第19話 魔王と前哨戦
「ダンジョン?」
青年はあくまでここを洞窟と表現している。
当然ながら、知っている情報を隠すためだ。
「そうか、あなた、魔力がないからわからないのね」
ガレットがそう言うという事はこの三人は魔力があるという事なのだろう。
「それ、皮肉っすか? ワタシも魔力ないに等しいっすけど、さすがにこれだけ漏れ出しているならわかるっすよ」
「そんなつもりじゃないわよ。それにゼロと一では雲泥の差があるわ」
「魔力……」
そんな時でも知識のなさに青年は考え込む。
「あなたの村では魔力持ちはいなかったの?」
「ああ、少なくとも使っている姿は見たことがない」
「まぁ、使えたら使えたで、村に残らないでしょうしね」
「魔力を持っていて、使えたら即スカウトっすもんねー」
少ない会話からもその希少性さは窺える。
それはきっと人族に限ったことではないのだろう。
仲間の中では、パインとマスカは魔法を使えるが、ゼン、ラン、ブンは使えないことが分かっている。
「そんな事よりも、問題が起きたことを考えよう」
ラブは青年たちの会話よりも目の前の問題を優先する。
そんな中でも近寄ってきたミルは小声で話してくる。
「魔法も使えて剣も使える元騎士がラブっす」
話の腰を折らないように気を使っての小声だろう。
それに、魔力がない青年への配慮も加わっている。
「騎士……?」
そんなミルの言動よりも、ラブが騎士から探索者へなった理由が気になる青年は、呟いた。
しかし、ミルがそばから離れその機会は失われた。
気が付いていないのか、気にしていないのかラブは話を進めていく。
「あの魔法陣が何を意味しているのか分からないが、ダンジョンであることは明白。引き返そう」
ぴくッと青年は小さな反応を見せるが、すぐにそれを隠す。
「確認しないのか?」
中をという意味だ。
「ああ、ダンジョンがここにあるという事実は調査としては十分だ。それに、このダンジョンがどれほどのモノかわからない。仮に、危険水位まで成長していた場合ダンジョンでは今僕たちの装備では危険すぎる」
「(まずいな……)」
青年はダンジョンという存在の価値を見誤っていた事に、思考を巡らせる。
「そうね」
「そうっすね」
二人が同意したことで、さらに拍車がかかる。
このまま引き返されてしまえば、ある意味では時間は稼げる。
しかし、ダンジョン攻略の探索者達が大勢来てしまう。
それは、許してはならない。
「一つ、聞いてもいいか?」
「何?」
ガレットが聞き返してくれる。
「このことをレスノイは知っているのか?」
考える時間を稼ぐための質問だった。
「いや、レスノイは【鎮守の杜】の管理者だ……。知らないはずが、ない……?」
しかし、予想外にもラブが顎に手をやり考え込む。
「え、なんすか?」
「さぁ?」
ラブの思考に二人は思いつかないようだ。
青年は青年で考える事が増えたことに、少しのイラつきを覚えた。
それでも、自分の蒔いた種だとため息を吐くことで冷静に対処することを念頭に置く。
考えがまとまったのかラブが話し出した。
「おそらくだが、当然レスノイもダンジョンがある事を把握している。だが、手を出すことができないんじゃないか?」
「どうしてっすか?」
青年が聞きたいことを、ミルが代わりに尋ねてくれる。
「一言でいうなら管轄違い」
青年は納得する。
初めてバナと会合した時、ダンジョンの存在は知っていたが、把握は出来ていなかった。
森全体の把握は出来ていたのに、それが出来なかった理由になる。
しかし、人族である三人の認識は少し違うようだ。
「あー、なるほどねぇ。ダンジョンは自然現象の一つ。どこに現れるのか、なぜ現れるのか、わからない現象の一つ。時には地上に、時には地下に、時には天空に、時には水中に、時には異次元に、そんな正体不明の現象は森の管轄外」
青年はダンジョンの存在の一片を知る。
その上で、当初の計画をうまく成功させる必要があると強く思わされた。
「だから、なんなんすか?」
それを知った上でミルは再度尋ねた。
「ダンジョンを放置しておくと危険だ。放置しておけばいずれ、中から魔物があふれ出す」
「あー、熱狂的行動っすね」
「あの不思議な道にも合点がいくわね」
「レスノイが協力してくれた?」
「あら、そこまで考えなかったの?」
「いや、辻褄は合うな。そうなると……」
視線がダンジョンへと向く。
「ここで引き返すのもー、あれっすねー」
経緯はどうであれダンジョンの中に入る流れになっていく。
「そういえば、中に入ったっすよね?」
下から覗き込むようにミルがそう青年に尋ねてきた。
その瞬間だった、ラブとガレットの視線も向けられる。
青年は思わず、探られていると警戒する。
が、違う。
「ああ」
ミルはただ覚えていただけだ。
青年がここへ来た時の状況を説明した際、青年は「洞窟には何もなかった」そう言ったのだ。
それはつまり、中を確認した。
「何度も言うけど、なんて無謀な」
「ダンジョンだと知らなかったとは言え危険すぎる」
「ダンジョンじゃなかったとしてもっ、危険な動物だっているのよ!」
なぜ、怒られているのかわからない青年だったが、心配して言ってくれているのは分かる。
一人、頭の後ろで手を組んでいるミルだけは、
「その恰好の時点で今更っすよねー」
魔力が使えない者同士だからなのか、あっけらかんとしていた。
その上で、青年はこの三人を敵として認識している。
そこに悪意はない。
ただ、守る対象が違うだけの話。
「まぁ、済んだことを言っても仕方がない。それに、レスノイとの関係も含めてダンジョンの中を確認しよう。彼の言っている事を疑うわけではないが、危険がないとは限らない。気を引き締めて、異常があればすぐに撤退。いいね」
「了解」
「了解っす。目的はダンジョン狩りっすねー」
「難度が低い事を願うよ」
「コアが魔力をため込んでいないなら、破壊した方が安全だものね」
意図がなくとも不穏な物言いに、青年は何も言わず表情にも出さない。
ただ、狩るか狩られるか、探索者達との戦いが始まる。
しかし、青年はある引っ掛かりを覚えていたのだった。
次話翌9時up予定




