暗躍する者
短いです。ほんっとうにすみません。
タクトが捕まえた人物は今まで見たことがない男だった。魔法を使っていたようだがその風貌は賢者というより肉体派の戦士に近い。タクトの知る中で体格の良い賢者はゼニスとローレンスだけなので、恐らくアストラルからやって来た賢者ではないのだろう。
そうなるとこの男の正体は『竜の爪』の一員か。暗殺者なら人気の無い場所で姿を見せない襲い方にも納得がいく。
「ひぃいい!? 何で俺っちの隠蔽魔法がばれたぁ!?」
「あ? あれで隠蔽魔法のつもりか? 俺を攻撃する為に別の魔法を使う時、隠蔽した空間に歪みが生じてた。お前素人かよ? 俺の親友はまだ下級魔術師だがもっとマシな魔法が使えてたぜ」
タクトは情けない悲鳴をあげる男に対して呆れたような声を出した。こんな男がこの国の精鋭なのだろうか。有り得ない。
「お前、誰だ」
「ひいい! お、俺は頼まれただけなんだ! 許してくれ!」
「……頼まれた……だと?」
男は自分をギールと名乗った。
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ギールは昨日の夜、酒場から自宅に帰る途中で見知らぬ人物に声を掛けられたらしい。
ギールはD級冒険者だ。まだまだ個人依頼を受けられるほどの実力と信頼は得ていない。だからギールは己に依頼があると言って来た人物を警戒した。
闇に紛れて顔ははっきりと見えなかったが、声と雰囲気から話しかけた人物が少なくとも年老いた男だと分かった。男はギールに金の入った革袋を投げ渡してこう言った。
『今日新人冒険者となった、右腕に刺青を持つ少年を襲って欲しい。方法は任せるし、命を奪う必要は無い。ただ彼と戦って、その実力を報告して欲しいのだ。無事依頼を成し遂げられたなら報酬として今渡した金を二倍の額で支払おう』
『うお!? 前金だけでこんなに! ……いいぜ! 俺に任せな!』
ギールは袋の中に入っていた金の多さに驚愕し、二つ返事で依頼を引き受けた。酔っていたこともあって男が何者なのか気にする事もなかった。
こうしてギールは翌日になるとタクトのことを調べ、『竜の爪』に目をつけられる心配のない砂漠でタクトを襲うことにしたのだ。
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「この国に……俺のことを調べている奴がいる?」
「あ、ああ。そうらしいな」
タクトから解放されたギールは自身に回復魔法を掛けながら答えた。淡い光が砂漠の熱で火傷したギールの顔を正常に戻していく。どうやら初歩的な物ばかりとはいえ、ギールは魔法を多彩に使えるようだ。
「なあ、俺のことは見逃しちゃくれねえか? 本当に悪かった。それに話を聞いて分かっただろ。殺す気は無かったんだ」
「……じゃあ質問に答えろ」
「う、な、何だよ?」
「お前から見て、その男が言っていた事についてどう思っている?」
ギールはタクトの質問にしばらく考え込んだ。
「……あんなに金払いが良いってことは、お前の実力を調べることにそれだけの価値があるってことかもな。それに、お前は昨日冒険者になったんだよな? あの男はその日のうちにお前の情報を掴んでいたことになる」
「……そうか」
他に話すことがないのかギールはじりじりとタクトから距離を取り、そして一気に都市の方に駆け出していった。タクトはそれを追うことも無く、ただ深い溜息を吐いた。
半ば予想はしていたのだ。ラクシアに来る直前、『白紙閃光』を使用してしまった。その時の光をラクシアにいた人間も少なからず目撃していた筈なのだ。恐らくその一人にアストラルからタクトの情報を得た者がいたのだろう。ギールに対する金払いが良かったのも、相手が王族やそれに連なる者だと考えれば納得できる。
だが、タクトにはもう一つの可能性を見出していた。もしそうなら、あまり悠長にしているわけにもいかない。
タクトは砂漠を歩き回り、ようやく見つけたモンスターを一太刀で仕留めた。褐色色の魔魂石を入手してすぐにギルドに提出する。ランクは上がらなかったがクエストは無事完了したので報酬も手に入った。
「よし、まだ明るいしちょっと帝都の中を調べてみよう」
こうしてタクトは危険だと言われていた旧市街の方に足を向けてみることにした。




