第24話 魔王と魔法使い
「舐められたものね」
ガレットが分断された辿り着いた部屋は真っ白なだだっ広い部屋だった。
不思議なことに、部屋は影ができるほど明るく、空虚な雰囲気だけが広がっている。
「【幻惑解除】」
二度目の幻惑に即座に解除魔法を放つ。
白く虚無が続く部屋から視界は、一気に洞窟の一部屋へと変貌を遂げた。
幻惑が解除されても暗闇の中というわけでもなかった。
分断されたのは明らかに油断だ。
しかし、とガレットは不思議に頭を悩ませる。
「(分断されたのは正直、痛いわね。でも、どうして、これだけなの?)」
分断の目的は間違いなく戦力の分散。
その割には攻撃らしい攻撃がまだ来ていない。
なによりも、生命の気配が少なすぎる。
そもそも、これは標的を絞られているのだろうか。
「(噂の魔王にしては、あまりにも受け身。ダンジョンコアが本能的な防衛ならば、生み出される魔獣や魔物がいないのはおかしいわ。いったい……)」
相手は誰か、目的の有無が何か一つ一つ可能性を考える。
仲間の心配はしない。
各々がその場においての最良を見つけ行動している。
合流はいずれ叶うだろう。
「ひとまず、行動を――」
洞窟の入り口へと向かうため背を向けた瞬間だった。
魔力の気配がガレットを狙った。
「――っ、【盾魔法】」
紫黒の光線がシールドに阻まれ消える。
攻撃をしてきた者の姿は見えないが、そこにいる。
ガレットは、警戒心を強められない。
なぜなら、あまりにも、
「【解除魔法】」
弱すぎる。
炙り出すために放たれた魔法によって、現れた一人の少女。
「いったい何?」
一定の距離まで詰め寄り、
「一人?」
強者故、相手の力量が弱者だと悟る。
まだ何もしていない。
それなのに一人の少女は、苦悶の表情でバックステッをして後方に跳ぶ。
「答えてくれないと弱い者イジメになってしまうわよ」
掌を掲げ、現れる光球の数に少女の目を見開く。
「【暗霧】ッ!」
辺りが黒い霧によって視界を塞がれる。
そこで気がついた。
「貴方なのね」
分断される前に現れた霧の正体。
さらに、まだ他にもいるという事実。
少女の霧を利用し、さらなる気配を探知。
「(複数いるわね)」
少女の気配は動いていない。
だとすれば、先に狙うのは――。
「そこっ!」
霧を突き抜けるように光弾が気配へと放たれる。
が、
「いないっ⁉」
気配は貫いた。
しかし、そこには誰もいない。
すると、次から次へと気配が増えていく。
「おとりっ⁉」
が、ガレットは気が付く。
「(消耗戦……?)」
魔力の量は人によって異なる。
それがこの違和感の正体。
魔力の枯渇こそが狙いだと一旦攻撃を辞める。
そこに、新たな、紫黒の光線が飛んでくる。
攻撃は意識の中にある。
今度は盾魔法を使わず身体能力のみで躱す。
魔法使いは魔に関する能力を上げる為に、学力に力を注ぎ、肉体的な基礎訓練が疎かになる傾向がある。
ガレットはと言えば、答えはNOである。
仲間の二人の影響、そして弱点であるが故、基礎体力を怠ったりはしていない。
もちろん、本職と比べられれば劣るのかもしれないが、それでも十分に動くことができる。
だからこそ、身体能力で避けて見せた。
これには二つの意味が存在していた。
魔力なしでも動けるという証明、そして魔力の消費を抑えているという罠だ。
実際問題、魔法を使う上で魔力を消費する。
しかし、魔法の種類によっては同時に体力も消耗してしまう。
それを見えざる敵がどこまで承知なのが分からないガレットだったが、そう見せかける事で、魔力量が少ない、もしくは限界がある程度だと誤認識させる。
誰であろうと、相手の土俵で戦ってやるつもりなどない。
そしてガレットの思い通りに、気配がガレットの射程に現れる。
【解除魔法】」
そして再び現れる一人の少女。
これを繰り返し、消耗を狙わせる。
思い通りになどさせない。
一瞬の綻び、それを狙う。
しかし、綻びが現れることはない。
代わりに現れたのは部屋の入り口付近、一番初めに分断された道中の迷い人である青年だった。
分断されたことによりダンジョンでもまた迷い人になったであろう青年。
警戒すらしていなかったのか、気配も消さず、物音を立てながら歩き参上する。
青年もこちらに気が付いた。
見知った顔に安堵するわけでもない青年は部屋へと侵入してきてしまう。
むしろ村人であるがゆえにそういった事に無知だからこそ、戦闘の音に釣られて現れた可能性すらある。
無謀、青年にはその節が見受けられる。
知識がない故に軽率な行動を起こす。
「まっ――」
本能か、はたまた経験か。
青年の行動を止めようとしてガレットは言葉を発するよりも早く一人の少女へと向き直る。
攻撃は来ていない。
それよりも一人の少女の反応を窺ったのだ。
その行動は疑念。
ガレットは寸前の瞬間、青年に疑いをかけたのだ。
青年は言った。
この洞窟には何もなかった。
しかし、事は起きている。
そして、ダンジョンの中には正体不明な存在がいた。
じゃあ、青年は嘘を吐いた。
そう脳裏に一瞬で計算された。
その答え合わせの為に少女を見たのだ。
しかし、ガレットの予想に反して少女は信じられないといった表情で目も口も開きっぱなしになっている。
疑念が予想外に変換される。
少女、また少女に連なる存在達は青年の事に気が付いていなかった。
魔力が無いから?
だから、青年がダンジョンに侵入しても何も起こらなかった。
そう考えるならば、辻褄が合う。
一度、命を助けてもらった。
その一つの、疑いたくないという想いが真実を曇らせる。
疑いが、ガレットにとって都合のよいものに変換されてしまった。
今度こそ、ガレットは叫ぶ。
入って来るな!
そのどうしようもない一瞬の隙。
どこから音もなく降り立った影は、その隙を見逃さずガレットの首元を叩く。
「――うっ……」
意識を刈り取るには十分な衝撃が与えられた。
意識外からの手刀に受け身を取ることもできず、地面に崩れ落ちたガレットの意識は暗転していく。
「にげ…………」
それでいて、なお、ガレットは青年に向かって言葉を残す。
その言葉は届くことはない。
現れた青年がガレットの前に立ち、霧散する。
それもまた、作り出した幻だった。
次話17時up予定




