二十四話 ゴブリンパラダイス
今日は金曜日の夜だ。明日は土曜日なので、多少夜更かししてゲームをしても問題ない。
普段ならログアウトする時間になっても、タゴサクたちはSOSを続ける。
「現実で夕飯を食べました。お風呂にも入りました。あとは、思い切り遊びましょう!」
宿の一室にて、イアは弾んだ声を出した。やけにテンションが高い。
コモンステラは、イアが本来いるべき星ではない。なのに、タゴサクとソーニャのために引率役のようなことをしてくれた。
レアステラにやってきたため、イアが遊ぶにふさわしい場所になった。よって、テンションも高いのかもしれない。
もう少し引率役として教えてもらうが、卒業は近い。
「フィールドに出て戦闘するのか? コモンステラの脱出に百万スターも使ったせいで、手持ちがほとんどなくなった。これじゃあ装備も何も買えない」
「戦闘でもいいですね。隣町に行ってもいいですけど」
「隣町?」
「ここは【港町ゲン】って名前ですよね。隣には【港町カン】があるんです。どちらもコモンステラからの宇宙船が到着する町でして、日によって【港町ゲン】だったり【港町カン】だったりします。サクさんとソーニャちゃんは、たまたま【港町ゲン】の日でした」
「ゲンとカン……玄関?」
コモンステラからの宇宙船が到着する玄関口のような町だから、ゲンとカン。テイヘーンも酷いがこちらも酷い。
名前の酷さは今さらとして、二つの町に違いがあるのか気になる。
同じことをソーニャも考えたらしく、イアに質問する。
「違いはあるの?」
「二つの町はいがみ合ってる設定なの。片方の町で行動し過ぎると、もう片方の町に入れなくなっちゃうね。バランスよく両方で行動してもいいし、逆に片方だけで行動してもいいよ。わたしはバランス派だね」
「いいことあるの?」
「バランス派は、両方の町の施設を利用できるよ。装備とかスキルとか、売ってる物が違うの。クエストも両方の町で受けられるね」
これだけを聞くと、バランスよく行動する方が得だ。
しかし、バランス派がよければ、イアはそう言ってくれる。片方だけで行動してもいいと言ったのは、そちらはそちらでメリットがあるからだろう。
「片方だけで行動すると、もう片方に入れなくなる代わりに、入れる方の町で色々と優遇してもらえるよ。買い物が安くなったりクエスト内容が変化したり。一番の特徴は、試合に参加できることかな」
「知らない情報が次々と出てくるわね。試合って何? 二つの町が競い合うの?」
「そうそう。自分たちの町こそが一番だって主張して、定期的に争ってるよ。代表者を選出して試合するの」
「ここまで聞けば分かるわ。プレイヤーは、代表者になって試合に出場できる。勝てば報酬としてお金やアイテムをもらえるんでしょ?」
「ソーニャちゃん、正解。代表者になりたがる人は多いから、まずは代表者の選考会に勝ち抜かないとダメだけど。わたしの力じゃ無理だし、試合に参加できなくてもいいからバランス派ってわけ」
タゴサクとソーニャがどうするかはいずれ考えるとして、今日はフィールドに出て戦う。
その前に、一つだけアイテムを購入した。イアが何度か使っていたが、町に移動するためのアイテムだ。
これさえあれば、遠出しても一瞬で戻れる。
買う物も買ったのでフィールドに出れば、想像しない光景が広がっていた。
町の外は、深い森だったのだ。
ジャングルと言い換えてもいい。木々がうっそうと生い茂る森が広がっている。
町からは夜空の星が見えたが、ここでは全く見えない。上を向いても目に入るのは枝葉の天蓋のみだ。
地面は舗装されておらず、わずかな獣道がある。歩きにくいったらない。
「コモンステラは主に草原だったが、こっちは森かよ」
「レアステラは、どこもこんな感じですね。コモンステラよりマシでも、所詮は住みにくい下級の星という設定です。森の一部分を開拓して町を作ってあります。町はバリアーのようなもので守られてますので快適ですけど、一歩外に出ればこれですよ」
二つ目の星にしては妙に発展していると思ったが、こういうカラクリがあった。
星明りすら届かない夜の森ともなれば相当暗い。
獣道の周辺には、人が設置したと思われる電灯があるおかげで、視界は確保できている。移動はできるし、戦闘もなんとかなりそうだ。
「不安があるとすればPKだな」
「視界が悪いし、発見しにくいわね。向こうにも同じことは言えるけど、見つかって遠距離から先制攻撃されたらピンチかも。あと気になったのが、森の中で火の魔法とか使ったらどうなるの? 延焼して大惨事になったりする?」
「延焼は聞いたことないかなあ。PKは、樹木が邪魔で遠距離攻撃が難しいから、そうそう食らわないと思うけど」
コモンステラとは環境が変わり、戦い方も変わる。
戦いにくい場所で経験を積み、一人前のプレイヤーになれということだろうか。
SOSにおける一人前の定義とは、すなわち他人を蹴落して自分だけが一番を目指す人間になるが。
深く考えると疲れるので考えないでおく。
森を歩いているとモンスターが現れた。
薄気味悪い緑色の肌をした、人型のモンスターだ。体は小さく、女子のソーニャやイアと比べてすら頭一つ分は背が低い。手足も枯れ枝のように細くなっている。
そいつが六匹だ。レアステラで最初に遭遇するにしては数が多い。
「ゴブリンみたいなモンスターだな」
「サクさんの言う通り、まさしくゴブリンですよ。【リトルゴブリン】ですね」
「数が多いとか、新スキルの試し撃ちにピッタリじゃない。私にやらせて」
ソーニャは、ジョブに就いて覚えたスキルを使ってみたいようだ。
「ソーニャちゃん、待っ」
「【広域斬り】!」
イアが制止しかけたが、ソーニャがスキルを使う方が早かった。
剣を持ったソーニャの体が、その場で一回転する。使用者を中心にして、円状に攻撃するスキルだ。
当然、ソーニャの近くにいたタゴサクとイアが被害を受けてしまう。遠くまでは届かず、【リトルゴブリン】はピンピンしている。
「殺す気かっ!」
「ご、ごめん。うっかりしてた」
「だからわたしは止めたのに」
システム的にパーティーを組めないゲームだ。協力しているとフレンドリーファイアの危険性は常につきまとう。
失念していたソーニャのミスだが、気付いていたイアとは違いタゴサクは気付かなかった。
ソーニャだけを責めるのはかわいそうだし、死ななかったのでよしとする。
「次から気を付けよう。ゴブリンを倒すぞ。数が多いから一人二匹でいいな」
「もう一回チャンスちょうだい! 新スキルの試し撃ち!」
ソーニャは汚名返上しようとしていた。ピンチになれば手を出せばいいと思い、彼女に任せる。
なぜか知らないが、【リトルゴブリン】たちはゲギャゲギャ声を出しているだけで攻撃してこない。スキルを再使用できるまでの時間は稼げそうだ。
「よし、使えるようになった! 【広域斬り】!」
ソーニャは【リトルゴブリン】の中に飛び込み、スキルを放った。
たった一発で【リトルゴブリン】は全滅だ。
「一発で全滅とか、そんなに強いスキルなの?」
「いや、さっき攻撃を食らったが、俺のHPはたいして減ってない。スキルが強いんじゃなくて、モンスターが弱いんじゃないか?」
範囲攻撃は、複数に攻撃できる分、攻撃力そのものは低く設定されているケースが多い。ソーニャの【広域斬り】も例に漏れず、純粋な攻撃力ではこれまで使っていたスキルよりも弱そうだ。
タゴサクの推測を裏付けるように、イアが教えてくれる。
「【リトルゴブリン】は、レアステラで最弱のモンスターだよ。強さ的には、コモンステラで最初の方に戦ったモンスター程度になるかな」
「レアステラなのに?」
「練習台みたいなモンスターだからね。今みたく一度に何体も出現するの。多数の敵に対処する戦い方を学ぶのが一つ目の目的。もう一つは、ゴブリンって人型だよね。コモンステラには人型モンスターがいなかったから、攻撃する練習ってこと」
「気遣う点がおかしい!」
タゴサクは思わず突っ込んでいた。
ゲームのモンスターとはいえ、人の形をした相手を攻撃するのは心理的な抵抗がある。中には躊躇する人もいるだろう。
よって、コモンステラではイノシシとかウサギとかが多かったのだ。
レアステラになり、チュートリアルは終わった。ぼちぼち人型モンスターも登場させて戦ってもらおうという目論見だ。
これは理解できるが、今さら感が半端ない。
「コモンステラで散々PKしてるはずだよな。本物の人間を何度も殺してるのに、人型モンスターもくそもあるかよ。気遣うなら、ソロ前提、PK前提の仕様を改善しろ」
「そこを改善すると、SOSには何も残らなくありません?」
「なんつうゲームだ」
いつものセリフも言い終わったし、森の探索を続ける。
出くわすのはゴブリンばかりだ。ここら辺にはゴブリンしか出現しないらしい。
レアステラ最弱の【リトルゴブリン】。
それに毛が生えた程度の強さしか持たない【ノーマルゴブリン】。
ノーマルよりも多少強くなった【プラスゴブリン】。
猿とゴブリンを足して二で割ったような外見の【ビーストゴブリン】。
ゴブリンのくせに無駄にイケメンである【スマートゴブリン】。
紅一点の【レディーゴブリン】。
このように、多種多様なゴブリンたちが出現する場所だった。ゴブリンのパラダイスだ。
タゴサクのレベルでは、一対一で確実に勝てるのは【ビーストゴブリン】まで。【スマートゴブリン】になると負ける可能性が出て、【レディーゴブリン】に至っては三人がかりで互角だ。
強敵である分、経験値はおいしい。レベルも順調に上がる。
大量のゴブリンたちを狩っていると、とっくに日付が変わっていた。学校が休みでも、これ以上続けるのは体力的に厳しい。
ログアウトと回復のために町へ戻る。アイテムを使えば一瞬だ。
「便利だな。しかも安かったし、大量に買っておこう」
「狩りでお金も貯まったものね。私も買おっと。装備も更新したいし、スキルと魔法も買いたいわね。貯まってもすぐになくなるわ」
「買い物は明日だ。今日はログアウトして、少し勉強してから寝る」
「今から勉強するんですか? サクさん、真面目ですね」
「受験生なのにゲームしてる時点で真面目じゃないって。成績が落ちると続けられなくなるし、俺が遊びたいから勉強するんだ」
単に勉強しようと思ってもやる気は出ないが、ゲームというご褒美があれば頑張れる。
「また明日」
「おやすみ、イア」
「おやすみなさい。明日もゲームしましょう!」
挨拶をしてから宿でログアウトした。
明日も朝からゲームしようと約束をして。




