三十八話 太陽の女神
第2章最終話です。
試合の日から一週間後の日曜日になる。
タゴサクは、この日もソーニャやイアと一緒に三人で遊んでおり、ゴブリンの王と戦闘中だ。
「ソーニャちゃん、頑張って! もうちょっとだよ!」
「手を貸して欲しけりゃ言えよ。優しいお兄ちゃんが助けてやるぞ」
「いらないわよ!」
戦っているのはソーニャだけだ。タゴサクとイアは奮闘を見守る。
タゴサクは、昨日ゴブリンの王を倒した。イアに続いてチケットを入手済みだ。
ソーニャは、今挑戦中だ。レベルは100ちょうどで、勝つには少々厳しいが、必死で戦っている。
「【ジュラシックシャワー】!」
魔法を使用すれば、空間が裂けた。ゴブリンの王の頭上から、橙色のドロドロした炎が噴き出す。
炎に溶解されながらも、ゴブリンの王はソーニャを叩き潰さんと襲いかかる。
「【初心者潰し】!」
ソーニャは迎え撃つが、コモンステラで覚えた弱いスキルなど通じない。
ゴブリンの王の攻撃に押し負け、ダメージを食らう。
「【初心者潰し】!」
通じないと分かっていて、同じスキルを連続して放つ。
ソーニャの行動にはちゃんと意味があり、奥義を使うための下準備をしている。
二刀流男のリュウキオウが使っていた【終ノ誓約ヲ継ギシ赤青】と似た性質を持つ奥義だ。
あれは、二つの奥義を使用後に発動可能になったが、ソーニャの場合は【初心者潰し】を規定回数使うことが条件となる。
「【初心者潰し】!」
ゴブリンの王の攻撃を防ぎながらスキルを叩き込み続け、ようやく規定回数を満たす。
「【初メテヲ捧グ】」
ソーニャは、自分の装備している剣に軽く口づけをした。
美少女の口づけを賜った剣は、色が変化する。鋭い鉄色から、頬を染める人間のような朱色へと。
「見てるわたしの方が照れますね。キスをするソーニャちゃんの表情、凄く色っぽいです」
「兄の俺が見てすらドキッとするな」
「奥義の唱え方も色気がありますよね。力強く言葉を発するんじゃなくて、耳元で愛を囁くようといいますか……はふぅ」
タゴサクがやれば気持ち悪いだけだが、ソーニャは絵になる。同性のイアも見惚れるほどだ。
まあ、突っ込みどころの多い奥義ではあるが。
ファーストキスって名前はおかしい。唇同士ではないどころか無機物相手だ。何度も奥義を使えば初めてじゃなくなる。武器が照れてどうするのだ。
言い出せばキリがない。
野暮な突っ込みはさておき、これは武器の性能を大幅に引き上げる効果を持つ。
「【初心者潰し】!」
ゆえに、弱いスキルでも信じられない破壊力を生み出す。
ゴブリンの王は、体の一部が弾け飛ぶほどのダメージを受けた。
「【豪撃】!」
強めのスキルともなれば、並の奥義など足元にも及ばない威力へと昇華する。
武器の性能を引き上げるため、魔法の威力は変化しない。よって、スキルを使いゴブリンの王を追い込んでいく。
そして、とどめは別の奥義だ。
「【豊ナル穣ノ声】!」
イメージは太陽だ。豊穣を与えてくれる太陽の恵み。
ソーニャ自身が太陽の女神になったかのように、神々しく光り輝く。
美貌の女神は、ゴブリンの王にそっと手を触れる。赤子を眠りにつかせる揺りかごだ。
映画のワンシーンと考えるなら、簡単に風景が思い描ける。
空には太陽が輝き、地上では豊かに穣った金色の穂の海が広がる。そのただ中でたゆとうは、安寧の揺りかごだ。母が子を眠りにつかせる。
もっとも、目覚めることなき永遠の眠りだが。
太陽の女神を前にして、強敵だったゴブリンの王は消滅した。
ソーニャが勝利したが犠牲もある。
戦闘終了と同時に、装備していた剣が役目を終えて壊れた。
一瞬だけ輝きを放ち、消えゆく様子は、ソーニャに別れを告げているようにも見える。無機物の剣に感情移入してしまいそうだ。
これは【初メテヲ捧グ】の副作用だ。奥義を使用すれば、戦闘終了時に必ず武器が壊れる。
耐久度がどれだけ残っていようと関係ないし、武器の強弱も関係ない。使えば確実に武器を失ってしまう。
口づけを賜り、本来あり得ない力を発揮したせいで、力尽きる感じだろうか。
「ソーニャはえげつないな」
「なんでよ」
「武器を使い潰す奥義だろ。【初心者潰し】の熟練度を最大にして覚えただけあるよな。魔法はなんだっけ?」
「【ディバイン】ね。【港町カン】で買ったわ。コモンステラのスキルとレアステラの魔法で奥義になるとは思わなかったけど」
ディバインの意味は「神聖な」だったか。綺麗な名前なのに、奥義は武器を使い潰す効果とは酷い。
ともあれ、勝ったことには変わらない。チケットも入手できた。
三人ともチケットを入手し、上の星へ行けるようになる。
「すぐに行くか? レアステラでやることはあるし、そっちをやってもいいが」
町ではクエストを受けられる。罠ではないクエストをやればいい。
闇市を見て回り、掘り出し物を探してみるのも楽しそうだ。普通の店では売っていないアイテムが時々見つかると聞いている。
ちなみに、ミディーリの巫女服や両手斧は、闇市で購入したらしい。
地下ダンジョンを攻略し、ボスモンスターに挑むのもよさげだ。チケットと交換できるレアアイテムは不要だが、ダンジョン攻略自体は無駄にならない。
このように、レアステラでやることはいくつも残っている。すぐさま上の星へ行く必要はない。
「俺はダンジョンに行きたい。別行動中に一人で行ったが、PKされてまともに攻略できなかったし」
「ダンジョンなら上の星にもありますし、そっちでよくありません? わたしは早く上に行きたいです」
「私もイアに賛成。もう六月よ。お兄ちゃんがSOSをやめるまで、二ヶ月も残ってないの。先に進む方がいいわよ」
多数決の結果、上の星へ行くことになった。今は日曜日の午前中なので、午後は丸々残っている。上の星へ移動して遊ぶ時間もある。
タゴサクの意見が通らずに不満はあるが、ダンジョンにこだわっているわけでもないので構わない。イアが言うように、上の星のダンジョンでもいい。
アイテムで【港町ゲン】に戻り、宇宙船に乗る。
コモンステラから到着する宇宙船だけではなく、上に行く宇宙船もここにある設定だ。
ソーニャの武器は壊れたままだが、新しい町で買うと言っていた。
「新しい場所に行くのってワクワクしますね! 張り切って行きましょう!」
イアのテンションが高い。
新しい町に行くのはRPGの楽しさだが、レアステラには【港町ゲン】と【港町カン】の二つしかない。
ゴールデンウィークから一ヶ月、タゴサクやソーニャと行動していたせいで、イアにとっては久しぶりの新しい町だ。
「ミドリちゃんなんか、いっぱい自慢するんですよ。上は面白いって。サクさんも聞きましたよね?」
「聞いたな。わざわざレアステラに降りてきてまで自慢してた」
タゴサクとの試合に負けたミディーリは、ダンジョンボスのレアアイテムを入手してチケットと交換した。今は上の星で活動中だ。
ゴブリンの王を倒す方が簡単なのに、別の方法を選択するのだから、よほど嫌いだと分かる。
上にいるミディーリだが、時折ソーニャやイアに会いにきては、面白いと自慢していた。タゴサクへの当てつけのように「ゴブリンの王もいませんし」とも。
お嬢様は根に持たないという話はどこへいったのやら。
「上に行ったら何する? 私は武器を買うけど、次は?」
「わたしはジョブを変えてみようかなって。いまだに【黒天女】のままだし」
「二つ名はいいの? 自称だから、そのまま使う?」
「あれ、結局名乗る機会がなかったよね。【黒天女】のイアって名乗りたかったのになあ。次のジョブが格好よかったら、二つ名も変えてみるよ」
「俺もジョブを変えるか」
「私も変えよっと。本格的に魔法職を目指してみようかな」
三人で雑談しつつ宇宙船に乗っていると、星が見えてきた。
コモンステラ、レアステラときて、次なる星の名前は。
「ジャパンステラ。日本になるとは思わなかったよな。スーパーレアやウルトラレアかと思った」
中世ヨーロッパ風のファンタジーでありながら、なぜか和風の文明を持つ国が登場する作品は多い。
SOSでも和風の星が存在しており、それがジャパンステラだ。
考えてみれば納得の設定ではある。和風の国がなければ、ミディーリが装備しているような巫女服もあるはずがない。
特徴としては、四十七の星が集まっているところだろうか。四十七都道府県に対応していると思われる。
コモンステラやレアステラは一つの星だったが、ジャパンステラは四十七の星の総称だ。
誰でも自由に行ける星もあれば、特定の色でしか行けない星もある。
数が多いだけあり、プレイヤーの大半はジャパンステラで活動している。メインの舞台となる星と言っても過言ではない。
レベルも、タゴサクたちのように100そこそこのプレイヤーもいれば、300や400になっているプレイヤーもいる。
高レベルプレイヤーと遭遇してしまえば、あっさりPKされるだろう。
これまで以上に厳しくなるに違いない。
タゴサクは、自分のステータスを確認する。
レベルは102で、色は鈍色、ジョブは【背教者】だ。
スキル構成は次のようになっている。
・スキル
【全力】
【邪なる乱斬り】
【流星衝】
【瘴炎焼閻】
【賤炎穿閻】
【脳髄祭】
【断崖斬】
【敗者の競演】
・魔法
【バースト】
【アイシクルアイズ】
【スカイバード】
【ミラージュカッター】
【エクスクラメーション】
【ワイルドカード】
【トリノライオン】
【シールドロック】
・奥義
【全テヲ滅スル光】
【獅子ガ纏イシ死屍炎魔】
強くなったつもりだが、ジャンパンステラに行くには物足りない。
ヴァイスと戦って勝てるレベルでもないし、レベル400を超えているナンパの背中は果てしなく遠い。
金色になったというトキヒメに会いたいとしても、まだまだ先になる。
SOSをやめるまで、残り二ヶ月弱だ。どこまでたどり着けるだろうか。




