三十三話 厨二病患者の女子大生
選考会に出場したタゴサクは、一戦目に勝利した。
その勢いで二戦目に臨んだが、こちらも勝利。三戦目もやはり勝利と勢いは止まらない。
「俺って実は強い?」
すっかり調子に乗り四戦目だ。最終戦でもあり、これに勝てば代表者になれる。
相手は若い女性プレイヤーだった。女子高生だと思われる。
ミディーリの例があるので、女子大生や社会人の可能性もあるが、上に見積もっても二十代半ばがせいぜいだろう。
年齢的にはタゴサクのストライクゾーンに入っている。
容姿も問題なしだ。ソーニャやイアと比較すればわずかに劣るも、ありかなしかで言えば自信を持ってありと答える。
三連勝して調子に乗っているタゴサクは、女性を品定めしていた。
それだけでは終わらずに、こんな誘い文句を口にする。
「魅力的なレディーに向ける剣は持たないのだがな。キミには花束のプレゼントがふさわしい。フッ」
「ごめんなさい。あなたみたいな軽い人はタイプじゃないので」
言葉は丁寧だがバッサリだ。何気に効いた。
軽蔑されたり気持ち悪がられたりはしていないが、だからこそ効く。
ソーニャは直接的な罵倒が多いので、こうやって真正面から断られるのに慣れていない。タゴサクの脆弱な精神では耐えられなかった。
「すんません。勝ち進めるとは思わなかったんで、ちょっと調子に乗りました。マジすんません」
「謝罪も軽いですね。おちゃらけて誤魔化せばいいものではありませんよ。私は愚直なまでに真っ直ぐな男性が素敵だと思います」
「はい、すみませんでした」
戦闘前から敗北感を味わった気分だ。
愚直なまでに真っ直ぐな男性が素敵と言っているが、彼女自身がそういうタイプに見える。はっきりとした物言いをする人だ。
「礼儀として名乗っておきます。私はサンサンといいます」
「サンさん?」
「誤解されていそうですけど、自分に敬称をつけたのではありません。サンサンが名前です。太陽が燦々と輝くという意味で名付けました」
「失礼しました。俺はタゴサクです」
「では、タゴサクさん。いざ尋常に勝負です」
「よろしくお願いします、サンサンさん」
サンサンにさん付けすると違和感が凄い。
バカなことを考えつつ選考会最終戦が始まるが、タゴサクは押されていた。
先ほどの会話による精神的ダメージのせいではない。サンサンが強かった。
四戦した感覚から述べれば、一番強かったのは一戦目のリュウキオウだ。サンサンはその次に強い。
色はおそらく白だ。ヴァイスと同じだが、彼の得物は弓でサンサンは小剣の違いがある。
武器が違うせいか、もしくはレベル差のせいか、使うスキルもヴァイスとはまるで異なる。
スキルが同じなら手の内も読みやすいが、読めないせいで苦戦中だ。
「【邪なる乱斬り】!」
「【花園ノ白キ一輪】!」
サンサンの身体を白き花々が覆ってゆく。真白き雪に覆い隠されるように、そっと。
純白に包まれたサンサンは、まるで一輪の花のようで。邪悪な鈍色を滅する穢れなき白は、タゴサクの【邪なる乱斬り】を前にビクともしない。
斬撃を防ぎ切り、花びらがゆっくりとはがれていく様は、花より生まれいずる妖精のごとき美しさを誇っていた。
完全に善と悪、光と闇の構図である。
それはいいが、今のはサンサンの奥義だ。
スキルと奥義は見た目である程度区別がつき、奥義の方が圧倒的に派手である。花の妖精のごときこれが、ただのスキルとは思えない。
奥義の効果が単に防御するだけか。否だ。
「【神ニ反逆セシ小鬼王】!」
躊躇すれば負ける。
タゴサクはそういう結論に至り、奥義を使用した。使わないに越したことはないと考えていた奥義を。
タゴサクの判断は間違っていなかった。
サンサンは、タゴサクが放った斬撃を何倍にも増幅して返してきたのだ。【リトルカウンター】のようなカウンター効果を持つらしい。
奥義を使わなければ自身のスキルで死んでいたところだ。
なんとか間に合い、死なずに済む。
それどころか逆転の一手となった。
「いやああああっ! やめて! こないでぇっ!」
サンサンは、タゴサクの奥義を前に恐れおののき、悲痛な悲鳴を上げた。
申し訳ないとは思うが、これも勝負だ。
サンサンのHPがゼロになり、タゴサクの勝利が確定する。代表者に決定した瞬間でもあった。
「あ……あなたを絶対に許しません。絶対にです。こんな……こん……」
死にそうな顔をするサンサンに恨まれてしまうが、甘んじて受け入れる。
こうなることは分かっていた。分かっていて使ったのだ。
誰が悪いかとなると、責任の半分はタゴサクにある。もう半分はSOSだ。こんな奥義を実装するから悪い。
サンサンは一方的な被害者であり、タゴサクを恨む権利がある。
代表者になれたのは嬉しいが、禍根を残してしまうのだった。
とにもかくにも選考会は終了だ。
待合室に戻ると、他のプレイヤーは全員帰っていた。【港町ゲン】の代表者となったタゴサクは、NPCから明日の説明を受ける。
試合は午後一時から始まる。場所は二つの町の間に建設された闘技場だ。
ルールは選考会と変わらず、一対一の戦闘になる。デスペナルティはない。
試合に勝てば報酬が渡される。負ければ何もなしだ。
説明も聞いたし、今日やるべきこともなくなった。
外に出ると、まだ昼の四時前で日も高かった。長く戦っていたように感じるが、実際は二時間ちょっとだ。
濃い二時間だった。
タゴサクは、ソーニャとイアにメッセージを送り、代表者になった旨を伝える。
すぐに返信が届いた。話したいことがあるから合流したいと。
二人と合流し、宿屋に入る。内緒話をしたい時は宿が一番だ。
「おめでとうございます、サクさん」
「おめでとう。よく勝てたわね」
「なんとかな。恨まれもしたが」
「恨まれる? まあ、恨まれもするわよね。みんな代表者になりたくて参加してるんだし」
ソーニャは誤解していたが、詳しく説明すると長くなるので横に置く。
二人が話したい内容を聞こう。
「サクさんが代表者になったのは喜ばしいですけど、ちょっと困った事態になってるんですよ。主にわたしのせいで」
「イアのせいって?」
「【港町ゲン】の代表者はサクさんですよね。【港町カン】の代表者も先ほど決まりまして、ミドリちゃんになりました」
イアの友人であるミディーリが、明日の対戦相手らしい。彼女と戦うとは思わなかった。
「俺とミディーリが戦うから、どっちを応援すればいいか困ったって意味?」
「違うんです。わたし、ミドリちゃんにサクさんのことを話しちゃったんですよ。色とかジョブとかスキルとか、色々とです。プレイヤーの能力をペラペラしゃべるのはよくないんですけど、ミドリちゃんなら信用できると思っちゃいまして。まさか、サクさんとミドリちゃんが戦うとも思いませんでしたし」
「つまり、ミディーリには俺の情報が筒抜けだと?」
「はい……ごめんなさい」
イアの行動は軽率と言える。
SOSでは、自分以外の全プレイヤーが敵だ。蹴落とすべき対象だ。いつどこで戦ってもおかしくない。
スキルなどを知られてしまえば対策されやすくなるし、不利になる。
タゴサクが教えていいと許可を出したならまだしも、何も言っていないのに勝手な判断で教えてしまったのはイアのミスだ。
「よくないっちゃよくないが、普段なら怒ることでもないよな。今回は困るが」
「本当にごめんなさい。罪滅ぼしというわけじゃないですけど、ミドリちゃんの情報をサクさんにお伝えしますね」
「まずくないか? ミディーリが怒るだろ」
「大丈夫よ。私にミディーリからのメッセージが届いて、お兄ちゃんに教えてもいいって言ってたわ」
タゴサクがメッセージを送る前に、ミディーリがソーニャにメッセージを送ったそうだ。【港町カン】の代表者になったので試合を見にきて欲しいという内容だ。
試合を見るのは問題ないが、イアがタゴサクの情報を教えてしまったことを思い出し、どうしようかと悩んでいた。戦うことになればまずいと。
タゴサクからも代表者になったとのメッセージが届き、話をするためにこうして集まった。
「ミディーリに、【港町ゲン】の代表者がお兄ちゃんだって教えたのよ。自分だけが情報を知ってるのはフェアじゃないから、お兄ちゃんにもミディーリの情報を伝えていいって言ってたわ。高潔なお嬢様プレイヤーとしては、フェアに戦いたいんだってさ」
「律儀というかアホというか……イアのためでもあるのか?」
ミディーリが勝ってしまうと、迂闊にタゴサクの情報をバラしたせいではないかと考えてイアが気に病む。
友達を困らせたくないため、フェアにこだわる。
そうだとすれば、ミディーリは優しい人だ。
「教えてもらえるなら俺もありがたいな。ミディーリのプレイスタイルは?」
「簡単に言いますと、わたしと同じです」
「イアと同じなら、黒?」
「色も同じですけど、ミドリちゃんも厨二病患者なんですよ。わたしが仲良くなったのは、趣味が一緒だからって理由が大きいです」
「厨二病患者……ミディーリって二十歳だったよな? 女子大生じゃないのか?」
「女子大生ですけど、厨二病患者になってもいいじゃないですか。わたしは五年後も厨二病患者のままだと思いますよ」
「いいんだが、二十歳ってのが引っかかって」
本人の自由とはいえ、年齢を考えろと突っ込みたくなった。
厨二病患者の女子校生に続き、厨二病患者の女子大生が登場するとは予想外だ。VRMMORPGで遊ぶ人など、似た傾向はあるのかもしれないが。
「わたしは、装備やジョブやスキルにこだわってます。強い弱いも重要ですけど、格好よさが一番大事です。ミドリちゃんも同じタイプでして、巫女服を装備しているのは綺麗だからです。性能はたいしたことないんですけど」
「防具の性能がたいしたことないなら、俺の攻撃が通りやすいな」
「でも、攻撃面はわたし以上ですよ。ミドリちゃんの武器は、【冥骸斧ギゼムガゼム】といいます。バカでかい両手斧ですね。『小柄な女の子が超重量武器を振り回すのがロマン』と言っていました」
なるほど、厨二病患者である。怪しい名前の武器を使うところも、その理由も。
小柄な女の子が身の丈に合わない超重量武器を扱うのは、フィクションではお馴染みだ。
ロマンだと言っているミディーリには同意したい。タゴサクも好きだ。
「ジョブは、【黒天女】や【黒冠聖女】を経て、今は【漆黒姫】です。物理攻撃特化ですね」
「天女に聖女に姫か。いやまあ、好きにすりゃいいんだが」
「補足しておきますと、SOSのジョブは性別の縛りがありません。男性だって天女にも聖女にもなれますよ。姫や女王も可能です」
「俺が天女になるよりは遥かにマシか」
「そうですね。ミドリちゃんは可愛いので、お姫様でもよく似合います」
ミディーリの情報はおおよそ把握した。あと聞いておきたいのは。
「レベルは?」
「130ほどだったはずです」
「ミディーリもかよ。選考会で戦ったプレイヤーもそうだったが、ゴブリンの王を倒してチケットを入手できそうなのに、なんで試合に出場したがるんだ?」
「サクさんが戦った人は知りません。試合に勝てばチケット以外の報酬も手に入りますし、そっちが目当てでしょうか? ミドリちゃんの場合は、ゴブリンの王が嫌いなんですよ。昔、低レベルの頃に挑んでボッコボコにされた経験があるらしいです」
ミディーリはゴブリンの王が嫌い。
有用な情報だ。あれを使えば勝てそうな気がする。
ミディーリにトラウマを刻み込むことになってしまうし、恨まれもする。使うか否かは慎重に考えねばならない。
試合は明日なので、一晩考えてみよう。




