無力
三頭の大熊は七人を確実に捉えている。声の感じからして威嚇しているのだろう。危険を感じたハルの指示で一斉に下がっていく。が、下がれば下がる程、大きく前進してくる熊から逃げ切るのは難しいと判断したルキは、カードを一枚取り出して翳す。
「ブレイズ!」
三頭の目を眩ます光を放って逃げ出すが、逃げ出した方向にも三頭の熊が待ち構えていた。
「挟み込まれたよねん!?」
「こうなったら!」
カードを取り出して翳すと、『フレイム!』と唱える。カードが赤く輝いて火を放とうとする。が、ハルに寸前のとこで止められた。
「こんなとこで火なんて使ってみろ! 木も俺達も燃えちゃうぞ!」
「……頭になかったわ」
「冷静さを欠いたら命取りだ。闇のカードで吸い込めないか?」
「生きている動物を吸い込んだことないのよ。上手くいくか分からないわ」
「火で燃やすよりはマシだ。ま、大人しく吸い込まれてはくれないだろう」
ハルは手近な棒を拾って構える。ミントは傘を構え、ミラもクナイを構えた。三人は一斉に駆け出して攻撃に移る。
「でやっ!」
「ウガアアア!」
「ぐはっ!?」
棒は呆気なく折れ、掛かったハルは吹っ飛ばされる。傘で突いたミントだが、突き出した傘を掴まれ放り投げられてしまう。ミラは熊がミントに気を取られている隙にクナイを投げ飛ばし、鎖を首に巻き付けて縛り上げる。
「ウガアッ!?」
「今です!」
ミラの合図でカードを発動させる。強烈な吸引力で一頭を引き摺っていくが、他の二頭が妨害に入ってきた。
「させないわ!」
カードを翳して麻痺させることに成功したルキは、吸い込む方に集中する。
「ウガアアア!?」
「……はあ……はあ……」
一頭を吸い込んだ時点で疲れが出始める。それでも二頭を吸い込むべく気を張る。一頭ずつ確実に吸い込んでいき、逃げ道を塞いでいた三頭を吸い込むことに成功した。
「ルキ!?」
「……こんなに疲れるなんて……思った以上……だわ」
「ハルハル! ルキルキ! ミンミン! ミラ! 熊がこっちに迫ってきたよねん!」
「逃げるしかないぞ! ルキは限界だ!」
ルキを背負って走りながら警戒するハル。ナナを背負うミントとラルロアを背負うリーリッドも熊を警戒する。
「別荘までは来ないよねん?」
「熊のテリトリーに入っちまったみてえだから、そこから離れりゃあ平気だと……嘘……だろ!?」
「ミンミン?」
「クソッ! 増えてるじゃねえか!」
「そっ、そんなよねん!?」
「こんな時に嘘がつける程、アタシは賢くねえ! 死ぬ気で走れ!」
全速力で走っていくが、ドンドン距離を詰められる。焦りが身体を制御出来ずに転んでしまったリーリッド。
「リーリッド!?」
「リド!?」
「……僕のことはいいよねん! ラルロアを!」
「了解だね」
ラルロアを小脇に抱えて走るミント。必死に抵抗するラルロアに構うことなく黙ったまま。リーリッドに後ろ髪を引かれながらも逃げるしかないハルは苦悶する。
(俺は逃げることしか出来ないのか! 友達を救うことすら出来ないのか!)
ハルとミントが逃げる方向から向かってくるミラ。臆することなく熊の方へ走っていく。
「リーリッド様をお連れして戻ります」
「駄目だミラ! 戻ったら!」
必死のハルの呼び止めに動じることはなく、一瞬笑みを浮かべて行ってしまった。




