お詫び
スズメの運転する車で移動すること十分、倉庫街の雰囲気とは違う街に到着した。お店は小さい所が殆どで、シャッターが閉まっているお店もある。そんな通りを曲がれば家が幾つも建っている。そんな住宅街の中にスズメの自宅はあった。
「入ってっす」
「「お邪魔します」」
部屋に招かれた三人は驚いた。道中、独り暮らしだと聞かされていた為、散らかり放題と思い込んでいたからだ。しかし、蓋を開ければ綺麗に掃除されていたのである。勝手に思い込んでいたことに申し訳なくなる。ソファーに座るよう促されて座り、部屋を見渡す。
「片付いていてガッカリっす?」
「正直拍子抜け。ネエチャンの見て呉れなら、ちょいと欠点が欲しいね」
「見て呉れっす? 羨まれる見た目じゃないっす」
「フーン。大胆に軍服の前を開けてっから、てっきり自覚してんのかとばかり」
「結構蒸れるっす。つなぎだから余計っす。一応、防弾の役割も果たすから、ちゃんと閉めた方がいいのは自覚してるっす」
「着ているのは軍服だけ? 結構冷えるのに大丈夫なのかよ?」
「気になる? ハル君。着ているのは軍服だけっす。見えちゃっているのは下着っす。黒いスポーツブラっす」
「ブ、ブラ!? 恥ずかしくないのかよ!?」
「これが丁度いいっす。けどまあ、流石に直視は照れるっす」
スズメの言葉に顔を赤らめるハル。『ハル~!』とジト目で見つめるルキに耐えきれずに顔を下に向けた。
「ごめんなさい! ハルに悪気はなくて!?」
「怒っているわけではないっす。ちょっと嬉しかったりするっす」
「マルの変態っぷりは兎も角、温かい飲み物はまだ? アタシはそろそろ限界だ」
「誰が変態だ! ルキといいお前といい、何で俺を変態呼ばわりするんだよ」
「「変態だから」」
ルキとミントから同時に言われて凹むハル。そんなハルの面前に出されたのは、赤いスープだった。ルキとミントにも出されたスープからは湯気が出ている。
「作り過ぎたっす。片付けるのを手伝ってっす」
『いただきます』と声を揃えて食べ始める。口一杯に広がるトマトの甘味に止まらなくなる。冷えた身体を芯から温めてくれるスープを味わえた三人は満足感に包まれた。
「口にあってよかったっす」
「美味しかったです」
「商売出来るんじゃねえ?」
「これだけじゃ無理だろう」
「ところで、これからのことは決まっているっす?」
スズメの言葉に顔を見合わせる三人。特に目的もない為、スズメに向かって首を横に振った。
「それじゃあ司令部に行くっす。見学させてあげるっす」
※ ※ ※
スズメの家から車で五分、司令部に到着した三人は内部を案内されていた。図書室に案内されて着席すると、数冊の本を持ってスズメが来た。
「息抜きに本を読んでるっす」
「推理もの、戦記にファンタジー……ジャンルがバラバラじゃね」
「どんなジャンルでも読めるっす。けどあまり硬派なやつだと息抜きにならないっす」
「恋愛ものは読まないのかしら?」
「軍人になる前は読んでたっす。なってからは封印中っす。これでも女だから憧れっす」
「彼氏は?」
「軍人になると決めてから、告白されても断ってるっす。きっと辛くなるっす、お互いに」
「どうして、そこまで軍人に?」
「戦争で家族が被害に遭ったっす」
「死火以外じゃ死なない筈じゃないのかよ?」
「死んではないっす。視力を失ったり、腕を失ったりしてるけど、懸命に生きてるっす」
「そうか」
「もう二度と戦争は御免っす。その為に軍人になったっす」
スズメの話を聞いたハルは、歩けなかった日々とアロポリアのスラムの光景を思い浮かべていた。
「おうおう! その心意気だ、ネエチャン!」
「ありがとうっす、ミントちゃん」
「そういえばスズメさん、仕事に戻らなくても大丈夫なの?」
「結構自由に出来るっす。司令部に顔を出せばいいっす。基本的に見回りっす」
「アタシらはその標的になっちまったけど」
「ごめんっす。お詫びに家に泊まるといいっす。ホテルもあるけど、こういう街のせいなのか高いっす」
「何にもねえからね」
「でもそれって……」
ハルを横目に言葉に詰まるルキ。ハル以外は女性である。女性に囲まれた中での生活に耐えられるのかが心配であった。
「ハル君だって男の子っす。どこで理性が吹っ飛ぶかは分からないけど、その時はその時っす」
「ええー!?」
「フーン。アタシは構わねえけど? それにその仮説はアタシらにも当てはまる。男はハルだけってこった、女だって耐えられるかね?」
悪戯っぽく笑うミント。それとは対照的に動揺しているルキ。それでも好意を無下にするのを嫌った為、スズメの提案に同意した。




