表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
たった一つの輝くもの  作者: ともむらゆう
第1章 コモンステラ
16/139

十六話 クエストの結末

 グレスがログアウトすると、入れ替わりのように新しい人物が姿を見せた。

 タゴサクをPKした二人だ。アキオーダックとガンタである。

 PKした者とされた者。奇妙な関係の三人が集まるのはなかなかシュールだ。


「なんでお前らまで戻ってくるんだよ」


 タゴサクをPKしてから、二人で争い片方が死ぬなら話は分かる。

 二人同時に戻ってきたのは少々不自然だ。


「相打ちにでもなったのか?」

「うるせえ。お前にゃ関係ねえよ」


 死んでしまったせいか、アキオーダックは不機嫌だった。

 代わりにガンタが答えてくれる。


「別のプレイヤーにPKされた。ヴァイスってやつだ」

「あいつか。白弓(しらゆみ)のヴァイスだっけ?」

「知っているんだな」

「俺もPKされたからな。コダるプレイヤーってことで目をつけられてる。SOSを続けられなくなるまでPKし続ける、とか物騒な宣言をされた。お前たちが狙われたのも、俺を探していたヴァイスと遭遇したからか?」

「てめえのせいか! ぶっ殺す!」


 アキオーダックは激怒するが、町では戦闘行為は不可能だ。

 ガンタは意外と冷静で、タゴサクの発言を否定する。


「俺とアキオーダックが一緒にいたから襲われたんだ。俺たちもコダっていると判断された。PKは複数人で行うものじゃない。単独で行うものだ」

「いや、単独でもやるなよ」

「PKこそがSOSの華だぞ。俺は、他のVRMMORPGでもPKしていたが、こっちの方が面白そうだから移ったんだ。PKに成功すると気分がいい」


 短絡的なアキオーダックも問題だが、ガンタはガンタで問題だった。

 マナー違反を承知でコダるタゴサクも問題であり、SOSには碌なプレイヤーがいない。グレスは引退して正解だったかもしれない。


「そういや、グレスが引退するって言ってたぞ」


 二人は、グレスの仲間ではなくても知り合いだ。引退を伝えておいた方がいいと思った。

 伝えたが、反応はそっけないものだった。


「マジで引退したのか。ちょっと前からほのめかしてたが」

「したければすればいい。去る者は追わずだ」

「冷たいな」

「俺たちゃ仲良しこよしじゃねえからな」

「グレスがいようといまいとPKに精を出すだけだ」


 そういうものかもしれない。

 タゴサクも、ソーニャやイアが引退すると言い出せば、一度くらいは引きとめてもしつこく食い下がりはしない。本人の自由にさせる。

 伝えるべきことは伝えたので、いつまでもここにいても仕方ない。


「俺は行くが、フィールドに出ればまた襲うか?」

「さてな。ぶっちゃけ、男をPKしてもつまんねえ。お前と一緒にいた巨乳の女、あいつを紹介してくれよ。ゲームでも現実でも泣かせてみてえ」

「女性の胸は辱めるものではない! 優しく愛でるべきものだ!」

「お、おう……」


 タゴサクが持論を展開すれば、アキオーダックはドン引きしていた。彼をもドン引きさせるのがタゴサクである。


「胸の話は置いといても、俺は今、クエスト中なんだよ。薬草採取のクエストだ。PKに構ってる場合じゃないんだ」

「……薬草採取のクエスト?」

「【テイヘーンの町Ⅱ】で受けられる薬草採取のクエストとなると」


 タゴサクが事情を説明すると、アキオーダックとガンタは何やら意味ありげな反応を見せた。


「ちょっと聞くが、自分で受けたクエストか? 相手から飛び込んできたクエストか?」

「後者だな」

「やっぱあれかよ。初心者だから知らねえのか」

「何事も経験だ。SOSのマナーに従い、俺たちが口を挟むことじゃない」

「だな。よっし、今日は見逃してやるぜ。クエストでもなんでもやりやがれ」

「怖いわ! 何かあるなら教えてくれよ!」


 思わせぶりな発言をされて、タゴサクはビビッてしまう。

 二人はタゴサクを無視し、アイテムを使用して姿を消した。別の町へ行ったのだと思われる。

 見逃してもらえたのは助かるが、クエストを続行してもいいものかどうか。


「一応やるか」


 クエストを受けた手前、途中で放り出すのは気が進まない。NPCの女の子も薬草を待ち望んでいるだろうし、タゴサクは目的地へ向かうことにした。

 いなくなったふりをして、アキオーダックたちが待ち構えていて襲われないか懸念したが、フィールドに出ても無事だった。


 本当に見逃してもらえたらしい。真意は不明ながら、助かったと思っておく。

 ヴァイスにも遭遇せず、PKされることなく目的地に到着する。【テイヘーンの町Ⅱ】から徒歩で三十分ほどの場所にある泉だ。


「イアがいてくれれば、泉に落っこちて濡れ透けになるラッキースケベイベントが発生したり? ぐふ」


 誰もいないのをいいことに、ゲスい妄想を口に出しつつ薬草を採取する。

 多くの植物があるので分かりにくいが、ちゃんと写真がある。メニュー画面を開けば、現在実行中のクエスト内容が記載されており、目当ての薬草の写真を見られるのだ。


 写真を確認しながら薬草を探す。

 モンスターの巣窟になっているとの話であり、実際にモンスターはいたが、たいして強くない。経験値の糧にする。

 ボスモンスターの類もおらず、しばらく探せば薬草が見つかった。簡単に終わり拍子抜けしたほどだ。

 コモンステラのクエストなので、難易度はさほど高くないのかもしれない。


 ともあれ町に戻る。帰路の途中でプレイヤーとすれ違ったが、お互いに見ないふりをした。

 他人を蹴落とし、自分だけが高みを目指すゲームである以上、出会ったのに戦わないのはマナー違反だ。協力はしていないが休戦したことになり、よろしくない。


 そこは、どのプレイヤーもある程度の折り合いをつけている。

 他人と出会うたびにPKし、PKされでは身がもたない。PKオンリーのゲームならいいが、SOSはギリギリかろうじて曲がりなりにも普通のRPGなので、RPGらしい楽しみもある。

 モンスターとの戦闘にクエスト、ダンジョン攻略などだ。

 PKばかりに夢中になると、普通にゲームで遊べなくなる。


 よって、遭遇しても見ないふりをするケースは珍しくない。咎められたとしても気付かなかったと言い逃れればいいのだ。

 殺伐としたゲームに唯一残された良心とでも言えばいいのか。


「PKしないのに言い訳が必要になるってのも大概だよな」


 愚痴をこぼしながら町に戻ってきたので、早速NPCの家に行く。家の場所も分かるようになっているし迷わない。


「すみませーん」

「……どちら様ですか?」


 家の前で声をかけると、中から女の子の声が聞こえた。タゴサクに依頼したNPCの少女だろう。


「あの、依頼された薬草を採取してきたんだが」

「ああ、あれですか」


 喜んでもらえるかと思ったのに、女の子の声は冷たかった。

 家には鍵がかかっており、中に入れてもらえない。女の子もドア越しに会話するだけで、顔を見せてくれない。

 PKされていたせいで時間切れになったのだろうか。

 間違った薬草を持ってきてしまったとも考えられる。

 タゴサクは、クエストを失敗してしまったかと不安になる。


「薬草を渡すから、ドアを開けてもらえないかな?」

「もういいです」

「もういいって……まさか」


 やはり、病気のお母さんが手遅れになって、クエスト失敗かと心配した。女の子が冷たいのは、タゴサクが間に合わなかったからではないかと。

 だが違った。


「お母さんは治りました。薬草もいりません。用がないなら、さっさと帰ってくれませんか。ワタシ、お母さんに食事を作らないといけないので忙しいんです」


 それきり、女の子の声は聞こえなくなった。

 家の前でタゴサクは呆然と佇む。昼間でも青空の見えない寒々しい世界に、悲しい風が吹いた気がする。


「なんだこりゃ?」


 お母さんは治ったと言われた。自然治癒したのだと思う。

 現実で考えるなら、薬がなくても病気が治ることはある。

 だが、これはゲームのクエストだ。薬草を入手し、渡して、お母さんが元気になる。最後は報酬を受け取ってハッピーエンド。

 一連の流れがクエストであり、このような終わり方はない。

 しかも、さらにタゴサクを混乱させる状況が。


「クエスト……成功?」


 メニュー画面を確認すれば、クエストは成功したとの記載があった。

 ますます意味が分からない。失敗したと言われるならともかく、どこが成功だ。


「お母さんが治ったから? 俺は何もしてないのに?」


 考えていても埒が明かないため、知っていそうな人に聞くことにする。

 イアに連絡を入れて合流する。ソーニャも一緒だ。


「お兄ちゃん、勝手に行動しないでよ」

「用事は終わったんですか?」

「終わったっつうかなんつうか……」


 二人に説明すると、ソーニャは呆気に取られ、イアは顔を引きつらせた。


「あのクエスト、受けたんですか? あれは罠なんですよ」

「罠?」

「SOSは他人を蹴落としていくゲームです。要するに、人助けのクエストは大抵が罠なんです。助ける必要なんかないって言いたいんです」

「なんつうゲームだ!」


 もはや日課となったセリフを叫んだ。

 アキオーダックやガンタが見逃してくれるわけだ。こういう結末になると知っていたから、痛い目を見ろと言いたかったのだろう。


「何も知らない初心者は、ほとんど引っかかりますね。NPCとはいえ、小さな女の子に泣きつかれて見捨てられる人は少ないです。クエスト報酬以前に助けてあげたくなるのが人情です」

「でも罠だと?」

「罠です。【テイヘーンの町】で食糧を入手するクエストを受けましたよね? あれも罠のうちなんですよ。人助けのクエストを最初に受けさせておいて、その時は普通にクリアできて報酬ももらえます。次が、ここ【テイヘーンの町Ⅱ】での薬草採取クエストですけど、こっちは罠で何ももらえません。最初のクエストと同じだと考えたプレイヤーを絶望のどん底に叩き落とします」

「マジでなんつうゲームだよ。考えた奴は頭おかしいんじゃないか?」


 SOSの開発者を問い詰めたい。何を考えているのだと。

 きっと、性格が歪み切った人間なのだ。周到な罠を張り巡らし、引っかかったプレイヤーをあざ笑っているに違いない。


「実は、クリアする方法はもう一つあります。報酬はもらえませんけど、素直に薬草を採取するよりは後味のいい終わり方になりますね」

「二度と受ける気はないが、聞くだけ聞いておく」

「病気のお母さんに回復魔法を使ってあげればいいんです。プレイヤーは病気にならないのであまり意味のない仕様ですけど、回復魔法はHPだけじゃなく病気も治療できる設定になっています。NPCの病気だって治せます」

「薬草を採りに行くよりは楽だな。ひょっとして、自分専用の回復魔法の例外ってのは」

「病気のNPCに使うことですね。こっちなら、女の子からお礼を言ってもらえます。お礼だけで、アイテムやお金はもらえませんけど」


 冷たくされるよりも、お礼だけでも言ってもらえる方が後味はいい。

 それでも、クエスト報酬がなければやる意味も薄くなるが。


「子供の笑顔やお礼は、何にも代えがたい報酬だとでも言いたいのか?」

「好意的に解釈するなら、そうかもしれません」

「分からなくもないし、いいか。お母さんが手遅れだったなら悲しいが、無事だったんだ」


 薬草は、あくまでもお母さんを治す手段であり、目的ではない。病気の治療が目的なのだから治ればいいのだ。


「お兄ちゃんは怒ってないの? 無駄足だったのに?」

「完全に無駄足を踏まされたわけでもないぞ」


 モンスターと戦い、経験値を稼いだ。タゴサクのレベルも密かに上がっている。


「薬草にこだわるのはプレイヤー側の事情だ。クエスト報酬が欲しいって事情な。本来なら、魔法でも食事療法でも自然治癒でも、治ればいい」

「お兄ちゃんにしては優しいわね」

「立場を変えて考えてみれば分かるだろ。ソーニャが病気になったとして、俺が治療手段を求めて駆けずり回ったとする。で、治療手段を見つけて戻ったらソーニャが治っていた。これで、『なんで治るんだ!』って怒ったらどう思う? 嫌な気持ちになるだろ? 無事だったことを喜んでもらいたいよな?」

「確かにね」

「サクさんがまともなこと言ってます。エッチじゃありません。『俺をコケにしやがったから、体で支払え』って言い出すかとばかり」

「お母さんと娘さんの母娘丼ね。お兄ちゃんの変態」

「まともなのにディスられるってどういうことだよ!」


 知り合って四日目にもなると、イアも打ち解けてきたのか、毒舌を発揮するようになっている。可愛い顔をしているのに。

 とにもかくにもクエストは終わりだ。何ももらえなかったがよしとしておく。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ