十七話 闇を斬り裂く白
下品ですみません。
ゴールデンウィークは五日目を迎えた。九日間あるのでちょうと中日だ。
イアは、五日でコモンステラを脱出すると言っていたが、この分では到底間に合いそうにない。PKのせいで金が貯まらないのだ。
「PKされないように、プレイヤーの少ない場所で戦うか?」
「消極的だけど、しょうがないか。私たちじゃ勝てないんだし」
二日目にも行った洞窟でレベリングをすることにした。
効率はよくない。以前はレベル10だったが、現在では20を超えている。適正レベルよりも下のダンジョンになるし、レベリングには不向きだ。
PKから逃れてゲームをするためにはやむを得ない。
前回と同様、イアが松明を使って明かり役になってくれる。タゴサクとソーニャは、弱い洞窟のモンスターを倒していきレベリングだ。
SPやMPの問題で、スキルも魔法も連発できない。普通に剣を振って倒す。
洞窟から出てしまうと危険なので、休憩のためのログアウトも洞窟内で行う。
朝にログインしてから、何度か休憩を挟みつつ、一日中レベリングに励んだ。
「ぼちぼちゲームをやめる時間だが、町に戻るか? 洞窟でログアウトするか?」
ダンジョンに引きこもり続けようと思えばできる。グレスからもらったアドバイスだ。
問題があるとすれば、装備の耐久度や消耗品の残量だが。
「武器の耐久度が心許ないわね。回復アイテムも減ってるし、戻りたいけど」
PKは不安だが、一度町へ戻ることにする。
洞窟を出れば、外は夜になっていた。日本のゲームであるため、ゲーム内の時間は現実とリンクしている。
昼間ですら紫の雲が空を覆っており鬱々としているが、夜ともなれば輪をかけて不気味に変貌する。街灯などの明かりは存在せず、夜空には月も星も輝いていない。洞窟よりはマシという程度だ。
暗いフィールドを三人で歩く。早く町に戻ろうと急ぎ足だ。
イア一人ならアイテムで戻れるが、タゴサクとソーニャはアイテムを持っておらず歩くしかない。
レベルが上がっており、モンスターは脅威にならない。脅威なのは。
「今日はあなたですか」
昨日はアキオーダックたち三人に襲われたが、本日はヴァイスだった
「ようやく見つけた。なかなか見つからずに他のプレイヤーをPKしたが、僕の狙いは君たちだ」
「他のプレイヤーとは、アキオーダックとガンタのことですか?」
「コダるプレイヤーをPKするためにコダるのはあり得ない。本末転倒だ」
ひたすらにコダることを嫌うヴァイスは、弓を構える。
「【白斉射】!」
問答無用でスキルを使用した。前回はタゴサクとソーニャをハチの巣にしたスキルだが、今日はイアがいる。
「【黒壁】!」
夜の世界でも一際目立つ漆黒の壁が、白の軌跡を防ぐ。
ガンタの攻撃からタゴサクを守ってくれた堅牢な壁も、イアとヴァイスのレベル差のせいか完全に防ぐには至らない。粉々に破壊されてしまう。
ヴァイスの【白斉射】はそのままイアに到達し、華奢な体を蹂躙する。
【黒壁】のおかげで威力は減衰しているし、イアならば死にはしまい。申し訳ないが、彼女が攻撃されている間がチャンスだ。
タゴサクとイアは左右に散った。
レベルはヴァイスの方が圧倒的に上だ。イアの【黒壁】をものともせず打ち破る攻撃力に、アキオーダックたちをまとめてPKできる実力を持つ。レベル100やそこらではきくまい。レベル200以上の中級者だと言われても納得できる。
三人がかりですら勝ち目はないだろうが、承知の上で戦う。
「【瞬剣】!」
まずはタゴサクが攻める。スキルでヴァイスとの距離を縮めて攻撃だ。
ヴァイスは二、三歩移動しただけでタゴサクを避けた。直線移動しかできないスキルの弱点を突かれた形だ。
弓を構えてスキルを放とうとするが、そこへソーニャの攻撃も迫る。
「【瞬剣】!」
タゴサクと同様のスキルでヴァイスに肉薄する。
無論、黙って食らってくれるわけはない。タゴサクに放とうとしていた攻撃を即座にソーニャに向ける。
「【白液】!」
同じスキルを使っているのだから、ソーニャも直線移動しかできない。ヴァイスのスキルを避けることも当然不可能だ。
矢というよりも白い球体がソーニャにぶつかり、泡のように弾けた。
ソーニャの全身が白く染まる。【瞬剣】での移動もキャンセルされ、地面に転がった。
「な、なにこれ? ベタベタする……」
行動を阻害するような効果があるのだろうか。トリモチのような感じでソーニャの動きを封じている。
それはいいが、絵面がかなりアレだ。
白く濁った粘性のある液体がソーニャにぶっかけられた。
ヌルヌルである。グチョグチョである。
白濁にまみれた美少女の完成だ。R18指定待ったなし。
「この変態野郎! 女の子になんてものをぶっかけてるのよ! こんなのどう見ても男の……うわっ、口に入った! ぺっぺっぺっ!」
大口を開けて叫んでいたソーニャの口に、白濁の液体が入り込む。
イケナイ妄想しかできない光景だ。現実でなら前かがみになっていること間違いなしである。
「ヴァイスって、結構特殊な性癖が?」
「断じて違う! これは普通のスキルだ! アキオーダックと一緒にしないでもらいたい!」
「いや、俺は軽蔑しませんから。むしろ、一晩中エロトークをしてみたいですね。俺も変態的な持論とかあるんで、熱く語り合ってみません? PKなんて物騒な真似をしなくても和解できたりするかも」
「【ホワイトキャッツ】!」
「のおっ!?」
タゴサクがエロトークしたいとバカなことを言い出せば、ヴァイスの返答は魔法による攻撃だった。
数匹の白猫が出現するという可愛らしい魔法だが、威力はシャレにならない。一匹がタゴサクに引っついて自爆すれば、HPの半分以上を持っていかれた。
あと一匹、自爆されれば終わりだ。
が、白猫たちは黒の波に呑まれて消えた。おそらく、イアのスキル【黒旗】だと思われる。
「可愛い猫ちゃん……わたしに猫ちゃんを潰させるとか、鬼畜な人です。人間のすることじゃありません。鬼畜生です」
「さすがにその理屈は通じないんじゃ?」
タゴサクの真っ当な反論は、イアの耳には届かない。
「怒りました! 猫ちゃんの痛みを思い知ってください! 目には目を、鬼には鬼を! 【三途黒鬼】!」
責任転嫁もはなはだしい暴論と共に、イアはスキルを使用した。
イアの体が闇に覆われ始める。頭から爪先まで、あますところなく漆黒へと。
整った顔にも黒鬼の仮面が張り付いて、ちびりそうなほど怖い。
「【白斉射】!」
「それは反そ……」
抗議の声を上げかけたイアだが、ヴァイスのスキルにより命を散らした。仰々しいスキルを使った割に情けない最期だった。
「あー……そりゃそうだわな」
スキルの効果は詳しく知らないが、見た限りでは自身の強化だろうか。バフのようなものだ。
特撮の変身ヒーローではあるまいし、敵が悠長に待ってくれるわけがない。
「変身を待ってくれるっていうお約束は通じないか」
「逆に聞くが、通じるとでも?」
「強い奴と戦いたいから待ってやるぜ! 的な?」
「僕にそのような酔狂な趣味はない。さて、君も」
「【全力】!」
呑気に会話しているふりをして、タゴサクはいきなり攻撃を加えた。
正攻法では勝てないのだ。卑怯上等、邪道大歓迎である。
卑怯な真似までしたのに、ヴァイスには通じない。白い弓で受け止められた。
剣とは違い、弓は近接武器ではないのに力負けする。いかにレベル差があるか嫌でも分かる。
それでも、タゴサクは距離を離さずに食らいつく。
弓兵は接近戦に弱い。RPGの鉄則だ。
距離を詰めていれば、万に一つの勝機が生まれるのでは。
甘い期待を抱くが、残念ながら無理だった。
「【白弧月】!」
ヴァイスが弓を回転させれば、弧を描き満月のようになる。
もやがかかった朧月のようで、物悲しさを感じさせるそれは、ヴァイスの姿を隠してしまう。
「【白斉射】!」
隠れたままでスキルを放った。狙われたのはタゴサクではなく、粘性の液体に囚われて動けないソーニャだ。
イアに続き、ソーニャも死に戻りする。タゴサクが殺されるのも時間の問題だ。
「隠れたまま攻撃できるとか卑怯くせえ。変身中の攻撃は反則じゃないにしても、こっちは反則だろうが」
「君にだけは卑怯と言われたくないな」
「そこかっ!」
声のした方へ剣を振るが、手ごたえはない。悪足掻きで無茶苦茶に剣を振り回してみても結果は同じだ。
落ち着いたヴァイスの声だけが聞こえてくる。
「普通に攻撃しても倒せるが、せっかくだ。最強の一撃で葬ろう」
タゴサクから少し離れた場所でヴァイスが姿を現した。
攻撃準備は整ったとばかりに、弓の弦を引き絞っている。
最強の一撃と豪語するほどだ。タゴサクに逃れる手段はない。回避も防御も不可能だろう。
ならば、攻撃あるのみ。相手の攻撃が届く前に攻撃する。
「【瞬剣】!」
ダメ元でスキルを使うが。
「【闇ヲ斬リ裂ク白】!」
視界が白一色になる。この場所だけ夜が消えたように錯覚する。
そして死に戻りだ。【テイヘーンの町Ⅱ】の民家に立っているが、先ほどまでの戦闘音が耳に残っている気がする。
「サクさん、大丈夫ですか?」
「なんとかな」
「わたし、三人の中だと一番レベルが高いのに、最初に死んじゃってすみません。守ってみせるって約束したのに全然守れていませんし」
「ヴァイスが強過ぎるんだ。イアのせいじゃない。頭に血がのぼって、スキルの使いどころをミスったのだけはまずかったかもな」
「ですよねえ。冷静になると、あれはなかったなって思います。待ってくれるはずがありません」
「ところで、ソーニャはどこに行った?」
イアの次に死んだはずのソーニャの姿がない。タゴサクとイアの二人だけだ。
「ソーニャちゃんはログアウトしました。一刻も早くシャワーを浴びたいって」
ゲームで何があっても、現実の体は汚れない。当然だ。
分かっているが洗い落としたい気分なのかもしれない。
「俺たちもログアウトするか」
「そうですね。また明日です」
タゴサクとイアもログアウトした。
ヴァイスにPKされた敗北感に、明日以降どうするかという不安感。考えれば考えるほど気が滅入ってくる。




