及ばないものの高い。

 種類としては和装になる。一世紀以上昔の日本人女性が着ていたような服だ。

 お正月などに着る振袖ほど派手ではないが、デザインは秀逸で、色合いも質素ながら落ち着いた魅力がある。


藍染(あいぞめ)っつうのか? よく知らんが」

「私も知らないけど、可愛いでしょ? 高いだけの価値があるわよ。あと、これも見て。同じ色の扇子までもらっちゃった。特殊効果のないアイテムだけど、可愛いは正義よ」

「可愛いが、ソーニャの外見は派手だからな。髪や瞳も真紅だし、落ち着いた色の和装が似合うかっていうと……ありっちゃありか? 外国人が着物を着た時みたいな、パッと見だと違和感あるのに不思議とマッチする感じだ。似合うし可愛いぞ。可愛いっつうか綺麗かもな。色っぽくて素敵だ」

「ありがと」


 お世辞を言っているわけではない。ソーニャの姿は文句なしに綺麗だ。


「サクさんって、恥ずかしい褒め言葉を口にできるんですね。学校の女子に言えばモテそうなのに、なんで彼女がいないのか不思議です」

「スケベで変態だと思われてるからだな。俺が褒めても本気で受け止めてもらえないし、下手すりゃセクハラだ」

「すっごく納得しました。これ以上ない説得力です」

「悲しい……んで、イアは買わないのか?」


 ソーニャとは違い、イアは何も買わなかった。

 真剣に見ていた服もあったし、気に入った物もあるだろうに。


「欲しいですけど、弱いんですよねえ。わたしは物理特化なので、防御力が下がるのは困ります」

「私は魔法中心にしていく予定だし、弱くても構わないかなって。魔法職ってそういうものじゃない? 防御は紙装甲なのが定番よね?」

「普通の服を着るのは違う気もするが、ソーニャが納得してるならいいだろ」


 ゲーム内でのファッションショーを楽しみたいなら、タゴサクが口出しすることではない。本人の好きにすればいい。

 タゴサクは防具を購入した。

 服ではなく防具だ。正義の騎士が着ていそうな白銀の鎧である。

 見た目だけは格好よくなれたと思う。スキルなどは悪そのものだが。

 装備は整えられたので、次はジョブを変える。【桃源郷シュト】にも職業斡旋所があり、そこへ行けばジョブを変更できた。


 タゴサクは【背教者(レネゲード)】から【審聖騎士(ライブラナイト)】。

 ソーニャは【吟遊者(ミンストレル)】から【古代(アーティファクト)魔導(マジシャン)】。

 イアは【(ブラック)天女(セレスティアル)】から【深淵門番(アビスキーパー)】。


 ジョブ名からして、かなり強そうな響きになった。レベルが変わるわけではなくとも、いっぱしの実力者になったと思える。

 色やジョブが増えるには、いくつか条件がある。

 レベルを上げたり別の星へ行ったり、あるいは他の特殊な条件であったり。

 ジャパンステラにきたことで、就けるジョブが増えていた。


「色が関係なくなってる気もするな」


 タゴサクのジョブである【審聖騎士】は、強引な解釈になるがギリギリ説明がつく。

 神聖ではなく、審聖になっているのがポイントだ。聖を審判する、つまり善悪を判定する意味だろう。だから、善悪を計る天秤(ライブラ)という名前だ。

 白黒つける役目なので、鈍色と考えられる。白でも黒でもない色の役目だ。


「わたしのは分かりやすいですよ。深淵なので黒のイメージです。格好いいですよね! 気に入りました! これからは、深淵のイアって名乗ります!」

「二つ名くらい好きに名乗ればいいけど、私は橙色っぽくないわよね。古代のどこが橙色?」

「マグマの色? ソーニャは【ジュラシックシャワー】を使ってたよな? あれだよ。古代は活火山も多くてマグマが吹き荒れてるとか?」


 タゴサクのジョブ以上に強引な解釈だ。

 色とジョブ名の関係はどうでもいいので、深い考察はなしにする。

 ジャパンステラでの活動を開始しよう。レベリングからだ。

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