真相と告白
不敵な笑みを浮かべ空へと上がる。大声を発しながら、空を泳ぐように飛んでいく。
「フハハハ! こうでなければ!」
(俺の身体を自由に出来て嬉しいのか?)
「ン? 誰だ」
(誰だはないだろう? 誰だは)
「そうか、この身体の持ち主か」
(そうだ。お前の記憶を断片的にだが見た。お前、この街を滅茶苦茶にしたそうだな)
「ああ、この眺めに覚えがある。確かにこの街を襲った」
(そのお陰で街は三つに分かれたらしいぞ)
「知ったことか。今もニンゲンが存在しているとはな!」
(人間が憎いのかよ)
「キサマ。オレの記憶を見たと言ったな。それで分からないのか」
(断片的って言っただろう)
「ならば教えてやろう」
(長くなるなら結構だ)
「……オレはニンゲンだった。どこにでもいる普通の子供だった。それがある日を境に一転した」
(人間だったんだな)
「オレは実験台にされた。四六時中、訳の分からんことをされ続けた。そんな日々が三年続き、オレの精神は追い詰められていた」
(それはキツいな)
「我慢の限界なんかとうに越えていた。どういうわけか身体能力が著しく上昇していた。これはチャンスだと思い暴れてやった。オレを捕らえていた施設を破壊し、オレ以外の実験台を解放してやった」
(へえ)
「だがどうだ……助けてやった連中はオレを化け物と罵った。オレを恐怖に怯えた目で見てきやがった!」
(それもキツいな)
「オレは救いを求めた! 家族なら泣いて喜ぶと思った! だが、オレの帰る家はなくなっていた。オレの居ない間に新しい家族を始めていた! オレなんて最初から存在しなかったかのように! そこで察した……オレは売られたんだと」
(それからどうしたんだ?)
「オレは世界に絶望した。どんなに綺麗事を並べようが、誰しも平等には幸せになれないと。オレは世界に絶望した。だから世界を壊してやった。跡形もなく!」
(跡形もなく? そいつはオーバーだろう)
「跡形もなくだ。龍の姿に変身出来た時は驚いたが、破壊の限りを尽くしてやった!」
(……で?)
「海だけの世界は退屈の極みだった。あれだけニンゲンを憎んでいた筈なのに、オレはニンゲンを求めていた。そして、世界を渡る力に目覚めた。そうして来たのが、この世界だ」
(お前、異世界人だったのかよ!?)
「世界が違えばニンゲンも違うと思っていた。路頭に迷っていたオレを温かく迎え入れてくれた。この世界に来て正解だったと思った」
(お前も幸せだったんじゃないか)
「家族に愛され、女性と恋に落ちた。とても幸せな日々だった……だったんだ! だが、その幸せも終わりを告げた。オレと触れた瞬間、次々にニンゲンが燃えだした。それを切っ掛けにニンゲンはオレを避けていった。化け物と罵ってきた。それでも彼女はオレの傍にいてくれた。銀髪が似合う色白な女性だった」
(それって!?)
「オレは彼女と逃げ続けた。そんな日が続き、見る見る彼女に疲労が見えた。彼女が海を見たいと唐突に言った時、オレは彼女の願いを叶えたいと思い、どうにか連れていくことが出来た。それが彼女との、最初で最期の海だった。オレ達を付けていた連中が取り囲んできたんだ。オレと逃げている彼女も同罪と言い、銃を向けてきた」
(どう……したんだ?)
「彼女がオレの腕を掴んできた。『死ぬならキミに殺されたい』……と! そのまま彼女は燃えてしまった。取り囲む連中は彼女のことなど気にも留めず、銃口をオレに向けるだけだった。オレだって被害者だ! なりたくて化け物になったわけじゃない! ……気付いたら、その場の全員を殺していた」
(……くっ!)
「彼女の死の悲しみを癒す為、星空が綺麗な国を求めた。そうしてこの国に辿り着いたんだ。最高の星空だった。彼女とゆっくり見たかったと思いながら涙を流した。が、オレに星空を堪能する暇すら与えてくれなかったんだ、ニンゲンは!」
(まさか!?)
「そのまさかだ。完全に気を抜いていたオレを、背後から剣でひと突きしてきた。背中から倒れたオレを次々に刺してきやがった。オレは世界に絶望した。結局、どこの世界も変わらないと判断した。オレは怒りに任せて街を襲った。星空を見ても鎮まらない怒り……ニンゲンへの憎しみは膨らんでいった」
(それが、この街の言い伝えの正体)
「傷を負ったオレには、世界はおろか、街一つ完全に消す力は残っていなかった。龍の姿からニンゲンの姿に戻って落下した。死を悟ったオレは、この世界に呪いを掛けることにした」
(俺が見た夢での街は、全て破壊されていた。お前が最初に滅ぼした世界の光景と、この街を襲った時のが混ざって見えていたのか)
「ニンゲンはどうしようもない。そんなニンゲンを燃やす呪いを掛けてやった! 苦痛を与えてやる為、オレと同じような思いをさせる為、望まぬ力に目覚める呪いを掛けてやった!」
(死火も……魔術も……お前が掛けた呪い!)
「逃れることの出来ない呪いだ! 世界に掛けたのだからな!」
(この世界そのものが〝呪いの箱〟ってわけか)
「キサマは外のニンゲンだったな? 馬鹿な奴だ。大人しくしていれば、この世界に転生することはなかったのにな!」
(俺が馬鹿なのは否定しない。自分で死ぬことを選んだからな)
「オレがキサマに転生した時は無念だった。憎きニンゲンに生まれただけでなく、オレの意識は深層に追いやられていたからな」
(当然だ。これは俺の身体だ)
「だがキサマは死んだ。キサマに転生したオレも道連れに死んだ。だが再び転生した! オレはキサマから身体を奪う機会を待っていた!」
(お前は俺に転生し、祭囃子ハルは、ハル・ハルードに転生した。普通ならお前の意識は消滅していなきゃおかしいが、どういうわけか俺と身体を共にした。そんでもって俺が死んだことでお前も死んで、俺が転生したことでお前も付いてきたってわけか)
「そういうことだ。そろそろ身体に馴染んできたようだ。今すぐ龍化し、この世界も滅ぼす! ニンゲンを滅ぼす!」
(悪いけど俺はパス。お前の気持ちも苦しみも解った。けど、それとこれとは話は別だ。お前はここで死ぬ!)
「……なっ!? 身体が……」
「言っただろう? これは俺の身体だってな!」
身体の主導権を奪取すると、ポケットに仕舞っていた短剣を取り出す。それを自分の胸に向ける。
(分かっているのか! この身体を貫くということは、キサマも死ぬということを!?)
「俺は馬鹿なんだろう? 俺が自分で死ぬ程の馬鹿ってことは知ってるだろう!」
(たとえオレを殺しても、オレは再び転生するぞ!)
「そう何度も上手くいかないぞ! 仮に転生出来たとしても、お前も俺も〝自分〟じゃないだろう!」
(やめろ!)
「……じゃあ今すぐ呪いを解けよ」
(いいだろう!? 全部の呪いを解いてやる。代われ)
再び主導権を握った龍。ハルに言われるがまま、世界に掛けた呪いを解いた。
「解いてやった……が、滅ぼす!」
「だと思った!」
(何!?)
龍から主導権を奪い返したハル。覚悟を決め身体に短剣を突き刺したが、狙っていた箇所からは大きく外れて左太股に刺さってしまう。
「抵抗……すんな!」
(ニンゲンが!)
ズルズルと落下していく。落下するハルの姿を見つけたルキが慌てて駆けていく。
「ハル!?」
「来ちゃ……駄目だぞ。死火も魔術も消えたから安心してくれ……。今、災厄の龍にトドメを」
「駄目だわ! そんなことをしたらキミまで!?」
「ルキ、世話になった」
「駄目だわ!! キミがいないと耐えられなくなる!! だって……だって! ワタシはキミが……ハルのことが好きなんだからあああ!!」
「……よかった。両想いってことを最期に知れて。俺もお前が……ルキのことが好きだ」
(やめろおおお!!!?)
今度は狙いを外すことなく突き刺した。確実に刺された心臓は鼓動を止める。
「いやあああ!!!!」
ルキの絶叫が響き渡る中、ハルの身体が地面に倒れた。




