二十八話 別行動
タゴサクが受けた強盗退治のクエストだが、イア曰く罠とのことだ。隙を生じぬ二段構えだと。
「クエストをやったなら分かると思いますけど、加害者に見える男性たちが実は正義で、被害者に見える女の子たちが実は悪だったというストーリーになります。外見やセリフで判断してしまい、女の子たちの味方をすればクエスト失敗です」
「俺は失敗しなかったぞ」
「むしろ、失敗する方がよかったですよ。特にペナルティはありませんから。男性たちの味方をして、名前を名乗らずに別れていれば成功です。この場合でも、特に何も起きません。問題は大成功してしまった場合で、別のクエストを開始するフラグになっています。別のクエストが非常に厄介なんです」
心情的には可愛い女の子たちの味方をしたくなるが、これが一つ目の罠になる。味方をすれば失敗だ。
タゴサクのように失敗を回避し、クエストが大成功に終わると、より面倒なクエストが発生してしまう。
だから、隙を生じぬ二段構えだ。
「男性NPCから、小さな娘がいるって話を聞きませんでした? わたしの知る展開では聞いているはずですけど」
「聞いたな」
「その娘さんが、近いうちにサクさんを頼ってきます。内容は、『【港町ゲン】の代表者となり試合に出場して欲しい』というものです」
「断れないのか?」
「断れますよ。心をえぐられてもよければ。娘さんは大怪我をしていて、全身ボロボロです。とっても痛々しい姿です。その状態で、サクさんに対して必死に頼み込むんです。断っても『お願いします、お願いします』って繰り返します。なおも断り続ければ諦めますけど、諦めさせるまでが大変でして」
心をえぐるという意味が分かった。それは確かに断りにくい。
小さな女の子の頼みというだけでも断りにくいのに、大怪我をしている。怪我は強盗に入られた時に負ったものだろう。
父子家庭だという話も聞いているし、家庭環境に恵まれないかわいそうな女の子だ。
これだけの条件がそろっていて冷たくできるのは、よほどの冷血人間だけだ。もしくは、ゲームだと割り切れる人間か。
「断らないとしたら、俺は試合に参加するの?」
「しますね。もちろん、いきなり代表者にはなれませんよ。他のプレイヤーに競り勝って、代表者になるところからです。代表者になり、試合に出場して勝利し、宇宙船のチケットをもらって女の子にあげる。以上がクエストの流れになります」
「最後がおかしくないか!?」
せっかく手に入れたチケットをNPCにあげる展開とか意味が分からない。
ゲームのクエストは、クリアすれば報酬がもらえるものだ。SOSでは、報酬をもらえない罠もあるが、これとてプレイヤーは損をしない。
クリアすればチケットを失うクエストとはふざけている。
「俺になんのメリットがあるんだよ」
「娘さんを助けてあげられます。それだけです」
「途中で負けたら?」
「クエスト失敗です。娘さんが悲しげな顔をしてしまう以外は、ペナルティの類はありません」
「なんつうゲームだ」
クエストを断っても悲しませてしまい、受けて失敗しても悲しませてしまう。
首尾よく成功させたとしても、貴重なチケットをあげなければならない。
いずれにせよ、プレイヤーは得をしない展開だ。
他人を蹴落とし、自分だけが高みを目指す。人助けをする必要などない。
ゲームの趣旨を理解したつもりで、理解が足りなかったと思い知る。
「さらに言いますと、クエスト中は他の方法でチケットを入手できなくなります。成功でも失敗でもいいので、クエストが終わるまでずっとです。クエストを受けてもレアステラ脱出が遠のくだけです。酷い罠ですよね」
「んなもん、どうすりゃいいんだよ」
クエストを受ける意味はない。時間を浪費し、アイテムまで失うクエストなど、受けるだけ無駄だ。
心をえぐられる展開になろうとも、所詮はゲームのNPCである。全て作り物に過ぎない。
罪悪感を抱く必要などなく、さっさと忘れてゲームを遊べばいいだけだ。
そうやって割り切れれば、どれだけ楽か。
「しばらく別行動させてもらってもいいか?」
「お兄ちゃんはクエスト受けるの?」
「受けたい。やれるところまでやってみるよ。試合に勝てる自信はないが」
面倒だから断るよりも、やれることをやって失敗する方がいいと思った。
言ってみれば、自分を納得させるための方法だ。
タゴサクは、立派な人間とは言えない。優しくて誠実な人間だとも言えない。スケベで変態で可愛い子には見境のない男だ。
だが、冷血な人間でもないと思っている。最低限の常識や倫理も持っている。
ゲームだからと割り切れるほど賢い人間でもないし、損得勘定で娘さんを見捨てるのは精神安定上よろしくない。
やるだけやってみて力及ばなかったとすれば、自分を納得させられる。
ソーニャとイアまで付き合わせるつもりはない。
迂闊に強盗退治のクエストを受けたのは、タゴサクのミスだ。娘さんの頼みを聞くのも、タゴサクのわがままだ。
「二人は先にチケットを手に入れて、上に行ってくれればいい。俺もクエスト後に追いつくから」
「水臭いですよ。わたしたちも一緒に」
「分かったわ」
イアは一緒に行動すると言ってくれたが、ソーニャはタゴサクの別行動を許してくれた。
「ソーニャちゃん、いいの?」
「お兄ちゃんの好きにすればいいわよ。クエストを受けるのも試合に出るのもお兄ちゃんなのに、私たちが一緒にいてもねえ」
「レベリングとかは一緒にできるよ?」
「お兄ちゃんも分かってるわよ。分かってて一人でやるって言ってるの。いいと思うわよ。それがお兄ちゃんだから。SOSで遊びたいから遊ぶ。クエストもやりたいからやる。単純でしょ」
付き合いの長い妹だけあり、兄の性格をよく理解している。
「ありがと、ソーニャ」
「その代わり、遅くなってもいいから追いかけてきてね」
「任せとけ」
「あと、たまには会って情報交換とかしましょう。別行動でもパーティーなんだから」
「格好いい! 離れていても心は一つだ、みたいだね! わたし大好き!」
イアの厨二病発言は放置して、話もついたし今日からタゴサクは別行動をする。
短時間だけ一人で行動したことはあっても、本格的にソロでやるのは初めてだ。
不安はあるが、同時に楽しみでもある。
二人と別れ、タゴサクは【港町ゲン】をうろつく。イアの話が本当なら、男性NPCの娘さんが接触してくるはずだ。
適当にうろついていれば、ちゃんときてくれた。
「あ、あの……あなたがタゴサクさんですか?」
相手は小学校低学年くらいの女の子だ。顔の右半分は包帯で覆われ、服の隙間から覗く肌にも包帯が見える。
血がにじんでいないのは、残酷な表現を抑えるための措置だろうか。それでも痛々しい姿だ。
「俺がタゴサクだよ。どうかしたの?」
「父からタゴサクさんの話を聞きました。とても強くて頼りになる人だと。タゴサクさんの腕を見込んでお願いがあります。どうか聞いていただけませんか?」
「俺にできることなら」
「ありがとうございます」
二つ返事で了承すれば、女の子は事情を話してくれる。
イアから聞いた通りの内容だ。【港町ゲン】の代表者となって試合に出場し、勝利して欲しい。そして、報酬のチケットを譲ってもらいたい。
「父が代表者の選考会に出場するはずだったんですけど、出場できなくなってしまいました。他に頼れる人がいなくて、ぜひタゴサクさんに」
「譲るのはいいが、なんでチケットが欲しいの? 上の星に移住でもする?」
「はい。一枚はなんとか手に入れたんですけど」
父と娘の二人暮らしなので、チケットは二枚必要になる。一枚をタゴサクが譲ればいいと。
「分かった。俺の力で勝てるかは不明だが、できる限りやってみる」
「お願いします!」
「でさ、ちょっと教えて欲しいんだが、代表者になるのはどうすればいいの?」
「選考会の日は決まっていますので、そこで勝負して勝てばいいんです。では、よろしくお願いします」
「あ、ちょっと」
もっと詳しく聞きたかったが、女の子は帰ってしまった。
メニュー画面のクエスト情報で確認できるかと思い、見てみる。
チケットを入手せよ、というクエストが発生しており、詳細も載っている。
今のクエストを受けたことで、タゴサクは【港町ゲン】で優遇措置を受けられるようになった。その分、隣町である【港町カン】には立ち入れなくなったが。
選考会に参加するための条件は満たしたため、あとは勝ち抜けばいい。
日時だが、今月末の土曜日と書かれている。二週間後だ。明日や明後日ではなくて助かった。
なにせ、イアですら勝てないと言っていた選考会だ。現在のタゴサクが勝ち抜ける可能性はない。
二週間で、できるだけ強くなろう。
「となると、スキルと魔法だな」
アイテムを使い、【底都テイヘーン】に移動する。
昨日までいた場所だが、近代的なレアステラを見た後だとみすぼらしく感じる。紫の空も相変わらずだ。
ここでスキルと魔法を買う。デメリットがあったりギャンブル性が強かったりする物しか売っていないが、だからこそ使える。
選考会の参加者は、タゴサクより高レベルのプレイヤーばかりになると思う。
いくらなんでも、ヴァイスやナンパほど強いプレイヤーは参加しないだろうが、レベル100以上がゴロゴロいると見ている、
二週間で多少レベルが上がったところで、普通に戦っては勝ち目がない。
よって、一発逆転の可能性を秘めたスキルを活用する。一歩間違えればあっさり負ける危険性をはらむスキルだ。これしか方法はない。
イアの言葉ではないが、暗黒面に堕ちたようなスキル構成になってしまった。
「あとは、【腐敗騎士】のスキルも欲しいな。レベリングするか」
ジョブに就いてレベルを上げれば、新しいスキルを覚えるアイテムがもらえる。タゴサクは【瘴炎焼閻】しか覚えていないし、充実させたいところだ。
買い物が終わり、レアステラに戻る。フィールドに出てレベリングだ。
「っしゃあっ! やってやる!」
自らを鼓舞し、戦いの場に赴くタゴサクだった。




