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たった一つの輝くもの  作者: ともむらゆう
第2章 レアステラ
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三十五話 神への反逆

「【流星衝(シューティングスター)】!」


 頭上から迫るミディーリを迎撃すべく、タゴサクはスキルを使用した。

 だが、スキル一発で迎撃できるほど柔な奥義ではない。

 漆黒を纏ったミディーリの一撃が決まり、吹っ飛ばされる。

 タゴサクはあっという間に瀕死だ。奥義に耐え切ったのが奇跡的とも言える。

 次の攻撃には耐えられない。スキルどころか、斧で叩かれるだけでも死ぬ。

 絶体絶命なのだから、もう使ってもいいだろう。


「【神ニ反逆セシ小鬼王(リベリオン)】!」


 タゴサクのスキルで湧き出したのは、大量の【リトルゴブリン】たちだ。

 これぞ、対ミディーリ用の切り札である。

 闘技場を埋め尽くす勢いで湧き出す【リトルゴブリン】たちに、ミディーリの顔が引きつる。

 一体や二体ならさほどでもないが、多数の【リトルゴブリン】が集まるとかなりキモい。

 キモい奥義だけで勝つのは無理なので、追加する。


「【花葬幻想(フラワーファンタジー)】!」


 両者のHPを継続的に減らすスキルを使い、さらに。


「【ゾンビヒール】!」


 自分だけは回復できるようにしておく。

 ミディーリは【花葬幻想】でHPが減る一方だが、タゴサクは【ゾンビヒール】で回復できる。ついでに【リトルゴブリン】たちもいる。


「【黒天冠(ブラッククラウン)】!」


 レアステラ最弱であり、初期のモンスターと同程度と言われる【リトルゴブリン】など、ミディーリの前では赤子同然だ。

 スキルで攻撃され、消えてゆくが、それでも尽きることなく生み出される。

 さらに、そこかしこで()()が始まる。スライムが合体してキングになるように。


 ただし、不定形のスライムとは違い、人型の【リトルゴブリン】が合体するとどうなるか。

 答え。グギョ、メギョ、という異音を響かせながら、ゴリゴリ融合する。


 合体途中のゴブリンは、筆舌に尽くしがたい様相だ。正視に堪えない光景だ。

 SOSでは残酷な表現に規制がかかっており、ゴブリンも例外ではない。血は流れないし、内臓がでろんと露出することもない。

 規制に引っかからない範囲で、いかにキモくおぞましく表現できるか。

 それを追求したと言われれば信じる。


 手足が十本くらいあったり、顔から別の顔が生えていたり、腹に口ができて名状しがたい液体を垂らしていたり、緑色の肉塊になったりと、キモさが天井知らずに上昇していく。

 それはまさに、神が創造した生物の(ことわり)に反する有様である。


 ゆえに、【神ニ反逆セシ小鬼王】。

 せめて、ゴブリンが合体して強くなり神の領域にまで達する、という意味にしておけばいいものを。

 自分で使っておいてなんだが、言わせてもらう。SOSはとことんアホだ。


「ひっ……い、やあぁあああ!」


 ミディーリは少女のような可愛い悲鳴を上げた。お嬢様のロールプレイを維持する余裕もなさそうだ。


「ス、【大爆斧(スーパースマッシュ)】! 【剛腕斧(ストロングスマッシュ)】!」


 半泣きになりながらも、戦う姿勢を見せるのは立派だ。

 選考会で戦ったサンサンは、逃げ惑うしかできなかった。

 あるいは、戦うのではなく、眼前の恐怖を拭い去りたい一心なのかもしれない。


「【極大爆斧(マキシマムスマッシュ)】!」


 ミディーリはスキルを連発するが、【リトルゴブリン】の出現も合体も止まらない。奥義を使ったタゴサク自身にも止められない。

 止める方法は二つだ。合体が完了するか、術者であるタゴサクが死ぬか。


 手を出さずにSPやMPを温存しておき、合体完了後に仕留める。

 あるいは、【リトルゴブリン】たちを無視して、諸悪の根源(タゴサク)を倒す。

 どちらかが正解だが、眼前の気持ち悪い光景を潰したくなってしまうのは無理もない。ミディーリの判断ミスを責めるのは酷だ。


 タゴサクも苦い思い出がある。まともな対処などできなかった。

 この奥義を覚えるためには条件があり、単にスキルと魔法の熟練度を最大にするだけでは足りない。

 モンスターとして【リトルゴブリン】の群れが出現した際に、合体が行われるのを見て、殺される必要がある。

 タゴサクは二週間前に体験した。夜は一人で寝られずに、ソーニャに頼んで一緒に寝てもらったほどの衝撃体験だった。


 気になったのでネットで調べてみたが、【リトルゴブリン】が合体したという情報は見つからなかった。情報を持つプレイヤーが隠している可能性が高いが、そもそもあまり知られていないとも考えられる。

 合体のトリガーになるのは、おそらく【リトルゴブリン】に【最強無敵神業(チートスキル)】を使うことだ。

 弱くて使い道のないスキルを覚えるプレイヤーは少ないだろうし、【リトルゴブリン】相手に使うプレイヤーもやはり少ない。つまり、発見されにくいと。


「【黒旗(ブラックフラッグ)】! 【黒眼の怪光線(ブラックシュート)】!」


 恐慌状態に陥ったミディーリは、次々とスキルを使う。

 イアも使っていたスキルだが、同じ黒なので覚えていても不思議ではない。


「【獄界黒瑪瑙ヲ飾リシ姫(オニキス)】!」


 今度は奥義だ。黒瑪瑙のような石がミディーリを飾り付けるように浮かび、猛スピードで射出される。


「【回転斧(ローリングスマッシュ)】!」


 このスキルは不発に終わった。一つ前の奥義でSPが枯渇したようだ。

 スキルが使えなくなれば、魔法で対処し始める。


「【ダークタイガー】! お願いだからそいつらを止めてぇっ!」


 ミディーリは暗黒の虎を呼び出し、悲痛な声で懇願した。

 主の声に従い、虎が吼える。合体中の【リトルゴブリン】を屠ってゆくが、合体は止まることなく続けられる。

 暗黒の虎は、力及ばず【リトルゴブリン】の数の暴力に潰されてしまった。

 顔面蒼白になってへたり込むミディーリに、絶望を与えるかのごとく、その時は訪れる。


「オオオオオオオオオオオオオオ!」


 雄叫びと共に、ゴブリンの王【キングゴブリン】が爆誕した。

 ちなみに、レアステラ脱出のために倒すゴブリンの王も【キングゴブリン】という名前だ。

 名前は同じだが、別物と言っていい。


 レアステラにいるプレイヤーにとっては、【キングゴブリン】は強敵だ。いかに奥義とはいえ、それほどのモンスターを使役できるとなると強過ぎる。

 合体した【キングゴブリン】は、さほど強くない。ミディーリはもちろん、タゴサクですら勝とうと思えば勝てる。


 何が厄介かというと、キモさだと答える。

 合体事故でも起こしたかのように、およそまともな生物とは言えない見た目だ。心なしか腐臭が漂っている気もする。


 ズチャ、グチャ、っと。

 人型の生物が出すには不適切な足音を立てて、【キングゴブリン】はミディーリに接近する。

 動きは遅いので、冷静になりさえすれば脅威ではないが、ミディーリに余裕があろうはずもない。


「こないで……こないでぇ……」


 へたり込みつつ自らの体を抱き、幼子のように震えるミディーリがいた。


「こんなのやだぁ……やだよぉ……」


 ミディーリの姿勢もセリフも、イケナイ妄想しかできない状況だ。

 ヤられちゃう一歩手前である。

 タゴサクは自他共に認めるスケベだし、この手のエロ作品も大好きだが、実際にあると罪悪感しか覚えない。


「ギブアップするか?」


 ギブアップしなかったとしても、放置しておけば済む話だ。【花葬幻想】の継続ダメージでミディーリのHPがゼロになる。

 苦しませる趣味はないので、ギブアップしてもらいたいが。


「す、する! するからもうやめて!」


 ミディーリのギブアップ宣言により、勝負ありだ。

 試合が終了すれば【キングゴブリン】も消えて、静寂が戻る。

 あまりにもあまりな結果に、観客は静まり返っている。ブーイングの声一つすら出ない。

 今回の試合で、タゴサクの名は悪い意味で広まることだろう。清純無垢な巫女さんを、キモいモンスターで蹂躙したとかなんとか。


 ミディーリは、【キングゴブリン】が消えた今も立ち直れていない。

 闘技場の隅で小さくうずくまり、目はハイライトが消えて虚ろ、口は半開きだ。

 完全に事後である。それも、同意の上ではなく、無理矢理やられちゃった感がありありと。可憐な花がはらりと手折れる情景を思い描けば、大体合っている。


 加害者であるタゴサクが言葉をかけても無駄だろう。

 ミディーリのことは誰かに任せるとして、タゴサクはさっさと立ち去った。





 試合が終われば、タゴサクは【港町ゲン】の町長の屋敷に招かれた。

 見事な戦いだったと称賛されたが、本音だとしても皮肉にしか聞こえない。

 称賛の言葉以外に報酬も受け取った。


 まずはレアステラを脱出するためのチケットだ。

 もう一つあり、何種類かの中から選べた。

 五十万スターのお金、武器、防具、スキル習得用アイテムの中から一つだ。

 コモンステラにいた頃なら五十万スターにしていたが、今は集中的なレベリングのおかげで結構貯まっている。


 よって、スキルを覚えるアイテムにしておいた。あとで使っておこう。

 チケットはNPCの少女に渡し、手元には残らない。喜んでもらえたが、クエストのクリア報酬は当然のように何もない。

 苦労して試合に勝ったにしては、物足りない報酬だ。


「お兄ちゃん……あれはないわあ。勝てばいいってものじゃないわよ」

「俺も思ってるって。ミディーリには悪いことした」

「わたし、気持ち悪くて吐きそうになりました。ログアウトするのが怖いです。現実の肉体に影響が出ていて、ベッドの上で吐いたりしてないかって」

「ごめん」

「タゴサクを応援しにきたら、酷いものを見たね。後悔後悔」

「ナンパはどうでもいいや」

「冷たい冷たい!」


 仲間たちからは、ねぎらいの言葉はなく批判の嵐だった。こちらも、苦労したのに批判されるのだから報われない。

 自分が悪いと分かってはいるが、理不尽な結末だ。


「あれは今回限りの奥義だな。今後は使わない」

「俺は使ってもいいと思うけどね。キモいモンスターは意外といるよいるよ。害虫とかアンデッドとか。タゴサクのも同じ同じ。そもそも、本気でまずいなら実装されないし、アップデートもされるはずだからね」


 ゲームで認められている正式な奥義だから、タゴサクだけが悪いわけではない。

 だが、周囲はそう思ってくれない。悪評が広まるのは避けたいところだ。

 今さらの気もするが。


「ソーニャからミディーリに連絡入れといてくれないか? 俺が謝ってたって」

「謝れば済む問題じゃないでしょ」

「つっても、他に何をすればいいんだ? 現実で訴訟とか起こされちゃ、さすがに困るぞ」

「訴訟ねえ。ゲーム中のトラブルを現実に持ち込んで揉める人たちもいるけど、他人事だと思ってたわ。家族が犯罪者になるなんて」


 酷い言われようだった。

 問題は残っているが、タゴサクのクエストは終わりだ。別行動期間も終わりであり、三人パーティーに戻る。


「ソーニャとイアは、俺と一緒でいいか? 俺は三人でいたいと思ってるが、仲間扱いされると単にコダるって以上にPKされかねない。嫌なら嫌って言ってくれ」

「イアはどうする? 私はお兄ちゃんと一緒でもいいわよ」

「わたしもいいです」

「ありがと」


 なんとか三人に戻れて万々歳だ。

 イアはチケットを入手済みなので上の星へ行けるが、タゴサクとソーニャに付き合ってもらう。


「ところで、タゴサクに聞きたいことがあるんだけど、いいかないいかな? 応援にきたのは、これを聞く目的もあったんだよね」

「なんだ?」

「トキヒメちゃんって、タゴサクのお姉さんか妹さんだったりする?」


 ナンパの口からは、知らない女性の名前が出た。

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