決心
「ふぅ……」
極楽な表情で入浴しているハル。自分が最後なのでゆっくりと入れる。一日の疲れを取るように腕や足をマッサージしたりと満喫している。
「今日は疲れたなあ」
目を閉じて一日を振り返る。熊との戦い、薪割り、女子達の料理、風呂を焼べた。
「熊といえば」
手を翳しただけで追い払うことが出来た。頭に浮かんだイメージのままにやっただけなので、ハル自身もよく解っていないのが正直なところである。
「あの夢と関係してるのか?」
思い出すのも嫌な悪夢。立ち眩みのこともあり、自分の身に異変が起きているのを受け止めるしかない。ハルは何度も顔を洗って誤魔化す。
「異世界に転生してる時点で普通じゃないんだ。今更何を恐れる」
右腕を見つめる。夢の中で銀髪の少女が腕を掴んできて、そんな少女を跡形もなく燃やした腕。どうしても少女とルキを重ねてしまう。海でルキに腕を掴まれた時は激しく焦ってしまった。悪夢を振り切る為にルキの腕を掴んだ時、とても嬉しくて堪らなかった。
「……俺の魔術が……夢に出てきたようなやつなら」
これまでの悪夢が何かの兆候だとするならば……。深呼吸して自問自答する。意を決したように頬を叩いた。
※ ※ ※
別荘に滞在したのは一週間。ハルは、ラルロアに色んな折り紙を教えたり、リーリッドの小さな悩みを聞いてあげたり、ミントの運動に付き合わされたり。色々と振り回されたものの、ハルは苦に思うことはなかった。むしろ、存分に振り回されてやろうと意気込んでいたくらいだ。でもそんなハルの姿は、まるで悔いの残らないようにとガムシャラにも見え、ルキはどこかで不安に感じていた。
「……今、何て?」
「一人旅に出たよって言ったんだよ? ハルから何も聞かされてなかったの?」
「何も聞いてないわ」
「だからか? この手紙をルキちゃんに渡すよう言われてるんだよ」
「手紙?」
ハルの母親から渡された手紙を読む。ハルが書いた文字を追うほどに手が震え、キュッと胸が締め付けられる。込み上げてくるものを堪えながら、ハルの母親に質問する。
「どこに行ったのか分かりますか?」
「詳しくは聞いてないよ。けどどこか抜けてる息子だから、部屋にヒントがあったりして」
聞くや否や駆け出すルキ。読んだ手紙を頭の中で復唱しながらヒントを必死に探す。
『ルキへ。突然のことで驚かせて悪い。俺、一人で旅に出ようと思ったんだ。黙って行くことを許せだなんて言わないけど、どうか受け入れてほしい。お前はお前で元気で暮らせよ。皆がいるから大丈夫だろう。ミントのことも頼む。危ない奴だけど幼馴染だからな。俺のことは心配しなくていいぞ。これ迄ありがとう! 元気でな!』
(なにが『俺のことは心配しなくてもいいぞ』よ! なにが『皆がいるから大丈夫だろう』よ! なにが『元気でな』……よ!)
ハルの机を漁ると出てきた一冊の本。栞が挟んであり、そこのページを開く。
「砂漠の国ディストラル。ここに行ったの!?」
砂漠の国と言うだけあって、国中が砂漠地帯である。砂漠と聞くと暑いイメージを浮かべるが、ディストラルは年中過ごしやすい気候だ。しかし、これといって名所があるわけではなく、国中が砂漠で過ごしやすい気候というのが売りの国。ハルがディストラルを選んだ理由は解らないが、ルキの心は決まっていた。
「ワタシはもう、キミがいないと駄目なんだから! 絶対に見つけるわ! ハル」




