二十三話 鈍色
第2章開始です。次話は本日夜に投稿します。
タゴサクとソーニャを乗せた宇宙船は、レアステラに到着した。
発着場に停車すれば、プレイヤーが次々と降りて行く。
「星空が見える。すげえ」
宇宙船から降りたタゴサクは、こんな感想を抱いた。
コモンステラでは、昼夜関係なく紫色の雲が空を覆っており、陰気臭い世界だと感じた。
レアステラは違う。目もくらむような満天の星空とはいかないが、光り輝く星がいくつも見えている。
「星を見るのもいいけど、イアと合流しましょう」
「そうだな」
二人並んで歩き、発着場を出て町に足を踏み入れる。
ここは【港町ゲン】という。宇宙船の発着場を港と呼んでいいのか疑問は浮かぶが、【テイヘーンの町】とアホな命名をするゲームには突っ込むだけ無駄だ。
町は、高層ビルが立ち並ぶ近代的な都市になっている。貧乏臭いファンタジー世界だったコモンステラとはまるで違う。
町を歩くNPCも、現実にいてもおかしくない清潔な服を着ている。コモンステラのNPCがボロを着ていたのとは雲泥の差だ。
おのぼりさんよろしくキョロキョロしながら進み、ある場所でイアと合流する。
「無事に着けたんですね。よかったです」
「レアステラって凄いな。コモンステラにいたんじゃ想像できなかった。まさか、ここまで近代的だったなんて」
「町の外に出れば印象も変わりますけどね。外に出るのは後回しにして、ジョブを決めてしまいましょう」
タゴサクたちが集合場所にしたのは職業斡旋所だ。ジョブに就ける場所になる。
意味は分かるが、職業斡旋所とは夢もへったくれもない。
文句は置いておき、タゴサクとソーニャはジョブに就こうとしている。二人ともレベル50を超え、条件を満たしているため、ジョブを選べるようになった。
チュートリアルが終わり、本格的にゲームが始まるのだと感じさせる。
三人で中に入る。自動ドアをくぐれば、そこは日本の役場のような空間だった。
広くて解放感があり、清掃が行き届き清潔だ。電光掲示板には日本語で案内が書かれているし、よく分からない機械もある。
プレイヤーやNPCも多い。NPCは職員で、プレイヤーはジョブに就こうとしている人たちだろう。
最初に機械で整理券を発行する。ますます役場みたいだ。
椅子に座って待っていれば、タゴサクの番号が呼ばれた。
男性NPCが待つカウンターに行くと、一枚の紙とボールペンを渡される。
「必要事項を記入してください」
事務的で短い説明があり、タゴサクは記入していく。
といっても、たいしたことを書くわけではない。プレイヤー名とレベルと。
「あの、Lavoroってなんですか?」
Lavoroに就いた経験の有無を聞かれているが、Lavoroの意味が分からない。どこかで耳にした気もするが。
「職業のことです」
「あ、ジョブか。そういやジョブは通称だったな」
正式名称はLavoroだが、分かりにくいのでプレイヤーの間ではジョブで通っているとイアから聞いた。
ジョブは初めてになるので、なしと記入する。
必要事項を書き終えた紙を渡すと、NPCは機械で読み取っていた。
ゲームだからサクサク終わらせてくれてもいいのに、無駄に凝っている。
「はい、問題ありません。これを持って二番のカウンターに行ってください」
「ありがとうございます」
たった今書いた紙を受け取り、言われた通り二番のカウンターへ向かう。ここにも男性NPCがいた。
どうでもいいが、職員のNPCは美男美女ぞろいだ。若くて容姿の整っている人しかいないせいで、アイドルグループの養成所だと言われれば信じる。
美人の女性NPCに対応してもらいたいと思うが、タイミングが悪いのか男性にあたっているのが残念だ。
男性だろうと女性だろうとやることは変わらないし、手続きを進める。
二番のカウンターでは色を選択する。選択可能な色を教えてもらい、その中から選ぶのだ。
結構種類が豊富で、十種類以上ある。
赤色、青色、白色、黒色、黄色、橙色、桃色、緑色、紫色、茶色、鳶色、鈍色。
「なんだ、灰色があるじゃないか」
イアは以前、灰色がないと言っていたが、ちゃんとあった。
鈍色がそうだ。濃い灰色が鈍色だが、普段使う名称ではないから気付かなかったのかもしれない。
さておき、これは悩む。どれにすべきか。
コモンステラにいた頃、ソーニャやイアとも相談したが、好きに選べばいいという結論になった。
イアは、タゴサクが青、ソーニャが赤にすればいいとも言っていた。
マンガなどではよくあるパターンで、赤と青を象徴とする対照的なコンビだ。
赤は、情熱的な火炎、力強き猛将。
青は、冷静沈着な水氷、技量に優れる知将。
色からイメージする能力はこんなところになる。
おあつらえ向きに、タゴサクの髪は紺碧で、ソーニャは真紅だ。赤と青のコンビになるならピッタリである。
これは、イアの意見であり好みだ。他人が口出しして強制することではないし、タゴサクが自由に選ぶ。
しばし悩み、タゴサクが選んだのは。
「鈍色でお願いします」
選択理由に深い意味はない。強いて言えば、自分に合っていると思った。
プレイヤー名がタゴサクだ。昨今の流行に沿ったおしゃれさとは無縁の、古めかしい名前にした。
現実にタゴサクさんがいれば失礼な考えになるが、田舎者でどんくさいイメージがある。
よって鈍色だ。赤や青よりも合う。
「鈍色ですね。では、次は三番のカウンターに行ってください」
三番のカウンターでは、いよいよジョブを選択する。
候補は三つだ。色に比べれば少ないが、この先増えていくので変更すればいい。
「名前がひでえ……」
候補に挙がっている三つは【腐敗騎士】、【新鮮死人】、【業突貴族】だった。どれもこれも名前が酷過ぎる。
「腐った騎士に、新鮮なゾンビ、業突く張りな貴族って……」
鈍色にしたのは失敗だったかと後悔するが、とりあえず選ぶ。
「素直に選んでおくか。【腐敗騎士】にします」
三つの中では一番まともなジョブにした。
ゾンビや貴族の戦い方は想像がつかないが、騎士ならなんとなく分かる。これまで通り剣を使えるはずだ。
「【腐敗騎士】ですね。承知しました」
NPCがカタカタと機械をいじり、設定が完了する。
「タゴサクさんは【腐敗騎士】となりました。これはサービスです。お受け取りください」
もらったのは、スキルを覚えるアイテムだ。色とジョブに合ったスキルを覚えられるよう、アイテムをもらえる仕様になっている。
早速使い、新しいスキルを覚えた。
やるべきことは終わったので、イアのところへ戻る。
「お帰りなさい、サクさん。何にしたんですか?」
「ソーニャが戻ってきたら話すよ。二度手間になるし」
三人で協力する以上、お互いのプレイスタイルを共有しておく必要がある。どのようなジョブで、どのような戦い方ができるのかを。
タゴサクに続いてソーニャも戻ってきた。
ここで話してもいいが、念のために他のプレイヤーがいない場所に行く。
聞かれて困る話ではない。珍しいジョブになったわけでもなく、秘匿する必要はないが、三人で仲良くしている場面を見られるとPKの対象になる。
向かった先は宿屋だ。コモンステラではファンタジーチックな宿だったが、レアステラではビジネスホテルと呼ぶべき外観をしている。
RPGではお馴染みの宿屋は、SOSでも回復用施設になっている。
ただし、通常のRPGでは一晩休むが、SOSは現実時間とリンクしているせいで一晩休むわけにはいかない。
部屋に入っている時間分だけ、HP、SP、MPが回復する仕様だ。一晩分の料金を払った上でログアウトすれば、ログアウト中も回復してくれる。
宿の一室に三人で入ると、なんとも言えない背徳感がある。
コモンステラでも宿を利用していたが、あちらは貧乏でボロかった。声は漏れるし、壁に穴が開いていて隣室が覗けるなど、プライバシーの欠片もない。
今は、清潔なホテルで美少女二人と同じ部屋だ。
ぶっちゃけて言おう。タゴサクは非常に興奮している。
「鼻息荒くしないでよ。お兄ちゃんの変態」
「何を言っているのかな、妹よ。イアに誤解されるような発言は慎みたまえ」
「またそれ? お兄ちゃんの変態性はバレバレだし、誤魔化さなくてもいいわよ」
「サクさんに言っておきますけど、SOSでエッチなことはできませんよ」
「妄想で補完するのは朝飯前だ!」
「誤魔化さなくていいとは言ったけど、ここまで明け透けなのもねえ」
変態発言はここまでにして、情報を共有する。
「私は橙色にしたわ。赤でもよかったけど、ガンタって人が確か赤でしょ。PKと同じ色が嫌だったの」
「俺は鈍色だな」
「赤と青にしなかったんですね。残念です。赤青の兄妹とか、凄く格好いいと思うんですけど」
「ソーニャはともかく、俺はなあ」
ソーニャが赤なのは、イメージに合致する。情熱的な火炎や力強き猛将と言われれば、実に彼女らしいと思う。
問題はタゴサクだ。
「俺が冷静沈着な水氷か? 技量に優れる知将か?」
「お兄ちゃんが冷静沈着?」
「知将……ですか」
「恥将なら分かるわね」
「ソーニャちゃん、うまい」
「今のはフォローして欲しかった……」
タゴサクが言い出したこととはいえ、二人の反応が冷たい。
「日頃の行いよ。続きだけど、私のジョブは【橙剣士】で、新しく覚えたスキルは【広域斬り】ね。これってダジャレ?」
ソーニャが本題に戻したため、タゴサクも気を取り直す。
オレンジでワイドレンジだ。確かにダジャレっぽい。
「スキル名からして範囲攻撃だろ? ダジャレでも使えるスキルに聞こえるが」
「説明を読むと範囲攻撃ね。使えるかどうかは、実際に戦闘してみないと」
ソーニャのジョブはまともだ。少なくともタゴサクよりは。
「お兄ちゃんは?」
「ジョブは【腐敗騎士】、スキルは【瘴炎焼閻】」
「なんでお兄ちゃんは、ネタに走りたがるの? 腐敗した騎士って……」
「ネタじゃないんだよ! 鈍色にしたら、酷いジョブばっかりだったんだ! 一番まともそうなのが【腐敗騎士】だぞ!」
「鈍色にするのが、そもそも間違いじゃない?」
「俺なりの考えがある。赤や青に比べれば、鈍色は地味だよな」
刃物が錆びて切れ味が鈍るところからついた名前だ。派手さや華麗さは皆無である。
「派手じゃなくてもいい。華麗じゃなくてもいい。地味でも泥臭くても、精一杯生き抜こう。ってな」
「お兄ちゃんがまともだわ」
「いいですね、それ! わたしは、ついつい派手で格好いい物に目がいきがちですけど、地味なのが悪いわけじゃないんですね! サクさんを見直しました!」
意外や意外、二人には好感触だった。
こうなると、タゴサクの罪悪感が募る。
「ごめん、今適当にでっちあげた。本当は深い意味なんかない。タゴサクって名前に派手な色は似合わないな、とかその程度だ」
「お兄ちゃんはお兄ちゃんだったわ。正直なのはいいと思うけど」
選択理由に深い意味はないが、これから鈍色としてやっていく。
情報共有も終わったし、レアステラでのゲーム開始だ。




