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たった一つの輝くもの  作者: ともむらゆう
第2章 レアステラ
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二十七話 隙を生じぬ二段構え

 午前中はレベリングに励み、昼休憩を挟んでから、午後は町で情報収集だ。

 NPCに情報を聞いて回るが、三人で固まって行動しても効率が悪い。よって手分けすることになった。

 タゴサクは【港町ゲン】で、ソーニャは【港町カン】で情報を集める。イアは情報収集する必要もないため、適当にレベリングでもすることになった。

 町を単独で散策するのは、ゴールデンウィーク四日目以来だ。


「サクさんは、変な人について行っちゃダメですからね。【港町ゲン】にも罠はあります。サクさんに成長してもらうために、わたしはあえて説明しません。説明しませんけど、本当に注意してください。もしも何かあった場合は、遠慮せずわたしに連絡を……」

「分かったって。イアは俺の母親かよ」


 罠のクエストに引っかかった経験があるからか、イアは過剰に心配していた。

 女の子に気にかけてもらえるのは嬉しいが、これでは母親が小さな子供を心配しているようにしか見えない。


「俺よりソーニャを心配してやれよ」

「ソーニャちゃんはしっかりしてますし、きっと大丈夫ですよ。サクさんは危なっかしいんです」

「分かる分かる。お兄ちゃんって、格好つけたがる割には頼りないのよね。ヴァイスと戦った時も、結局負けたわけだし」

「あれは相手が悪かったから仕方ないと思うよ。とにかく、サクさんは気を付けてください」


 二人からやけに心配されてしまったが、単独で情報収集だ。

 あてもないので、目についたNPCに片っ端から話しかけてみる。

 最新のAIを搭載したNPCは、かなり自然な会話が可能だ。本物の人間と話しているように錯覚する。

 少なくとも、古いRPGのような定型句を繰り返すだけのNPCはいない。


 これが面白さであり、難しさでもある。

 必要な情報を聞き出すのも一苦労だし、今は無関係だがクエストのストーリーも分岐しやすい。一本道のお使いにはなりにくい反面、正規ルートの発見し辛さに一役買っている。


 タゴサクは、「レアステラからの脱出」というキーワードを用いて話を聞いた。

 チケットを入手する必要があることは、イアに教えてもらい知っている。あとは入手方法を知りたい。

 情報は簡単に集まり、いくつかの入手方法が判明した。


 まずは、二つの町が定期的に行う試合に参加し、勝利することだ。報酬がチケットになる。

 次に、森の最奥に住むゴブリンたちの王を倒し、アイテムを回収すること。宇宙船で上の星へ行くはずの旅人がゴブリンに殺され、荷物を盗まれた。よってチケットもあるはずだと。


 現実的なのはこの二つだろう。

 他は、闇市に横流し品が入荷されるので購入する、コレクターのNPCがチケットを持っているので別のレアアイテムと交換する、といった方法がある。

 こちらが現実的ではないと思ってしまうのは簡単で、購入金額はバカみたいに高額であり、交換用アイテムの入手も極めて困難だからだ。


 闇市で購入する場合は、最低一億スター必要だと言われた。コモンステラからの脱出は百万スターなので百倍だ。ふざけた金額である。

 交換用アイテムは、ダンジョンボスのドロップアイテムになる。ダンジョンそのものが高難易度、かつドロップも低確率という有様だ。ゴブリンの王を倒す方が遥かに楽だと思われる。


 最後に、チケットを持つプレイヤーをPKして奪う方法がある。NPCから教えてもらったわけではないが、SOSをプレイしていれば思いつく方法だ。


「やるとすればゴブリンかなあ。これはこれで、他のプレイヤーとボスの取り合いになりそうな気も……ん?」


 独り言を呟きながら歩いていれば、ある光景を見かけた。

 NPCの男女が揉めているようだ。男性三人、女性二人の計五人がいる。

 男性側は武装しており、顔は強面で体格もいい。歴戦の戦士を彷彿とさせる屈強な三人組だ。

 対して女性側は、中学生と小学校高学年くらいの若い少女二人である。顔立ちが似ているし、姉妹かもしれない。なお、二人とも美少女だ。


 柄の悪い男たちが、か弱い美少女に絡んでよからぬことを企んでいる。

 見た限りではそう思える。

 しかし、これはゲームだ。レベルやステータスによっては、女子供でも大男を超える力を得られる。か弱そうだから本当に弱いとは限らない。

 さらに言うと、SOSは問題だらけのゲームだ。女の子たちが極悪人であり、男性たちが正義である可能性も捨て切れない。


 要するに、現状では何も判断できないわけだ。

 周囲にいる人たちは、NPCは見て見ぬふりをしている。ゲームのイベントであれば、NPCが出しゃばって台無しにすることはないからだろう。

 プレイヤーも様子見だ。罠を心配しているのか、重要なイベントではないと知っているからか。


 タゴサクは、自分がどうすべきかと考える。

 ソーニャやイアには散々心配された。迂闊に首を突っ込むのはためらわれる。

 かといって、見過ごすのはもったいない。

 ゲームで遊んでおり、面白そうな展開が目の前で起きている。どうなるか気になるし、見てみたい。

 現実であれば、最悪の事態を想定して女の子たちの安全を心配する場面だが、どうせゲームだからと楽観的に考える。自分の好奇心を優先しようかと。

 クエストだとしても、報酬は期待しない。やるだけやってみよう。

 好奇心に負けたタゴサクは、五人のNPCたちに近付き声をかける。


「どうしました?」

「お前には関係ない。すっこんでろ」


 男性NPCの一人が威圧してきた。他の二人よりも装備が整っているリーダー格の男性だ。

 タゴサクは、バスケ部だっただけあり体格はいい方だが、彼には及ばない。身長こそ匹敵するものの、体の厚みはまるで違う。

 ゲームだと分かっていてもビビッてしまう展開だ。

 残る二人も、口々にタゴサクを脅す。


「怪我したくねえよな? 悪いこたあ言わねえから帰んな」

「このガキどもはオレたちの獲物だ。報いを受けさせてやる」


 実に分かりやすいゴロツキ風味の発言だった。

 女の子たちの反応はというと。


「お願いします! 助けてください! ワタシはどうなっても構いませんから、せめて妹だけでも!」

「ダメだよ、お姉ちゃん! お姉ちゃんだけは助けてください!」


 これまた実に分かりやすい姉妹愛だった。

 この時点で、タゴサクは半ば確信する。


「二人が何をやらかしたんです? 捕まえるなら協力しますよ?」


 悪いのは女の子二人の方だ。

 いかにも悪人ですよと主張する男性たちが、本当に悪人である。

 麗しい姉妹愛を見せてくれる女の子たちが、本当に善人である。

 そのような甘い展開が、このゲームであるわけない。罠に決まっている。人助けのつもりで女の子たちの味方をすれば大失敗のパターンだ。

 ゲーム歴は短いが、悪い意味でSOSを信頼しているからこその判断だった。


 男性三人のセリフは、タゴサクの身を案じているとも受け止められる。女の子たちが危険人物だから、無関係な人間を巻き込まないようにしようという配慮だ。

 女の子たちは、助かりたければ演技でもなんでもする。

 果たして真相やいかに。


「こいつらは、タチのわりい強盗犯だ。可愛い顔してやることがえげつねえ。自分たちより弱い相手だけを狙って奪い取ってやがる」


 ビンゴ! と内心で叫んだ。

 最初の発言のみで判断し、男性側を加害者と断じていれば失敗していた。性格の悪いゲームだ。

 タゴサクは協力を申し出たが、結局ほとんど働かずに男性たちの手で解決した。

 小ぶりなナイフを振り回して暴れる女の子たちを、楽々と取り押さえた。


 リーダー格の男性が指示を出し、仲間二人に女の子たちを連れて行くように命じる。女の子たちは年貢の納め時となった。

 人さらいにしか思えない光景だが、麗しい姉妹愛を見せていた二人は口汚い罵倒を吐き捨てていた。本性を現したのだ。

 連れられて行く様子を、リーダー格の男性は冷めた目で見ている。


「礼を言っておく」


 そしてタゴサクに向き直り、お礼を述べてくれた。


「俺は何もしてませんよ」

「確かに、オレたちだけで十分だったとも言えるが、協力者であるのは事実だ。謝礼はできないが」


 失敗を回避しても報酬なしだ。薬草採取のクエストとは違い、お礼を言ってもらえただけよかったと考えておく。

 タゴサクはこの場を離れようと思ったが、男性は話を続ける。


「オレには、あいつらよりも小さな娘がいるんだ。妻を亡くしていてな。オレと娘だけの生活だ。オレの仕事中は娘一人で留守番しているが、そこに押し入って根こそぎ奪いやがった。娘が一命を取り留めたことだけが唯一の救いだ」


 重い話を聞かされたタゴサクの顔が歪む。

 このゲームのクエストは、罠と鬱の二択しかないのか。


「名前を聞かせてもらっても?」

「タ、タゴサクです」


 解放されたい一心で名乗り、逃げるように男性NPCから離れた。

 好奇心から首を突っ込んだのは早計だった。結果が重い話とか勘弁だ。

 NPCの姿が見えなくなってから、メニュー画面を確認する。先ほどの展開がクエストかどうか知りたかった。


 確認すると、あれは強盗退治のクエストだった。退治していない気もするが突っ込まない。

 クエストの結果だが、なんと「大成功」の文字が躍っている。

 成功ではなく大成功だ。一切のヒントなしで大成功させられた。

 報酬はなかったが嬉しくなる。

 気分をよくし、町で情報収集の続きを行うが、新しい成果はない。これで終わりにする。

 ソーニャと合流してすり合わせれば、二人の持つ情報は一致していた。


「やるとしたらゴブリンの王からの入手?」

「俺もそれがいいと思ってる。試合は無理だろうな。ダンジョンも気になるが」

「私たちって、まともなダンジョン攻略してないものね。ボスのドロップは狙わないにしても、一回くらいは行ってみたいかも」

「イアと相談するか。イアは?」

「メッセージを送ったけど、返事がこないわね。レベリング中だから見れないのかなって」

「もうちょい待つか」


 雑談して時間を潰す。

 ソーニャは特に変わった出来事はなかったらしいが、タゴサクはある。先ほどのクエストを自慢しよう。


「聞いて驚け。俺はクエストを大成功させたぞ」

「凄いわね。いいアイテムもらえた?」

「報酬はなしだ。NPCからお礼を言われただけだな。報酬はなくても、大成功ってだけで気分いい」


 ソーニャと話していると、イアも戻ってきた。

 当然、イアにも自慢する。二人して危なっかしいだの頼りないだのと言ってくれたが、タゴサクもやればできると伝えたい。


「強盗退治のクエストをやったんだ」

「サクさんは、どうして変なクエストにばっかり手を出すんですか! あれは罠ですよ!」

「知ってるって。報酬はもらえなかったし」

「報酬じゃなくてですね……いえ、まだ大丈夫です。サクさんはエッチですから、どうせ美少女の味方をしたんですよね? したに決まってます」

「失敬な。俺だって冷静な判断くらい下せるんだ。ちゃんと男性の味方をした」


 タゴサクは自慢するが、イアは頭を抱えてしまう。


「ま、まだです。まだ終わっていません」

「なんのキャラよ、それ」


 ソーニャの突っ込みには反応しない。する余裕もなさそうだ。


「NPCに名前を教えたりしてませんよね? してないって言ってください」

「教えたが、まずかったか?」

「何してるんですか! こ、こうなったら、最後の希望にすがるしか……クエストの結果はどうなってます? 成功ですか? 大成功ですか?」

「大成功だ」

「サクさんのオッペケペー!」


 今日日、まず聞かない罵倒がイアの口から飛び出した。いつの時代の人間だ。


「なんて真似を。面倒なことになりますよ。大変ですよ」


 クエストが大成功して悪い展開になるとは思えないが、イアが脅すせいでどんどん不安になる。


「あれはですね、隙を生じぬ二段構えです」

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