第22話 魔王と計画開始
「まだ怒ってるっすか?」
「うるさいっ、警戒していなさいよ」
結局、ダンジョンに入ってからの陣営は、先頭をラブが、その後ろに二人並んでガレットとミルが、最後尾に青年が歩くことになった。
一番危険な先頭はラブが受け持ち、援護する形でガレットとミル。
最悪、後ろからの奇襲にはミルが前線へとシフトし、ガレットは両方の援護できる形だ。
ちなみに、松明は青年とラブの二人が持っている。
入洞から何かが起こることはない。
それは青年が一番理解している。
それでいて、ダンジョン内に入るや、状況は一変する。
仲間である五人が何をしているか、どこにいるのか把握した。
合図らしい合図は送れない。
青年はダンジョン内の状況を把握できるだけで通信手段もないのだ。
だから、青年は事前に話していた作戦の実行を待つほかない。
ダンジョンはだいたいが平坦だ。
それでいて、直線に伸びているわけではない。
だから、しばらく歩けば入り口の明かりは届かなくなる。
作戦が始まる前、青年は何気なく話しかける。
「魔法って通信に使えたりするのか?」
今後、その未来を見据えての情報収集。
「どの程度かによるわね」
誰かに向けられた質問ではなかったが、魔法と言われれば当然のようにガレットが受け答えしてくれた。
「例えば、声を風に乗せて届けることはある程度の距離ならできるし、ノックみたいな合図は石ころを投げるように音を立てることもできる」
すらすらと返答がくるあたり、ダンジョンへの警戒はまだ薄い。
「暗闇への対処かい?」
そこへラブも参加する。
「いや、単なる興味」
「そうか……」
が、好奇心の為の質問と答えるとラブは気まずそうに鼻先を軽く掻く。
「遠慮したってしょうがないでしょ。はっきり言うわよ。魔力を生まれつき持たない人はどんなに努力しても魔法は使えない」
どうやら、魔法に憧れを持たれていると思ったようだ。
「街での連絡手段はどう行っているんだ?」
屈託のない純粋な質問にラブとガレットは目を丸くしている。
「ま、魔法に興味があるんじゃないわけ?」
「使う使えないの話で言えば、俺は使えないからな。そこを考えても仕方がないだろ。どちらかといえばどういう風に使っているかの方に興味がある」
呆れた様にガレットは口を開いたままになった。
青年の淀みのない好奇心だけにラブは安堵したのか、笑顔で会話を引き継ぐ。
「そうだな。例えば、僕たちが所属するギルドでは、魔法晶という魔具で遠くまで通信をおこなっている」
「個人では?」
「魔法晶は個人では持てないな。魔法晶に限らず魔具は、魔力を帯びた無機物を加工して作られているんだ。そもそもの素材は希少価値が高く、それこそ、王族ですら簡単に手にすることができない」
「魔具ね……」
「そうは言っても、魔具にもいろいろとあってね。手に入りやすい物もあれば、魔法晶のように特定の機関にしか与えられない物もある」
「色々あるんだな……」
「君がいた村には見る機会はなかったのかい?」
「ああ。村は旅人が来るような土地柄でもなかったし、俺も村から出たことがない。村人も同じようなものだった」
下手な情報拡大は墓穴になりやすい。
だから、何も知らない田舎者である程度の嘘を構築する。
まだまだ色々聞きたいことがあった青年だったが、それ以上は深く聞かない事にした。
いつ、どこで、会話の矛盾が生じるかわからないのもあったが、なにより、動きがあった。
概ね予想通り最初に気が付いたのは先頭を歩くラブだった。
「止まれ」
それを合図に停止する。
「霧……が出ている?」
松明を下の方へ向け、足元に漂う白い靄を確認させる。
「霧……?」
わざとらしくならないよう、同じ動作で辺りを照らし青年は言う。
「前はこんな霧は出ていなかった」
異常事態、本来であれば警戒させないように振舞うべきだ。
しかし、青年の考えは違う。
「いつからこんな霧が……」
「魔力はあるっすか?」
「魔力で感知は無理ね。このダンジョン、魔力が溢れかえっているから、霧の出現ポイントは探れないし、霧そのものも感じ取りにくい」
「どうするっすか?」
ラブの指示を待つ中で、提案はガレットから出た。
「敵意のある気配はないにせよ、一度撤退した方がいいんじゃない。私達だけならまだしも今は――⁉」
そう言って注視するはずだった人物が姿を消している。
「彼がいないわよっ⁉」
探索者の三人は疑わない。
間違いなく青年は魔力を持っていなかった。
そんな存在が、急に姿を消す理由に思いつくことは一つしかなかったからだ。
何者かによって攫われた。
「くっ、いったい何がっ⁉ ひとまず警戒をっ――⁉」
ラブが振り返り、仲間の二人に指示を出したとき全てが後手に回る。
魔王である青年の企み、分断が成功した瞬間だった。
次話翌9時up予定




