水色のスズメ
街に向かって歩くこと三十分、漸く街並みが見えたことに安堵する三人。田舎のような道を寒さの中歩いていた分、余計に長く歩いている気分であった。一歩入った途端に感じる視線。誰かに見られている感覚を覚えたルキは、二人に走るよう伝えた。するとどうだ、感じていた視線が動いたのだ。立ち止まる自分より二人を追うことを疑問に思った為、カードを取り出せるように構えながら歩く。
(物音はするけれど)
アロポリアのような華やかさや活気さはなく、中小の倉庫が並んでいる。倉庫の前を通れば臭う油、火の熱やガスの臭い。タオルを首に掛けて汗だくな人達の姿が視界に入る。
(遊びに来るような場所ではないわね)
道の真ん中に軍手が落ちているのに気付き拾うと、筋肉隆々な男性が近付いてきた。警戒するルキだったが、男性は被っていたヘルメットを取って礼を言った。
「あんがとな、嬢ちゃん。俺の軍手や」
「そうだったんですね」
「橋を渡って来たんか?」
「ええ。ヒノンに行きたいと、連れが」
「何にもないだろう? 面白くもなんともなくてすまんね。この辺一帯は倉庫街なんだ」
「倉庫街?」
「十年前にあった戦争で本来の街は焼けちまって。友好の橋を架ける際、この辺りを倉庫街にしたんだ。入国の監視が居ないのは、俺達が代わりになるのと、軍の見回りがあってだ」
「結構な迫力がありますもの……見回り? 今も軍は見回りを?」
「時間に決まりはないが、毎日見回ってる。ちょっとでも目立とうもんなら、問答無用で追い掛けてくる。そういや嬢ちゃん、連れは? 一緒じゃないんか?」
「……連れは目立ちますので……もしかして」
※ ※ ※
全速力で走る二人。息を切らすハルに対し、ミントは笑って後方を見る余裕がある。追い掛けてくる人影が消えたのを確認すると、近くの倉庫に身を隠した。
「どこに消えたんだ?」
「アタシが知るか! 追い掛けられる理由もねえ!」
「それは俺も同じだ」
倉庫の中には色々な物が置いてある。よく見ると、火気厳禁という注意書がある物も。
「何かの火薬かね?」
「ちゃんとした扱いをしてれば大丈夫だよ」
「隠れても無駄っす。出てこなければ撃つっす」
倉庫に響く女性の声。カチャリと発砲準備をする音も響く。
「ここに有るのは、火気厳禁の物ばかりだぞ!」
「関係ないっす。この倉庫はとっくに使われなくなってるっす。ここに置いてある物は全てゴミ」
(くそ! 俺のハッタリも効果なしかよ)
「はーやくしないと撃っちゃうっす。こちとら暇じゃないっす」
「マル、どうやら潮時のようだね。短い間だったけど、アンタとの逃避行……楽しかった」
自分で言ったことに自分で吹き出しながら出ていくミント。両手を挙げて降参のポーズ。
「名前は何っす?」
「ミントだ」
「どこから?」
「アンオールから」
「何の目的っす? 密輸っす? 密売っす? スパイっす?」
「単なる観光だっての! アタシ達を何だと思ってやがる!」
「そうっす? 殺気がムンムンっす」
「血の気が溢れ出てんのかもね」
「もう一人は? 弱そうっす」
「何なんだよ!」
女性のペースに堪らず出てしまうハル。ズカズカ歩いて近付く。両手を挙げずに立っている。
「銃が怖くないっす? 当たれば痛いっす」
「死なないだろう?」
「そういうものっす? 死ぬよりも辛いかもしれないっす」
「知ってるよ」
「撃たれたことがあるっす?」
「ない。けど知ってる」
「……了解っす。見逃してやるっす」
「アンタが納得してもしょうがねえんじゃねえか?」
「何を希望っす?」
「温かい飲み物を希望するね。三人分」
「了解っす。付いてくるっす」
「俺からも! 貴女の名前と立場を」
「スズメ・バードっす。これでも軍人っす。ちなみにこの倉庫も物も、今も現役バリバリっす」
水色のポニーテールを揺らしながら、銃をホルスターに納めて名乗るスズメ。大胆に前を開けた軍服の着こなしに彼女の性格が垣間見えた。




