第8話 魔王と
ランが木々の隙間をすらりと搔い潜り、草木が揺れる。
疾走――。
軽量された肉体に、磨き上げた筋肉がバネとなって跳び駆ける。
時には木々を垂直に上り、枝を蹴り地上の群れを避けて移動する。
その速さと気配殺しに獣はもちろん魔獣の一匹ですらその姿を知覚できない。
どこかでイノシシが食料になる頃、ランは木々の上方、太い枝の上で休息の為非常食の皮肉の干物を歯でちぎる。
無理はしない。
使命を確実に全うするための行動をする。
新天地を求め【鎮守の杜】に入ってから、地形はもちろん、人族が住むという場所は把握できてはいない。
だからどれほどの時間を要するかわからない上での行動をランはとるほかなかった。
それでいて油断はしない。
予測不能な事態はいつ何時やってくるかわからないからだ。
神経を研ぎ澄まし、それでいて休息をとる。
それが、一番効率が良い。
しばらく目を瞑り風の音を聴いた。
次に目を開いたときには、夜は更けていた。
闇夜でも行動は開始される。
夜目は効くが、その分夜行行動する生物は危険性が高まる。
より一層慎重な行動が求められる。
枝から飛び降り、地面に着地すると同時、
「っ⁉」
決して油断などしていなかった。
むしろ、休息後だけあって集中力は増していた。
それでいて、その存在が現れるのに気が付かなかったのは仕方がない。
なにせ相手は、この森の守護者、森の精霊レスノイであるバナだったのだから。
「驚かせましたか?」
「……いえ」
ランが声を出したことに驚きはしない。
口数が少ない情報は得ている。
そして対話する相手が自身しかいないのであれば、ランもまた声を発する。
「……何か御用でも?」
急ぎたい気持ちを隠し、ランは冷静に問う。
「いえ、急いでいるようなので、少しだけ手助けをと思いまして」
「……手助け?」
ランは少しだけ戸惑った様子を見せた。
青年とバナとの会話から、精霊レスノイは一方的な介入はしてこないと考えていたからだ。
「ただの気まぐれと思っていただいて構いませんよ。それに大したことはしません。ただ少し移動しやすくするだけです」
そう言うや、いつの間にか囲まれていた木々や草が道を作るように開かれていた。
夜目が聞くといっても、障害物になるものは避けなければならない。
その分がロスになるならば、これは一方的に走り抜けることができる。
「……感謝を」
「お気になさらず」
ひらひらと手を振るバナは、本当にそれだけでしていなくなってしまった。
ランは余計なことは考えないようにする。
下手に探りを入れるような真似をすれば、失態は全て現主に向けられる。
だから、ランは質問などしない。
今はその行為をただの好意と受け止め再び走り出した。




