三十四話 試合開始
タゴサクは選考会に勝ち抜き、【港町ゲン】の代表者となった。
もう一つの町である【港町カン】の代表者はミディーリだ。イアの友人であり、タゴサクとも顔見知りの女性である。
ミディーリとの試合に向けて、土曜日の夜はレベリングに励んだ。
選考会に勝てたこともだが、この日のタゴサクは幸運に恵まれているのか、レベリングは順調だった。3つも上げてレベル91となる。
さらに、レアモンスターがアイテムをドロップしてくれた。
金色のモンスターだ。ゲーム開始初日に、コモンステラで金色の花を咲かせるトカゲと出会ったが、今回は金色のゴブリンだった。
名前は【オーロゴブリン】という。
金色モンスターは特殊な扱いで、倒せば様々な特典がある。破格の金銭が入手できたり、スキルを覚えるアイテムを入手できたりといったものだ。
タゴサクが倒した【オーロゴブリン】は、スキルを覚えるアイテムをドロップした。これが結構強く、明日の試合でも使えそうだ。
試合に向けてスキル構成を見直し、結果こうなった。
・スキル
【全力】
【瞬剣】
【孤独な剣士】
【邪なる乱斬り】
【花葬幻想】
【新鮮な死体落とし】
【流星衝】
・魔法
【バースト】
【アイシクルアイズ】
【スカイバード】
【リトルカウンター】
【ミラージュカッター】
【ゾンビヒール】
【エクスクラメーション】
選考会からほとんど変わっていないが、スキルと魔法を一つずつ入れ替えた。
スキルは【瘴炎焼閻】を外し、【オーロゴブリン】がドロップした【流星衝】を入れた。
魔法は【ワイルドカード】を外し、【エクスクラメーション】を。
外した二つは、選考会の四戦で一度も使わなかったものだ。
装備を錆びつかせる【瘴炎焼閻】は、自分の装備の耐久度も減ってしまうため、連戦の中では使いにくかった。そうではなくとも、相手の装備が壊れるまでの長期戦にはならず、意味がないと判断した。
ランダム効果の【ワイルドカード】は、ギャンブル性が強過ぎる。選考会では負けそうになった時の悪足掻き用として入れたが、結局使わなかった。明日は命中率の悪い【エクスクラメーション】に賭けることにする。
スキルと魔法はこのような感じで、奥義の三つは変わらない。
【全テヲ滅スル光】、【生者ヲ悼ム詩】、【神ニ反逆セシ小鬼王】だ。
レベルは上がった。スキルや魔法の構成も考えた。町で装備のメンテナンスもしたし、あとは明日を待つのみだ。
ログアウトし、勉強をしてから就寝する。最近の日課だ。
翌日は、午前十一時にログインする。
試合は午後一時からなので少し早いが、会場入りしておく。
二つの町の間に建設された闘技場だ。試合に出場するプレイヤーは、片方の町に入れなくなっているので、どちらの町にも属さない闘技場で行われるのだろう。
ソーニャとイアは、既に観客席にいるはずだ。いい席で観戦するために朝から並ぶと言っていた。
タゴサクはNPCに案内され、控室へと通される。
狭い部屋には一人しかいない。時間もあるし精神集中をする。
考えるのは、一つの奥義のことだ。
ミディーリに効果抜群だと思われる奥義、【神ニ反逆セシ小鬼王】。
選考会ではサンサン相手に使ったが、絶対に許さないとまで言われてしまった極悪奥義だ。これを使えば、おそらく勝てる。
ネタがバレていれば効果も半減するが、ミディーリに知られている可能性は低いと見ていい。イアが情報を教えたと言っていたものの、タゴサクはイアに【神ニ反逆セシ小鬼王】のことを伏せてある。当然、ミディーリにも伝わらない。
使うタイミングだが、一番決まりやすいのは試合開始直後だ。切り札を隠しておいて、使う前に負けてしまっては元も子もない。
ヒーローの必殺技ではないのだ。物語が盛り上がり、ここぞという場面でしか使えないという制約などない。
だが、あえてギリギリまで使わない方針でいくつもりだ。
予防線を張っておきたい気持ちがある。言い訳や保身と言い換えてもいい。
開始時に使えば言い訳が立たない。使うべくして使ったことになる。
そうではなく、普通に戦おうとしたと主張できる予防線を張りたい。
タゴサクは普通に戦って勝とうとしたが、ミディーリが強いため勝てない。追い詰められてしまい、このままでは敗北するので、やむを得ず使った。
これがタゴサクの考えるシナリオだ。
多くのプレイヤーが観戦する中で、心証を悪くしたくない。不可抗力だと言い張りたい。
クエストを受けている最中でもあるし、NPCの少女のためになんとしてでも勝たなければならなかったとも言い張れる。
いつだったかグレスに告げた言葉がブーメランになった。卑怯は承知だがこれでいく。
奥義を使うまでの戦い方もシミュレーションしながら試合の開始を待つ。
時間になるとNPCが呼びにきた。
NPCについて行き、長い通路から闘技場へと出る。
石畳が敷き詰められた広い闘技場だ。闘技場を囲む観客席には人の姿も多い。
半分はプレイヤーで、半分はNPCだ。万単位には届かないが、数千人はいる。
試合を観戦するプレイヤーは少ないかと思ったが、予想以上の数だ。今日は日曜日だし、学校や会社が休みだからかもしれない。
最前列にはソーニャとイアの姿も見つけた。なぜかナンパ一緒にいる。
タゴサクが入場した通路の反対側からは、ミディーリも出てきた。
出場者の二人が登場すると、観客も盛り上がる。どちらが勝つか賭け事も行われているようで、電光板には倍率が表示される有様だ。
人気があるのはミディーリだ。レベル的には彼女が優位だし、レベルを知らないとしても美少女を応援したくなるのは致し方ない。タゴサクが賭ける立場でも、ミディーリに賭ける。
歩みを進めて、闘技場の中央に二人で向かい合って立つ。
「サクさんが相手になるとは思っておりませんでした」
「俺もミディーリと戦うとは思ってなかったよ。レアステラ脱出までもうじきだって言ってたが、試合に勝てる算段がついてたってことだったのか」
「おっしゃる通りです。この日のためにレベルを上げ、スキルも習得しました。本音を言いますと、イアさんと戦いたかったです。ライバルを打ち破ってのレアステラ脱出はおつですよね」
「俺が相手で悪いな」
「悪くはありません。サクさんは、レベルはたいして高くないのに選考会を勝ち抜きました。相手にとって不足なしです」
「運がよかったんだよ」
「ご謙遜を。運だけで勝ち抜けるほど甘くありません。鈍色らしい戦い方がお得意なのでしょう。さながらビックリ箱ですね。何が飛び出すか、楽しみです」
ビックリ箱とは面白い表現だ。間違いなくビックリする。
ビックリで済めばよく、トラウマになる可能性も高い。
「わたくしの力もお見せします。今日はよろしくお願い致します」
「こちらこそ」
試合前の軽い会話が終わり、開始の時間が迫る。
タゴサクは右手に剣を持ち、ミディーリは両手でバカでかい斧を構える。
小柄な女性が持てるとは思えないサイズの斧は、イアから聞いた【冥骸斧ギゼムガゼム】だ。
凄い名前の武器だが、見た目も負けず劣らず凄い。漆黒の斧だ。
イアの武器も黒槍だが、【冥骸斧ギゼムガゼム】は輪をかけて禍々しい。黒の刃には赤い線が入っており、血が滴っているような見た目だ。呪われていそうな雰囲気がある。
清純無垢を体現する巫女が扱えば、ギャップが魅力になる。
ゲームとはいえ、神職を軽んじているようで罰当たりにも思えるが、タゴサクは信心深くないので気にしない。
というか、斧を向けられると威圧感があって恐ろしく、細かいことを気にしていられない。
緊張と恐怖により、心臓が早鐘を打つ錯覚に陥る。仮想の肉体に心臓などあるわけがないが、それだけ恐ろしいという意味だ。
試合開始のカウントダウンが始まり、ゼロになる。
同時に、タゴサクは剣を持たない左手を突き出して魔法を使用する。
「【エクスクラメーション】!」
「【昇竜斧】!」
最初に使う魔法は決めてあった。命中率の悪い【エクスクラメーション】だ。
いざという時に頼れる魔法ではない。使うのはここしかないと考えた。
外れて当然、ミディーリへの牽制になってくれるだけでも構わない。
当たるとは思っていなかった。万が一にも当たれば超ラッキーだ。
なのに、予想に反して当たった。
爆音が闘技場を揺らし、ミディーリが撃ち落とされた鳥のようにひゅるひゅるっと墜落する。
なんというか、真剣な試合に不釣り合いな、ギャグのような一幕となった。
タゴサクの【エクスクラメーション】は、いつものように大きく外れて空高くに撃ち上がった。
当たるはずのない攻撃が、なぜ当たったのか。
ミディーリは、自身が使った【昇竜斧】の効果で大きく跳躍していたからだ。空中の敵に対して使うスキルかもしれない。
タゴサク相手に使った意味は不明だが、しょっぱなの攻撃を避けるためか、跳躍してから別のスキルで攻めるつもりだったのか、そのようなところだと思う。
斧を支えにして、ミディーリはよろよろと立ち上がる。
「エ、【エクスクラメーション】とは……使えることは存じておりましたけれど、ここで使うとは思いませんでした。わたくしのスキルを読み切っての一撃。さすがです」
「いや、偶然だから。謙遜とかじゃなく、完璧に偶然」
大チャンスなのに、予想外過ぎて攻める機を逃してしまった。
試合中にアホな会話をしても仕方ない。
「【孤独な剣士】!」
タゴサクがステータスをアップさせていると、ミディーリも魔法を使う。
「【マリアヒール】!」
名前からして回復魔法だろう。【エクスクラメーション】で負ったダメージを回復させたのだ。
互いに準備を整え、ギャグでシラけた空気を仕切り直す。
「【瞬剣】!」
「【大爆斧】!」
タゴサクの攻撃を、ミディーリはスキルで迎え撃った。
「【流星衝】!」
これは、連続の突き技だ。タゴサクのスキルの中では珍しく、ごくごく普通の効果である。
「【回転斧】!」
ミディーリのスキルは、名前の通り体を回転させて攻撃するものだった。
タゴサクの連続突きを回避し、背後に回り込んで斧でぶっ叩く。
胴体が両断されてもおかしくない強烈な一撃だ。
「【剛腕斧】!」
「【リトルカウンター】!」
「【極大爆斧】!」
「【全テヲ滅スル光】!」
最初に【エクスクラメーション】が命中したまではよかったが、完全に押され始めた。
ミディーリの猛攻をかろうじて防ぐが、いつまでもつか。
「【昇竜斧】!」
ミディーリは再び跳躍した。
猛攻が止まり助かったと思う暇もなく、上空から次の攻撃を放つ。
「【天ヨリ降リシ黒キ聖煌】!」
五月晴れの青空が暗夜へと変貌する。
太陽が隠れたわけではないが、黒の光のせいで夜になったかのように感じた。
「【スカイバード】!」
空にいるので【スカイバード】が有効かと考えたが、巨鳥は黒の極光の前に消滅してしまった。
漆黒を纏った天女が、死をもたらさんと降臨する。




