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魔導書使いは現在逃亡中です。  作者: 無頼音等
第二章 闇の魔魂石と孤独の魔女
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帝都と冒険者

今回は説明回なので読みにくいかもしれません。

 サマー大陸最大の国家、帝国ラクシア。この国はかつて竜王戦争の舞台になったからか、すぐにでも戦えるように、他国から即戦力となる戦士を呼び込む方針を取っている。

 その結果、多種多様な人種が名を挙げようとこの国に集まり、帝都は世界最大の都市として有名になった。

 だが同時に、帝都は人が増えるたびに建物の増築が繰り返されて構造が複雑になり、整った街並みも何処か歪に変わり、いつしか『迷宮都市(ダンジョンシティ)』という不名誉な二つ名を得てしまった。

 まあ、その二つ名が冒険者達を大いに刺激して絶大な人気を得たのはある意味皮肉である。


 「ま、そういうわけで門から城まで一直線に続くこの大通りを外れてしまうと、すぐに迷子になってしまうのさ」

 「おまけに裏路地辺りじゃ犯罪臭がぷんぷん漂ってくるし、モンスターよりも厄介な奴がうじゃうじゃいやがる。そういう危険が伴う意味でもここは『迷宮都市』ってことだな」

 「……マジかよ。俺の知ってる知識と違うじゃねえか」


 タクトは自分が本で得た知識と実際の情報の差異に頭を抱えたくなった。そんなタクトを元気付けるようにエミリアが隣で囁く。


 「この帝都は確かに実力主義で治安が悪い所もありますけど、それは主に旧市街の方で、こっちの新市街は安全なんですよ? それに冒険者ギルドでは初心者や実力が乏しい方でも働けるような安全な仕事を回してくれますから、完全な実力主義というわけでもないんです」


 帝都はラクシア城を中心に円環状に広がった形をしているが、複数回行われた増築工事の為に少々特殊な事情を抱えている。城の中心付近は流石に安全だが、この帝都は基本的に新しく作られた外側よりも、古くからそこにある中心部の方が治安が悪いのだ。これは国の中では極めて珍しい形態である。

 エミリアの話によると元々治安が悪かった弱肉強食の国が竜王戦争やら大賢者の登場によって一気に弱者側に追いやられ、急激な国の方針変化を余儀なくされた結果として現状の形になったらしい。それで世界最大の都市に成り上がったというのはやはり皮肉な話だろう。


 「あれ……そういえばタクトさんはここに来るの初めてなんですよね?」

 「そうだな」

 「じゃあもしかして、まだ冒険者になってないってことですよね」

 「そうだけど……俺に冒険者は向いてないと思うぞ?」


 タクトも何度かモンスターと戦った事はあるのだが、魔力を持たない体質の為に常に苦戦を強いられてきたのだ。今は強力な魔剣を所持しているので以前よりもましに戦えるだろうが、やはり魔力が無いというのは大きなデメリットだ。

 しかしそれを知らないエミリアは握りこぶしを作って真剣に冒険者になることを勧めてきた。


 「タクトさんは強力な魔法を使えるんですから、冒険者として立派に名を上げることが出来ると思います! 絶対タクトさんは冒険者に向いてますよ!」

 「うーん。そんなこと言われてもなぁ……」


 名を上げるなど今のタクトにとっては自殺行為だ。有名になってしまえば当然アストラルの賢者達に居場所を嗅ぎ付けられてしまうだろう。そんなリスクを負うのは避けるべきだ。まぁ正直そこまで自分が有名になれるとは思ってもいないのだが。

 そして今のタクトは働き口がない。資金はまだ残っているが、それもいつまで持つかは分からない。そういう意味では冒険者になるのは悪くないかもしれない。

 そうして悩んでいる間に、気が付けば冒険者ギルドの傍まで来てしまっていた。どうやらレイジ達は元々ここに来る用事があったらしい。


 「ヘカトンケイルは最近倒されたばっかりだったから、本来ならあと一ヶ月は復活しない筈なんだ。だが奴は僅か数日で復活した。だからその異常事態を報告する必要があるのさ」

 「……異常事態……ね」


 レイジの言葉にタクトは何かきな臭さを感じた。しかしそれ以上に、タクトはこの国に来てから妙に胸がざわつくのだ。不快ではないが、落ち着かない。


 「タクトは結局どうするんだ? 最初はFランクからだけど、ランクが上がったらギルドで色々と優遇して貰えるし、冒険者になっておいて損は無いと思うぞ?」

 「……それもそうだな」


 冒険者に必要なのは実力のみ。つまり、偽名や住所不定でもなる分には何の問題も無いのである。

 冒険者ギルドの証である世界地図の紋章が焼き付けられた扉を開けてレイジ達は中に入っていく。それを見届けてからタクトもあとに続いた。

 ギルドの中はそれほど広くないが、空間の狭さを補うように奥に向かって延びている造りになっている。受付は入口を抜けてすぐの場所にあった。


 「じゃあ俺は先に飲んでるぜ。報告はレイジに任せた」

 「馬鹿! 今回の件はアンタが一番の証人でしょうが!」


 どうやら奥の方は酒場になっているらしい。アッシュはそちらへ向かおうとしたが、マルシアに尻尾を捕まえられて連れ戻された。レイジ達は受付に何か話すとそのまま別の場所に移動し始める。タクトもその後ろを付いていこうとしたが、もう一人の受付の人に止められてしまった。


 「貴方は冒険者登録をされていませんよね。この先に進む為にはここで手続きをしてもらう事になります」

 「俺が冒険者じゃないって分かるのか?」

 「ギルドカードをお持ちになられていないようですから」


 どうやらこのギルドの中では、ギルドカードと呼ばれる冒険者の証明書がなければ奥に進む事ができないらしい。ちょうどいいのでタクトはここで冒険者の登録をしておくことにした。

 受付員に一枚の書類を渡され、それに必要事項を記入していく。と言っても、タクトが記入したのは名前と年齢、それと得意武器の項目に剣と書いただけだ。出身国や資格の欄は空白にしてある。その書類を受付員に返すと、あまり時間を要さずにギルドカードが発行された。

 ギルドカードは透明なプレートで、タクトが書類に記した情報と現在の冒険者ランクが刻まれていた。


 「これで貴方も冒険者です。冒険者は国内からギルドに届けられた依頼を引き受ける義務が生じます。初めはFランクからですが功績を積むたびにギルドからの評価が上がり、冒険者としてのランクも上がっていきます。ランクが上がるとギルドの施設や、特級モンスターの情報などが解禁されますので、是非頑張ってランクを上げることをお勧めします。何かご質問はありますか?」

 「冒険者登録って随分簡単なんだな。ちょっと他人を信用しすぎなんじゃないか?」

 「貴方の懸念はご尤もな話ですが、ギルドからの優遇を悪用しようと考える者達は『竜の爪ドラゴンクロウ』によって制裁を受けますから問題ありません。それに……良くも悪くもこの国は実力だけを求めておられますから」

 「国組織ギルドに強い奴を加入させられるなら、そいつの人格や目的は二の次ってことか」

 「身も蓋も無い話ですが、そういうことです」

 「でも俺が物凄く弱い奴だったら?」

 「その時はきっと仕事先で死ぬだけでしょうね。自己責任です。まあご安心ください。Fランクに見合った仕事の中に命の危機が及ぶものは滅多にありませんから」


 つまり、稀に命を落としかねない仕事が混じっている、ということだろう。それに恐らくは弱者に甘んじた冒険者……いつまでもランクが上がらない冒険者にそういう仕事が来るのだとタクトは睨んでいた。

 ギルドが欲しいのはあくまでも実力がある冒険者だけだ。冒険者の登録が雑……簡単なのは、初心者が成長して強者になる可能性を汲んでいるだけで、永遠に弱い冒険者はこれっぽっちも必要としていないのだ。

 良くも悪くも・・・・・・実力次第・・・・

 どうやらラクシアもそれほどアストラルと大差ない場所だな、と呆れるようにタクトは肩を竦めた。その後、もう一つ気になっていたことを受付員に尋ねる。


 「『竜の爪』っていうのは何だ? あんたの話だと何かの警備隊っぽい感じだけど」

 「はい。優秀な十三人の兵士によって形成された帝国直属の警備隊です。ですが彼らは他人の見えない所で活動し、帝国内の犯罪者達を駆逐していることから“暗殺者”とも言われています」

 「犯罪者を駆逐する暗殺者……ね」


 タクトの声は掠れていた。

 果たして堂々と勝負を持ち込んできた『大賢者』と、人に気付かれないように襲ってくるであろう『暗殺者』ではどちらが脅威なのか。

 絶対に自分がタクティスであるとバレないように全力で気を付けようとタクトは固く決心した。

 そして最後に、タクトは受け取ったギルドカードの使い方を教わる。


 「ギルドカードは一種の魔具になっており、我々ギルド職員はそれを所持している者とそうでない者を見分けることが出来ます。また、引き受けた依頼、依頼達成の際の虚偽申告を見破る機能も備えてあります」

 「なるほどな。ギルドカードは冒険者の証明書としてだけじゃなく、ギルド側が冒険者を管理する為の“首輪”みたいな物なのか」

 「言い得て妙ですね。ですがこれは依頼や報酬に関して起こるくだらないトラブルを避ける為に必要な処置なのです。それとギルドカードは紛失すると再発行するのに一万クラン掛かりますので気を付けてください」


 受付員はタクトの皮肉に困ったような笑みを浮かべながら説明を終えた。

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