第27話 魔王と剣士
また一つの部屋では金属と金属が激しくぶつかり合う音が響き渡っていた。
「不思議だね。剣を交わせば交わすほどに、その剣には殺意が感じられない」
ラブは剣を構えながら余裕な素振りで問答を始める。
相手であるゼンは答える。
「剣か……、残念ながら、こちらは上等な獲物を拵えていないものでな」
二人は相対しながら、お互いの間合いを推し量る。
「狙いを話してくれと言っても話してくれないのだろうな」
「知りたくば、剣を下ろせ」
ラブは微笑みながら、考えていた。
「(分断するにしても、わからないことが多いな。一対一をわざわざ選ぶ必要がない……。いや、まてよ。そもそも気配が感じられなかったのは、それほどの数がいない……?)」
「考え事か?」
ゼンのマチェーテが屈んだラブの頭部を通り過ぎる。
「色々と考える事が多くてね」
返しに剣を振るう頃にはゼンは間合いから離れている。
「仲間思いだな」
「(当然、ガレットとミルも分かれているだろう。目の前の変異種だけって事はない。そもそも目の前の変異種に魔力を感じないところ、魔術師、あるいは魔法が使える者は最低でもいるはず)」
態勢を整えながらラブは一度息を吐く。
「(二人との合流は後で考えればいいが、問題は青年のほうか……)」
空気が変わったことにゼンは、身構える。
「ふふ」
ラブが笑む。
「時間稼ぎに付き合っている暇はないんだ」
「っ⁉」
ばれたのなら仕方がないと、吠えながらゼンが突進した。
剣の腕では勝ち目がない。だとしたら、肉体の差で埋めるしかない。
だが、それをラブが見逃すこともない。
ゼンが突進し、ラブとの間合いが一気になくなる。
その直前だった。
「――っ⁉」
ゼンが、あと一歩のところで停止する。
その行動に驚き、身が固まったラブは後ろに飛びのいた。
「(冷静。雄叫びも嘘。徹底しているようだ)」
まるで一息つくように、剣を下ろし構えを解いた。
「後ろに誰がいる?」
「言ったはずだ」
「だが、指示を出した者に時間を稼ぐように言われた。違うか?」
これにゼンは黙るしかない。
「答えないなら、こちらが話そう。情報を与える気がないのなら、一つの問にも答えない方が賢明だ」
「そのようだな。ん? そうか……」
ゼンは耳元を抑え、誰かから通信でも入ったような仕草をする。
これもまた嘘。
「どうかしたのかい?」
「こちらからも一つ教えよう」
「ほう。それはどんな気の変わりよう――」
「魔法使いらしき女は死んだようだ」
その瞬間、殺意が殺気となり、先ほどまでのラブの様子から一変する。
「冗談にしては、笑えないな」
剣に魔力が宿り、先ほどまでは手加減していたと言わんばかりに強さが一段階上がる。
「考えていたのだろう? なぜ、一対一なのか?」
「…………」
「教えてやろう。我々の数はそこまで多くない。代わりに、私以外は魔法使いを真っ先に狙いにいったのだ!」
悪役の台詞に、ラブの剣が魔力によって激しく燃え上がる。
後一言、言葉を発せれば、ゼンは致命的なダメージを負う。
「悪いが、ここまでだ。冗談に付き合うのは終わりにしよう」
「そうか。その前に後ろを見てみろ」
その言葉に警戒しつつ、後ろを振り返ったラブの視界に映る残酷な光景。
「……な、なぜ……? 君が……」
いつの間にそこにいたのか、青年がそこにはいた。
そして、呆然と佇む青年の手にぶら下がる何か。
「あ、……ああ」
髪を鷲掴み乱雑に運ばれたそれは、
「ガレット……、どうして……どうしてっ⁉」
裏切り。
せめてその頭を丁重に運んでいれば、まだ希望はあった。
しかし、それは仲間を運ぶにはあまりにお粗末。
「貴様……貴様っぁあああああああああああっ‼」
冷静を欠いた力任せの魔力の剣が裏切り者を抹殺しようと、飛び出す。
それはあまりにも無防備、背にしたのは先ほどまで戦っていたゼンがいる。
その隙をゼンは見逃さない。
「浅はか」
短い評価と共に、刃こぼれしているマチェーテはラブの首筋を狙い、容赦なく振り下ろされる。
頭と胴が離される。
その瞬間、何度となく鳴り響いた金属音が再び鳴った。
それは阻止されたのだ。
「くっ」
相手の策を、そのままやり返すように演技をしたラブ自身の手によって、
「やっぱりわからないな。なぜ、この期に及んで幻なんだい?」
剣を捻り、マチェーテをはじき返す。
「それとも、僕が分からないとでも?」
押し返されたゼンに襲い掛かる剣技。
最後には一気に距離を詰め、剣とマチェーテの鍔迫り合いにお互いの顔が近づく。
「本当に終わりにしよう。狙いがなんであれ、実力差は埋まらない」
絶望を与えるようにラブは本格的に剣を握る。
その光景にゼンは、ただにやりと笑みを作っていた。
次話12時up予定




