確かなこと
リーリッドの元に到着したミラが見たのは、六頭の熊がリーリッドを捕食しているという残酷な光景だった。そんな状況に耐えられるわけなどなく、タイムリープをした。
「皆さんはお先に!」
「だけど!」
「私に構わず逃げてください!」
「分かった」
ルキを背負ったハル、ナナを背負ったミント、ラルロアを背負ったリーリッドを見送ると、鎖を構えて熊と対峙する。
(リーリッド様もこれで逃げれるでしょう。さて、問題はこれからです。私だけで六頭の大熊を相手にするのは不可能。かといって、皆さんの所に行かせるわけにはいきません)
「「ウガアアア!!」」
六頭の熊が一斉に雄叫びをあげる。地響きを起こしてミラを睨んでくる。全身にある目からは逃れられないのを受け入れるしかない。
(無断死にだけはしません!)
煙幕で熊の視界を封じると、鎖にクナイを付けて振り回す。煙幕の微妙な流れの変化で熊の動きを察知して斬り付けていく。
「ウガアアア!!」
全身の目を傷付けられても怯むことのない六頭。血まみれの姿は威圧感すら与えてくる。
「はあああ!」
斬り付けようと鎖を振るうが、鎖を受け止められてしまう。咄嗟に鎖から手を離すが、逆に鎖のクナイで斬り付けられてしまう。着ていた服がスパッと切られ、肌が少し見える。
「熊も人間に欲情するのですか?」
熊との距離を取るものの、ジリジリと距離が縮まっていく。涎を垂らしながら迫ってくる熊に、もう一本のクナイを刺す。それでもビクともしない。流石のミラも死を悟った。
「「ウガアアア!!」」
(このミラ、万策尽きました)
ミラに襲い掛かる六頭の熊。ミラの頭を握り潰そうとする。頭に走る痛みが、死へのカウントダウンのようだ。
「やめろ」
(……えっ? ……この声は!?)
「失せろ」
「「ウガアアア!!」」
「失せろ!」
「「ウガア……アア……」」
さっきまでの威圧感はどこへやら。シュンと静かになって去っていく六頭の熊。逃げるように去っていく背中が震えているようにも見えた。
「……ハル……様?」
「無事でなによりだ。皆が待ってるよ」
「本当にハル様ですか?」
「多分、な。俺、だろう」
「それなら安心です。助けていただき感謝致します」
(ハル様の雰囲気とは感じが違うような……私の気のせいでしょうか?)
※ ※ ※
別荘に戻ったミラを見たリーリッドが安堵の涙を流し、ハルの姿を見たルキがハルに駆け寄った。
「ハル!?」
「心配性だな、お前は」
「当たり前だわ!」
「ごめん。そうだ! さっき吸い込んだ三頭だけどよ、放してやろう」
「な、何言っているの!?」
「俺達にも非はある。人に襲い掛からないように言っとくから」
「言っとく、て?」
混乱しながらも三頭を解放するルキ。放たれた熊は一同を睨むが、手を翳したハルの姿を見た途端に狂暴さを潜め、大人しく帰っていく。
「何をしたよねん?」
「アタシも興味あるねえ」
「……よくは解らないんだ。だけど確かなことはひとつ、俺はハルだよ」
皆にニッコリ微笑むハル。その笑顔はいつものハルのものであった。




