幼馴染との別れ
災厄の龍の力を受け継いだハルは、その力を使って異世界を転々としていた。幽霊の状態の為、どの世界に行っても誰も気付かない。霊感が強いだろう人も気付かない程だ。ハルが声を掛ければ反応はあるのだが、気のせいだと片付けられる始末。誰かに乗り移ることにチャレンジするも失敗。物に触れることも出来ず八方塞がりである。そんな感じで一ヶ月が経った。気が付けば、自分が生まれ育った世界に来ていた。
「ああん? アタシに文句でもあんのか!」
傘の持ち手で肩をグリグリしているミント。焼き芋を片手に二人組を睨み付けている。
「文句なんかないさ。暇ならデートでもどうだろうと思っただけさ」
「ケッ! くだらねえ! アタシなんかをナンパするくらいしか能がねえ野郎なんかと行くわけねえだろ!」
「なんだその口は! 親切に誘ってやってるのに!」
「親切だあ? 余計なお世話の間違いだろ? アタシはどっちもパスだね!」
「断られると燃えるタイプなのさ! カフェにでも行こう」
「親切を断ると痛い目を遭うぞ!」
「フーン。どんな目に遭うんだ?」
焼き芋を完食したミントを羽交い締めすると、もう一人が顔に触れる。口元を緩ませながら触ってくるのに我慢の限界に達したミントは、おもいっきり頭突きをかまし、羽交い締めしていた方を振り払い蹴る。傘を両手で構えると、瞬く間に二人組を怯ませた。
「な、なんて女だ!?」
「暴力女は願い下げさ!」
「フン! 根性なしが」
《相変わらずだなあ》
「うん? 誰だ?」
二人組は逃げている為、ミントの周囲に人はいない。キョロキョロとするミントに聞こえているのはハルの声だ。
《俺だよ》
「誰だよ? ナンパの連チャンは勘弁してくれ」
《気付かないか。俺、ハルだ》
「マル!? どういうこった!?」
《簡潔に言うぞ。俺、今は幽霊なんだ》
「幽霊? 死んだのか!?」
《幽体離脱。今は身体を求めて旅の途中だ》
「ルッキーは知ってるのか?」
《あいつと約束したんだ。帰るって》
「理由を話してくれねえか」
ハルは、ミントに事情を話した。話を聞いたミントは溜め息を吐くしかなかった。
「災厄の龍ってのから世界を守る為に、自分の心臓目掛けて短剣を突き刺した瞬間、災厄の龍の悪足掻きで幽体離脱……踏んだり蹴ったりなこったねえ」
《ああするしかなかった》
「死火と魔術を消したから、アタシは戻ってきたわけだねえ」
《ルキは別に理由があるらしい》
「フーン。でもルッキー、転移した理由を知ったからって帰らないと思うねえ」
《なんで?》
「マルの帰りを待つから」
《参ったな》
「意地でも帰らないと。そんでもってルッキーを抱き締めてやれ。マルはもう、こっちの世界の人間じゃねえ」
《ミント》
「この傘は餞別に貰っておく」
《ちゃっかりしてるな》
「……達者でね」
《二度と会えないみたいに言うなよ》
「分かるんだ。もう既に見えてねえけど、こうして話すこともねえって」
《……ミント……》
「さっさと行きな! マル」
《……元気でな》
ミントの元を去っていく。なんとなくハルも感じていた。もう二度とミントと会うことはないだろうと。
「世話が焼けるねえ……幼馴染は……」
空を見上げたミントに伝う涙。色んな想いが籠った涙。パラパラと降りだした雨を防ぐ為、異世界の傘を差すのだった。




