二十九話 新技大盤振る舞い
「【暗乱夢】!」
森の中にて、タゴサクはスキルを使用した。
当て字にしても酷い名前だ。夜露死苦ではあるまいし。
これはモンスターを呼び寄せる効果がある。
歩き回ってモンスターを探さなくても、向こうから寄ってきてくれる。
レベリング効率は格段によくなるが、制御できないのが欠点だ。倒せる数だけ都合よく集まってくれるとは限らない。
で、案の定というか、タゴサクの前には多数のモンスターが集結した。
軽く三十体はいる。いずれもゴブリンだ。
最弱の【リトルゴブリン】が過半数を占めるが、【スマートゴブリン】や【レディーゴブリン】の姿も見える。【レディーゴブリン】以上に強い【強化ゴブリン】も。
有体に言ってまずい状況だ。ソロで倒し切れる数ではない。
「上等だ。どうせ、勝ち目の薄い戦いが待ってるんだし、この程度を切り抜けられないようじゃ話にならない」
腹をくくり戦いに挑む。
「【断崖斬】!」
範囲攻撃用のスキルを使用した。
ソーニャの【広域斬り】は使用者の周囲三百六十度を攻撃するスキルだったが、タゴサクの【断崖斬】は前方の横一線を攻撃できる。
断崖絶壁のような壁が敵を潰すように襲うスキルだ。
ネックは発音の難しさにある。プレシピススラッシュ、とはかなり言いにくい部類だ。プレシピスもだし、「ス」が重なっているせいで余計に発音しにくい。
SOSでは、スキルも魔法も声に出して使用するが、正確に発音しなければ発動しない。
表記の揺らぎ程度の違いなら許容される。「ブ」と「ヴ」などだ。
噛んでしまうと発動に失敗する。この仕様は何気に厄介で、戦闘で動き回りながら正確に発声するのは、慣れなければミスりやすい。
今回はうまくいってくれた。スキルにより、【リトルゴブリン】が全滅する。
数は半分以下に減ったが、残ったのは強いモンスターばかりだ。
新しい魔法の効果を確認する意味も込めて、ギャンブルをしてみる。
「【んんんんんーん】!」
アホな言い方をしたが、正式名称は【ワイルドカード】という魔法である。
スキルや魔法の名前を正確に発音しなければならない中で、例外になる魔法だ。発音がおかしくても発動してくれる。
口を塞がれ、スキルや魔法を使えなくなっても、【ワイルドカード】だけは使える。「ん」だけでも発動するのだから。
ちなみに、効果はランダムだ。古いゲームにあるパル○ンテのような魔法と言えば伝わるだろうか。
下手をすれば自滅するが、うまくいけば強敵にも勝てる。
初めて披露した今はというと。
「マジかよ。モンスターが全滅しやがった」
どうやら、敵全体を即死させる効果が発現したようだ。即死耐性を持つ敵には通じないが、レアステラの雑魚モンスターがそこまで強いわけがない。
強力な効果ほど出にくくなっているし、即死効果が発現する確率は低い。ポンポン出てしまえばゲームバランスが崩壊する。
今回は非常にラッキーだった。
多くのモンスターを倒し、レベルが一気に上がる。【リトルゴブリン】はたいした経験値にならないが、【強化ゴブリン】の経験値はおいしい。
こいつは、俗に低級殺しとまで呼ばれる悪辣なモンスターだ。外見は【リトルゴブリン】とほとんど変わらず、違いは武器を持っているかいないかだが、実力は段違いである。
レアステラにいるような低級のプレイヤーでは、勝ち目が薄い。下手なボスモンスター以上に強い相手だ。
それだけのモンスターを倒したのだから、莫大な経験値を稼げた。
自滅も覚悟の上だったのに幸運だが、今出なくてもと思ってしまう。絶対に負けられない戦いで出てもらいたかった。
運を無駄遣いした気持ちになる。
【暗乱夢】で【強化ゴブリン】を呼び寄せることに成功して、【ワイルドカード】で即死効果が発現する。確率的には小数点以下だろう。
小数点以下の確率を引き当てる幸運に恵まれたのだから、以降は不運になりそうで怖い。
「ま、続きをやるか。【暗乱夢】!」
再びスキルを使用してモンスターを呼び寄せる。
今度は、ざっと百体は集まった。数こそ多いが、全て【リトルゴブリン】だ。
「ほらな。運が悪くなった」
タゴサクは、誰にともなく愚痴った。
最弱の【リトルゴブリン】など、百体倒そうともたいした経験値にはならない。無駄に面倒臭いだけだ。
呼び寄せた以上は倒さねばならない。一蹴してしまおう。
「【エクスクラメーション】!」
先ほどから新技の大盤振る舞いだ。
これは、【バースト】の上位版とでも言うべき魔法になる。大爆発で敵を呑み込む強烈な魔法だ。
ただし、命中率がすこぶる悪い。
エクスクラメーションの意味は感嘆になる。エクスクラメーションマーク、通称ビックリマークもあるが、要は「命中すればビックリだ」と言いたいわけだ。
うまいネーミングとも言えるし、バカバカしいとも言える。
命中率の悪さはだてではないようで、百体もいる【リトルゴブリン】にはかすりもしなかった。枝葉の天蓋をぶち抜いて空高くに撃ち上がり、汚い花火のように爆散する。
「外れ過ぎだろ……」
ぼやいても仕方ない。次の魔法だ。
「【アイシクルアイズ】!」
この魔法を購入した時、タゴサクは感動したものだ。
他は名前が酷いか効果が酷いか、あるいは両方酷いかのいずれかだったが、【アイシクルアイズ】はまともなのだ。感動せずにはいられない。
この程度で感動するのは明らかにおかしいが、深く考えるとドツボにはまる。考えないのが賢い生き方だ。
さておき、【アイシクルアイズ】は視認した一定範囲に氷柱を降らせる氷属性の魔法だ。
その性質上、目を閉じてしまえば発動しないものの、戦闘中に目を閉じること自体が稀なのでデメリットが少ない。目を潰されても使えなくなるが、そうなってしまうとそもそも敗北が確定したようなものだ。
タゴサクの魔法により、【リトルゴブリン】たちの頭上から氷柱が降り注ぐ。
氷柱に串刺しにされ、かなりの数の【リトルゴブリン】が倒れるが、まだまだ残っている。次だ。
「【最強無敵神業】!」
これもまた酷いスキル名だ。最強無敵の神業と書いて、チートスキルと読む。
名前からして、最強であり無敵でもある最高峰のスキルかと思いきや、実態はまるで違う。消費SPだけは大きいくせに、威力はしょぼい。
チートはズルの意味だ。MMORPGにおいて、チートをするプレイヤーは忌み嫌われる存在となる。
ズルい卑怯者には、真に最強のスキルなど与える必要はない。紛い物で十分だ。
という声が聞こえてくる気がする。
紛い物のスキルの特徴は、見た目だけはとかくド派手なことだ。
タゴサクの全身が光り輝き、光の勇者のようになる。
その状態で【リトルゴブリン】の群れに突っ込み、エレガントに動き回りつつ攻撃を加える。剣を一薙ぎするごとに煌びやかな光の粒子が舞い散る様は、本当に光の勇者だ。
だが、全て見かけ倒しのこけおどし。ただのハッタリである。
相手が【リトルゴブリン】だから倒せるが、ちょっと強いモンスターになるとダメージなど碌に与えられない。
意味があるのかと問いかけたくなるが、一応ないわけではない。
見た目だけはド派手であるため、攻撃を食らったプレイヤーが騙されてくれる可能性がある。
ひるんで降参してくれたり、ビビッて及び腰になってくれたりしないかと期待するスキルだ。
まあ、冷静に考えると通じるとは思えないが。
プレイヤーは当然として、モンスターなど余計にビビるはずもない。単に使ってみたかっただけだ。スキルの試し撃ちである。
結果は、【リトルゴブリン】を三体だけ倒せた。
いかに弱いスキルであるか、嫌でも分かる。購入したのは失敗だった。
気を取り直して次を。
と思ったが、【リトルゴブリン】たちの様子がおかしいことに気付く。
近くにいる【リトルゴブリン】同士がくっついている。それだけではなく、肉体が融合しているように見える。
弱いモンスターの融合だ。RPGではよくあるネタだと思う。
不穏な空気を感じ取り、すぐに全滅させるのが吉と判断する。
「【全テヲ滅スル光】!」
最強の奥義を発動した。最強(笑)でしかなくとも、タゴサクの中では確かに最強なのだ。
奥義により【リトルゴブリン】たちを消滅させるが、全滅には至らない。
むしろ、数が増えている気がする。【アイシクルアイズ】や【全テヲ滅スル光】で減らしたのに、戦闘開始時の百体から減っている気がしない。
何が起きているかは不明だが、とにかく攻撃あるのみだ。それしかできない。
「【邪なる乱斬り】! 【断崖斬】! 【エクスクラメーション】!」
スキルや魔法を放つが、やはり一向に減らない。
もたつく間にも融合は進む。
そして、ついに。
「う、うわあああああっ!」
タゴサクは心から恐怖し、叫んだ。
恥ずかしいとか情けないとか感じる余裕もない。ソーニャやイアがこの場にいたとしても、恥も外聞もなく叫んでいたに違いない。
不幸中の幸いだったのは、恐怖は長く続かなかったことだ。
ぷちっと潰されて死亡し、町に戻される。
町に戻っても、恐怖の光景が焼き付いて離れない。今晩の夢に出そうだ。
「あれはないだろ……R15の範疇に収まってるのか?」
SOSへの文句の声も弱々しい。
ゲームを続行する気力もなく、少し早いがログアウトすることにした。
その夜、空は怖くて仕方なかったため、妹の双那に頼んだ。
「お願い! 今日だけ一緒に寝てくれ!」
「お兄ちゃんの変態! 私にナニをしようってのよ!」
「何もしないから! 指一本触れないって誓うから! スケベなことを考える余裕もないんだよ! 一人じゃ寝れないんだ!」
「……今日だけだからね。変な真似をしたら、お父さんたちに言いつけるから」
「ありがとう!」
なんだかんだ優しい妹なので、渋々ではあったが頼みを聞いてくれた。
空のベッドに二人で入る。一緒に寝るのは何年ぶりだろうか。
「臭いんだけど」
「我慢してくれ。双那のベッドは嫌なんだろ?」
「私のベッドにお兄ちゃんを入れたら、クンカクンカするに決まってるもの。その手には乗らないわよ。指一本触れないとは約束したけど、匂いを嗅がないとは約束しなかったものね」
普段の行いが悪いせいで信用がなかった。
信用がないながらも一緒に寝てくれるのだから、双那は優しい。
隣にいる妹の息遣いを感じたまま、安心して眠りについた。




